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星光りの夜に

作者: 歩共あるま

星が降るようになったのはいつからだろう。数年前?数十年前?いや、もっと前からなのかもしれない。


空で瞬く星達は地上に降る頃には削れて小さな小さな欠片になる。金平糖のような小さな星は光を発しながら落ちてきて、地面に落ちると最期に一際輝く。それは「星光り」と呼ばれた。星光りは徐々に消え、やがて真っ黒な星くずになる。


青年は1人、頭上を見上げた。満点の星空。胸から下げたペンダントに、美しい光が反射する。


青年は手のひらを差し出した。まるで雨を受け止めるように。一粒の星が手のひらに落っこちた。鮮やかな紫をきらめかせた。その光は青年の手の中を、服を、顔を照らし出し、瞳に反射した。数秒後、青年の冷たい手のなかで徐々に光は乏しくなっていく。そうして光のない真っ黒な星くずに成り果ててしまった。


随分減ってしまった。この星達が空から消えて、完全な黒に染まるのはいつなのだろう。何十年後?何百年後?いや、何千年、何万年後だろうか。


彼はそう思いながら見上げる。星くずの山の上から。もう形すらない、生き物の生きていた、土の上から。部品の露出した、固く冷たい足で立ちながら。


見届けよう。最後までやり遂げよう。それが、僕を生んだ人間達が望んだことならば。


例に倣って彼はそう言った。


「563,872回目に通信します。今日も星が降っています。生物の痕跡はなくーー」


虚しく響く声は途切れ、青年は周囲を見回した。星くずで埋め尽くされた大地。あちこちで星が最期の光を放っている。それは鮮やかな光の雨。光が側を通る度、胸のペンダントに反射した。ペンダントは万華鏡のように美しい色合いを見せた。


そして彼は改めて言った。


「人類の皆さん、僕はいつ光ることができますか?」


返事はない。もちろんない。あるのはただ延々と続く冷たさのみ。


「563,872回目に通信します。誰か、この景色を一緒に見てくれる方はいませんか?」


なんでもない。ただ少し、言ってみただけ。期待のないただの呟き。


その時、


ギイィィィ。


星くずの中で一つ、何かが動いた。ぎこちない動き。聞きなれた機械音。犬の形をしたそれは、ゆっくりと、ゆっくりと、青年の足元へとやってきた。折れてぶらりとした尾が不器用に右へ、左へと動く。


青年は最初こそ驚いた顔をしていたが、やがて星くずの上でしゃがみ、その壊れかけた犬のロボットを撫でた。


たったそれだけのことが、固く冷たい青年にはまるで何物にも変えがたい温もりに感じられたのだ。


「そうか。あぁ、そうか」


と呟きながら、何度もその頭を撫でた。


「563,873回目に通信します。今日も星が降っています」


青年はペンダントを開いた。


青年と同じ顔をした、病室のベッドで横たわる男性と寄り添う女性の写真があった。


「今日は皆さんがなぜ僕達を造ったのか分かった気がしました」

その理由が伝わったのなら、本当に嬉しいです

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