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42 『あり得ない結果』

 魔法学園生徒会室ーー。


 どっさりと積み重ねられた書類の山。

 紙に書かれた内容は受験者の概要や結果などが書かれたものだ。

 総数5000以上。

 現地である魔法学園以外にも、離れた会場でも試験が行われている。各地からの結果は、魔法学園の試験が終わり、夕方頃のこの時間に全て送られてくる。

 

 生徒会室には15名程度の生徒がせっせと書類を選考していた。

 

 いつも通りの雑務。

 学園側から依頼をされれば、その仕事に務めなければいけないのが生徒会といつものである。

 しかし、生徒会メンバーというのは選考に悪意しか感じられない。成績優秀者がこぞって選ばれるため、魔法が得意というだけでこのような雑務を押し付けられる。


 生徒会メンバーになるということはとても名誉なこと。断ることも可能であるのだが、その肩書きが欲しいあまり指定された者はほとんど生徒会に入る。


 そして、入った瞬間からこのざまである。


 連日の徹夜。

 まさにブラック。

 学園のために尽くすことが如何に大変かを理解することは生徒会に入った後に実感すること。後の祭り状態なのは、毎年恒例のことだ。


 そんなことを黙々と作業をしていたアルファは考えていた。


 二学年序列二位 総合序列三位の実力者。

 そんな彼に与えられた仕事は生徒会の書記。

 実力社会をここまで恨んだことはない。……ああ、この雑務さえなければとアルファは思う。


「……これが、所謂社畜か」


「は? 寝てなさすぎて頭可笑しくなったの?」


 会長の席を挟んだ反対に座るシャロンの口調は辛辣だ。


 二学年序列一位 総合序列一位。

 成績が学園トップであるシャロン自身もまた、アルファと同じ道を歩んだ同族である。因みに現生徒会副会長。来年の会長ということで、期待の魔法学園エースである。


 そして、彼女もデスマーチを現在進行形で継続しているため、心に余裕がない。

 止めどなく動く手は、まるで機械のように一定のリズムを刻んでいる。


「まさか。そんなわけないだろ。俺が壊れる時は、四徹目だ。まだ三徹目だから余裕たっぷりなんだよ」


「余裕もないし、壊れるまであと一徹じゃない……というか、そうなる前に寝なさいよ」


「寝てると時間を損してる気分になる」


「それで毎回授業で居眠りとか、いいご身分ね」


 減らず口を叩く二人は、会話の最中も書類を見て、目まぐるしく視線を動かす。

 二人だけではない。

 生徒会室は静かではないものの、それぞれ喋りながら、されど仕事を黙々と遂行していっている。


「まあ、授業で居眠りするのは置いといて」


「置いとかないで、ちゃんと授業受けなさいよ……」


「会長のことだがな……」


 不意に話をすり替えるアルファに不満げなシャロンも会長と聞いた瞬間に困り顔を見せた。


「ああ、仕事に来てない件?」


「その通りだ。結局、あの人は来ないじゃないか」


「まさか、来るって思ってたの?」


「今日くらい来るだろ、普通!」


 そんなアルファの発言にシャロンの反応はない。

 あの性格だ。来るか来ないかで言ったら、来ない。仕事はキッチリこなすアルファとは違い、会長の性格は真反対とも思えるほどだ。


「あのさぁ、会長がこういう仕事すると思う? 思わないでしょ」


「いや……まあ、確かに。お前が正しいな」


 深いため息が生徒会室に響く中、アルファの手元に一つの書類があった。


「ん?」


「どうした? 書類の不備でもあった?」


「不備……じゃないと思うんだが、いや……」


 歯切れの悪いアルファに懐疑的視線を向けるシャロン。

 その様子を察し、アルファは彼女に手元の資料を掲げて見せた。


「何……ク、レア? アルマ村出身で……はぁ、なるほど。ん? ……えっ、ちょっ、どういうこと!?」


 疲れて眠そうなシャロンの目は大きく見開かれた。


「そういう反応になるだろ」


「だって、火魔法で瞬間魔力が25000超え……対象の貫通率が143.8%って、そんなの英雄プラリネの学園時代の入試成績を上回るほどじゃない!」


 英雄プラリネは、学園でただ一人、入試成績で瞬間魔力24000を叩き出し、今でもその記録は破られていないという正真正銘の神童であった。

 そんな過去の卒業生を超え、しかも、それが英雄ということもあり、シャロンの目は信じられないという情が露わになるようなものだった。


「シャロン、驚くのはまだ早い。これも見ろ」


「これは、同じアルマ村出身の子。人間のアクア、竜人のティーナ……」


「こっちの二人も瞬間魔力が15000を超えている。学園側は完全にノーマークだったな」


 魔法学園では幼少からの才能を注目している生徒はしっかりと書類として提出される。

 世界各地、何処の生徒もその能力を数値化されて、優秀な人材には学園から声がかかるような仕組みがある。

 だが、クレアを含め、三人のデータはなかった。

 これだけの能力を持っている人材を学園が見逃すはずがない。


「驚きね……」


「ああ、データベース上。今年の学年1位は間違いなくエルフの国の皇……んんっ、フラン嬢とされていた。実際、成績も瞬間魔力、12000弱。これで特級特待生。文句なしだ」


「でも、この書類を見る限りでは……」


 シャロンの呟きと共にアルファも三人の成績の載った資料に目を落とした。


「ああ、このクレアという女が文句なしの主席だろうな」


「今までまったく無名だった子。どんな子かしらね?」


 そんな風に天井を見上げるシャロンとは違い、アルファは冷静な顔で書類を机上に置いた。


「お前ってやつは……覚えてないのか。朝のあの、三人」


「朝の三人……!」


 みるみるうちにシャロンの顔は驚きに満ち満ちていく。


「あの三人、この書類の三人と名前が同じだ」


「まさか、そんなことが」


 朝の入試について尋ねたこと。少しだが、三人との会話もあった。

 思いがけずに手が止まるシャロンを横目にアルファは窓の外に目を向けて、鷹揚とした雰囲気で口を開いた。


「まあ、今は驚いてても仕方ない。まずは仕事を終わらせるぞ。……どうせ、入学してきたら、望まずとも顔を合わせることになるんだからな」


 その言葉を聞き、呆気に取られた顔をしたシャロンだったが、すぐに正気を取り戻し、クレアの名が刻まれた書類を一瞥して、また作業にもどるのであった。

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