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お喋りなクールに相談、足の痺れにご用心

「と言うのが今日の一日なんですが、氷華さんは委員長の事どう思います? やっぱり俺の勘違いですかね?」

「それは間違いなく圭君に惚れているでしょうね」

「ですよね!」


 卓袱台を挟んで反対側にいるスーツを着た女性に勢いよく返事をしているが、ここがどこかと言うと、まあ俺の自宅なのだが。つまり本編が始まっていると言うことなのだが。非日常がスタートしていると言うことなのだが。今そんなことよりも重要な事がある。


「はい、その委員長さんは圭君がその橘さんと仲良くして不満に思っていたのでしょう。そんな時に決定的な圭君の橘さんへの好きという言葉が不安を爆発して言質を直接取りに来たと考えるのが妥当でしょう」

「やっぱりそうなんですかね?」

「ええ、私も伊達に人の心を覗いてませんからね。大船に乗ったつもりでいてください」


 ……そろそろ紹介した方がいいだろうか? 彼女は本編登場人物の泉氷華さんと言い、とりあえずテレパシーが使える人とだけ紹介しておこう。心を覗いているとは、その力を使っていると言う事だ。

 これで十分俺の現状が非日常の世界だと理解できるだろう。それ以外はまた後で。


「でも、問題なのが動機ですかね。委員長が何で俺の事を好きになったのかですよね?」


 委員長が俺に気があるのかどうかである。生まれてこの方、女子に、というか人に好かれた事がなかった俺は今回の委員長は大事件であった。なんとか、あの場は冷静に納められたが家に帰った瞬間、俺の監視役の氷華さんに相談したのだった。


「まあ、圭君は変人ですが、見た目は整っていますし、その委員長さんは面食いだったのでは」

「ストレートに褒められているのに、こんなに喜べない事もあるんですね。あ、いや全然ストレートじゃねえ、変人って言われてるし……」

「変人でしょう、でないと全裸の少女とイヤホンを共有しながら寝るわけないです」


 一週間前、俺の運命を変えた話だ。そして、彼女の台詞に対して弁明の余地は――ない。


「ま、まあ、その話はもういいでしょう」

「その話を委員長さんが知ったらどう思うのでしょうかね?」

「嫌いになる以前に通報されそうですね」

「例え通報されようとも圭君は捕まることはないので安心してください。貴方は組織の研究対象なので」


 組織、という言葉が出てきたので説明しよう、もう本編はそんな感じで偶然出てきた事から説明する感じにしよう。それもまた一興。読む人からすれば一驚かもしれないが。

 まあとにかく、彼女の言う組織とはMagical Monster Institute 通称『MMI』の事で非科学的な魔法とその魔法を扱う魔族についての研究をしている云わば秘密組織である。


「いや、同級生に通報されたって事実が既に嫌なんですよ。それも、惚れた子に! 変態扱いされて!」

「もう惚れているんですか? 単純な人ですね。いやまあ、モテない男子高校生ならそんなモノですかね。特に気になる相手でなくとも自分の事を好きだって噂を聞けば、嫌でも気になって、いつの間にかその子を目で追ってしまう――なんてよくありますからね。それでも圭君がほれるのは些か早すぎますけど。いまいま過ぎです。どれだけモテて来なかったんですか?」

「俺は女子とか以前に人間自体にモテないので、そのせいでしょう」


 本当に関わらない。誰も俺に近寄ろうとしないのだ。友達がいない。嫌いとかではないのだろうが、誰も不気味がって仲良くしようとしないのだ。

 だから、橘ひかりのような、話し合える人間は大親友だし、ちょっとした言動で委員長に惚れてしまう。


「悲しいですね……とはいえ、そんな貴方だからこそ逆に私のような人間擬きや、そこで寝ながら音楽を聴いているエインちゃん――魔族とは仲良く出来ているのかもしれませんね」


 氷華さんの目線の先は俺の膝の上でイヤホンを装着して眠る白髪の少女に向けられる。一週間前に全裸で添い寝をしていた少女もこいつだ。


「なら次は獣耳の可愛い子と仲良くなりたいですね」

「おや、こんな年上の美人お姉さんと無口美少女が同居しているというのにまだ満足できませんか」

「自分の事を人間擬きって自虐する割に容姿は褒めるんですね」


 美人なのは認める所ではあるが。


「まあ、貴方が人間に嫌われているのは貴方の性格の悪さ――いえ、歪みからかもしれませんね」

「歪みですか。きっと親の育て方が悪かったんでしょうね」

「小学生の貴方を家庭の外に放り出すような親ですからね。歪みもするでしょう。そんな親の遺伝子を受け継いでいるのなら尚更ですね」

「育て方が悪いんじゃなくて、育てられてない事が悪かったってことですか。というか、別にいいんですけど、よく人の親の事をそこまで悪く言えますね。貴方の母親も大概でしょうに」

「そんな境遇でもない限りこんな世界に身を置く事はないでしょうからね。偶然エインちゃんに会ったあなたは別ですが」

「わかりませんよ? 偶然は誰かの意図によって引き寄せられる必然とも言われるくらいですから、何か大きな力が俺とこいつを引き寄せたのかもしれませんよ?」


 膝の上で寝ている白髪を流れにそって撫でる。そろそろ足が痺れそうなのでどいて欲しい。


「エインちゃん自体が世界の真理みたいなものなのですが……さらに大きな力となると何になると思います?」

「世界の真理って言ってもその真理は人間社会の話ですからね。魔族より大きな存在、例えば――魔族の創造主、とかですかね」

「それは我々の研究対象ですね、魔族の誕生の話。私はどうせ宇宙人とかだと思っていますが」

「じゃあ、何億年も昔から地球は宇宙人に支配されていた事になりますね」

「それでも、今は人間が支配しています……いえ、させられているだけ、かもですね」


 一体俺たちが何の話をしているのか分からないだろうが、端的に言うと魔族という超常生物の話をしている。膝の上に寝ている白髪の少女、名前をエインもその魔族の一人。推定年齢三億歳以上。魔法を操り、マッハ10で空中を飛び、空間に穴をあける、何でもありな存在が彼女と彼女の同属達だ。

 本当は本編で語るべきはこうした設定の話なのだろうが。


「そんな研究当初から考えて分からない謎より何より、貴方たちの研究です」

「何か分かりましたか?」

「全然です。圭君がエインちゃんに聞かせていたジムノペティがヒントかもしれないと、サティの過去や魔族との関係を探ってはいるのですが」

「誰です? サティって?」

「なぜ貴方お気に入りの曲の作者の名前を知らないんですか……」

「呆れられても……ジムノペティ以外の曲に興味がなかったので」


 事実、その他の曲は一切聴かない。曲があれば作者なんてどうでもいい。


「じゃあ、貴方がいつも聴いているそれ――ジムノペティの一番だけで、他に二番と三番もある事を知らないのですか?」

「はい」


 知らない。聴きたいとも思わない。


「とりあえず、貴方たちの研究を始めて一週間で何の成果も上がっていません。今はサティがこの曲の曲想を神をたたえる祭りが描かれた壷から得たらしいので、昔、神として崇められていた魔族にも関係があるかもと言っていますが……まず無関係でしょうね」


 ――特にエインちゃんの場合、と氷華さんは付け加える。


「と、噂をしていたら起きましたね」


 ムクりと白く長い髪を垂れさせて起き上がるエイン。

 ワンピースの片方の肩ひもがずり落ちている。その紐を直しながら、解放された足をすぐに伸ばす――が、時は既に遅く圧迫された足の血管は神経に異常きたし、足裏に電撃が走らる。


「おはようございますエインちゃん」


 痺れた足の苦痛との戦いが始まると同時に氷華さんはエインに挨拶をする。


「…………」


 しかし、エインは無反応である。別にイヤホンを付けているせい聞こえていない訳ではない。ただ言葉を理解していないだけ。

 数万年前からつい一週間前まで異空間で眠っていたエインは、人間社会では生後一週間の赤

ん坊だ。


「おはようエイン」


 足のつま先をグーパーグーパーさせて血行をよくさせながら、エインに声を掛ける。


「…………」


 当たり前だが何も答えない。が、無反応ではない。


「あら、お熱いことで」


 声を掛けた俺の顔を見ると、エインは首元にヒシッと、抱きついて来た。


「氷華さんも混ざりますか?」

「考えて置きます。貴方が言う本編側の立場をまだ決めかねておりますので」

「本編でのメインヒロインの座でも狙うつもりですか? 間違いなくエインだと思いますけど」

「そんな身の程知らずではありませんよ。ただ身の振り方が分からないのです」

「というと?」

「私は年上のお姉さん系なのは確定なのでしょうが、それは会社の上司としてか、近所の知り合いとしてか――家族として、なのか」

「今のところは上司っぽいですけど」


 お互いずっと敬語だし


「ですか。――では抱きつくのは辞めておきましょう」

「まだ出会って一週間ですからお互いの関係を決めるのは早々でしょう」

「初めて会った時も同じ事を言ってましたよ?」

「でしたっけ?」


 覚えていない。発言に責任は持たない。


「関係性なんて時間が経ってば変わるものですからね。どうです圭君? 今からでも敬語を辞めて、家族にでもなりませんか? 親に見離された者同士、手を取り合って」

「義理の姉ですか。萌えますね」

「お姉ちゃんでも姉さんでも自由に好きに呼んでくれてかまいませんよ? ――と思いましたが、辞めましょう。まだ一つ可能性が残っていました」

「へえ? どんなです?」

「貴方の夫になります」

「それじゃあ、俺が嫁ですか?」

「失礼、間違えました」


 嫌な間違え方をする。まあ、言いたい事はわかった。


「つまりエインが俺たちの――娘ってことですね?」

「ええ、主人公とヒロインが拾った小さい子を『何だか自分達の子供みたいだな』って言うシーン。そんな感じで本編を進行しましょう」

「身の程をわきまえて、メインヒロインはエインに譲ったんじゃなかったんですか?」

「エインちゃんはロリなのでチャンスは有るかと。圭君もロリコン呼ばわりは嫌でしょう?」

「エインの見た目って中学生くらいなのでセーフでしょう。実年齢は俺よりもずっと上ですし。それに俺が好きなのは――委員長です」


 堂々と宣言しよう。俺が好きなのは委員長だ。


「でも、それは圭君の言う所の日常編の話ですよね? 私は今、本編の話をしているのですよ」

「日常編と本編と分けたからって、俺の感情が二分される訳じゃないでしょ? 心は一つで委員長一筋! です」

「初恋で浮かれているだけにしか見えませんが。まあ、いいでしょう。圭君の日常に手を出さない条件です。好きにしてください」


 初恋で浮かれてるって……その通りかも……。まあ何にせよ、言われなくとも好きにする。


「さて、エインちゃんも起きたのでそろそろ夕食でもつくりますか。少し待っていてください」


 そう言って、立ち上がる氷華さん。

 一週間前までは自分で作っていた食事を今では毎食氷華さんが作ってくれている。それに食事だけではない。家事全般を彼女が担当してくれている。


 両親から貰った一人暮らしをするには広すぎる一軒家。はっきり言ってゴミ溜めのようになっていた家を綺麗にし、人が住む家にしたのも彼女だ。感謝はしない。


「ねえ圭君」


 立ち上がったがキッチンに向かわず俺に話し掛ける氷華さん。まだ話足りないようだ。


「これで最後ですよ」

「心は読まない約束では?」

「顔に出ていました」


 どうだか。


「で、何です?」

「忠告ですよ。圭君はどうやら、その日常編というのに少しご執心のようなので」

「俺の日常に手を出さないんでしょう?」

「でも、口は出します」


 それはルールから足が出ている気がするが。


「なぜ未だに日常を欲しているのか私には理解出来ませんが、貴方はもう踏み入れてしまったのですよ? 貴方は普通ではなく、一般ではなく、凡人ではなく、常人ではない、今、圭君が過ごすその日常はまやかしで一時の幻だという事を忘れないでください」

「嫌です」

「ですか……貴方はそれでいいのかもしれませんね。とそれっぽい事を言っておきましょう――では夕食を作って来ますので」


 今度こそキッチンに向かう氷華さんの横顔は少し笑っているように見えた。たぶん気のせいだろう。

 横から抱きついているエインを痺れがとれ胡坐をかいた足の上に座らせる。無抵抗にされるがままエインは動く。

エインに付けられたイヤホンの片方を外し自分に身につけると、お馴染みの曲は右の耳から流れて来た。


「お前も好きかこの音楽?」

「…………」


 返事はもちろんない。


「そうか、好きか」


 ワシャワシャと髪を撫でるがやっぱり無反応。


「…………」

「…………」


 沈黙が続きまったりとした時間が流れる。とてもジムノペティに合った空間である。

 これが本編、普通じゃない魔族と人間擬きの非日常。歪んだ存在が集まったストーリー。

 非日常と言いつつ、不思議な力は一切使われず、ただお話していただけで非日常感っぽさが足りなかった気もするが。


 だとしても、今話したのは俺の本編、本当に語るべき話なのだ。もっと語るべき設定があり、紹介しなければならない人物像があって、話す必要のある過去の詳細があったはずだ。


 日常を本編に引きずったせいである。


 話を分けても心は一つとは言ったが、本当は違う。本編のヒロインに成りえたのは橘ひかりであり、委員長ではない。


 モブ委員長の物語の介入。

 うっかりと語ってしまった日常編の思わぬ誤算。


 まあ、初恋の芽吹きなんて大事な日常のイベントを見過ごせる訳がなく、語らない選択肢がなかったのも事実。


 そして、そもそも、日常編を本編に引きずっても、ヒロインに成りえないはずのモブ委員長が物語に介入しても不味い事は一つもない。


 じゃあ、今までの話は何だったんだって思うかもしれない。――が何度も言うが俺のモノローグに意味はないし嘘も多い。真面目に聞くだけ無駄だということを理解して欲しい。


 さて、ジムノペティが鳴り止みそうである。そろそろ、本編も幕の時間。


 それでは皆さん、この後何もなければまた日常編で会いましょう。

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