46 『帰村後の朝』
「おはよ、母さん! お腹すいた」
朝から活気のある声が家に響く。
試験を終えたクレアたちは、無事に帰宅することができ、試験は既に昨日のこと。後は結果を待つのみ、ということで、試験前の緊張感など完全に捨て去ったクレアは、それはそれは生き生きとしていた。
「クレアおはよう。あとちょっとで完成するから、少し待っててね」
台所では、まだ料理を行なっているプラリネがクレアの声に反応して、顔は向けないままに返事をした。
「そういえば、父さんは? 寝室にいなかったけど」
料理を待つために席に着いたクレアはそういえばと思い出したかのようにウェアスのことを尋ねる。
前日は、クレア達を送り届けたウェアスであるが、そのまま飲みに行くとか言って、村の酒場に行ってしまったのだ。なので、クレアが寝るころになってもウェアスは家に帰ってきていない。
そんなことから、父親であるウェアスの居場所をクレアは少なからず気になっていた。
「ああ、お父さんは昨日、野宿するって言ってたわ」
「どういう心境で!?」
意外なプラリネの発言にクレアは驚きを隠せない。
「まあ、それは嘘だけど」
「嘘なんだ!?」
「帰ってきてないってことは、酔っ払って道端にでも寝てるんじゃない」
雑な考察をするプラリネ。どうやらプラリネ自身もウェアスの行方は分からないらしい。
「へー、そっか。父さんが外に飲みに行くのって珍しいね」
「ええ、なんでも知り合いが顔を出したからって。積もる話でもあるのよ」
知り合い? まあ、父さんは元英雄。顔も広いのだから知り合いが訪ねてきたとしても全然不思議ではないか……。
その後、クレアは朝食を食べ終えて、いつもの3人で集まる約束を果たすため、アクアの家に赴いていた。
なんでも、アクアが入試終了祝い、なるものをしたいらしいからである。彼女の言葉にクレア、ティーナ共に同意したためにこのように集まったのだった。
「おはよ、2人とも」
クレアの声に表情を崩した2人は既に玄関におり、クレアを出迎えた。
「おはよ、クレア。パーティーの準備は進んでるよ」
「うん、お父さんに頼んだら奮発してくれたんだ。あっ、そうだ。より美味しいものを食べたいなら、森に入って狩ってくるに限るよね?」
楽しそうな2人の表情を見つめ、クレアも嬉しい気分に浸る。
「そうだねー。美味しいものは森にあり!」
そのため、アクアの言葉にクレアが同調したのは言うまでもない。
「えっ、2人とも。もしかして、今から森に行くつもり? パーティーは今日ってアクア言ってたのに……」
「大丈夫! ちゃっと行って帰ってくるだけだから。ねっ、クレア!」
「うん、ティーナも一緒に来る? それとも準備してる?」
クレアとアクアがやる気満々なのを感じ取ったティーナ。残念ながら、2人に何か否定の言葉をかける気にもならなかった。
「まったく……私は準備してるよ。クレアとアクアなら、大丈夫だとは思うけれど、暗くなる前には戻ってきてね」
ティーナのなんとも言えない呆れ顔に悪戯っ子のように口角を緩ませる2人。許しの言葉をもらったことにより、2人はすぐさま森に向かう準備をする。
「分かってるよ! クレアの制御……は、出来るか分かんないけど、やってみる!」
「ちょっと!? なんで私が問題起こす前提?」
「えっ、だってティーナの言ったことって、そういう意味じゃ……」
「違うよ! ……きっと、多分、うん……」
「クレア、自信ないのに突っ込まないでよ」
そして、相変わらずの2人なのである。
しかし、いつも通り変わらずの様子を見たティーナは。
「まあ、とにかく。いってらっしゃい」
そんな光景を微笑ましそうに眺めるのであった。




