1 『プロローグ……親が英雄って、何ですか!?』
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魔法とは、常人では使うことのできない特殊な能力や不思議な現象のことを指し示すものである。
但し、それは人間に魔法が使えない、ということを言っているのではない。
あくまで凡人には使用が不可能と言っているだけである。
つまり、特別な才能に秀でた人間であれば魔法を使うことができる。
エルフ、獣人、竜人、魔人、ドワーフ、ワルキューレなどの種族と同様。
人間でも、魔法が使えるのだ。
そんな魔法が使える者たちが主力となり、大きな戦いを引き起こした歴史的出来事。
第一次魔法大戦。
魔人、竜人が手を組み、他の種族と世界各地で巻き起こした大戦争のこと。
対抗した種族は人間、エルフ、ドワーフ、獣人、鬼族などなど二種族意外の全種族が結束して魔人、竜人を打ち破った。
戦力比率は圧倒的に連合側が有利だったのにも関わらず、その戦いは各地で均衡したものとなり、勝敗はどちらになるのかギリギリまで判断がつかないほど熾烈なものだった。
この時、人間は非力で魔法が使える者が少ないからとその領土を竜人、魔人に真っ先に狙われたのだが……。
この戦争で最も手を出してはならないのは人間だと、そう言わしめるほどの出来事が起きたのであった。
『世界最強の召喚士』と呼ばれるプラリネ。
透き通るような純白の髪とまるで宝石のような真っ赤な瞳。
その愛らしい容姿とは裏腹に凄まじい力を持っている可憐な女性。
多数の魔人、竜人が迫り来る中、次々と幻獣を召喚し、たったの数時間でその大部隊を壊滅、撤退までさせたのだ。
一人で圧倒的な物量の幻獣を動かし、彼女の一挙手一投足に戦場は大きく左右された。
こんなこと明らかに一人の人間がなせる技には思えない。
そしてもう一人、召喚士プラリネの相方であり、魔道書シャングリラを使いし魔法師ウェアス。
一見すれば黒髪で瞳も真っ黒な目立たないような普通の青年。
しかし、プラリネの幻獣を潜り抜けてきた猛者とも呼べる魔人、竜人をいとも容易く葬っていた強者だ。
プラリネが派手に幻獣を召喚し、多くの竜人、魔人を嗾けていたので大々的に目立った訳ではないが、それでもプラリネに次ぐ実力の持ち主である。
彼が放つ至極の魔法は、周囲一帯を塵と変え、プラリネが大きく傾けた戦況に終止符を打つようなものであった。
そして、彼には二つ名があり、その二つ名は『絶界の暴力』である。
この滅茶苦茶すぎる力を持った二人の人間によって、魔人、竜人の連合部隊は各地で苦戦を強いられ、やがて物資や人材の枯渇によって戦争が継続不能となった魔人、竜人側の終戦宣言によって、この大戦は終結した。
この二人の影響から人間に対しての評価は、魔法が苦手なか弱い種族というものから、飛び抜けた実力を持つ者がいる種族へと変化した。
おそらく、この二人が飛び抜けていただけであろうが、それでも我々人間は確かな信頼と畏怖を集めることに成功した。
控えめに言っても、人類の歴史を塗り替えるほどの功績を残した英雄だろう。
しかし、この二人は大戦後すぐに消息を絶っている。
現在は国内にいるのか、生きているのかも分からない状態。
召喚士プラリネと魔法師ウェアスは一体どこに消えてしまったのだろうかーー。
』
というようなことが書かれている書物が近所の書店に販売していた。
「……な、なにこれ」
私は唖然としていた。
何故なら……。
「クレアちゃん?」
文字列に目を向け、見つめたまま止まっているクレアを不審に思ったのか、親友であるアクアが心配そうに顔を覗き込んだ。
蒼くサラサラした髪が綺麗な彼女は、クレアと同い年の12歳である。その大きく蒼い瞳がこちらをまじまじと見つめているのだ。
本の内容に驚いていたクレアだったが、すぐにアクアに向き直った。
「……えっ、ど、どうしたの?」
「クレアちゃん、なんか凄い驚いたような顔していたから……それ面白い本だった?」
「こ、これ?」
アクアの指差す先は私が手にしている本である。
動揺を隠すようにクレアは自身の銀色に輝くサラサラ髪をくるくると指にまいて、明後日の方向に目線を背けた。
「うん、どんな本だった?」
「いやぁ〜、なんか普通の歴史書みたいな感じ?
特に変わった感じのことも書いてなかったし、ちょっとだけ、へーってなるような内容があっただけ」
嘘である。
クレアは咄嗟の判断でそれを隠したのだ。
そんな彼女の努力などつゆも知らないアクアは何気ない顔色で納得したように頷いた。
「そうなんだ。で、それ買うの?」
うーん、買う……?
いや、別に私の勘違いの可能性だって十分にあるし、でも少しだけ……いや、かなり気になるのも確かだ。
長考をし、結局クレアは好奇心に負けた。
「じゃあ、買おっかな」
「そっか、私はこの小説を買うよ。最新刊、やっと出たんだ!」
「そうなんだ、面白いといいね」
クレア以外から見れば、特になんの変哲もない普通の光景。
書店に本を買いに来た子供二人……なにも可笑しくない。
だが、それは客観的な意見であって、クレアという主観から物事を見てしまってる者の意見はそれとは全くの別物である。
「はぁ〜、早くお家に帰って読みたいな! ね、クレアちゃん!」
「う、うん。そうだね」
一言だけ、この本に書いてあることに一言だけ言いたいことがある。
「じゃあねクレアちゃん。また明日」
「うん、また明日」
家に到着し、アクアと別れて、そしてその家にいるであろう父親と母親の姿を思い浮かべた。
ーー私がどうしても言いたいこと。
それは……。
「なんで父さんと母さんが英雄として本に描かれているのよ!?」
という至極当然の疑問であった。
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