5話『露天風呂と天蓋付ベッド』
勢いよくドアを開けると、そこには高級宿ばりの造りの風呂があった。しかも内湯と外湯、両方からこんこんと独特の香りがする湯が溢れている。
「温泉だ………!!」
私は湯のぬるつきを確認しながら、感動で声を詰まらせた。この家最高すぎる。かけ流しの天然温泉が自宅で楽しめるとか、神か。アルス=メゴット神か。
私は脱衣所に服を放り投げ、さっそく温泉を味わうことにした。
中に入ると、十分な広さの洗い場に浴槽。シャワーはさすがに無かったが、かけ流しなら必要ないだろう。
そこでボディーソープやシャンプー類が無いことに気付いたが、かわりに石鹸らしきものがあった。
手作り石鹸らしくほのかにラベンダーっぽい香りがする。これはこれで肌を痛めなさそうでいい。
石鹸を泡立てて体を洗ったあと、とりあえず今日だけは同じ石鹸で髪も洗い、まず内湯に入ってみた。大きな一枚岩を四角にくりぬいた浴槽で、岩肌の表面も滑らか。手足をいっぱいに伸ばしてもまだまだ余裕があり、個人用の風呂というより家族湯という感じだった。
この世界にも温泉があって本当によかった。そしてそれを自宅用の仕様にしてくれたアルス=メゴットには感謝しかない。
そしてこの泉質の良さと言ったら。
いわゆる美人湯というやつで、pHがかなり高めなのだろう。ぬるぬるとした湯が肌にまとわりつき、表面がしっとりしていくのが分かる。この湯に毎日浸かれるなら乾燥肌とは無縁だろう。
内湯で十分に体を温めたあとは、外湯に入ってみる。
外湯は大きな木を円形に組んだような形で、内湯ほどの広さはなかったが外の景色も相まってたいへん風情があった。
景色といっても日が暮れているのではっきりとは見えないが、たくさんの木々があるのがわかる。虫の声や鳥の声が反響し、ここが森の中にあることが伺えた。
空を見上げると、二つの月が浮かんでいる。薄い紫色と黄金色の輝きを見ながら、ほんとにここは異世界なんだとひとりごちる。
「………明日は、周辺を散策してみよう」
ぬるつく湯で顔を洗い、私は湯からあがった。
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髪を暖炉の前で乾かし、私は二階に上がる。
この家は一階にリビングと書庫、トイレやお風呂があり、二階にメインの寝室と来客用の部屋がある。こじんまりとした2LDKだが動線が良くひとつひとつの造りがいいためかなり快適だ。
メインの寝室は、16畳くらいはあるだろうか。中央には天蓋つきのベッドが鎮座し、その後ろに大きめのウォークインクローゼットがある。
窓際にある丸いテーブルと椅子は一目で分かるほどの高級調度品で、ワインセラーまで完備されていた。
「ふああ………」
いろいろと見てまわって感動したいのはやまやまだが、今日はもう眠たくて仕方ない。
私は枕元のランプを消し、夢さえ見ない深い眠りに落ちていった。