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16 『動き出す歯車』

 ティーナの家からクレアとアクアはゆったりとした足取りで自身の家へと向かっていた。

 来る時よりも帰り道が遠く感じるのは、遊び疲れたからだろうか?

 それでも二人は楽しそうに雑談しながら一歩一歩足を進めていた。


「それにしても、アクアちゃんがあんなに疲れているなんて思わなかったなぁ。最初に魔法をしくじった時はなんかのおふざけかと思ったもん」


 クレアはケラケラと笑いながら先ほどのことを思い出している。


「全く、こっちはそれどころじゃなかったのに……今だって本当は歩きたくないんだから」


「じゃあ、私がおんぶしてあげよっか?」


「それはちょっと……遠慮しとく」


 軽口を叩いているが、クレアから見てもアクアは確かに疲れた顔をしている。

 その証拠にアクアは自身の魔法で作り出した水をガブガブと飲みながら「はぁ……」と息を吐いていた。

 

「もう、遠慮しなくていいのに。恥ずかしがらずに、ひと思いにやってしまえよ」


「変なことを言うのとその裏声をやめなさい」


「は〜い。やっぱアクアちゃんはブレないなー」


 帰路で疲れているのはどうやらアクアのみのようで、クレアは嬉しそうにアクアの手を繋いでブンブンと振り回している。

 そんなクレアの様子を横目に今度はしかたないなぁと言う感じにもう一度アクアは息を吐いた。


「そんなにはしゃいでるとつまづいて転ぶよ」


「そんなドジを私が踏むわけ……きゃっ!?」


 ドサっという音と共に土煙が立ち上る。

 言わんこっちゃないといアクアは思いつつも、転んだクレアに手を伸ばした。


「ほら、言ってるそばから」


 身体を起こしたクレアの服や頬は砂で更に汚れていた。


「うへぇ、これお母さんに凄い怒られるやつかも……」


「自業自得だよ」


「でも、一部アクアちゃんに汚されたから罪が軽減するかも」


「私を巻き込むな」


 飛び火するのを防ぐのとクレアが調子に乗るのを止めるためにアクアは軽くクレアの頭頂部にチョップを入れた。


「後で一緒に謝ってあげるから」


「本当? えへへ、やっぱり持つべき友達はアクアちゃんだね」


「あー、甘やかさない方が良かったかなぁ……」


 すぐに立ち上がって、クレアは再びスキップを踏みながら歩き出した。

 その後を少し小走りにアクアもついていく。


「ちょっと、急に走るとまた転んじゃうよ」


 木々がさざめき、風が吹き抜ける砂利道の上で少女たちはパタパタと足音を立てて家へと帰るのであった。



===


 同時刻。アルマ村とは違い、王都ではちょっとした騒ぎか起きていた。

 博物館から、重要な古代の遺産とされている重要な宝。

 闇の魔石が盗まれたのだ。



 長い足が物凄いスピードで王都を走り抜ける。

 彼が通った後には凄まじい風によって埃が舞い散る。


「待てー!!」


 追いかける警備の兵士を潜り抜け、その男はめいいっぱいに笑顔を作る。


「速くこいよ、のろまども」


「んなっ!?」


 双眸には確かな悪意と狂気を醸し出し、大通りから建物の屋根へ、地下通路へと目まぐるしく動き逃げ回る。

 懐には綺麗な宝石。

 彼は泥棒であった。


「へっ、そんな動きで俺を捕まえられるかってんだ」


 楽々と追跡を掻い潜った男は、闇の深い裏路地へと消えていった。


 追っ手は撒いた。


 少年はそう思い、薄暗い地下通路に腰を下ろす。

 宝石を大切そうに撫で、その輝きを確かめるようにじっと見つめる。暗闇を照らしそうなくらいにその宝石はテラテラと微かな光にも反射をし、辺りにその輝きを散らす。


「やっと……やっと手に入れた。これで俺は……!?」


 安堵したその声も束の間、少年の視界はすぐに上下真っ逆さまとなった。


 な、何が……起こった!?

 熱い……喉元が熱い……まさか、切られ……。


 少年が自身の身体に関して、考えつく前にその意識は深海に沈むように消え、少年の目に宿っていた生たらしめる光は失われた。

 

「……ち……くしょ……」


 ひとりの泥棒の少年は……こうして、誰にも知られず、自身の短い生涯に幕を下ろした。

 しかし、この亡くなった少年は後々クレアを助けることとなる。彼の人生は死してなおも続く、泥棒からクレアの横に並び立つ相方として、彼の人生はここで一度終わったものの、本当の始まりというのはこれからなのであった。


「殺しちゃうなんて、相変わらず無慈悲なのね」


「うるさい。それより、コイツの盗んだ宝石はあったか?」


「ええ、これで四つ目も無事に回収できたわね」


「ああ……」


 そして、一つの災厄が動き始めるきっかけとなる日でもあった。



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