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2 『世界最強の召喚士』

 書店で買った例の本を左脇に抱えて、クレアは玄関から家に入った。

 そしてまっすぐと台所にいるであろう母親の元へと駆けつけた。


「ただいま、お母さん」


「あら、お帰りクレア」


 クレアは自身の母親が見えたので挨拶するとにこやかに笑いながら返事をしてくれた。


「お父さんは?」


「今畑に行ってるわ」


 居間まで来てもお父さんの姿がないので、聞いたら案の定畑にいるという。

 現在、お父さんの仕事は農家で、広大な土地で色々な植物を栽培している。いわゆる農家というやつだ。


 ここ、アルマ村では農家の家庭がほとんどである。

 他には生活を豊かにする本屋や野菜や肉、魚などを販売しているお店、小さな病院や役所がある程度だ。


「ねえ、お母さん」


「ん、何?」


「お母さんって、魔法大戦中に『最強の召喚士』とかって呼ばれてたりする?」


 クレアがこの言葉を発したことに別になんともないかのように居間にあるテーブルを拭きながらクレアの母親は答えた。


「ああ、そういえば昔はそう呼ばれてた時期もあったかしらね……まあ、昔の話よ」


 昔の話。なんて言っているということは、否定をしていないということ。

 割り切っているからなのか、もう既に過去のことのように語っているお母さん。

 だがしかし、この本に書かれていることは十五年前の話である。

 昔と言えるほど昔でもない気がするのは私のきのせいだろうか……。


 クレアはそう思ったが、そんなことよりも次の質問をすることを優先した。


「じゃあ、お父さんは物凄い魔法師……だった?」


「ええ、お父さんは魔法が凄く上手だったわよ。とっても格好良かったんだから」


「へ、へー」


 ……いや、そりゃそうだろう。

 だって歴史書に載っちゃうくらいだもん。

 多分自覚なさそうだけど、お母さんもだからね!


 つい棒読みになってしまった返事にも然程反応しないクレアの母親。

 父親の話題になってからはすっかりテレテレしている。

 そんな母親のことをクレアは足から顔まで順々に見ながら頭をかいた。


 ……お母さんの名前はプラリネ。

 髪も綺麗で純白、瞳も赤くて宝石みたい……で、呼び名に関して否定することも無かった。ということは間違いないのだ。

 そう……お父さんとお母さんは正真正銘の英雄だ!

 いやでも、なんでこんなところで農家なんてやっているんだろう? 

 というかこの本見るまでは私もお父さんとお母さんのこと知らなかったし……。


 最も不思議に思っている何故農家となったのかをクレアは聞いてみることにした。


「お母さんとお父さんはなんで魔法を仕事にして生活していかなかったの?」


「えっ、お父さん、魔法使っているわよ?」


「それは農作物を大きく育てるための魔法でしょ!

 そうじゃなくて、なんで凄く強かったのにそういう戦う系の職業に就かなかったのって聞いてるの!」


 お母さんは惚けているのか、それとも本当に理解していないのか……十二年間も親子として生活してきているはずなのに未だにどっちなのか分からない。


「うーん……なんでだろう?」


 本当に分かってないのか? しかし本当に何を考えているのかがクレアには分からない。そう、プラリネは掴めない性格をしているり

 いつも通りに恒例の反応を見せているプラリネは見るからに楽しそうな顔でクレアを見つめていた。


「……本当に自覚がないの!?」


「お父さん、昔から畑仕事がしたいって言ってたからね。なし崩し的に私も付いてきたのよ」


 本当か嘘か……まあ真相に関して先ほどから考えている通り、私には分からない。でも、この話が本当だとしたら流石お母さんとでも言うべきか。

 お父さんの畑仕事がしたいってことで魔法師辞めて農家になるのも相当だけど、お父さんに付いてきたお母さんも相当だと思う……。


「じゃあ、お父さんが農家になりたいって言わなかったら、召喚士として軍に入ったりしてた?」


 論点を元に戻し、お母さんにそう訊ねる。


「うーん……やっぱり、ないかなぁ」


「えっ?」


 私の顔をまじまじと見つめた後にプラリネはハッキリそう答えた。

 中々納得のいく答えの出ない状況、それでも詳しく聞きたいクレアは問いかけを再度続ける。

 

「なんで? お母さんなら立場的にも凄く優遇されそうなのに……お金とかもきっと凄く稼げて、将来生きるのに困らないくらいの豪遊ができたと思うんだけど」


「そうかもしれないけど……お父さんと結婚して、クレアが生まれてきてくれて……うん! やっぱりこれ以上に幸せな選択はないわよ」


 それだけ言った後、プラリネはテーブルを拭き終え、夕食の準備のためにキッチンへと行ってしまった。

 軽くあしらわれた感が無いわけでもないが、結局プラリネからのこれ以上の情報は望めないとクレアは薄々感じ取った。


「お母さんの言ってくれたこと。嬉しい、んだけど……」


 私は……お母さんからそういうことを言われて、とても嬉しかった。

 でも、やっぱり驚きというものが大きくて、お母さんがこんなど田舎に来ちゃった理由がお父さんに付いてきたっていうのが、やっぱり腑に落ちない。

 魔法が使えて、それも一流の実力があったのなら、都で一生裕福に暮らせた筈なのに……。


 お母さんからはこれ以上昔のことが聞き出せない。

 お母さんが自然に話を切り上げた辺りがそのことをよく表している。

 でも、英雄と呼ばれていたお父さんとお母さんが何故英雄を辞めてこんなところに住んでいるのかがどうしても気になる!!



 ……ん? お父さん、お父さん……。

 あ、はい。ならそうしようか……。




 一通り頭を悩まし、そしてクレアは一つの結論へとたどり着くことができた。

 悩んでいたことがバカらしくなったように物凄い素の声がクレアの口から漏れ出すように出た。


「……お父さんが帰ってきたら聞こう」


 お母さんは狙って話を曖昧にしている可能性もあるため、表情や仕草が分かりやすいお父さんをターゲットに設定した。

 ということで、私はお母さんだけでなく、お父さんにもこのことを訊ねてみることに決めた。


 そうと決めたクレアはすぐさま、玄関の方を凝視し始めるのだった。

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