プロローグ
ここは名もない世界だ。
辺り一面が真っ白で、なに一つ存在しない空間だ。
でもそれはすべて、偽りかもしれない。
色という概念も空間という概念もそれはすべて嘘で、存在しないかもしれない。
もしかしたら真っ白に見えるこの空間も、誰かにとっては真っ黒に見えたり、あるいは真っ赤に見えるかもしれない。
この世界において、概念すべてが信じられる存在ではない。
ある意味、無に一番近い存在だろう。
そこにたったひとり、人の形を偽った何者かが姿を現す。
その人物は生きているのか、死んでいるのかさえ分からない。
だけど、声を出そうと思えば声を出せた。その声は、どんな音にでもなれる。不可能は存在しない。
「ボクは、キミの願いを叶えてあげるよ」
それは人間でいえば、女性の発する声だった。だがその声は、この人物にとっては所詮、仮の声の一つにすぎない。
その人物は、手から何かを生み出す。
それは小さな玉のようで、神々しく光輝いていた。
「キミはとても綺麗で美しい。例えるならそう、白雪姫のようにね」
うっとりするように、その人物は光輝く玉を見つめた。
そして玉を顔に近づけ、口づけをする。
その後に、ぼそりと呟く。
「眠りについた白雪姫は、王子様のキスで目を覚ます。キミはまた、目覚めるんだ」
言い終えた後に、小さな玉は次第に輝きを失っていき消滅した。
だがこれでいい。
この玉には新しい世界で、新しい運命が待っている。
本来であれば終わってしまった運命を、ただの気まぐれで再び再開させる。
一人になった人物は目を閉じ、これからの玉の運命を見る。それはずっと見るのを楽しみに待っていたことだ。いったいなにが待っているのかを、楽しむために。
「これは……」
予想外の事態が起こった。
それはあまりにも予期せぬ事態だった。なんど考え直しても複雑に、たった一つの運命にたどり着いてしまう。
意外ではあった。けど同時に、この人物はニヤリと笑ってしまった。
「キミは凄いね。本当に、白雪姫のようだ。だからボクは、キミを気に入ったんだろうね」
その人物は次に、一人の少年を想像した。高校生で先程の光輝く玉と、とても縁のある人物だ。
正直この少年には、興味がなかった。
惜しい存在ではあったが、結局はつまらない存在だった。
だがこうなると、考える必要があった。
そしてしばらく考えた後、その人物は溜め息をつく。
「はぁ……まあ仕方ないね。いいさ、キミにチャンスをあげるよ。次は彼女を救える可能性がある、そのチャンスをね」
不満はあった。けれど、また新しい楽しみができたと考える。この運命だけは、しばらく見ないでいい。楽しみは、後でとっておく。
「さぁ、次の物語をはじめよう。きっと次の物語は、もっと面白いはずさ」
またニヤリと笑った後、その人物は姿を消した。
次にここに来るのは、地球で言う数年後であろう。
それまできっと、またどこかで姿を変え傍観している事だろう。
この物語は、ここで終わればバッドエンドで悲しい物語でしかない。
だが、本当の物語はまだ、はじまってはいない。
To be continued……?