32 『誘拐犯と遭遇してしまった……』
「へー、あんたも魔法学園の入試受けるんだ」
二人揃って、大通りを歩き、フランは興味深そうにそう口にした。
クレアが事情説明をし、迷子である旨を伝えると、クレアの泊まっていた宿を一緒に探してくれるということで、このまま二人で歩いているのだ。
4時頃は暗かったのに現在、5時ちょっとの時刻ともなると、太陽が向かいにそびえ立つ大きな山の陰から少しだけ頭を出し、辺りを幻想的に情熱的に照らしている。
周囲をきょろきょろ見回し、見覚えのある建物を必死で探そうとするクレアとそれに付き添う感じのフランである。
「そうなんだ。今日は入試のために三人とプラス一人で来てて、私だけ早く目覚めちゃったから、探検しよう! ということで、ふらふらしてたら……」
「迷子になったと」
「そういうことです」
ぐうの音も出ないクレアは素直に肯定して、顔に手をやった。
しかし、フランと出会ったことで最悪脱して、今のクレアの気分はほんわかしている。
最悪、宿に戻れなかったら、そのままフランに着いて行き、会場まで行けるからだ。
「まあ、入試までだいぶ時間あるから大丈夫だとは思うけど……えっと、宿の近くに何か目印になるようなものは?」
「目印かぁ……うーん、あっ! 飲食店や本屋とかがあった」
「飲食店とか本屋はそこら中にあるわよ……」
「じゃあ、大きな教会があった」
「教会もこの付近に三つくらいあるのよね」
「じゃあ……冒険者ギルドっていうのも近くにあったかなぁ」
八方塞がりと思われたクレアの帰還は、この一言により希望が見えてくる。
「冒険者ギルドと教会……なら、一箇所に絞れる!」
「本当!?」
安心しなさいと胸を叩いて、フランは迷いなく道を曲がり、小走りになった。
クレアはゆらゆらと揺れる金色に輝く金髪を見ながら、その後ろを遅れることなく着いていく。
「クレア、もう近いわよ」
「うん、なんとなく見覚えのあるところだ!」
クレアの口ぶりには多大な安心感が溢れている。
そんなクレアに無言で頷くのは、してやったり顔のフラン。
そして、走り抜け、広い空間に抜けると……。
「教会、冒険者ギルドに飲食店とかお店がたくさん! それで……あれが宿」
「目的の宿は見つかったのね」
入試前に一時はどうなるかと思ったクレアであったが、こうして戻ってこれたことをとても嬉しく思い、思わずフランに抱きついた。
「ありがとう、フランさん!」
「まあ、私が案内したんだから、当然の結果だわ。……良かったわね」
高飛車な態度を取っているフランも発言の最後に優しさを潜り込ませ、クレアの嬉しさを共有している顔であった。
「ああ、一時は死ぬかと思ったけど、助かったぁ……」
「……死ぬほど追い詰めれていたなんて、初耳だわ」
「フランさん……いや、これはもうフラン様と呼ばねば!」
「調子に乗ると殴るわよ?」
「あいたっ!?」
そう言いつつ、フランは顔を近づけて来たクレアのおでこに人差し指で軽くデコピンを決め、宿の方に目を向けた。
「それにしても……そこそこいい宿に泊まっているのね」
それは別に嫌味でもなく、フランの本音であった。
本来、クレアが泊まっていた宿というのは冒険者が、それもそれなりに稼いでいる者が泊まるような所だ。
田舎者がちょっとした贅沢をしている、とも考えららなくもないが、少し不自然に思ったフランはクレアに尋ねた。
「ねぇ、貴女のご両親は、名のある冒険者とかだったりするの?」
「えっ、いや名のある冒険者ではないかなぁ……多分」
世界一有名な英雄ではあるけど……。
「そう、なら元冒険者とか、国に勤めていた重役の方とか?」
「うーん、かなり近いけど……」
元、英雄なんだよね……。
引き攣る頬、クレアは話そうにも話せない事情であることを承知しているので、上手く返答出来ず、曖昧なことを口に出していた。
冒険者と言えば嘘ではない……かもしれない。
そもそも英雄というのがどのような感じの職業に位置付けられるのかが怪しいところだ。
国の重役? 重役過ぎて話せないわ!
そんなクレアの様子をじっくりと観察したフランは、首を傾げながらも軽く頷くように首を振った。
「まあ、いいわ。そんなこと聞いたところでなんにもならないし」
なら、何故聞いた……。
と、クレアは心の中でかなり思っていたが、それを口に出すことはなかった。
恩人にそんな失礼なことを言うのは憚られる。
「取り敢えず、案内してくれありがとう」
「気にしなくてもいいわ。ただの気まぐれよ」
彼女とは学園に入ればまた会える話。
フランの方に手を振りながら、別れを告げる。
この場は足早に宿に戻ろう……とクレアが足を踏み出した時であった。
「クレア、危ない!」
「ーーっ!? な、何!」
目の前を太った男が通り過ぎていた。
クレアはフランが叫んだお陰もあってか、辛うじて衝突をさけ、尻もちをついていた。
「大丈夫?」
「うん、なんとか」
なんで走っていたのだろう?
疑問は男に視線を向けさせる。
男はあるものを担いで走っている。
口は布で覆われて、手足はロープで縛ってある……人を。
は……?
「フランさん、フランさん」
「な、何かしら?」
「あの男、何しているように見える?」
「何って、誘拐じゃないかしら」
「だよね……」
唖然とした顔で二人はその光景を見つめる。
………………。
「「って、誘拐!?」」
再起動した二人の脳。
意図せず二人は目配せし、その男の後を魔法を使ってすごい速さで追いかけるのだった。




