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31 『問題児、迷子になる。そしてエルフと出会う』

「二人とも、おはよう!」


 前日、ぐっすりと眠ったクレアの朝は早い。


「んんぅ……」


「クレア……まだ、早い……よ」



 起き上がった少女は自身の眠っていたベッドの上で両手を上げて希望の朝が来た、かのように嬉しそうな気分であった。

 活気な声がとある宿の一室に響き、同室で寝ていた二人の少女達は、その雑音を遮ろうとするように毛布を深く被った。

 ちなみにウェアスは別室の一人部屋でまだぐっすりだ。

 爽やかな寒さが感じられる早朝にクレアは誰よりも早くに起床し、そして、二人を起こそうとニコニコ顔である。

 でも、二人が寝ているのも納得である。何故なら時計はまだ4時を指していて、起きるには早い。


 されに加え、試験本番までは、まだかなり時間があり、朝食の時間にもまだまだ余裕がある。

 首筋がひんやりと冷えた空気に晒されて、クレアは一震えした後にゆっくりとベッドの上から降りた。


「もう……二人とも起きないなんて、なんかつまんない!」


 抗議のために声を上げてみるも、やはりまだ眠いのだろう。二人はその声に無反応である。

 それどころかまるで繭に包まれた虫のように固く掛け布団をしっかりと固定した。

 

 これは何を言っても駄目だとクレアは勘弁して、仕方なく、クレアは部屋の窓を開けた。

 外はより一層寒々しい空気が充満していて、部屋にその冷気が侵入してきた。しかし、不思議と嫌な感がではない。

 澄んだ空気は、部屋の空気を一掃し、クレアは清々しい感覚を覚えた。


「気持ちいい」


 このまま二人とも起きないで、朝食の時間までは暇。

 でも、この気持ちいい気分でそんな退屈なまま過ごすのは嫌だなぁ。


 一度冴えてしまった目でまた二度寝をするという選択肢はクレアにはない。

 寝ている時間は無駄にしているかがしてならないからだ。

 クレアの落ち着かない心は揺れ動き、やがて閃いたようにパァっと表情を変えた。


 私のこの抑えきれない衝動……

 きっと発散しないといけないわよね。うん、クレア動きます。


 そうと勝手に決定したクレアは軽く暖かい格好をして、部屋の扉を開いた。

 木製の扉特有のしなる音が響き、クレアは今度、扉をゆっくりと閉めた。部屋から出た彼女は次に宿の外へと行くために受付がある出入り口を潜り、窓の外に広がっていたまだ見ぬ土地へと繰り出した。


「わぁぁぁっ!!」


 故郷のアルマ村では見たことのないくらいに家が多く立ち並び、長い通りが幾千にもあり、見たこともないような立派な建造物の数々にクレアは目を丸くした。


「凄い! 凄い!」


 なにこれ! 夢みたい。まるで世界が変わったようだわ!


 見慣れない街並みに興奮したクレアは一人でに歩いて行った。

 閉まってはいるが、数々の店があり、村では無かったようなオシャレな店や飲食店、巨大な教会や冒険者を管理している冒険者ギルドなるものまであった。


「うわー、何これ! あっ、あっちにも!」


 付近の珍しいものを見て歩き、クレアはずんずんと宿から離れていった。


「何あの建物! 凄い、見たことないよ」


 昨日の夜は眠っていたこともあり、クレアはこの街の造りを知らない。よって、馬車からここまでのルートも知らず、完全に知らない土地を縦横無尽に歩き回るということとなっていた。


 そうなれば、どのような結末になるかといえば一目瞭然である。





「あれれ……ここ、どこだっけ?」





 目が点状態のクレアは辺りを見回すが、いくら凝視したところで見覚えたがあるはずない。今日が初めてなのだから。


 やっばぁ……これ、完全にやっちゃったやつだ。

 建物にしか注目してなかったからどの道から来たか全然覚えてねぇ……。


 その場に佇み頭を抱えるが、時すでに遅し。

 早朝なので、夜中同様に人通りも少ない。

 あちらに伸びている通りに目をやり、次はこちらに伸びている通りに目をやる。


 無数にある入り組んだ、まるで迷路みたいな第四自治区の中、クレアは完全に迷子となった。


「うわぁ……ダレカー、タスケテー」


 ショックのあまり片言になってしまうクレアは感情のこもっていない声で辺りに呼びかけた。

 期待もせず、ただそうやって声を上げていたクレアは絶望感を周囲にまき散らした。


 人生、終わったー……このまま入試に遅刻だわ……。父さんから怒られる。というかこのまま一生路頭に迷うとか……破滅ルートが頭に浮かぶんですが。


 落胆し、肩をガクリと落として、しゃがみこむと、すぐ後に肩を軽く叩かれた。


「へ?」


「なんですか、そのアホ面」


 見上げると、金色の綺麗な長髪がまず目に入り、次に深い緑色の瞳がこちらを見いるように視線を向けていた。


 綺麗な人……。


「あの、誰ですか?」


 クレアの見当違いの発言にその人物は少し疲れたような目でクレアを見ながら、頭をかくような仕草をした。


「誰って……貴女が助けを呼んでいたのでしょ……」


「あっ、そっか」


「一体何を考えているのやら……で、どうしたの?」


 女性は腕を組んで偉そうにクレアに尋ねる。

 ふと顔全体に目を向ければ、その人の耳が少し長いことに気がつく。


「えっ……その、エルフ?」


「は? ちょっと何言っているか分からないわ。だいたいなんでエルフが今の話題に出てく……ああ、そういうこと」


 最初、本当に何言っているのか理解していないようであったが、クレアの視線が自身の耳に向いていることで、気が付いたようだ。

 その女性は自分の耳を触りながら、見せつけるように横を向いた。


「この耳が気になるの?」


「うん、初めて長い耳を見たから、もしかしたら本に書いてあったエルフ族なんじゃないかって思って」


「エルフを本で見たって……それ何時代よ」


 クレアの初めて見たというのが相当ツボにはまったのか、その女性はお腹を抱えて大爆笑した。


「貴女面白いわね、気に入った。名前は?」


 自然に名前を尋ねてくるその女性にクレアは堂々と返答をした。


「人に名前を聞くときは自分から名乗るものでしょ」


「……あー、そろそろ帰ろうかしら」


「ごめんなさい。調子に乗りました……」


 元々クレアが迷っていて助けを求めていた立場。

 現在、そのことから見てもクレアの立場が下であるのは明確だ。

 頭を下げながら、それはそれは綺麗な土下座を決めたクレアは申し訳なさそうに名乗った。


「クレアって言います。アルマ村から来ました」


 その様子に幻滅したように呆れ、乾いた息を吐いたところで、その女性は気持ちを切り替えたようだ。


「私はフランよ。エルフ族で出身はジュエルリッツの都心部」


「ジュエルリッツってことはエルフの国の首都だよね!」


「ええ、こう見えてそれなりの身分なのよ」


 確かにフランの身なりはかなり良いように見える。

 派手派手な宝石満載な服とか神々しい装飾とかは身につけていないものの、清楚感溢れる服装に、アクセントとして、美しいネックレスを首にかけている。


「じゃあ、フランさんは貴族とかそういう感じ?」


「ええ、といっても暫くは家名を名乗らないんだけどね」


「えっ、どうしてですか?」


「今年から、魔法学園に入学するのよ。今日は入試なんだけど、おそらく余裕だわ」


 鼻を鳴らし、自信満々のその顔に一欠片も迷いは感じられない。


 この人も魔法学園に入学……ってことは、


「同い年!?」


「急に大声を出して、何なのかしら?」


 クレアがおそるおそるフランの姿を再確認する。

 大人らしい雰囲気を醸し出しているため、もっと年上のように見え、予想なら二、三歳は上の年齢かと思っていたが、よく考えれば、自分と同い年で大人びているティーナを思い浮かべると、同い年というのも分からなくもない。


「そっか、フランさんもそちら側の大人なのか」


「それがどちら側なのか知らないし、大人でもないけれど……なんか悪い気はしないから、いいわ」


 そんな話をしている間に二人はちょっぴり仲良くなった。

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