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偽りの恋人

 夏休み最後の日。僕は悩んでいた。

 この悩みと言うのは、夏休みはあまり関係ない。宿題はとっくの前に終わっているから心配ない。

 悩んでいるのは姫乃と一緒に作っている、小説についてだった。

 

「恋愛描写ってどうかけばいいんだろう」

 

 僕はパソコンで小説の執筆をしつつ、電話越しで呟くように、話相手の姫乃に言う。

 

「清瀬君は恋愛もの書いたことないの?」

「ないな。どうやって人が誰かに恋するのかよく分からないから。姫乃はそういうの得意そうだね」

「うん、楽しいよ。恋愛ものはキャラの個性が生き生きするし。でもわたし自身は、誰かと付き合ったりはしたことないな」


 それは意外と言えば意外か、意外じゃないと言えば意外じゃない。前に読んだ、姫乃が書いた小説には、恋愛要素があったけど、キャラの心情が良くできてて素晴らしかった。こんな小説を書けるなら、姫乃は昔誰かと付き合ってたのではないかと思ったがそうではないようだ。

 そんな彼女にたいし、悩んでいたことを話すことにした。

 

「恋愛要素を入れるにしても、本当にヒロインは主人公に恋に落ちるのかな」

「どうして?」

「だって主人公は、ヒロインより強くないじゃないか。おまけに弱気だ。かっこ悪い主人公に恋に落ちるなんて、不自然な気がする」

「あー、それだけなら確かに」

 

 彼女の笑っているような声がする。

 悩んでいたのは主人公とヒロインの恋愛模様についてだった。

 最終的に二人は恋に落ち結婚する予定だが、どうしてもヒロインが主人公を好きになる要素が分からなかった。

 

「でもかっこいいだけが全てじゃないと思うな。顔が良いとかお金持ちだとかで恋に落ちるほど、女の子は簡単じゃないよ」

「そうなのか」

 

 男の場合顔がかわいいとか、告白されたからとか単純に恋に落ちる事もあるけど、やはり女心はよく分からない。

 

「もちろんはじめは、なんとも思ってないかもしれないよ。でも二人は長い間一緒に旅をして、色々なことを経験するでしょ。お互いの良いとこ悪いとこを、十分に知れる。恋に落ちるには十分だと思うな」

「互いのことをよく知ってるから、この人となら一緒にいたいってことか」

「そんな感じ。それに主人公は十分かっこいいよ。むしろいつも気弱なのに、いざというときはやる。そのギャップにヒロインは惹かれると思うな」

「なるほどね。女の子の気持ちは、やはり女の子じゃないと分からなそうだな」

 

 恋愛要素に関しては、姫乃に考えてもらった方がいいなと僕は思う。恋をしたことのない僕に、恋愛ものを書くのは難しそうだ。

 すると僕の考えを知ってか知らずか、姫乃が急にこんなことを言ってきた。

 

「それなら実際にしてみればいいよ」

「何をだい?」

「実際に恋をするの。わたしたち二人が」

「は?」

 

 僕には姫乃の言ってることが理解できなかった。いや、意味としては理解できなくもないが納得できない。

 違うと思いながら一応聞いてみる。

 

「それって僕と姫乃が、恋人になるってことじゃないよね?」

「そうだよ」

 

 あっさりと答えられた。

 

「君の言ってることが分からないな。いきなり恋人になろうなんて唐突すぎる」

「別に本当に恋をしようってわけじゃないよ。恋をした気持ちを知るの」

 

 ますます訳がわからなくなる。


「恋愛ものを書くにしても、わたしたちは実際に恋をしたことがない。だから恋を知るために、恋人のようなことをするの。面白い小説を書くには、経験したことを書くのが一番でしょ」

「経験したことを書くのが一番と言うのは否定しない。けど姫乃はそれで本当にいいのか?」 

「いいよ。わたしは清瀬くんのこと、好きだから」

 

 その言葉に一瞬、どきりとした。

 それってつまり……。

 

「これは告白とかじゃなくて、創作のための経験。それでも嫌ならわたしは無理強いしないよ」

「……ちょっと待ってくれ」

 

 さっきの"好き"は一体どういう意味で言ったのか、気になるが聞けなかった。

 友人としてなのか、異性としてなのか。

 

 それはそれとして僕は、姫乃の提案について考える。

 あくまで本当に恋人になるのではなく恋人のようなことをして、主人公たちの気持ちを知ると言うことだ。

 恋愛ものを書くならば、貴重な経験になるかもしれない。

 

 でも本当に恋人になると言うことなら、僕はきっとそれを…………断るのだろうか?

 答えが分からなかった。

 如何せん彼女と僕は、ここ最近で長い時間を過ごした。女の子とここまで仲良くなるのは、はじめてだった。

 彼女はかわいいし話していて楽しい。

 それは恋かと言われたら……いまいち分からない。

 彼女は僕のことを、どう思っているのだろう?

 

 その後僕はじっくりと考えて、結論を出す。

 

「わかったよ。恋愛ものを書くための経験だ。しばらくの間、恋人っぽく振る舞おう」

「……うん。それじゃまた明日ね」

 

 彼女はそれだけ言って、電話を切ってしまった。

 別に僕が答えを出すのが遅くて、怒ってるわけではないようだがいつもとは何か違っていた。

 

「恋人か……」

 

 話す相手もいなく、部屋で一人きりとなった僕は呟いた。

 恋人のように振る舞うと言ったが、一体どう変わるというのだろうか。

 疑問を抱きながらも僕は、夏休み最後の日を過ごした。

 明日から二学期が始まる。

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