第九十四話 劇作家によるステータス総評
俺たちのステータス一覧を見続けたジェイクは椅子に座り、すっかり冷めてしまったお茶を一口啜って深い溜め息を吐き出した。
勇者3人分、仲間も含めて9人分におまけが1人で合計10人ものステータスは中々の分量である。
言ってはなんだがかなり個性的なステータスばかりであると思う。
いやまぁ、己の人生が反映されるのがライフルーレットであり、そしてステータスなのだから仕方ないとは思うが、これが勇者のパーティーだと考えると思うところもあるだろう。
そして遂にジェイクは立ち上がった。
彼はまずロックに向かってその視線を向けたのだった。
「まずロック王子。『画家』と『読書家』と『音楽家』とは一体何の冗談なのかとお聞きしたいのですが」
「うむ、すまない。私は昔から戦い自体が嫌いだったのでな。本来ならば絵を描いたり、本を読んだり、音楽を聞いたりして暮らしていたかったのだよ」
「つーかこれ割りと有名な話だろ? 知らなかったのかジェイク?」
「噂には聞いていたがね。他国の勇者に対する謂れなき誹謗中傷の類だと思っていたのだよ」
「まぁ良いじゃんか、他のスキルは充実しているんだしさ」
「趣味系のスキルが3つも並んでいるなど聞いたこともないわ!」
それについては同感だ。
趣味系のスキルって大概1つか、多くても2つまでだからな。
ロックのスキルに後1つ2つ戦闘系のスキルがあったなら、更なる活躍が期待できただけに残念ではある。
「次にナイト町長と、弟殿。それと姫様とエリザベータ嬢」
「今度は僕たちですか」
「何か問題でも?」
「貴殿らは何も問題はない。各々自らの得意分野に特化していて実に充実したステータス内容だ。強いて言えばレベルの低さが目立つが、旅立ってまだ2ヶ月ではこんなものだろう」
「あんたに褒められると、素直に喜べないな」
「何か裏がありそうですよね」
「酷くはないかね!? 私は良いものは良いとちゃんと言い切ることのできる人間なのだが!」
予想に反してジェイクに褒められてしまった。
俺とロゼのステータス内容は、こうして一覧にして見るのは初めてだったが、なるほど確かに得意分野に特化している。
特に俺の場合スキルの数がダントツで多いため、スキルが充実しているとは言い得て妙である。
そしてジェイクは次にアナへと視線を向けた。
「闇の勇者ダイアナ殿も大したものですな。ただ1つだけ疑問があります。なぜ『モンスター使役』のレベルを上げずに『料理人』のスキルを優先させたのですかな?」
そう、俺もそれは気になっていた。
『モンスター使役』のレベルを上げればモンスターを仲間にすることができるのだ。
しかしアナは全くレベルを上げておらず、『料理人』に全てのレベルを集中してしまっている。
『モンスター使役』のスキルを使うためには、他のスキルとは違い、スキルレベルを上げなければならない。
そんなことはアナにだってちゃんと分かっているはずなのに。
「理由は簡単です。私はこのスキルを使うつもりがないからです」
「使うつもりがない? 『モンスター使役』は当たりスキルとして有名でしょうに」
「それはもちろん存じてはおりますが、並のモンスターを使役したところで、私の動きには着いてこれないのです。寧ろ足手まといになってしまいますので間違って仲間にしてしまわないように、スキルレベルを上げてはいないのですよ」
「ふむ、なるほど。勇者の動きに着いてこれないモンスターなどいない方が良いと?」
「私のパーティーは、エルが後衛、ロゼがサポート、そして私が前衛で役割が固定化されています。そこに使役したモンスターが入る余地などないのです」
なるほど、そういうことか。
『モンスター使役』で仲間にしたモンスターはスキル所持者と共に戦うものだ。 彼らを仲間の護衛として側に置いておくのは、万が一の危険性を考慮すれば遠慮しておきたい。
そして前衛として使う場合、勇者の速さに着いてこれないのでは話にならないと。
まぁ確かにそうかもしれない。
アナはスピードを活かした速度重視の戦い方を好む傾向がある。
その速度に着いてこれないモンスターなど、最初からいない方が良いと判断したというわけか。
ジェイクもアナの説明に満足したのかウンウン頷いている。
そして彼はサムたちの方へと体を向けた。
ここからが本番だと分かっているのだろう。
俺たちだって分かっている。
何しろ初めてこのステータス内容を知った時、俺たちはサムに総ツッコミを食らわせたのだから。
「最後に、氷の勇者サム殿とその一行! いや何を置いてもサム殿にお聞きしたい。何なのかねこれは! 一体何をどうすればこんなふざけたステータス内容になるのかね!?」
ジェイクが激高してサムに詰め寄っている。
まぁ気持ちは良く分かる。
こんな突っ込みどころ満載のステータスなんて滅多にお目に掛かれないからな。
サムは頭を掻きながらジェイクに向かって説明を開始する。
それはまるで罪を犯した罪人が神様に向かって懺悔をしているような顔色であった。
「俺様に授けられたスキルの数々。これは俺様の業そのものなのだよ」
「業ですと?」
「物心ついた頃から10歳の誕生日を迎え、そして兄さんたちに出会う前の俺様は周囲から神の如き扱いを受けていてな。碌に勉強も訓練もせず、ただ勇者であるだけで世界の中心にいるのだと信じていたのだ。そんな俺様の人生がまともである訳がないだろう? ライフルーレットは自らの人生を映す鏡のようなものと言われている。俺様のステータスはな、まさしく俺様の人生を象徴しているのだよ」
「この謎の耐性スキルの群れもサム殿の人生そのものだと?」
「ああ。今思い返しても、あまりの酷さに身悶えするほどの愚かな子供だったからな俺様は。とてつもなく傲慢で、やたらと怒りっぽく、紛うことなく怠惰であり、疑うことなく強欲であり、豚のように太るまでに暴食の限りを尽くし、6人の嫁でも飽き足らぬほどに色欲の権化だったのだ。恐らく俺様が勇者でなかったならば、耐性の部分は消え、ただの罪人スキルになっていたと思うぞ」
そんなことになっていたら最早処置なしだな。
俺はサムに『自らの黒歴史からは逃げられないのだから、きちんと目を向けて受け止めろ』と教育してきてはいたが、こんな風に達観した感じで受け止めているとは思わなかった。
何しろサムは現在レベルを上げれば上げるほどに能力が下がっていくという謎の状況に置かれているのだ。
達観の1つもしても仕方ないのかもしれない。
「そう言えば、以前からなぜ獲物にハンマー選んだのかと疑問に思っていたのだが、ひょっとして『天才スキル』が存在しないことが原因だったのかね?」
ジェイクはどうやら気が付いたようだ。
そう、勇者には大抵『天才スキル』が備わっているから、それに特化して修行をするのだ。
しかしサムが持っているのはあくまでも『武器の心得』のみ。
武器であれば何でも良かったのだ。
ではなぜ敢えてハンマーを選んだのかと言えば、その理由は……
「ああ、兄さんやエースと相談してな。俺様の獲物はハンマーに決まったのだ」
「何でまたハンマーに? 失礼だが勇者の武器としては選択肢にも登らないような代物だろう」
「俺様が戦闘訓練を開始したのは12歳の頃から、そして15歳の時に旅立ちが決まったのだが、その時点ではまだメインウエポンが決定していなかったのだ。戦闘訓練が僅か3年間では基本的な修行だけで終わってしまってな。そこで俺様の能力及び、一緒に旅立つ予定だったエースとキングの能力との兼ね合いを考え、最も攻撃力の高い獲物をメインウエポンにしようということになってな」
「能力の兼ね合い?」
「俺様のパーティーはエースが前衛、キングが後衛で俺様がトドメという役割分担だ。そしてキングが土魔法、俺様が氷魔法を得意としている状況に於いて、俺様に求められたのは『動きの止まった相手に対する強烈な一撃』だったのだよ」
「だからハンマーを選んだと?」
「そうだ。何しろ数ある武器の中でも習熟に時間も掛からず、威力が高い代物だったのでな」
そう、だからサムのメインウエポンはハンマーになったのだ。
サムの持っているスキルは『武器の心得』だから他の武器ももちろん使える。
しかし修行期間が短く、まともに武器を使いこなすまでには至らなかった。
よって修行時間が短く、かつ威力が高い武器ということでハンマーに決定したのだ。
サムたちパーティーの基本戦術は簡単なものである。
まずサムとキングの魔法を使って、相手を足止め。
そこにサムがハンマーを振り下ろして撃破し戦闘終了。
不意を打たれた場合や相手が多方向にいた場合は、エースが相手を抑えてから同じ事をすればいい。
修行期間の短い勇者が活躍するための苦肉の策であったが、基本的なステータスの高さによるゴリ押しでも意外と何とかなるものなのだ。
結果的にサムたちはこの1年間、この方法を使って敵を倒し続けてきたのである。
サムには天才スキルも加護も特殊能力も存在しない。
サムにできるのは最も基本的で確実な戦い方のみだったのだ。
そしてそれを貫き通し、この1年結果を出してきた。
出すことが出来るのが勇者という規格外なのである。
「なるほど、了解した。そう言えば、噂で聞いたのですが、サム殿はモンスターの集落を覆うほどの氷の壁を作ることも出来るとか?」
「ああ出来る。大量の魔力と高い心力を基にしたゴリ押しだがな。加護がなくてもそのくらいは可能さ。何しろ俺様は勇者であるのだからな」
「どおりで他の2人に比べてリミッターが外れているわけですな。普段から力を開放している回数が多かったのですな」
「俺様は勇者としては最低ランクであるからな。余裕なんぞとは無縁の生活をしているのさ」
「なるほどなるほど。そしてお付きの2人は町長たちと同じく文句のないステータス内容だと」
「ああ、俺様には勿体無い2人だよ」
「エース殿もキング殿も大したものですな。そしてエース殿にお聞きしたいのですが、レベルが成長限界まで上昇しているというのに、なぜスキルの更新を行わないのですかな?」
「その理由は簡単です。私のレベルが最大まで上昇したのはつい先日のことですから、今スキルの更新をしてしまうと、ステータスが低くなってしまうと思われるからです」
「つい先日? 具体的にはいつのことなのですかな?」
「今回の収集の連絡がきた後の話ですよ。それに今スキルの更新をしてしまうと、魔王軍との戦いまでに体に馴染まない可能性がありますので、今回はスキルの更新をせずにこのまま戦いに望むつもりです」
「慎重ですな」
「場合によっては不利なスキルを取得する可能性もありますからね。戦いが迫っていなければ更新していたのですけれど」
「いや、それで正しいと思いますぞ。あなたに関しては何も言う必要はありません。流石は音に聞こえた『師匠』殿ですな」
「何ですって?」
「あなたの異名ですよ。勇者とその親友であるキング殿から『師匠』と呼ばれているのでしょう? 朱雀の国では氷の勇者を更生させた人物としてナイト町長やロゼッタ院長と並んで有名になっておりますぞ」
「……私は戦い方を教えただけですが?」
「『勇者は戦いの中で成長するもの』。これは万国共通の認識だと思いましたが?」
「それはそうかもしれませんが……」
エースは困惑した顔をしている。
しかしそうか、エースもいつの間にやら他国の噂話に載るほどの人物になっていたのか。
かつて同じ屋根の下で寝起きしていた者としてはとても誇らしい気分だ。
そんなことを考えていると、どうやら考えがまとまったらしく、ジェイクは顔を上げ、俺たちを見回した。
そして「それではこれより、対テルゾウ相手の策を授ける」と言ったところで、部屋の端っこから声が掛かったのであった。
「ちょっと待ちなさい! 折角私のステータスも公開したのだから感想の1つも言ったらどうなのよ!」
「論外」
「酷過ぎない!? 私これでも勇者の娘なのよ?」
「勇者の娘だとかそういう問題ではないだろう! よくもまぁこんなステータスで仲間にしてくれと押しかけたものだな。恥を知れお嬢!」
「いや、その前に説明が聞きたいんだが。何で『農家』? 何で『暗殺耐性』』? おまけに『光の妨害』とか、聞いたことのないスキルがてんこ盛りなのだが」
「何でも何も、お嬢は生まれてからずっと田舎で農家だっただけだ。ちなみに『光の妨害』はテルゾウが光の魔王を倒した時に喰らった、奴の置き土産だな」
「! そうか、俺の母さんが喰らったのと同じく呪いの類か!」
「そうだ。テルゾウの奴は自力で呪いを跳ね返したが、威力の弱まった呪いは娘に伝わってしまってな。結果お嬢は光の勇者の娘にも関わらず、光魔法が使えなかったのだよ」
「いやそれ以前に何で農家? と言うか、テルゾウ殿も何と言うかその、田舎者っぽくないか?」
「ぽくないかも何も奴は田舎者だ。田舎で生まれ、田舎で育ち、勇者になっても田舎から離れようとしなかっただけの話だ」
「だからシャインも田舎者に?」
「失敬な! 私は田舎産まれだけど、10歳からは都会育ちよ!」
「4年だけじゃん」
「私のこの4年間の血の滲むような努力も知らないで! バードで田舎者がどんな扱いを受けるのか知っているの!?」
「あそこは随分と身分の差が激しいとは聞いてはいるけれど」
「激しいなんてレベルじゃないのよ! しかも私はお父様の娘としてどれだけ酷い目に遭ってきたか!」
「それで『暗殺耐性』と『演技』かよ。無理をしないで田舎に引っ込んでいれば良かったのに」
「冗談じゃないわ! お父様の、勇者の娘として、引けない戦いというものがこの世にはあるのよ!」
「そうね。勇者の親族には勇者の親族としての責任と義務があるものよね」
「今の発言は不用意だぞサム。スキルにもステータスにも恵まれなくても人は戦うことが出来るのだからな」
「姫様! 町長!」
「いい加減町長呼ばわりは止めてくれないか? 元だ元、元町長だよ俺は」
「でもまだ次の町長さんは決まっていないんだよね~」
「え、そうなのか?」
「ナイトの町長引退はいきなりだったから、副町長が代理として働いているけれど、正式な町長はまだいないらしいよ~」
「そろそろ話を元に戻してもいいかね?」
どんどん脱線していく話をジェイクが強引に元に戻す。
そしてシャインの話は一先ず置いておいて、ジェイクの口から光の勇者テルゾウ殿を攻略するための策が語られたのであった。




