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「もっと勉強しておけばよかった、もっと好きな人と一緒にいたかった、もっとおいしい物を食べたかった……大抵の人は様々な未練を残して死んでゆきます。ユートさん、あなたは死ぬ間際(まぎわ)に何を願いましたか? 正直に答えてください」


 願い……質問の意図が分からない。

 それを聞いてどうするのか。

 答えてどうなるのか。

 金持ちになりたかったです、なんて答えれば、強欲な奴として今ここでで斬られでもするのか。

 人々の幸せを願いました、なんて聖人のように答えれば無事に解放してくれるのか。


 浅い呼吸をする度に、刃がどんどん首に食い込んでる気がする。

 この状況で今の俺に出来ることはただ1つだけだ。

 正直に答えること、それしかない。


「何よりも……健康で丈夫な体で生まれたかったです」


 老いた男の声は「なるほど」と静かに言うと、何秒か沈黙が続いた。

 この答えは正解だったのか、間違っていたのか。

 間違っていたら俺はここで殺されるのか。


 緊張で全身の筋肉がこわばって、自分の体のような感じがしない。

 Tシャツが汗でぐっしょり濡れていて、生臭さのせいで吐き気も(ひど)くなってくる。

 でも意識だけは妙に()えている。

 死後の世界はこんなにも意識がハッキリしていて、生きてる実感があるものなのか。

 俺はそんなことを考えながら、ただじっとして待ち続けた。


「……うーむ、嘘はついていないようですね。「健康」なら大した脅威はないでしょう。ヴェーラ、剣を放してしてあげて下さい」


 俺はその言葉を聞くと、安心感でその場にへたり込みたくなった。

 理由は分からないが、正解だったらしい。

 健康なら脅威はない、という言葉が少し引っかかるが、解放されるのは素直に嬉しかった。


「あなたがどうしてこのような状況になっているのか、今から説明いたし――」


 今まで緊張していた体が一気に緩んだ瞬間、俺は何故か足を滑らせてしまった。


「バッ、バカ動くな!」


 俺は無意識にバランスを取ろうと体を動かすと、まだ肌から離れていなかった剣が首筋を静かに切り、そのまま倒れこんでしまった。

 一瞬何が起こったのか分からなかった。

 切った瞬間の痛みは少なかったが、首からは血が断続的に噴き出している。

 首を押さえながら足元を見ると、さっきまで触れていた壁に付いていた血のようなものが、床にもびっしり付いているのが目に入った。

 これで滑って首を切ったのか。


「前の転生者……血が……滑っ――」

「かなり深く斬れ……もう助からな――」


 若い女と老いた男の2人が話し合っている声が一部分だけ聞こえてきた。

 薄れゆく意識の中、俺は今から天国に行くのだろうか地獄に行くのだろうかと考えながら、死ぬ瞬間のぬるい眠りに身を任せた。

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