45 『動き出す状況』
特務組織、隊長同士の会議があった次の日。
昨日のこともあり、ヴェロニカの焦りは大きかったためか、彼女の顔には焦りが見え隠れする。
会議では、魔人の動きが活発であると話し合いの中で議題とされた。しかしながらそれを対処するのは少し待て、簡単に言うとそういうことをヴェロニカは投げかけられた。
夜のアマネとの会話で、幾分かの緊張感と苛つきは薄くなったものの、それでも彼女のすることは変わらない。
「全員揃っているな。今から、狙撃部隊は単独で、アルマ村近郊に現れる魔人をぶち殺す。無能な上には従ってられねぇ」
連合の本部塔から離れ、尚且つ馬車の多く停まる街並みの外で、その集団は終結していた。
総勢、50人程度の隊員。狙撃部隊でも精鋭が揃うヴェロニカの選んだ強者達だ。左手には、皆が等しく魔銃やら、魔弓を抱え、ヴェロニカの前にぴしゃりと整列してみせていた。
特務組織、狙撃部隊は軍に忠誠を誓っている訳ではい。彼らが本気で忠誠を誓うのはただ1人。ヴェロニカだけなのだ。
ヴェロニカの一声がかかれば、即座に行動を起こす。人数が少ない分、その雰囲気も色濃く、加えてヴェロニカの指導のお陰もあり多くの強者が揃う。そして関係も厚いからこそ、部隊の連携も一般の騎士達などとは比べ物にならないほど。
「ヴェロニカ隊長。出撃準備、整いました。我々はいつでも行けます!」
「腰抜け議員どもに、ヴェロニカ様の力を見せつけてやりましょう!」
「狙撃部隊に栄光あれ」
信頼の証に兵士は口々にヴェロニカを褒めちぎり、士気は異常なくらいに高い。まだ朝だというのに、清々しいというより、暑苦しいくらい。
「お前ら、あんま調子に乗るなよ。危険なことをするのに変わりはないんだ。気を引き締めろ!」
「「「はっ!」」」
口は悪いが、元々心優しいヴェロニカは狙撃部隊の兵士たちに別け隔てなく接している。
それは身分など関係なしにだ。そのため、狙撃部隊には貴族上がりの者は少ない。身分を重要視する貴族は、そもそも特務などには入らないからである。
そして、ヴェロニカの人柄を知っている隊員たちは、貴族も平民も皆平等に扱うヴェロニカを尊敬し、崇拝している。
ヴェロニカは人間の貴族でありながら、特務の狙撃部隊の隊長に就任した。そして、貴族にも関わらず、その辺の差別感情を持たないというところも、人望を獲得している要因の1つでもある。
本人は無意識のため、自覚はない。
それでも兵士達に慕われていることを彼女は重々理解していた。
「よし、作戦を開始する。アルマ村に向かう。ニック、部隊の半数を預ける。魔人を挟撃にしたいから、遠回りになるんだけど、東側の山を迂回して、裏手に回り込んで。頼んだよ」
「了解です! ヴェロニカ隊長もお気をつけて」
笑顔になる青年は、部隊の半数である20人近くを引き連れ、馬に跨り、颯爽と走り去った。隊列は綺麗に二列で移動していて、見ていて清々しいものだ。
ニックの指揮する部隊は魔弓を扱う者が終結。魔弓は魔銃と違い、狙撃時に音が小さい。弾足は遅いものの、奇襲をするにはもってこいの武器だ。部隊を分けたのは、ヴェロニカの挟撃作戦で、彼らに後方からの奇襲をしてもらうためだ。
ニックをはじめとする兵士たちの後ろ姿を見ながら、ヴェロニカは手元に残った兵士に目を向ける。
「私たちも移動を始める。あいつらより先に到着して、一足先に敵戦力を削ぐ。言っとくが、拠点を叩くのは手筈通り、あいつらが山から迂回して、敵の背後をとってからだぞ」
「「「了解!」」」
「チェラン、現地についたら、私は単独行動をとりたい。だから、挟撃諸々の作戦指揮をお前に預ける。いいな、手筈通りにやれば、失敗はしない」
「分かりました。ヴェロニカ隊長はあの人に顔を出すのですか?」
ヴェロニカの右腕とも言われるチェラン。魔銃を片手にピシリとした直立不動の姿勢で、そう問いかける。
「ああ、前々から魔人の動きは逐一教えてもらってたし、挨拶しとかないと、あの人拗ねそうだからな」
「では、ヴェロニカ隊長は最終的にあの人と共に行動するということで、よろしいですね」
チェランの言葉にヴェロニカはこくりと頷く。
「どうせ特務にバレるんだし、真面目女の説教は避けられない……なら、あの人と一緒に奴らを、魔人を殲滅するに限る。不安要素は消しときたい。魔人は人類のみならず、世界の害だからな」
辛辣な言葉の裏には、ヴェロニカの実体験がある。
チェランは理解しているため、分かりましたという意思表示を目配せした。
「ヴェロニカ様、そろそろ行きましょう」
隊員の1人がそう耳元で囁き、それを皮切りにして、ヴェロニカも馬に騎乗した。
そして、勇ましく一言。
「行くぞ!」
ヴェロニカはそう短く、声を発して、馬を走らせた。
慌ただしく、馬に騎乗する兵士達は、ヴェロニカの後方から慌ててついていく形でアルマ村への移動を開始したのであった。
そして、このヴェロニカの行動の前日に、クレアたちは家に帰り着いており、今の時間は村で朝ごはんを食べているのである。
当然、彼女という大物が村に来るなど、知る由も無い。




