35 『再会の誓い』
「改めまして、リュースと申します。種族はエルフ。こちらのフランとは腐れ縁? みたいな感じ。よろしくね!」
その会話での印象は、とても明るい子という感じであった。フランとは違い、ピリピリした雰囲気もない。ほんわかしたような、そんなようである。
大人びているというより、明るいムードメーカー的な存在なのだろう。フランさんの雰囲気がティーナに近いのだとしたら、こっちはアクアに近いのか……?
いや、これはなんか違うな。
そんなほのぼのとした自己紹介を横目で見ていたフランは少し不満そうに頬を膨らませ、男のあそこにかかる力が一段階上昇したように見えた。
聞こえてくる音は痛々しく、うめき声まで聞こえてくる。
うわぁ……男の方は被害が飛び火してる……。
心なしか、顔がうなされているようにも見えるし……。
「は、はじめまして。クレアです。フランさんと同じ、魔法学園の入学試験を受けようと思って、アルマ村から来ました。こちらこそ、よろしくお願いします!」
「おお! アルマ村ってことは、人と竜人が住んでいるあの……なるほど。じゃあ、竜人の知り合いとかは?」
「居ますよ。親友です。というか、その子も一緒に試験受けるためにここに来てますし」
そう言った途端にリュースのテンションは最高潮に上がり、ひとしきりにぴょんぴょん飛び跳ね、嬉しさを表していた。
様子を見るに、どうやら竜人が好きなようだ。
「リュースうるさい。それより、これ何とかしてよ」
蚊帳の外状態に痺れを切らしたのか、フランがイラついた声でそう言い、もはや虫の息である倒れた男を見るように指を指した。
「はぁ……フランはなんでも私に押し付けるんだから。こういうのは憲兵に引き渡して、そこの意識ない女の子は保護してもらうのがいいでしょう」
それ以上言わないで!
男のライフがゼロになっちゃうよ!
クレアがそのようなことを思っているなど想像もしていないフランはさらに足で顔を踏んづけ、ゴロゴロと転がすように足を前後に動かした。
「動かすのが面倒なのよ」
とても正直なフランの答えにリュースはなるほどと理解したように何度も首を縦に振る。
「フランは面倒屋さんだもんね」
「うるさいわね。取り敢えず、私とこの子は入試があるの。これとあっちの子を含めて、事後処理をお願いしていい?」
事後処理といっても、かなり悲惨な惨状であり、周囲はあからさまに魔法が使用されているといった感じにボロボロだ。
人間二人分を一人で、処理するなんてとても大変であることは隠しきれない事実だ。
そのことを分かったうえで、リュースはやれやれと手を使いジェスチャーで示してみせた。
「しょうがないなぁ……やったげる」
「悪いわね」
「そのかわり、試験頑張るのだよ!」
キャピッといった効果音が聞こえてきそうな、そんなポーズを取らながら、リュースは任されたと胸に手を置いた。
「とにかく、リュースさんが事後処理をしてくれるということで、解決したんだよね……」
「ええ、後は任せて大丈夫よ」
フランさんがあのままあの場所にいたら、きっとさらに被害が出ていたかもしれない。どこにとは言わないけど……。
ともあれ、問題が解決してよかった。
善行をするとなんと気持ちのいいことだろう。
遠回りになってしまったが、これでなんの憂いもなく、クレアは宿へと帰れる。
今回のことで、実質魔法を実践で使用したということとなったのも、クレアにとってはプラスである。
クレアの心の片隅に確かに存在していた小さな不安は、綺麗さっぱり払拭された。そのクレアの感情は顔に出ており、一回りたくましい顔つきになっていた。
「随分といい顔になったわね」
先のことでクレアを高く評価したフラン。
声色は出会った時よりもずっと親しげだ。
「なんか、自信がついたって感じかな。この感じなら試験も余裕で合格できる気がしてきたよ!」
「そうそう、少しくらい自信過剰な人の方が成功者になるものよ。あっ、私こっちね」
一通り歩いた後、フランは思いついたように告げた。
クレアとは違う方向の道を指差し、ここで別れだと告げるフランにクレアは悲しさを表すことなく、逆に笑顔になった。
「じゃあ、次は魔法学園で会おうね!」
「大丈夫だと思うけど、落第、なんてことするんじゃないわよ」
熱く、二人は手を交わし、再会を誓った。
これ以上の言葉は不要だ。
二人は互いに振り返ることもせず、自身の進む道へと力強く一歩踏み出した。
クレアの頭には、今日起こった鮮烈な出来事が深く刻まれたのだった。




