6 『親友と私』
「こんにちは、久しぶりだね」
対面、クレアとティーナの思いがけない今日の顔合わせ。
思いつきでやってきたクレアといきなり家に押しかけられたティーナ、それはもうよく分からない状態だ。
クレアの顔を見たティーナはちょっぴり驚いたように目を見開いていた。
「クレアちゃん? どうしたの?」
あの時からずっと音信不通状態だったので、語る言葉を模索するようにティーナは問いかけてきた。
「実は、今から熊狩りにでも行こうかなあって。どう?」
「え、どうって、私に聞いてる?」
えー……なにこの気不味い空気。
私がいけないの? ……いや、うん。突然現れた私がいけないんだね。よく分かった。
出来るだけ自然に明るく、意識をそういうプラスな考えに集中してクレアは再度口を開いた。
「他に誰もいないでしょ」
「そうだけど……」
随分と静かに言葉を出すティーナ。
落ち着いた紫色の長い髪が彼女の冷静さをよく表している。
しかし、今はその落ち着きが乱れている。どうやらクレアの言っていることが理解できないらしい。
それもそうだろう。
一緒に遊んでまた色々と騒動が起きたりしたらと思ったら声なんかかける人はいないと思う。
残念ながらクレアはその一般理論を遵守することはできない性分なのかもしれない。
「いいから、私ね。久し振りにティーナちゃんと遊びたいの。アクアちゃんと三人で遊びたいの」
我が儘な感じになってしまったけど……。どうかな?
ティーナは暫く顎の下に手を置いて思案した後、飲み込むように頷いた。
「うん、クレアちゃんがそう言うなら。分かった。私も熊狩りに参加させて貰おうかしら」
「ありがとう、ティーナちゃん!」
思わずティーナちゃんに抱きついてしまったが、ティーナちゃんも嫌な反応はしていない。
これで以前のようにティーナちゃんと一緒にいられる。
さてさて、ティーナちゃんの突然の登場にアクアちゃんがどんな面白い反応をするのやら……やばい、楽しみが止まらない!
「あの、クレアちゃん……なんか笑顔が悪巧みしてるみたいだけど……」
あらぁ、どうやら顔に出ていたようですね……。
クレアは咳払いをして、なんとか誤魔化そうとしていた。しかし、それも苦笑いをしているティーナにはおそらく気づかれているのだろうとクレアの方も苦笑いするしかなかった。
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さて、無事にティーナちゃんを熊狩りに引き入れた私は、ティーナちゃんの準備を手伝い、それからティーナちゃんの腕を引いて我が家へと向かっております。
「クレアちゃん、準備手伝ってくれてありがと」
「ううん、私が誘ったんだもん。当然だよ!」
道中、ティーナは楽しそうにしている。
ジャリジャリと整備されきっていない砂利道を歩く音が遠くまで響く中、クレア達の話し声は軽やかでその足音も掻き消してしまうくらいに賑やかなものだった。
「そういえば、アクアちゃんは私が来ること……」
「ああ、勿論伝えてないよ!」
「うわぁ……悪い顔」
「そもそも私、許可なしにティーナちゃんのところに押しかけたんだよ。誘ってもオーケーになるか分からないのにアクアちゃんに教える訳ないじゃん」
「そう言われると……正論に思えてくる」
一ヶ月も絡んでいなかったのに、余所余所しくもない。
砕けたような会話ができていることが無性に楽しくて、ついついティーナを楽しませようとしている自分がいることに驚きと喜びを隠せない。
「アクアちゃん、どんな反応すると思う?」
「困惑するんじゃない? ていうか伝えた方がいいと思うよ」
「大丈夫だって、ちょっと驚いてもらうだけだし……ティーナちゃん、家に着いたら屋根の上に乗っておいてくれない?」
「脅かす気しかないよね……」
呆れ、ため息を吐くティーナは不思議と嫌そうな顔ではなかった。クレアもちょくちょく様子見をしながらも、そのまま話を続けた。
「まあ、アクアちゃんを脅かすという楽しみは置いといて」
「ちゃんと、置いとくんだ……」
「ティーナちゃんは魔法の腕とか鈍ってないよね?」
話を切り替えてそう訊ねるとティーナは砕けた笑みで自信満々そうな感じで胸を張った。
「二人と遊んでいない間、実は魔法の特訓かなりしてたよ! 風魔法は以前からだいたい使えてたけど、その他にもこの一月で水魔法の方もかなり上達させたよ」
「おお! もし、アクアちゃんよりも水魔法が上手だったらアクアちゃんの立場が揺らぐね」
「キャラ付に結びつけるのはどうかと思うけど……そこまではまだまだ遠いかな」
クレアのボケにちゃんと突っ込みつつもまだまだ水魔法はアクアに敵わないと苦笑いのティーナ。
ただ、ティーナの場合、風魔法が可笑しいくらいに強力なので、もしかしたら水魔法の方もアクアを超えるかもしれない。そう、クレアは薄々感じていた。
アクアちゃん……取り敢えずドンマイ。
自分の得意な火魔法を超えられそうにならない限り、クレアの悠然とした態度は崩れないようだ。
「それより、クレアちゃんは相変わらず炎魔法が凄そうだよね」
唐突に独り言のように呟いたティーナのそれを聞いて、クレアは首を傾げた。
「なんで?」
「だって、前よりもクレアちゃんから感じる魔力量が明らかに多いから。しかもクレアちゃんは大抵の場合、水、風、闇、光、土魔法とかの性能を底上げしながらそれ以上に炎魔法の威力を上昇させたりとかしてそうだもの」
「へー、流石ティーナちゃん。よく分かるね!」
ティーナの考察に関心するのも束の間、今度は咎めるように真面目な顔がクレアの目に鮮明に映り込んだ。
「分かる人には分かるものだよ。それより、その力はあんまり人目に晒さない方がいいと思うよ。クレアちゃんの力はその歳では強大すぎる。そのうちクレアちゃんを利用しようとする輩が現れるかもしれない。だから魔法量が溢れるのを抑える魔法も練習しなきゃだね」
「う、うん。……それ本当?」
「私、こう見えてあんまり嘘はつかないよ」
「ですよね……」
あの本を読んでいない時のクレアだったらヘラヘラ笑って誤魔化して、そのままスルーしていたようなことである。
しかし、両親が英雄と呼ばれていたと知った今ではティーナちゃんの言っていることが本当にそうであると感じていた。
「熊狩りが終わったら、ちゃんと特訓しようか」
「そうだね。よろしくお願いします」
「うん、お願いされたよ。あっ、クレアちゃんそこちょっとした段差が……」
「ぎゃっ!?」
窪みにつまづいて転倒するハプニングがあったものの、この後クレアたちは無事に家までたどり着くことができた。
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