34 『容赦のない暴風を』
視線の先の誘拐犯との睨み合い。
クレア、フラン、誘拐犯は三人共にこう着状態を継続。
犯人は囲まれているため下手に動けば、どちらかに不意打ちを受けかねない。
逆に二人はこの包囲網を崩すまいと、動くタイミングを計っていた。
こっから、どうするの……。
視線でそうフランに訴えかけるクレア。
その視線はしっかりと向かい側のフランに届いていた。
無闇に動くのは愚策。
しかし、いつまでもこんな状態でいるわけにもいかない。
犯人が無抵抗のまま確保できればいいのだけど……いや、違うわね。
「クレア、少しだけ荒々しいしいことをするけれど、大丈夫かしら?」
「うん、いいよ」
「それじゃあ、クレアは危なくなったら退避するのよ」
「うん……え、退避?」
その言葉の後、凄まじい地鳴りと共にフランの手元に凄まじい速度で吹き荒れている暴風の塊が姿を現した。
明らかにオーバーキルをしそうな威力を含んでいる。
被害者を助けるのが最優先。
まあ、魔法が使えるみたいだから、これを食らったところで死ぬことはないでしょう。
「まあ、体に何か障害を負わないことを少しだけ祈ってあげる」
クレアと同じ15歳とは思えないほど、残酷な声色で最後の言葉を男に告げた後、投げつけるように男に向かってその、やばすぎる暴風の塊を投げつけた。
「ぎっ!?」
男の方も、せめてなんとかしようと防衛魔法で対抗するも、その威力は相当なもので、相殺した分を差し引いても、男を戦闘不能にするには十分以上の威力であった。
「がぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
風が男を弄び、無数の傷を刻んでいく。
その巨体を軽々しく宙に浮かせたその魔法は、数秒間、男に猛威を振るった後にいきなり消えるように消失した。
当然、男の体を宙に浮かせていたそれが消えると、男の体も浮力を失い、自由落下によって地面に叩きつけられた。
ボロボロの服、ところどころ切り傷やら打撲痕が目立ち、ピクリと痙攣したのちに、気を失ったように動かなくなった。
周囲を囲んでいた壁は、塗装が剥げ、ボロボロのレンガを剥き出しにしている。
「おお、流石だねー!」
その場から一歩たりとも動かずに巻き込まれもしなかったクレアが綺麗な服のままにそうフランに言う。
「その割に貴女は全く驚いた様子もないのね」
「うーん……ティーナの風魔法で慣れちゃったからかなぁ」
「貴女とそのお友達が規格外なのはさっき聞いているから、驚かないけど……いざ目の前でそう言われると、凄いと言わざるを得ないわね」
と言いながら、フランは男を見下すようにしてら高慢な態度を崩さなかった。
クレアは手足を縛られて動けないその人物の介抱へと動く。
「ねぇねぇ、大丈夫?」
その人物からの返事はない。
顔を見ると、しっかりと目を閉じているクレアたちよりも幼い少女であった。
「無駄よ。気絶しているわ」
「あんな大きな音を立てたんだから、起きるかもって思ったんだけど……」
「馬鹿ね。私が魔法を使っていた時に意識があったなら、それこそ恐怖で失神するわよ」
クレアが失神しなかっただけで、常人が至近距離でその魔法を見たものなら、相当な恐怖が刻まれる。
フランはクレア程強いわけではない。
しかし、常識的に考えて、フランの力はかなり優れている。その証拠がフランの普段から見せる態度がそれを表している。
今まで天才と呼ばれてきた故の傲慢さ、自信に満ち溢れたその目が彼女を形作っている。
「そういうものなんだ……」
「貴女の村ではどうだったか知らないけど、この地域ではこれだけの威力を持った魔法は凄いということになるわね」
そう言いながら、フランは困ったように倒れている太った男を見下した目で見た。
「さて、こいつどうしてやろうかしら」
そう言いながら、股の部分を軽く踏み付け、まるで悪役令嬢のような振る舞いである。
「フランさん、流石にそこは……」
「こんな粗末なもの、もげればいいのにっ!」
そう言って、より一層その部分を強く踏みつけた。
「うわぁ、父さんが見たら青い顔しそう。あと、教育上よろしくない行いだよ……」
「別に誰彼構わず、こういうことをしている訳じゃないわよ?」
「いや、それは分かるけどさ」
踏みつけられている太った男を哀れに思いながら、クレアはひと段落ついたことに安堵した。
次にこの惨状をどう片付けるかという事案に考えはシフトした。
「さて、気を失ったデブと気を失った女の子……これをどうするかよね……」
「なんとかして運べないの?」
「運べないというか……この男に1ミリたりとも直接触りたくないのよ。ああ、改めてこの顔見ると腹たってきた。死ね! このっ!」
相変わらず、男を踏みつけているフランは凄い形相で睨みつけている。
こんなことをしているうちに太陽はすっかり姿を表し、朝の訪れを感じさせていた。しかし、これをどう片付けるかと言われると案が思いつかない。
このままでは、宿に戻れないじゃないか。そうクレアは危惧したが、またしても幸運なことにそこに人が通りかかった。
「あっ、フラン! 見つけたー!!」
健気な声がその場に聞こえ、その声の主人に対して、フランは頭をかきながら、大きくため息を吐いた。
「りんごジュース……一々うるさいわよ」
「だーかーらー、私の名前はリュースです! というか名前の前にりんごとか要らないものを付けないでください!」
フランの知り合い。というかかなり親しい間柄なのだろう。フランもリュースも共に素で接しているようにクレアの目に写った。
そして、一通りのやりとりを終えたあとにリュースは次にクレアに目を向けた。
「えっと……どちらさまですか? はっ、もしかして、フラン姫の我儘に巻き込まれた被害者の方ですか!?」
「う・る・さ・い!!」
そのリュースの素っ頓狂な考察を聞き、クレアはひたすらに笑うしかないのだった。




