12 『全てを知る者達』
クレアちゃんは順調に川辺で暴れ、アクアちゃんも物凄い魔法を放った。
森を上空から見ていたティーナは二人の人間離れした熊狩りを賞賛していた。
実は彼女、拠点からほとんど移動していない。
作戦を練った結果、二人の様子を観察、熊の動向を観察、そこから最善策を打とうとしてたからだ。
しかし、ティーナの考えは簡単に覆された。
クレアの熊を瞬殺する魔法力の高さには未だに驚かされ、アクアが使った広範囲に作用する魔法も凄まじいものであったからだ。
時間的に出遅れた自分は勝ち目が薄いかもしれない。
「アクアちゃんが一番かな」
客観的視点からそう判断したティーナは、恐らく数で勝てる可能性は低いだろうと思いながら、ゆっくりと空中から地面へ降りた。
降りたところは拠点の近く。
当然、ウェアスもティーナの存在に気付いていた。
「ティーナ嬢ちゃんは行かなくていいのかい?」
「ウェアスさん、私は急に誘われたので実はあんまり策もないんですよ」
そう、罠を仕掛けるとか、そういうのは全て嘘であった。
ティーナは何も準備しないままこの場にやってきたのだ。
「じゃあ、どうして熊狩りに参加したんだい? 参加するとは言わずに見学してるって二人に言えばいいのに」
「それじゃあクレアちゃんとアクアちゃんに申し訳ないですよ。せっかく誘ってくれたんだから」
「じゃあ、楽しめばいいのに」
ウェアスは何気なくそう告げたのだが、そのまま苦笑いをして首を振った。
そして、ティーナは次の言葉を出すまでに暫くの間を開けた。今度は真剣な面持ちになってだ。
「ウェアスさん……気付いてますか?」
主語もなく、ただ簡潔にそう告げるティーナの目を落ち着いた表情でウェアスは直視した。
その視線から、ウェアスの声のトーンも一段階落ち、真剣な話をする雰囲気が形成される。
「ああ、勿論」
「なら、二人は魔法学園に行かせた方がいいんじゃないですか?」
「まだ早いだろ」
「時間もないでしょうに……」
二人の間では、具体的に何を示唆するでもなく、深刻そうな雰囲気の中で話が進む。
じっと見つめ合う二人の間に体の動きは微塵もない。
お互いの感情の機微を探るために注意深く、集中しているその空間には横槍をいれられるようなものはない。
「まあ、時間がないのも確かだ……」
「ならっ!」
「でも、二人はまだ幼い。せめて15になってからでも、充分間に合うとは思わないかい?」
ウェアスの落ち着いた対応にティーナも勢いを鎮めた。
「……魔人はもうこの付近まで来ています。さっきも上空から確認しました。それでも、ウェアスさ……『絶界の暴力』と呼ばれていた英雄ウェアスなら抑えられる自信があると?」
本来呼ばれていた名でウェアスのことを呼ぶティーナ。
それはかつて英雄と呼ばれていたウェアスのことであり、クレアの父という意味で呼んだのではない。
それは覚悟があるのかとウェアスに対して強く訴えている意味も含んでいた。
「ああ、そうだ。俺とプラリネで抑えればなんとかなる。少なくとも、自分の子供、自分の故郷を護るくらいは英雄を辞めた俺たちでもやれると思ってる」
「そう、ですか」
「ああ、それにあと三年だ。三年で魔法学園でやっていけるようにあの二人は鍛えるつもりだった。勿論、その時はティーナ嬢ちゃんもな」
「私も?」
疑問符を浮かべるティーナの頭にウェアスの手が優しく被さる。
その髪は手に馴染むようにさらりとしている。
そうして慣れた手つきで撫で始めた。
「これから様々な苦難が待っている。これは間違いないことだ。でも、君たち三人なら大丈夫な気がする。まあ、これは俺の希望的観測でしかない……俺のわがままだな」
「希望……ですか」
「ああ、俺とプラリネでは果たせなかったこと。何とは言わないが、そういうことも簡単にやってくれそうな、そんな感じがするんだよ」
ウェアスの発言には複雑な感情が込められてる気がする。そうティーナは感じた。
「とにかく、言いたいことは分かりました」
「ありがとう、ティーナ嬢ちゃんは理解が早くて助かるよ」
「ええ、理解はしました。でも、ウェアスさんとプラリネさんにも果たせなかったこと、というのは少し気になりますね」
「まあ、現実的じゃなかったからなぁ」
遠い目をしながら、ウェアスはテントまで歩き出した。
その後ろをティーナもついてく形で歩く。
「俺もあの頃はまだ若かった。だからだろうか、色々と間違えた……」
「若さ故の過ちってやつですか?」
「ああ、プラリネにはだいぶ迷惑をかけたな」
一瞬その背中は暗さを浴びたようであったがすぐに調子を取り戻したように明るい声となった。
「だからな、今度は俺がプラリネもクレアも故郷もちゃんと護ろうって思ったんだよ。そういうことだから、心配はいらないよ」
ティーナもそれに感化されてウェアスの言葉に頷いた。
「よし、ならこの話は終わりだな」
「そうですね。時期尚早だったかもしれないです」
「まあ、ティーナ嬢ちゃんの言ってることは間違ってなかったけどな。魔人の動向はこれからもちゃんと監視しとくよ」
「よろしくお願いします」
ティーナはウェアスに軽く頭を下げた。
そんなティーナの態度にウェアスは苦笑いを浮かべる。
「ひょっとして、この話をするために熊狩りに参加したのかい?」
「いえ、いずれしなきゃいけない話でしたが、クレアちゃんが誘ってくれなかったらここにはいませんよ」
「そうか」
「はい」
二人の話にひと段落がついた頃、丁度拠点に近付いてくる声が二人の耳を掠めた。
「おーい、お父さん。熊狩ってきたよー!!」
クレアの元気で無邪気な声にウェアスとティーナは二人で微笑み、クレアを出迎えることにした。
ティーナが拠点にいたことにクレアは驚いていたが、その後大量の熊を倒したアクアも合流したことにより、熊狩りが終了ということとなった。
なお、ティーナが熊を倒すことはなく、結果は一頭も狩れなかったという結果だった。
何だかんだ楽しんだクレアとアクアは鼻歌交じりに帰路を歩くのであった。
そして、ウェアスとティーナの二人に関してもすっきりとした表情でこの1日を終えることができたのだった。
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