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20 『ついに覚醒した霊属性が嬉しすぎる問題』

 日差しが差し込んでくる朝方。

 暗い闇が照らされて、まるで希望が満ち溢れるように辺りが輝き出す。


 毎回三人が特訓を積んでいる場所にはまだ時間的には相当早いはずなのにクレアが一人、必死にとある魔法を使おうとしていた。


「くぅぅぅぅっ……」


 唸るように右腕に力を込め、その魔法は発動するかしないかというところで停滞し、魔力が弱まるたびにクレアが踏ん張る。

 そんな状態が継続されていた。

 

 普段から魔法を使うことに長けているクレア。

 しかし、今回の魔法は発動するだけでも一苦労。

 それでも誰もいないその場所でひたすらに奮闘していた。


「この……さっさと、発動……してよ」


 祈りというよりも、もはや愚痴のようなその口調から相当の時間をこの魔法にかけていることが表れている。

 そして、彼女が待ち望んだ時が訪れた。


「あ、来た!」


 それまで停滞していた状態から一変。

 辺りにはクレアが使ってきた魔力が満ち溢れ、その魔力を放出している中心部にはガッチリとした黒い影がクレアとは別に出現していた。

 やがて、クレアの手の輝きが失われる頃にその黒い影は正体を露わにする。

 錆びついた鎧、その隙間からは魔力と思われる赤いモヤモヤしたものが漏れ出している。

 両手には鋭いナイフ。全長はおよそ2メートルくらいであった。

 顔は無数の布に覆われ、どのようなものかは確認できないものの、隙間からはギラギラと赤く瞳がクレアをじっと見ていた。


 そしてその大男は、ゆっくりと膝をつき、クレアに付き従うような形で頭を垂れた。


「はぁ……はぁ……どんだけ苦労したことか……」


「……」


「私はクレアよ。あなたを召喚した主人。あなたの名前を教えて」


「……俺の……名前、は」


 クレアはその大男の言葉を聞くと満足げな笑顔で……、


「これからよろしく!」


 親しげにそう言った。



===



「ねぇ、あれクレアじゃない?」


 困ったように眉を八の字にしたアクアは指をさして、そこにいるクレアを示唆した。


「うん、それは分かるけど……なんで天を仰いでるの?」

「雨乞いってやつ?」


 ティーナもアクア同様にその光景を目の当たりにして、困惑した表情を浮かべた。

 空に手を掲げて嬉しそうに泣いている。

 一体彼女は一人で何をしているのか? 

 アクアとティーナは同じタイミングでそんなことを頭に思い浮かべていた。


「取り敢えず、なんか不気味だからちょっと肩でも叩いて正気に戻そうか……」


「そ、そうだね。その方が絶対いい」


 しかしながら、二人は互いの顔を見合わせながら一向にクレアに近付こうとしなかった。


「「……」」


「えっと……アクア?」


「ここは言い出しっぺのティーナがその役をやるべきじゃない?」


「いや、私はこういう不思議現象は担当外だから……」


「不思議現象って……」


 アクアにティーナ、一歩も引かない言い合いで双方クレアの目を覚まさせる役を押し付け合う。

 静かに体は動かさず、口が動く二人。

 結局言い合いでの解決は不可能と同時に判断した二人は、


「アクア、一緒に行こうか……」


「うん、それがいいと思う」


 時間を少しかけて、最終的に二人はその結論に考えをまとめた。

 アクアとティーナは二人並んで、不思議なポーズを取り続けるクレアに近づくのだった。


「あの……クレアちゃん?」


 勇気を出して恐る恐る声をかけたのはティーナだ。

 

「ちょっ、ティーナちゃん。あの顔……完全に目がいってるよ。絶対普通じゃない!」


 アクアは不安そうにそうポツリと呟き、ティーナに注意を促す。

 アクアやティーナとの距離はかなり近いはずなのに、クレアはその声にすら反応をしない。


「あの……クレア? 大丈夫?」


「クレア、まさか寝ぼけてるの? だったら早く起き……ひっ!?」


 アクアが呼びかけた時、ちょうど反応したクレアが首をそちらに向け、その拍子にアクアは乾いた悲鳴をあげた。


「アクア、ティーナ?」


「そうだよ。アクアだよ。どうしたの? 悪いものでも食べて頭のネジがぶっ飛んだの?」


 いや……アクア、流石にそれは失礼な考えでしょ。


 ティーナはアクアのあまりにも偏った考えに内心そう思ったが、口に出すことはなかった。


「そうだよ。クレアはこんなところで、何をしていたの? 随分と不思議な格好で天を仰いでいたみたいだけど……」


「ああ、そのこと……」


 キョトン顔のクレアは思い出したかのようにそう言った。


「そのこと?」


「うん、ティーナ。実はね……私、支配者の風格が身についたんだ」


 は? クレア、何を言ってるの?

 もしかしたらアクアの言う通り頭のネジが何本か外れて、可笑しくなったの?


 ニコニコ顔を崩さないティーナは内心かなり辛辣な考えを巡らせ、そっとクレアの両肩に手を置いた。


「ティーナ?」


「クレア……きっと疲れているんだよ」


「えっ? なんのこと、意味わからないんだけど」


「大丈夫、私たちはちゃんと分かっているから。クレアは頑張ってるよ」


 優しく、かなり遠い目のティーナはゆったりとした言葉遣いでクレアに訴えかけるようにそう告げた。

 そんなティーナと同じように状況を察したアクアもクレアの側に寄った。


「クレア、大丈夫! 私たちはクレアがおかしくなっても友達だから」


「アクアまでどうしたの!?」


 クレアに関しては大男を召喚したことを嬉しく思い、暫くの間その余韻に浸っていただけなのだが、クレアがおかしくなったと勘違いした二人は優しい言葉を掛け続けた。

 そして、誤解を解くためにクレアはその後15分程度の労力を使うことを余儀なくされた。


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