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28 『制御は任せて!』

 ひと騒動あったが、馬車は順調に進行している。


 怒涛の魔法打ち上げ花火が暴発した珍事にウェアスは未だに笑っていて、アクアはクレアに対してご立腹。

 ティーナに助けを求めて縋り付き、抱きついているクレアを頭を撫でながら適当にやり過ごしている光景。

 

 そんな訳で現在、クレアはアクアの説教を回避することに失敗して、そのまま叱られていた。


「もう、加減を考えてよ。試験で校舎破壊したら退学になるかもしれないよ?」


 言葉の陰にはクレアが試験でやり過ぎやしないかという懸念も含まれており、そのことを注意するのは当たり前とも言える。


「い、今だけだって……多分」


「最後に多分が付いたから、信じませーん。だいたいティーナが対処してなかったら大惨事になってたかもしれないんだよ」


 指をさし、正座したクレアにそう堂々と事実を突きつける。

 ティーナから見ればもう憐れでしかない。


「ご、ごめんって」


「まあ、俺が馬車を操ってんだから、そんな大事にはならないって」


 ウェアスがそのピリピリした場を和ませようと気を遣い、明るい声でそのように介入してみるも……。


「ウェアスさんは少し静かにしてて!」


「お、おう……なんか、ごめんな」


 アクアの怒りは結果ではなくもしものことを考えてなので、そのような上っ面な言葉に彼女の心を動かすものはなかった。

 ウェアスは反省したように手綱を強く握り、馬車のスピードを一段階上げた。


「はぁ……まったく。ほら、ティーナも何か言ってあげてよ」


「え、ここで私に振るの?」


 急に自分に向いたヘイトに困惑するが、ティーナは少し咳払いをしてクレアに視線を向けた。


「まあ、その。怪我がなくて良かったね」


 天使か……。


「ティーナ、優しすぎて好きっ!」


 クレアはティーナのことがキラキラと輝く聖なる天使に見えてならなかった。

 その様子を見ていたアクアもクレアとほとんど同じような反応をした。


「はぁ、ティーナは優しすぎるよ」


 しかし、意外にも次に出てくるティーナの発言は予想だにしていないようなものであった。


「大丈夫。クレアの制御、行動予測は完璧だから、怒ることもないかなって」


 一瞬、何を言っているんだとクレアは思っていたが、アクアは違いニヤリと悪い笑みをうかべた。


「ああ、そういうことなら安心だ」


「任せて」


 低めの乾いた声で納得するアクアはその言い分を聞いて説教を終えることとなった。

 その際に任されたとクレアの制御を引き受けたティーナはまるで面白いゲームでもしているかのように微笑んでいる。


「えっと、ティーナありがと……って、素直に喜べないんだけど!?」


「何か変なことでもあった?」


「制御って? 行動予測って何ですか!?」


「何って、私がちゃーんとクレアのことをセーブしてあげるよってことだよ。何かおかしなことあった?」


 自分のことを棚に上げて話すクレアはそれはそれは手をひらひらと忙しなく動かし、慌てたように動いていた。

 その様子を見ながら、さらに笑うティーナはクレアの扱いに慣れているようである。

 クレアマスターの称号があるとするのなら、きっと一番にティーナがそれを手にすることだろう。


「クレア……そこを気にしたら。負けだぞ!」


「アクアの言い方が妙にムカつく」


「てへっ」


「あ〜あ、一回魔法ぶつけていいかなぁ?」


 昔ならこういうこともなかったのだが、今では魔法をうまく使えるようになって、こういう冗談もよく使うようになっている。

 もちろん、本気で魔法を放ったりは流石のクレアもしないが、青筋を立てて、我慢しているのは本気だったりする。


「それにしても、いい天気だねー」


「あからさまに話変えようとしても、釣られないからなぁ? アクアさーん。話聞いてる?」


「聞いてなーい」


 薄い胸を最大限に反り、クレアの方を見ないように心がけているアクアだが、そんなことが通用するはずもない。

 さっきまで怒っていたのはアクアで、現在は仕返しにアクアがクレアを挑発する様相をしている。


「はは……二人ともテンション高いね。楽しそうで何よりかな」


 一応会話に混ざっておこうとティーナもそう小さく言うが、その発言を気にも留めない二人は、暫く下らないやりとりを続けていた。




 ……2時間も。

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