24 『英雄の動揺』
まさか、娘に自分の過去を知られるとは思いもしなかった。一体何が起きたというのだろう?
クレアが席を外した際にプラリネは蒼白の顔で焦りを見せていた。
その姿は、クレアは一度も見ていないものであり、プラリネも見せないようにしていたものである。
まさか、そんなことがありうるのだろうか。
夢に私の過去が映るなんてことがあるのだろうか?
魔法で他人の記憶を覗き見ることは確かに可能だ。でも、それはかなり高度な魔法だし、そもそも私はそういう精神干渉系の魔法の影響を受けないようにしている。
私の対干渉魔法を突破して覗かれるなんてこと、あるのか?
ありえない……。
プラリネは首を振り、偶然のことであると考えようと気持ちを整理した。
クレアは洗面所にいる。
このまま、この狼狽えている姿を見せるのは、プラリネのプライドが許さない。
「そもそも、動機もないわよね……」
そう、クレアがプラリネの過去を覗き見る動機がない。
いや、確かにクレアはプラリネとウェアスの過去について知りたそうではあったが、ここまで度がすぎることをするとは到底考えられない。
ましてや、眠っている状況下からそのように動くというのも不可能に近い。
赤い瞳は、キョロキョロと忙しなく動き、プラリネが持っている本来の落ち着きは欠けていた。
「取り敢えず、このことについても考えても無駄よね。せっかく今日はめでたい門出なのに……」
今日はクレア達が魔法学園のある都心部へと向かう日であり、そのために今日は早起きをしてその時を待っていた。それなのにそんなことを考えて、思いっきり娘の旅立ちを祝えないなんてこと、母親としてあってはならないと思うのだった。
父親譲りの優しさがあるクレアだ。
多分私が忘れてと言ったら、この話は言い出さないでくれるだろう。
あれでいて、物分かりがいい。
大事な場面で気を遣ったりもする子で、きっと今回のことも……。
「はぁ……ダメだなぁ。気を遣わせちゃったわよね」
先刻の発言を振り返り、そう思えてならないプラリネは発言を後悔していた。
もし、誤魔化していれば、笑い話のまま話題は流れていったのではないだろうか?
夢のままに終わったのではないだろうか?
いくつもの仮定がプラリネの頭に渦巻き、その選択一つ一つをなぜ選ばなかったのかと、彼女を責め続けるのだ。
もっと、上手くやれたはずなのに……まだまだね。
英雄、英雄ともてはやされても、誰にも負けない力を得ても……心までは強くなかった。そういうことなのよね。
遠く及ばなかったのは、やはり精神面に問題があったからだ。あの時も、今でも。
「いけないいけない。早くご飯の準備しないと」
考えたところでなんともならない。そう判断して、プラリネは頬を叩いて、一度リセットした。
プラリネにとって現在、最も大事なことはクレアが魔法学園を受験することで、それ以外に優先すべきことは存在しない。
忘れよう。クレアにも伝えたが、私もそのことは聞かなかったことにしよう。
そう決意を固めたプラリネの元に顔を洗い、身だしなみを整えてきたと思われるクレアの足音が近づいて来る。
「ふぅ……」
出来るだけ、いつも通りに振る舞う。動揺を見せない。
普段通りにポーカーフェイスに戻ったプラリネは静かに深呼吸しながら、朝食の準備に取り掛かるのだった。




