10 『うごめく影』
何やら面白いことが起こっているらしい。
熊を二頭、瞬殺した少女を見た。
人間にも、まだこれだけの力を持った者が存在していたとは……。
森の岩陰からひっそりと眺めていた少年は思う。
面白い! ……と。
あの世界大戦争からかなりの年月が過ぎ、人間にとっての英雄は姿を消して、なりを潜めた、と思われていた。
しかしながら、こんな存在がいるとは思いもしなかった。
使われた風魔法、土魔法は力がかなり抑えられているものの、その凄さは遠目からでもしっかり確認できるものである。
あれだけの威力をいとも簡単に放つことができるというのは、魔人であってもそういない。
極め付けはあの収納魔法。
亜空間を制御して、熊を二頭も収納するなど、かなりの技量を持ち合わせていなければできるはずがない。
スペース的にもあれだけの面積をカバーしているのはかなりの魔力を持つ証拠でもある。
少年にとって規格外の敵、それは正しく彼女となる可能性が高いだろう。
「ふっ、面白い。……こんな森にあんなのが居るとはな」
しかし、少年の目は輝きを放っており、恐怖感などは微塵も発していない。
自身の額に生えた立派なツノを一通り撫で、自堕落な顔で欠伸をした。
一通りクレアの動向を窺ったのち、少年は嬉しそうにその場に寝転がった。
「あの子と戦える日が楽しみだよ」
いつか来るその日を想像して、少年は笑った。
その笑いは純粋な中に残酷な殺戮者としての悪意が込められ、その形相は恐ろしい者であった。
「ちょっと、仕事サボって何してんの?」
「あ?」
そんな少年の元に同じような服を着たツノの生えている女性が現れた。
身長は少年より大きく、170近い。
「ララか……ちょっと面白い女の子がいてたからさ、ついついそっちに見入っちゃって」
「つい……じゃないでしょ。あんたがサボると私まで怒られんだから。ほら、ちゃっちゃとやって帰るわよ」
浮かれた顔の少年とは裏腹にララと呼ばれた女性は不満げに少年の服を引っ張った。
姉と弟のように見える二人は、暫く兄弟喧嘩みたいににらみ合った後にやがて少年の方が観念したように手を挙げた。
「はいはい、分かったよ」
「返事は一回でいいの!」
「細かいなぁ……」
魔法をか細い声で唱え、少年と女性の身体は薄紫の発光に包まれていく。
じゃあね……見知らぬ女の子!
そうして、二人はクレアに気づかれないようにそっとその場から一瞬にして姿を消した。
クレアは見られているなんてことはつゆも知らず、そのままいつも通りに振舞っていた。
そして、後にこの少年とクレアは一戦交えることとなるのだが、それはかなり後の話である。
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