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開発事業

 城戸は、苗原開発の建築部に所属する、小田川という男に連絡を取った。

 二日前の大分への出張について、少しでいいから話をしたいと依頼した。すると、明日の昼休み中に少しなら応じることができるという返事だった。

 そこで、翌日の昼の十二時丁度に、城戸は苗原開発本社へと向かった。

 小田川は、会社の一回にあるロビーまで下りて来てくれた。体格のいい、四十代くらいの男だった。

「お忙しいところに申し訳ありません」

 城戸と、彼に同行した門川が、そう頭を下げる。

「大分出張の件ですか?」

「ええ、そうです。大分では、苗原社長と御一緒に仕事をされたそうですね?」

 そう答えたのは、城戸だった。

「それが、何か?」

「大分で一緒に仕事をされたのにも関わらず、移動は別々だったと聞きました」

「確かに、そうでした。福岡に居る、お袋に顔を見せようと思いまして、社長とは別行動することにしました」

「それは、間違いありませんか?」

 すると、小田川の表情が少し険しくなる。

「何ですか?疑っているんですか?」

「いえいえ、とんでもない。疑っているのではなく、あくまでも確認しているのです」

「そうですよ。間違いないです」

「そのお母さんの連絡先を教えていただけませんか?電話番号だけでよろしいので」

 門川が、まっさらなページを開いた手帳と、ボールペンを小田川に渡した。

 小田川は、何か言い返したそうだったが、諦めたようで、手帳に渡されたボールペンで電話番号を書き込む。

「福岡から大分までは、レンタカーを利用されたようですね?」

「ええ、そうですよ。空港近くのレンタカー店で借りて、おふくろの家に寄った後、大宰府だざいふインターから九州道と大分道を経由しました。高速を降りたのは、確か大分光良(みつよし)インターです」

「では、太宰府インターから大分光吉インターまでずっと高速に乗っていたわけですね?」

 城戸が、そう確認を取ろうとした。

「いえ、一度高速を降りました。ガソリンが心もとなかったので、給油したんです」

「その高速を降りたというのは、何インターですか?」

「さあ、もう覚えていませんね」

 小田川は、必死に考え、思い出そうとしている様子だった。

「では、ETCイーティーシーカードの走行履歴をお調べしてもよろしいですか?それを見れば、どこのインターで退出したかわかるはずです」

 城戸がそう提案すると、小田川の顔はまた厳しくなった。

「そこまで必死に調べて、一体何なんですか?どこで高速を降りて給油しようが、私の勝手でしょう?」

「実は我々、ある殺人事件を追っているんです。その捜査で、重要になる事ですので、ご協力をお願いしたいのです」

 城戸は、そう言って頭を下げた。

 数秒間頭を下げて乞う彼の様子に屈してか、小田川が、

「わかりましたよ。カード番号とメールアドレスを教えますから、どうぞ警察の方で調べてください」

 と、言った。

 彼は、財布から出したETCカードを門川に渡し、メールアドレスも告げた。門川は、それを手帳にメモする。

「休み時間に失礼いたしました」

 城戸は、そう一礼して苗原開発本社を去った。

 警視庁へと戻る覆面パトカーの中で、城戸は、小田川が車を借りたという、福岡空港近くのレンタカー店に連絡を取ってみた。

 どうやら、小田川が車を借りたのは間違いない様である。

 城戸は、次に小田川が借りた車のナンバー等を訪ねた。ETCの走行履歴を調べるのに必要だからである。

 その電話を切ると、次に、小田川の母親の家に連絡を取る。

「はい、小田川でございます」

 電話口の向こうで、女の声がそう言った。

「突然申し訳ありません、警視庁の者ですが──」

「警視庁の方が何か?」

「三日前に、息子さんがお見えになりましたか?」

「ええ、確かに息子が来ましたが、どうかしましたか?もしかして、息子が警察の厄介になる事でも──?」

「いえいえ、そういうわけではありませんよ。参考程度にお聞きしただけですので、安心してください」

 城戸は、礼を言って電話を切った。

 警視庁の捜査本部に戻ると、川上が、捜査結果の報告をすべく待ち構えていた。

「警部、五年前の苗原伸二について、興味深いことがわかりました」

 川上はそう言って、城戸に一枚の紙を渡す。

「これは、五年前の日田の地元紙の切り抜きです」

 渡された紙を見ると、


<大手開発業、地元団体の反対に屈する>


 という見出しが、堂々と黒地に白抜きの文字で書かれていた。また、その下には、


<苗原開発リゾートホテル構想、白紙撤回へ>


 とも書かれている。

「このリゾートホテル構想は、何故白紙撤回になったんだ?」

「この構想に対する反対理由は、様々だったようです。その中でも特に多かったのが、苗原開発の示したリゾートホテルのデザイン案が、街の雰囲気に似合わないという意見です。その他には、林を切り開いた土地に建設する計画だったので、森林破壊や環境問題に関する反対があったようです」

「では、その様に反対した、地元団体と言うのは?」

「日田の観光協会です。それに関しても、気になる事があります」

「一体何かね?」

「その日田の観光協会ですが、地元の宿泊施設や飲食店が加盟しています。その中に、小料理屋の『かげつ』という店も入っていました」

「『かげつ』というと──」

「そうです、あの光島秀子が経営していた小料理屋ですよ。つまり、彼女は苗原開発のリゾートホテル構想に反対する一人だったわけです」

「そんな光島秀子は、殺されてしまったわけか──」

 城戸が、そう呟いた。

「警部、気になる話はまだありますよ」

 川上が、そう続ける。

「五年前の三月十一日から十二日にかけて、苗原伸二は、日田に居たことがわかりました」

「何だって?光島秀子が殺害された時、現場近くに居たという事か──」

「リゾートホテル構想に関することで、日田市と打ち合わせがあっていたようです。ですが、そのやん年子の同年九月に白紙撤回されるわけですが」

「より詳しい苗原伸二のアリバイはわからなかったのか?」

 城戸が、尋ねる。

「ええ、五年前の話ですからね。先程報告したぐらいしかわかりませんでした」

「だけど、大きな収穫じゃないか。光島秀子を殺害した容疑者として、苗原伸二が浮かんできましたよ。動機は、リゾートホテル構想に反対する邪魔者を始末したんでしょう」

 南条が、そう推理した。

「しかし、苗原伸二が犯したのは殺人だ。ただ単に、リゾートホテル計画に反対しただけの光島秀子を殺害したとは思えない。もしそうだとすれば、他の観光協会の人間も殺されているはずだ。彼女だけ殺されたのは、何か理由がある」

 城戸が、言った。

「それは、どういう意味ですか?」

「私の推測に過ぎないが、秀子は、伸二にとって知られてはならない秘密を握ってしまったんじゃないか?恐らくそれは、リゾートホテル計画についてだろう」

「五年前の事件の犯人についてはよくわかったが、その五年後に起きた今回の事件はどうなるのかね?誰が、何の理由で苗原真理と光島武を殺したのかね?」

 城戸と南条のやり取りを聞いていた中本が、そう疑問を投げかける。

「それは、五年前の事件の罪を真理と武に着せ、自分に疑いの目が向かないようにするためでは──?」

 山西が、言う。

「そうだとしても、何故伸二はその二人に目を向け、罪を着せようとしたかだ。まあ、武に関しては保険金の件があるからかもしれない。そうなると、彼の共犯者としてどうして真理に罪を着せようとしたのかがわからない」

「真理に関しては、五年前の事件の真犯人が伸二であることを知っていた可能性はありませんか?彼女は伸二の妻です。知ってしまったとしても、おかしくはないと思います」

 川上が、言った。

「つまり、自分が秀子を殺したことを知っている、真理の口を封じようとしたわけか──」

 中本が、首を縦に振りながら言う。

「そうだとして、何故五年も間が開いたんだろう──」

 城戸がそう呟いた時、それまでパソコンに向かって作業していた門川が、城戸の元へ歩いてきた。

「警部、小田川のETCの走行履歴が出ました。彼が途中で降りたのは、大分道の玖珠インターです」

 そう言いながら、一枚の紙を渡す。

「玖珠インターだって?」

 城戸は、大きく反応した。豊後森駅が、玖珠町にある駅だからである。

「それと、玖珠インターの周辺地図です」

 門川が、地図サイトのコピーを城戸に渡す。

 他の刑事達も、そのコピーをのぞき込むようにして注目する。

「玖珠インターと豊後森駅は、目と鼻の先じゃないですか」

 山西が、声を上げる。

「これは、小田川も事件に一枚噛んでるな──」

 城戸は、そう一人で呟いていた。

「この走行履歴によると、玖珠インターの料金所を通過したのは、午前九時八分。時間的には、豊後森機関庫で光島武を殺害することが可能です」

「となると、小田川と言う男が、伸二の代わりに武を殺害した可能性は十分にありますね──」

 と、南条が言ったが、城戸は、

「いや、それは不可能だ。走行履歴を見てくれ。九時八分に玖珠インターを出た後、小田川は、九時一八分には再び玖珠インターから大分道に入っている。よって、九時二〇分に機関庫で犯行に至ることは不可能だ」

 と、反論した。

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