13 『最強のじゃじゃ馬娘を強化』
ウェアスの書斎。
クレアは朝早くから父であるウェアスに呼び出されて、部屋のソファに座っていた。
対面にはウェアスが愛用の黒い椅子に座っている。
熊狩りから2週間弱が経過した頃、ウェアスはとある話をクレアに切り出していた。
「魔法特訓? 私がってこと?」
不思議そうな顔で疑問符を浮かべたのはクレアであった。
「そうだ。クレアも俺やプラリネが昔英雄って呼ばれてたのを知ったんだ。ということは、お前も英雄の娘として相応の魔法力をつける必要がある……と思うんだが」
「えー、なんかこじつけ臭い」
勿論、クレアの予想通りのこじつけ。
本来の目的は、クレアがしっかりと戦えるようにするためであった。
魔法学園に入学する年齢まで後三年と少しである。
なので、この時期から少し特訓させときたいという頭がウェアスにはあった。
それは勿論、クレアだけでなくアクアやティーナも同じ。
再び動き出した魔人に対しての抑止力として、切り札として、この三人のことを成長させたいのだ。
「とにかく、休みの日は魔法に関して色々と鍛えるからそのつもりで」
「休みの日はアクアちゃん達と遊ぶんだけど……」
「ああ、言ってなかった。三人共、だぞ」
「え……?」
三人共という言葉にクレアは意味が分からないという顔でウェアスを見つめた。
「うん、ちょっと待って。お父さんどういうこと?」
「言葉の通り。クレアもそうだが、アクア嬢ちゃんとティーナ嬢ちゃんの方も鍛えようと思ってる」
ウェアスの突然のカミングアウトにちょっとふらついたクレアだが、しっかりと反論をした。
「き、聞いてない!」
「言ってないからな」
「あ、開き直っても困るから。お父さんちゃんと説明してね」
そのままマウントを取られたウェアスはクレアにあれこれと質問攻めにされて、ついに本心を吐いた。
「……ということだ」
ウェアスは三人を魔法学園の方に入学させたいという意図をクレアに話し、クレアはそれを黙って聞いた。
「……お父さんの考えはよく分かった。でも、私はともかくとしてアクアちゃんとティーナちゃんを魔法学園に行かせたいっていうのが分からない。そもそも二人に許可取ってないでしょ」
「甘いな。一応ティーナ嬢ちゃんには熊狩りの時に許可を取ってあるし、アクア嬢ちゃんもクレアに話をする前にちゃんと了承を貰った」
そう、ウェアスはクレアにこの話をする前にちゃんと二人の了承を得ていたのだ。
それはある意味クレアを魔法学園に行かせようとする策略の外堀を埋めたような感じである。
そんなウェアスの策略は上手くハマったようで……。
「うーん、お父さんが何でそこまでするのか分からないけど、二人がいいなら……まあ、いいか」
こうして、ウェアスはクレアを言い包めて、休日に特訓することを約束させた。
「二人とも、朝ごはん出来たわよー!」
「おっ、ご飯できたみたいだ。続きはまた後日だな」
「うん、そうだね」
プラリネに呼ばれて、二人は居間の方へと向かうのだった。
「貴方、クレアとのお話はどうだった?」
「まあ、なんとか納得はしてもらったよ。かなり不審がってたけどね」
「ふふっ、相変わらず隠し事が下手なのね。全然変わらない。クレアもそう。……でも、話してくれて、ありがとう」
「ああ」
この会話の最中、クレアは少し離れた場所からこの光景を見ていたため、話の内容は分からず、いつも通り両親がいちゃついているだけだとそう感じていた。
台所で少し話した後、ウェアスとプラリネはクレアが待っている居間へと進む。
「お父さん、お母さん、朝から仲がいいようだけど、ご飯冷めちゃうからそういうのは夜にしてよね」
「あら、夜にしてなんて……クレアったら」
「変な方向に話を進めないで!!」
先程の話をなかったかのようにクレアに接するプラリネをウェアスは心底凄いと感じていた。
「クレア、お父さんと魔法の特訓するんですってね」
「そうそう、私に魔法学園に行って欲しいらしいんだ」
「そうなの!? 実は私も魔法学園に通っていたのよ」
「へー、お母さんが、ね」
プラリネの一言にクレアは反応して、ウェアスにジト目を向ける。
「な、なんだよ」
「お父さん、ひょっとしてお母さんが魔法学園に通ってたから同じところに通わせたい。なんてくだらない事で特訓とか言い出してないよね?」
「えっと、いや……」
良かった。
クレアには気付かれていない。
そう思ったのもつかの間である。
父親として、何か大きなものを失ってしまった。
威厳というものが、ガラガラ崩れ落ちる音が聞こえてくるようである。
「はぁ……まあ、いいか。どうせそんな事だろうと思ってた」
「いや、違うぞ。そんなことよりももっと大切なアレがアレしてコレなんだよ!」
ウェアス……。
言い訳虚しく、クレアから暫くの間残念そうな目で見られることとなるのだった。
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