閑話2『エルフの女王とドワーフの頭領』
エルフの大陸、トリスエンド。
ここは一年を通して数々の花が咲き、別名『花の大陸』とも呼ばれていた。
朝露を含んだ薔薇に、可憐な唇を寄せる一人のエルフがいた。エルフ特有の真っ白な肌にペリドット色の瞳。
彼女は薔薇の香りを吸い込み、宝石のような目を儚げに伏せる。
「あい変わらず浸っとるのお!!!」
絵画のようなその光景をぶち壊すような勢いで爆音を響かせる者がいた。
小鳥が驚いてバタバタと飛び立ち、エルフの美女の米神に青筋が浮く。
「……ガノフ。なんでアンタがここに居んのよ」
エルフの中でも抜群の美貌を持つ彼女の名は、セリーヌ。桃色の薔薇に囲まれた彼女はまさしく女神のようである。……黙っていれば、の話だが。
「アタシの薔薇園にアンタみたいなチンクシャ招待した覚えなんか無いわ。さっさと出てってよ」
「手厳しいのう。喋らんでおけば別嬪さんなのに勿体ない」
セリーヌにすげなく見下ろされても、その小さな妖精…ドワーフのガノフは快活に笑うばかり。毛むくじゃらの三頭身に赤っ鼻の彼は、トレードマークの斧をよいせと背負いなおした。
「それはアルスに株分けした薔薇か?」
「……アンタには関係ないでしょ」
セリーヌはふい、とそっぽを向いた。……しかしその数瞬後、顔を真っ赤に染めてガノフを振り返る。
「…って!何でアンタが知ってんのよ!!」
「ん?おお、それがな。アヤツ半年前にワシのところに来おっての。家を改築したいからドワーフの技術を貸してくれと」
「は?……何よそれ。初耳なんだけど」
セリーヌは眉を潜める。
半年前と言えば、彼が自分に薔薇の株を分けてほしいと頼んできた頃ではないか。
「家の殆どの設備を、アヤツの魔方陣も組合わせながら造り直してやったぞい。温泉も掘ってやったし、庭も四阿やら薔薇園やら増築してのう」
「………………」
「やたらめるへんちっくな女々しい造りにしたがるもんだから、女でも囲うつもりなのかと聞いたらはぐらかされてのう。あれから音沙汰もなくワシはもう気になって気になって!」
ドワーフというのはとかく噂話が大好きだった。楽しそうに話すガノフとは対称的にどんどん目をつり上げていくセリーヌ。
「それでなセリーヌ、今日ここにきた理由なんだがの。アルスの家をお忍びで訪ねてみんか?アヤツ絶対女と出来て……」
「きいいいいいっっ!!!」
空気の読めないガノフに、セリーヌはついに爆発したのだった。
……二人のもとにそれぞれ竜王からアルス=メゴット消失の手紙が届く、二週間前の出来事だった。