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選別 2

 俺は手の(ぬめ)りを我慢しながら、ここは何処(どこ)なのかを考えた。

 車の通る音も人の話し声も聞こえず、時間も分からない。

 拉致されたのだろうか?

 拉致されたとしたのなら、捕まったときの記憶がないのは何故なのか?

 最初に頭をよぎったのは「俺は死んだのでは?」ということだった。


「あなたは一度死んでいます」


 さっきと同じ老いた男の声にそう言われ、俺は驚いた。

 当たってほしくない予想が当たっていた。

 ここは死後の世界で、(すで)に自分は死んでいる、と。

 

 そういえば子供の頃、祖父(じい)さんから死後の世界のことを聞いたことがある。

 生前遊びで生き物を殺してきた人は、体を切り刻まれて、死んではまた(よみがえ)るというのを繰り返し続ける地獄に落ちるという。

 祖父(じい)さんはわざと顔に(しわ)を集め、面白可笑(おもしろおか)しく語っていたが、当時意味もなく友達とトンボの羽をちぎったり、アリを踏みつぶしたりして遊んでいた俺にとっては恐怖でしかなく、大泣きして過呼吸になったことがあった。


「突然のことで驚かれているとは思いますが、もうすぐ生前の記憶がはっきりしてくるはずです。その手助けとして、(わたくし)がこれから質問をします。正直に答えていただけますか?」


 当てられている剣の切っ先から自分の首元へ目で追うと、今ここで言葉を発してもいいのか迷う。


「返事をしろ」


 剣を当てている女の鋭い声が響いた。


「……はい」


 俺はここにきて初めて言葉を発した。


「あなたの名前と年齢を教えて下さい」

勇斗(ゆうと)……森井(もりい)、20歳です」

「ユート・モリー、さんですね」


 気が動転して名前と苗字の順番を逆に言ってしまった。

 それは、明らかに拉致されて人質として利用されるようなこの状況に、入社試験の面接中と同じ声のトーンで質問をされているからだった。

 それに発音が少し違ったが、訂正する度胸はなかった。

 

「ユートさん自身の死因は何ですか?」

窒息死(ちっそくし)です」


 不思議と即答してしまった。

 おはようございます、と挨拶されたら条件反射で「おはようございます」と返すように、気づいたら死因が口からすんなり出ていた。

 そうだ、思い出した……俺は死んでいたんだ。

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