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5 『竜人の親友』

 アクアと熊狩りの約束を無事に取り付け、クレアはホッとしながら家へと帰った。

 道中一回木の枝に足をすくわれたのは、内緒である。



 世の中何が起こるか分からない。

 アクアの思いがけない「熊狩りに行く」という了承に驚きの余韻を残しながら、クレアは予定時刻のお昼までリビングで待機……のつもりであった。

 しかしながら、アクアはきっと色々と熊狩りに行くために準備とかしているだろうし、ウェアスは何やら物騒なことをしに森の中へと潜っている。


 ……いや、お父さんは本当に何やってるんだろ?

 ちょくちょく森に入っていくお父さんの後ろ姿を見かけるけど、特に大荷物も持たないで、すぐ帰ってくるし、本当に森で何をしているのか分からない。

 しかし、それよりも今考えることは別。

 お父さんの件は取り敢えず置いといて、私だけ……何もしていないというのはどうなのだろう?


 別に何もすることがないのだから何もしなくていいというのはクレア的に正しいと考えていた。

 時間になったら家の外に出て、アクアを出迎えて、森から帰ってきたウェアスと合流して「一狩りいきましょう!」って感じの流れが、予定が頭の中で組み立てられている。

 しかし、クレアはうずうずして仕方がなかったのだ。



 ……それにしても暇なのよね。



「お母さん、何か手伝うこととかない?」


 なので、取り敢えず何かすることはないかと、母親に指示を仰ぐ。


「ああ、クレア。お父さんと熊狩りに行くんでしょ。一通り家事は終わらせちゃったけど……」


 気分を紛らわそうとお風呂場を掃除しているお母さんの元へと行ったのだが、駄目である。


「そっかー」


「まだ時間があるんなら、少し外で遊んできたら? ついでにアクアちゃん以外も誘ったりしてもいいんじゃない?」


「うーん、アクアちゃんは熊狩りの準備していそうだから遊べないとして、そもそも私……誘う相手いなくない?」


 思えば最近はアクアちゃんとばかり一緒に遊んでた気がする……。

 遊べない、誘う相手がいない。まさに八方塞がりなんだけど!?

 

「ティーナちゃんは? 前は三人で遊んでたでしょ?」


「ああ、ティーナちゃんかぁ……」


 プラリネから出たその名前を復唱すると、数ヶ月前の記憶が蘇ってくる。

 ティーナ。人間ではなく竜人の女の子である。

 竜人と言っても、歩く爬虫類みたいなガチガチの竜……ではなくて、見た目は人間と同じで角と控えめな尻尾が生えている程度だ。

 やろうと思えば竜化といって完全に竜そのものの姿になれるらしいけど、その姿は見たことがない。


 そして、クレア達がそんな彼女と一緒に遊ばなくなったのは喧嘩したとかそういうのではない。


「お母さん、竜人と人間が仲良くしてるのってあんまり良くないのかなぁ?」


「何かあったの?」


「まあね……」


「ふーん」


 そう、あれはクレア達が三人で村の近くにある川で水遊びをしていた時のこと。


 丁度その頃、王都からの視察という名目で如何にも身分が高そうな役人とそれを取り囲む王家直近の兵士が川の近くを通りかかった。

 そして、竜人であるというだけでティーナをいきなり拘束して、連れて行こうとしたのである。



 今思えば、人間と竜人では昔の戦争で色々と感情的に良くないものがあると理解できるが、当時は全く意味がわからなかった。

 現在も、すでに国同士で和解済みである。なのにも関わらずそのような横暴をするのは意味が分からない。



 で、結果的にティーナ連れてはいかれなかった。

 兵士は五人がかりでティーナを押さえつけようとしていたが、軽く魔法を使ったティーナに一蹴されていた。

 結局役人も色々と煩かったからクレアが打ち身をして気絶させてた。そのまま三人で川から離れ、無事に各々の家まで帰りつくことができた。以来、なんとなく一緒に遊ぶのは控えよう……という感じで遊ばなくなってしまったのだ。


 いや、今考えても私たち何も悪くないでしょ!

 というか、それだけの理由でティーナちゃんと遊ばなくなるって変だよね!?

 決めた! 連れ戻す!


「……いや、やっぱり何でもない。お母さん、私ティーナちゃんのところに行ってくる」


 結果、間違っているのは自分たちではないと結論を導き出したので、暫くの沈黙を打ち破って思ったことクレアはをプラリネに告げた。


「ええ、それはいいんだけど……話さなくてもいいの?」


「うん。よくよく考えたら……スッキリしちゃって。もう大丈夫」


 私の言葉を聞いたお母さんは「そう」と一言だけ口にして、私の頭を撫でた。


「じゃあ、行ってらっしゃい」


「うん、行ってきます。もし時間に遅れちゃったらお父さんに伝えておいて」


「分かったわ」


 無気力な状態から打って変ってクレアの足取りは軽くなっていた。

 目指すは勿論ティーナの家。

 アクアの家と比べたら結構遠いが、歩いていけないような距離でもない。

 アクアの家とは真反対の方向にクレアは足を動かした。



 ティーナちゃんも呼ぼう。


 この熊狩りに。


 三人でまた遊ぼう。


 あんな些細なことで一緒に過ごさなくなるなんて勿体ない。


 さあ、行こう久々にティーナちゃんのもとへ。



 


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