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選別 3

「殺されたのですか? それとも事故ですか?」

「病死です」


 そう、病死だ。

 俺はここに来る前の記憶を全て思い出した。

 生まれつき軽度ではあるが喘息(ぜんそく)を持っていて、気温が急激に変化したときや、ホコリやダニが多い場所、夜中から朝にかけての時間、ストレスなどの条件で発作が起きて息苦しくなることがたまにあった。

 それに加え胸骨(きょうこつ)が変形し、肺が圧迫される漏斗胸(ろうときょう)という持病も持っている。


 9才のとき、夏から秋ににかけての気温の変化が大きい時期に死にそうになった事があった。

 目を覚ますと、というか息ができなくて夜中に目を覚ましたことがある。

 喘息の発作だ。

 目を開けた瞬間意識は覚醒して、勢いよく布団から飛び上がると、空気を求めて部屋中をのたうち回った。

 体勢を変えても状況は変わらず、ワインのコルクを喉の奥に詰められたように体内に空気は入ってこなかった。

 同じ部屋で寝てたオヤジはすぐ異変に気付き救急車を呼んだ。

 親父は俺の背中を叩いて何とか息をさせようと努力するが、意識は少しずつ途絶えてくる。

 薄れゆく意識の中、俺は若干9才にして死を覚悟した。

 しかし、意識がなくなるまでの間は不思議と心地よい気分で、まるで体育の時間にやった水泳の授業の後での国語の授業中に居眠りをするような感覚だった。

 死ぬのって案外気持ちいいのかもしれない……と思っている内に親父の声は遠くなってくる。

 そして、意識は生ぬるいお湯にかき混ぜられるように、少しずつ溶けて完全に消えた。


 気付いたときには病院のベッドの上だった。

 幸い後遺症もなく日常生活に戻り、4年生から部活を始め、それ以降は喘息も改善していった。

 これをきっかけに、俺は自分と同じ境遇の人を助けたいと思うようになっていた。

 そして、高校を卒業すると実家を離れ、今は一人暮らしをしながら福祉専門学校ふくしせんもんがっこうに通っている。


 死ぬ直前は家賃月3万円のボロアパートのワンルームの中にいた。

 年季の入った木造建築に、部屋の中も決して清潔とは言えなかった。

 それに加えて、就職活動でのストレスや覚えたばかりの酒などが重なり、9才のときと同じように発作が起きてしまった。

 助けを呼ぶこともできず、俺はそのままアパートの部屋でのたうち回りながら死んだ……はずだった。

 

「なるほど、病気でしたか……それで、死ぬ間際(まぎわ)に何を願いましたか?」


 老いた男の声は不可解な質問をしてきた。

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