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6話『はじめてのおでかけin異世界』


「キレイな薔薇だなあ……」


朝の光に輝く桃色の薔薇を眺めながら、私こと支倉さなえは優雅に朝食を楽しんでいた。


異世界生活2日目。

周囲の様子を確認しようと外に出た私はその見事な庭に息をのんだ。

広大な敷地に敷き詰められた芝生、近くの木々の間を縫うように流れる清流の近くには避暑用の四阿(あずまや)まで建てられている。


特に目を奪われたのは見事という他ない薔薇園だ。

中にはガーデンテーブルや椅子も用意されていたので、私は朝食をここで食べることにしたのだった。


昨日の残りのポトフとベーコンエッグ、トーストという簡単な内容だったが、美しい薔薇に囲まれているおかげで大変優雅な朝食になった。ごちそうさま。


うーん……今日は天気もいいし。さっそく「アレ」を使ってみようかな。


私は食器を片付けて、いそいそと準備にとりかかることにした。




******



シンプルなシャツに、白茶色のミモレ丈スカート。

肩まである黒髪はゆるめの三つ編みにして小さめのシュシュで留める。鑑定眼鏡も忘れずにかけて、と。


「旅人らしく見えるかな…」


そわそわと鏡の前で全身をチェックする。目立つのは避けたいため、なるべく地味な服装を選んだつもりだが…


背中にしょった少し大きめのリュックには替えの下着やタオル、トラベル用の基礎化粧品やシャンプー類、あとはお茶を入れたボトルと召喚スクロール、念のために火の杖も入れておいた。(斜めにしたら入った)


「まあ、何かあったらすぐ帰ってくればいいか」


私は【マジックアイテムに関して】という本の【マップスクロール】の項目を読みながらそう考える。


【マップスクロール】

・魔法世界フェリオの地図が描かれているスクロール。一日に三度、任意の場所へ移動できる。

・使い方……マップスクロールを広げ、行きたい町の名を言う。家に帰る際はスクロールを広げる行程は必要なく、【ホーム】と唱えるだけでいい。


「どこに行こうかなあ」


完全に浮かれている私は、わくわくとマップスクロールを広げた。そこには五大陸が描かれており、それぞれに細かく国や町の名前が書いてる。

【ホーム】……つまりこの家と思わしき場所には、赤いインクで家のマークが描かれていた。


「とりあえず、一番近い町に行ってみようかな」


赤い家のマークから少し離れた場所にある、『フェニシア』と書かれた町名を注意深く観察する。と、鑑定眼鏡が働きその町の簡単な説明を浮かべてくれた。


【フェニシア】

・リマ王国とルベントラ国の国境近くにある宿場町。

人口は500ほどで、林檎の花から採れる【フェニシア蜂蜜】が有名。


全くもって親切な眼鏡である。

宿場町あれば沢山の人間が行き交う場所であろうから、目立つことは無いだろう。蜂蜜も気になるし……よし、ここに決めた。

私はドキドキしながらスクロールを持ち直し、


「フェニシア」


と唱えた。

するとぐにゃり、と周りの空間が歪み………


「っ……!」


………エレベーターが動くときのような浮遊感と共に、私は固い土の上に降り立つ。

こわごわ周りの風景を見渡してみると、そこは木々に囲まれた場所だった。「あれ?」、不思議に思った私だが、少し離れた場所に街道を見つけてなるほどと納得した。


いきなり町中に転移するのではなく、近くの目立たない場所に降ろされる仕様らしい。確かにそうじゃないと人目を集めまくってしまうだろう。


私はマップスクロールをくるくると巻いて背中のリュックに入れると、「…よし!」と気合いを入れて街道に向かった。



******



街道を行く人々を見るに、私の格好はそう浮いている様子では無かった。

向かい側から歩いてくる人達と何度か会釈を交わしても不審がられる様子はない。ほどなく見えてきた宿場町に足を踏み入れる頃にはすっかり慣れて、私は旅人向けの出店をうきうきと見て回っていた。


「やあ、お嬢さん。フェニシア蜂蜜はいかが?香りがよくて甘いし、美容にもいいよ!」


出店のほとんどは林檎とフェニシア蜂蜜を売っているようだった。林檎と蜂蜜の香りが混ざり、とてもいい匂いだ。我慢できずに早速その両方ともを買ってしまう。


「まいど!フェニシア蜂蜜で林檎を煮込むと、そりゃあ美味いんだよ。お嬢さんも一度試してご覧」

「わあ、美味しそうですね!」


私はその味を想像して、じゅるりと涎が溢れそうになった。そうだ、家に帰ったらアップルパイを作ってみようかな。バターたっぷりの生地とシナモンましましで。


さっそく重くなったリュックを背負い直し辺りを見渡すと、さまざまな建物から煮炊きの匂いが漂ってくる。

まだ日が高いというのに、えらく凝った感じの料理の香りだが……


出店のおじさんに聞いてみると、


「ああ、ここはたくさん宿があるだろう?みんな自分の所に泊まってって欲しいから、わざと朝から煮炊きして匂いで旅人を呼び込んでるのさ」

「ははあ、なるほど…」


私はふんふんと頷いた。


「今はまだ温暖で魔物も少ないから、旅人は街道近くで野宿して路銀を節約するやつも多い。ここらは農業できるほど土地もないし宿場の売上げだけが収入源でなあ……税金も払わなきゃいけないから皆必死さ」

「……どこも大変なんですねえ」


それからおじさんとえんえん話し込み、気がつけば日がだいぶ高くに昇っていた。


ざわ………!


そろそろお昼御飯をと考えていると、町の入口付近がにわかに騒がしくなった。

そちらに視線を移してみると、一目で高級と分かる馬車が入ってくるところだった。


馬車の持ち主はどこぞの貴族らしく、町長らしきおじさんがやたら恐縮して出迎えをしている。


「珍しい、貴族様がこんな宿場町にお立ち寄り下さるなんて。普通はリマ王国の都まで行ってしまわれるもんだがなあ」

「へえ……」


貴族など見たこと無い私は、好奇心でうきうきと動向を見守った。すると、馬車の中から一人の幼女が現れる。


薄いピンクのドレスに身を包んだ美少女だった。きりりとつり上がった瞳は美しいスカイブルー、つやつやな金髪をフランス人形よろしく縦ロールに巻いている。


「わあ、可愛い」


私は思わず頬を緩めたが、おじさんは反対に顔を青ざめさせる。


「メ、メアリー様だ…!」

「??」

「エスメラルダ公爵のお嬢様だよ!こりゃ粗相があったら町のみんなの首が飛ぶぞ……」

「首ってそんな、まさかあ」


私がけらけらと笑いとばすと、背後から鈴を転がすような声が聞こえた。


「たのしそうね、あなた」


振りかえると、そこには先ほどの幼女が。どうやら私に向かって話しかけているようだった。


「?え……わ、私?」

「ええ。なにがそんなにたのしいのか聞かせてくれる?」


にっこりと笑うその姿はとても愛らしい。しかし同時にどこかうすら寒いものを感じて、私はぶるりと背筋を震わせた。


「だ、だって、あなたみたいに可愛い女の子が、町のみんなの首を飛ばすんじゃないかとか変な冗談いうんだも……あ、あれ?」


そう言いながら出店のほうに向き直ると、さっきまでそこにいたはずのおじさんはいつのまにか居なくなっていた。あ、あらあ…?


「くびねえ。くび……そうね、飛ばしてみるのもわるくないかも」

「えっ…?」

「わたし、とてもつかれているの。はやくやどにはいって休みたいのだけど、なぜだかどこもうけいれてくれなくて。『ふけい』だと思わない?」


愛らしい笑顔のままそう言う少女に、町の人々は蒼白になった。


「し、しかし、我々ではとてもメアリー様にご満足いただけるようなおもてなしは…!」

「ここにはお嬢様の舌に見合うような料理はございませんで…!」


大の大人が必死で土下座する姿を、メアリーちゃんは当たり前のように見下ろしていた。これはただ者ではない…


私はこの隙にと、じりじりその場から後ずさろうとして………


「あら、あなた。手に何をもっているの?」


見つかってしまった。

メアリーちゃんは私が買った林檎とフェニシア蜂蜜を見て、興味深そうにたずねてくる。


「り、りんごと蜂蜜だよ…?」

「へえ。それで何をつくるの?」

「え、えーと……アップルパイでも焼こうかなと」


ぷるぷると震えながらそう答えると、メアリーちゃんは「アップルパイ?」と不思議そうに首をかしげた。

ありゃ?この世界にはアップルパイというお菓子はないのだろうか……


「ねえ、それはどんな料理?」

「料理……というか、お菓子なんだけどね。適度に焼いたリンゴを砂糖や蜂蜜で絡めて、それをさくさくのパイ生地で包んで焼くの」


私の説明を聞き、メアリーちゃんの瞳がきらきらと輝く。そして興奮したように私のスカートを掴み、


「それ!それをつくりなさい!いますぐ!」

「え、ええ!?」

「ねえ、このメアリーがたのんでいるのよ。とってもめいよなことなんだから!」

「そ、そう言われても私、ここには観光で寄っただけだし。料理する道具も…」


がっくんがっくん揺さぶられながらそう言うと、彼女は金切り声で叫んだ。


「つくってくれなきゃ、このまちのにんげんのくびをぜんぶとばすから!!」

「こわ!?」

「メ、メアリー様!さ、最新設備のついたうちの宿を明け渡しますから、どうぞご容赦を!!」


顔を青ざめさせた町長らしきおじさんが、慌ててそう進言した。泣きわめく幼女と、揺さぶられる私と、顔面蒼白の大人たち。

大変カオスな状況だったが、おじさんの言葉にメアリーちゃんはとりあえず泣き止んだ。


「ぐすっ……はやく、つくって」

「は、はあ……」

「早くしてくれ!俺たちの首がとんじまう!」


涙目の幼女と鬼気迫る表情のおじさんにせっつかれ、私は戸惑いつつも歩を進めたのだった。


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