6話 俺、入学する
ハルが学園に行って、早2年。
年末年始や長い休みの時は、帰ってくるハルだったが。外面だけは貴族っぽくなっていたが、中身は全く変わらないハルそのものであったことを記しておく。
そして、今年は俺が入学する番になった。
風の噂で、一般人が今回入学されるそうだ。もちろん、一般人でも入れる学園もあるし、街にも学校もある。
ただ、この学園には一般人は入ることがあまりない。というか、ないそうだ。
「絶対試験で落とす用の試験を満点で合格した子みたいよ。まぁ、この一般人を受け入れるのも貴族の一種の娯楽よねー」
オレンジジュースを飲みながら、ハルはため息をもらした。ちなみに、その横にはふわふわのシフォンケーキがおかれていた。
どれもハルが作ってくれたものであった。また腕が上がったような気がする。
どうやら、一般人の入学の話は、在学生の中でも話題の的らしい。まぁ、マイナス面での話題だそうだが。
「そうなのか?」
「一般人が絶対落とすつもりの試験で入れる。入学した後のこと、分からないかな?」
そもそも、入らない方が幸せなのにね……なんて、小さく言った。
「妬み?とか?」
日本でもよくあったいじめ問題なのだろう。
「まぁ、言えばそんなものよねー。一種のパワハラよね」
「うわ、嫌だ」
パワハラ、と聞いて自分もなっていたので寒気がする。
あー、嫌だねぇ。
「そこに、王子様とかも来るわけよ。どこの乙女ゲームかってんだよ」
乙女ゲーム、OLなどを筆頭に女性陣が好きになるというミーハー的なゲームだ。
音楽ゲームやパズルゲームなどいろいろな種類があったはずだ。
よくテレビのCMでやっていたので、知っている。
「ちなみにやったことは?」
「そうねー、こんちゃんが死んでからかな?小説を書くために、ネタとしてやり始めたくらいだよ」
うーんっと思いだすように、ハルは思いだすように言う。
「マジか」
「これでも小説家になれたんだからね!」
ふふん、と胸を張っている。
「でも、ホント。こんちゃんの年に、王子さまでしょー。宰相の子でしょー、そして王子との親友でしょー、それで一般人もあるでしょ」
指を一個ずつ立てていく。
「フラグ、これは出まくるわね!」
ハルはだから、そう言い切った。
「ようこそ!我がメルゲッテンへ!この学園で皆さんがさらなる成長があることを楽しみにしておりますぞ」
ヒゲの生やしたおじさんが、きっとこの学園の学園長なのだろう。この学園の由来、発端など、その歴史を話始める。
『こんちゃん、こんちゃん』
一瞬びくっとしてしまったが、周りにはバレていないようだ。
まぁ、周りもすでに学園長の話で眠っている。睡眠作用があるのかよ。
まぁ、校長先生の話が長いのはどの世界でも一緒なのであろうか。
それよりも、まずは……。
『ハル』
『えへへ、本当に暇だよねー。この学園長の話って~』
ハルの姿は見えないが、どうやら暇だったみたいで俺にテレパシーフォンをかけてきたみたいだ。
『やばいねー。やっぱ、やばいわー』
ハルが面白げに笑っている。
『何がだよ』
『改めて、鑑定すると面白いわ』
どうやら鑑定した様子で、その結果を教えてくれるみたいだ。
『あんま鑑定すんなよ』
『もちろん、もうこの学園中の人は鑑定済みだよ』
『おい』
『学園の人たちも、結構な卵ぞろいだけどー。今年はすごいよ?』
『んで、どうなんだ?』
『王子、そして親友は勇者の卵を持っているね、そして宰相の子供は賢者の卵。一般人は聖女の卵だね。
鑑定は、あら。卵を持っているのに、そんなに上がってないわねー。やっぱ、一度鑑定したらしないのが普通なんだよねぇ』
『というか、赤子から鑑定しないから。普通』
『ま、それもそっか』
ハルは、うーんっと言っている。
『どうしたの?』
『卵は惹かれあう。気を付けてね』
ハルはとても恐ろしいことを言う。
『いや、気を付けてとか言っても……』
『なんか弱点とか弱味とか握れば、逃げれるとは思うんだけどね』
『いやいや、脅しはやめとけよ』
『こんちゃん、脅しは……有効よ』
『ハル、何があった!』
『ふふふ、そうねぇ。生徒会へぜひ、とか言われた時は、決闘してあげたわ。
彼らを全員負かしたあと後、誓約書書かせて、それを脅して……ふふふ』
どうやら、彼女はすでにここで何かはやらかしているらしい。
『ま、生徒会には入ってあげたけどね。子どもの遊び、みたいなものだけど。案外、リーダーを取るのは面白いものよ』
『え?』
リーダーってなんだよ。
『あぁ、言ってなかったね。今、初等部でリーダーっていうか。生徒会長しているんだよねぇ』
『すごいな』
『まぁ、大人だからねー。一応』
それ、正論だったわ。
『何かあったら言ってね、助けてあげるね』
『ハルが同い年だったらなー』
『それは無理でしょ』
ハルは、小さく笑っている。
『それに、あたし。一応、第一姫のお守りもあるし。
彼女もさすが姫だから、聖女の卵持ちだよ。まぁ、彼女は聖女になるつもりはないって言ってたけど』
もし聖女に成長したら、そんな事情でも聖女の住む場所『神殿』へ送られてダメだろうが。
まぁ、そんな聖女持ちのハルはそんなことも心配なさそうだが。
『とりあえず、今は鑑定レベル上げているよ。そして、一人でも戦えるように鍛えているところ』
『は!?王女を鍛えてる!?』
『そうよ。第一姫ってなんか、サキみたいなんだよね』
サキ、と聞いて、俺はハルのことを一瞬分かってしまった。
サキ、とは俺の知る中で、ハルがとても気にかけていた友達だった。人見知りがありつつも、それを隠していたり、泣き虫なのに弱音なんて吐かずに、頑張り屋であった同期の中の一人。
『サキにそっくりなんか』
『うん、とっても。やっぱ、王女なんて堅苦しいだけなのよねー。みんなが自分を、こびってくるって愚痴ってたもの。本当の友情が欲しい、なんて言ってたし』
『そ、そうか』
『でも、まだ子供ね。サキは、あたしの前ではおもいっきり泣いてくれてたけど、まだあの子は隠れて泣いている。ま、傍にはいるようにはしてるんだけどねー』
『やっぱ、お前世話好きだな』
『ち、違う!ただ、気になっただけで!』
『いつも俺の部屋、掃除してくれたもんな』
『あんた、それはあたしらが同期会するって言ったからでしょ!?
しかも、洗ってないフライパンを戸棚に隠しておいておくなんて言語道断!
なんで、あたしが洗ってないフライパンを洗う羽目になるのよ!しかも、その後の料理もあたしが作ってたし』
まだあのことを根に持っていたのか。
『あ、あれは済まなかったと思っているよ』
『しーかーもー、片づけも全くせずにいるんだから!
それなら、あたしが片付けたほうがマシじゃんか!』
買い物をしてくれて、さらに同期のおつまみも作ってくれたしな。
『面目ない……』
『ま、そんな話はおいておいて』
何故か、ハルに主導権を毎回話していると握られるんだよな。
『まだまだ、あの子は子どもだし。あの子は、今のポルンとしても友達なの。
だから、大事にしてあげたいの』
ハルらしい答えだった。
『あの子は、きっと強くなれるわよ。だって、サキだったら強くなれる。
ちゃんと、強くなれるわ』
『ちなみにその姫が、サキっていう可能性は?』
『ないね、鑑定したけど“転生者”でもなかったから』
本当にサキだったら嬉しかったけどね、と小さく聞こえた。