11 『多過ぎて大惨事』
クレアが二頭の熊を仕留めた頃、アクアは拠点から北の方角へと向かっていた。
何故北に向かっているかといえば、実はこちらの方角にアクアだけが知っている熊の住処があるからである。
以前、この森にアクアが入り込んだ時に偶然熊が大量にたむろしている現場を目撃したのだ。
アクア、当時5歳。
とてもではないが、その頃はまだ熊を倒せるだけの力が不足していた。ので、当時は倒そうとか、そういうことを考える訳もなく、ただ必至ににげるだけだった。
現在はすでに熊も難なく倒せるくらいに成長したアクア。その彼女は迷いなく当時熊を見かけた住処へと向かうのだ。
「クレアちゃんもティーナちゃんも此処はしらないもんね」
森にある獣道をひたすらに全力疾走するアクアはそう思いながら走り続けた。
足に掛かる自身の体重は魔法によって緩和され、流れるように彼女は素早く移動をする。
お得意の水魔法を足元に滑らせ、強制的に前進する。
実質的にその場に留まっていても前に進むように魔法を駆使している。
見渡す限り草木が生い茂るその森の中を迷いなく進む。
その先にあの場所があると本能的に覚えている。
だから、魔法を止めない。足を止めない。視線をその方向から動かさない。
「……っ!」
そして、残りあと少しというところであった。
何事もなく目的地に到着するはずだった。
楽観視していたわけではないが、アクアのいる場所というのは巣の近く。
偶然にも、熊の群れと出くわしてしまった。
それも正面からの鉢合わせ。
両者お互いに目を丸くして、息も動きも止まってしまった。
「え、普通こんな感じで出くわします?」
拍子抜けなアクアの一言と共に時が動き出した。
アクアは数と状況が不利と判断して一気に距離を開け、熊達はそのアクアを追従する形で迫る。
「もー、タイミング考えてよ。どうしよ?」
頭を捻り考える。
後方へ飛びながらアクアは考えをまとめて結論を導き出した。
「まとめて殺るしかないよね」
基本的な考えだが、強ち間違いでもなく、というのもまとめて仕留めなければ数十とも思われる巨大な熊の群れがアクアを襲うことになるからである。
この熊、意外と足が速く、アクアの回避スピードだと距離を開けられない。
森で上手く動かないというのもあるが、それ以上に後ろに逃げ続けるという練習をしていないというのが一番大きかった。
「よし、覚悟を決めろ私!」
アクアは熊が隙を見せる一瞬を見極め、移動を止め反転。
渾身の水魔法の詠唱を開始した。
アクアが方向転換したので、熊の群れも多少はアクアに距離を離された。
時間稼ぎ、アクアは上手くやったのだ。
詠唱している間は移動に意識を割くことが出来ない。
つまり、移動スピードの方も落ちるということ。
熊が詰めてくる。
開いていたアクアと熊達との距離が徐々に無くなっていく。
しかし、これも考慮済み。
丁度アクアと熊達との距離が1メートル以内となった時、アクアは熊の方へ顔と手を向けた。
「これで終わり! グレイシア!」
水魔法の範囲系魔法。
アクアのいる場所から周囲数十メートルは白く色付き、寒々しい氷を宿し始める。
アクア以外の物質は徐々に凍り始め、熊の体毛にいくつもの氷の粒が見られるようになる。
周囲の草木はバリバリと氷に覆われて、たちまち銀世界が周辺に広がった。
アクアの得意とする魔法の中で現在グレイシアが魔法力を最も消費する魔法である。
即席で作り上げた氷の世界の中、アクアは疲れたように膝をついた。
「はぁ、はぁ……後は熊にとどめを刺すだけ」
残った魔力を使い、空中にそこそこ大きな氷の塊を作り出し、アクアは上げた手を振り下ろした。
氷の塊は全て熊の頭頂部にヒット。
やがて氷が溶ける頃には熊の倒れる音が砂埃と共に森に伝わった。
「何頭だろう……でも、こんなに頑張ったし、二人には負けないよね」
結果、クレアよりも数多くの熊を仕留めたアクアは熊狩りにおいて大きくリードすることとなったのだった。
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