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21 『動揺』

 クレア……二人の説得に成功。

 その代償は……大きかった。


「はあ……やっと分かって貰えた。疲れた……」


 クレアは多大なる疲労感によって息切れするように膝に手を置いた。口から出る白い息がその疲れ具合をよく表している。


 クレアが説明を開始し始めた時には既に二人はクレアがおかしくなってしまったと深刻に考え、そのためやれ家で寝かすだの、病院に連れて行くだの、と強引に連れて行こうとしたからだ。

 クレアはそれに抵抗しつつ、二人の目を覚まさせようと脳をフル回転させて説得を試みたのだ。

 説得までの間に二人はクレアを強引に連れて行こうと魔法を行使、その対処で使った魔力もかなり多かった。

 口を動かし、魔法も行使し、まさに二つの作業を同時進行、それも二人を相手に行なっていたのだから計り知れない疲労がクレアにはあったのだ。


「いや、でも……あんなことしてるの見たら、ねえ」


「うん、私もティーナも凄い心配したんだから。クレアが変になっちゃったと思って動揺してたんだよ」


 二人はクレアに悪いと思いつつも、事の発端はクレアであるため、こちらも疲れた顔をしていた。


「いや、色々とね。つい嬉しくなっちゃって……」


 クレアは二人に強力な魔法を成功させることができて舞い上がっていたと説明。

 クレアは大男を召喚し、更に配下に収めることに成功したから喜んでいたのだが、今はまだ話す時ではないとそのことについては黙秘をした。


「まあ、気持ちはわかるけど……そんなに嬉しかった?」


「うん、ずっと練習してきて、今日が初めて成功した魔法だったからね」


 ティーナの問いかけにしみじみと答えると、アクアもそれに反応した。


「その、ちなみにどういう魔法なの?」


「うーん……まだ、内緒。というかもう一度使えるかって言ったら、使えるか分からないしね」


 言葉を濁したのは、やはり教えるのは憚られるからである。

 クレアが召喚したのはただの大男ではない。

 身体に流れるのは普通の魔力であったりするのだが、それに流れているのは妖気。

 禍々しく、そしてクレアの魔力提供なしにはそこに存在すらできないようなもの。


 クレアの母であるプラリネはモンスターなどを使役した。

 クレアも同様にそれを使役したが、その対象は若干プラリネとは異なる。

 プラリネの場合は生物、一方クレアが使役できるのは死した過去の遺物。つまり存在してはいけないものを強制的にこちらの世界に呼び出すのだ。

 

 霊属性。

 クレアの固有属性はまだ誰にも明かされてない。無論、両親であるプラリネとウェアスにもだ。そのため、クレアが発言を差し控えるのは当然と言っても過言ではない。


 クレアはそれ以上のことを話さない。


 詳しく聞いたところで、きっと有耶無耶にしようとする。そうなんとなく察したティーナはアクアに耳打ちするように魔法に関して、一切の話を止めるように伝える。

 状況を飲み込めないものの、アクアもティーナの言葉に賛同して、その話から距離を置いた。


「えっと取り敢えず、クレアは大丈夫なんだよね」


「う、うん。全然平気だよ!」


「まあ、クレアの頭のネジがぶっ飛んでるってのは、よくよく考えると以前からのことだし、当たり前な気もするよね」


「アクア、ちょっと黙ろうか?」


 無礼な態度にクレアはキレ気味に目が笑っていない笑いをアクアに放った。

 ティーナも同情の視線をクレアに向け、アクアは俄然自分の主張が間違ってないだろとジト目を返す。

 三者三様のリアクションであるが、一旦はこのいざこざの解決にこぎつけることができた。


 そうして、三人は無事にプチクレア壊れちゃった事件(命名は適当)を集結させたのだった。


「さーて、クレアがいつも通りって分かったところで、早速特訓を開始しますか」


「ん〜? アクア、今どういう状況か理解してないからそういうこと言うんだよね? さっきから、さりげなく貶していたの気づいてたからね」


 そして、特訓前に少し、クレアはアクアに対して説教を食らわせるのであった。


 

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