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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第四章 VS火の魔王編 前編
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第九十話 リミッター

 テルゾウ殿が戦いの場となった草原から歩き去った後、俺たちは倒れたまま動かないロックたちの下へと向かった。

 ロックたちは戦闘を始めた、いや始めようとした場所から一歩も動けずにその場に横たわり動きを止めている。

 俺とロゼとエースはそれぞれの勇者の下へと近寄り、その状態を確かめる。

 呼吸もある、脈だってある、そして傷らしい傷は『何処にもない』。

 状況から判断するに、3人は反応すらできずに攻撃を受け、一撃で意識を刈り取られたとしか思えなかった。


 先程から背中に流れる冷や汗を止めることができない。

 これが俺たち相手に行われた行為だったのならば、納得したかもしれない。

 勇者のステータスと俺たちのステータスにはそれだけの開きがあるからだ。


 しかし戦った相手は俺たちではなく同じ勇者だったのだ。

 全員揃ってステータスは5桁を超え、ロックに至ってはテルゾウ殿よりも高かったはずだ。

 それなのに手も足も出なかった。いやこの様子では恐らく3人共倒されたことを認識すらできていないのではないか?



 朱雀の国の光の勇者

 彼の話は子供の頃からずっと聞かされてきた。

 人類最強、魔王殺し、魔族の天敵、モンスターから人々を守る英雄の中の英雄。


 足を負傷しながらも魔族を退治し、腕が動かなくなってもモンスターの大群から村を守り抜き、視界を奪われても町の防衛を成し遂げた生ける伝説。


 その強さは噂に聞くだけでも群を抜いており、歴代の勇者たちと較べても明らかに頭一つ抜けているほどの圧倒的な実績を誇っている。


 そんな彼は会って話をしてみれば、随分と娘思いの何処にでもいそうな1人のおっさんであった。

 そう、今思えば、あの田舎臭さに騙されたのだ。

 田舎で農業でもやっていそうなイメージなのに、その実力は超一級。

 噂からイメージしていた勇者像からかけ離れていたので、実力を見誤ってしまったのである。


 ロックたちは未だに倒れたままで目が覚める気配がない。

 するとそこへ突然ジェイクが現れ、ロックたちに水をぶっ掛けたのだった。

 ってオイ! 何してんだこのおっさんは!


 「ンバッ!?」

 「ブフォ!」

 「ゲホゲホ!! なっ何?」

 「何ではな~い! 一体いつまで寝とるのかね!?」

 「ジェイク殿? あれ、テルゾウ殿は?」

 「奴ならとっくに町へと帰ったよ。は~全く情けない!

  手も足も出ないどころか戦いにすらならないとはな!」


 ジェイクは両手を持ち上げてやれやれとポーズを取った。

 流石は劇作家というか、一々動きが派手で癇に障るおっさんだ。


 俺は立ち上がったロックたちに目を向ける。

 3人共ようやく自分たちが負けたのだと認識したらしく、その目には何が起こったのか全く分かっていない動揺が見て取れた。


 「え~と……一体何が起こったのだ?」

 「『一体何が起こったのだ』ときたか!

  全く嘆かわしいな、君たちは負けたのだよ。瞬殺! そう瞬殺だ!」

 「瞬殺……」

 「殺されてはいないがね! 瞬間的に負けたのだから瞬殺で間違いではないだろうさ! それにしても呆れるほどの弱さだな! 3人揃って経験が足りないにもほどがある!」

 「それは……いえ、負けは負けです。言い訳は止めましょう」

 「正しいな! しかし間違ってもいるな! 若い内から聞き分けが良くてどうするのかね!」

 「それはどういう意味ですか?」

 「私に聞くのかね? それを私に聞くのかね? 君たちを倒した男の仲間であるこの私に? 君は魔王相手にも同じ様に質問をするつもりなのかね? 貴方はどうしてそんなに強いのですかと聞いて、親切にも強さの秘密を教えてくれると思っているのかね?」


 そう言われてロックたちは押し黙った。

 確かに為す術もなく倒された相手の仲間に、手の内を教えてくれと言うのはどうかと思うからな。



 「えっと、多分だけどテルゾウさんは尋常な試合をしていなかったよね」


 突然そんなことを言われて俺たちは驚いた。

 このセリフを言ったのはエルの奴だ。

 俺の目には1体3で戦いが始まり、次の瞬間にはロックたちが倒されていたからテルゾウ殿が圧倒的な実力差で瞬殺したとしか見えなかったが、エルには違うように見えていたのか?


 「この場所に到着した時から魔力の流れに違和感を感じていたの。多分だけど幻覚魔法を展開させた時から私たち全員の視界も騙していたんじゃないかな」

 「何だって?」


 それが本当ならテルゾウ殿は最初からまともに戦うつもりがなかったということになる。

 俺はこの場を去って行ったテルゾウ殿を追いかけようとして、『だが』と思い足を止めた。


 最初からまともに戦うつもりがなかったと言っても、それはあくまでこちらの理屈だ。

 そもそも戦闘にルールなんてものは本来存在しないものなのだ。

 そう考えれば彼のこの行動にも納得がいく。

 俺たちは彼の言うことを信じて、幻覚魔法の展開にさして注意をしていなかった。

 しかし彼が幻覚魔法を使った理由が、遠くからこの場所で起こっている出来事が分からないようにするためだけでなく、俺たちと一緒にロックたちにも幻覚を見せるつもりだったのならば、最初の心構えの時点で敗北していたということを意味するだろう。


 俺がこの意見を述べた時、俺の仲間たちは揃って納得した顔をした。

 全員が全員生きるか死ぬかの戦闘をしてきた経験者だからか、テルゾウ殿の策略に対して理解があったのだ。


 「ほぅ、流石は天才エリザベータ=エニシュと言ったところか。随分あっさりと気づいたものだね」

 「えへへ」

 「えへへじゃない! 気づいていたのならどうして指摘しなかったのかね!」

 「ええ!? だって、そんな……勇者同士の決闘に口を挟むなんて……」

 「口も挟まないで勇者の供が名乗れると思っているのかね! 勇者と言っても万能ではないのだ、気づいていないこと、分かっていないことなど山のようにあるのだよ! 気づいたことがあればバンバン指摘する! 遠慮していて勇者が死んだりしたら取り返しが付かないのだからね!」

 「ううう、ごめんなさい」

 「私に謝ってどうするのかね! 君の勇者は一体誰なのかね?」

 「ごめんなさいアナ。アタシ気づいていたのに、指摘しなかった……」

 「そんな……気にする必要はありませんよエル」

 「あるに決まっているだろう! 昨日から思っていたのだが君たちは勇者としても勇者の供としても自覚が足りな過ぎる!」


 そう言ってジェイクは俺たちに「この場で座れと」命令してきた。

 俺たちは大人しく全員草原に座り込む。

 そうして俺たちの反省会が始まったのであった。



 「君たちは勇者の力を過信し過ぎだ! 勇者と言えども万能ではないことは僅かな旅の間でも十分に理解できているはずだろう」

 「そもそも勇者の3人が自らの力を過信し過ぎだ!

  3人揃って一瞬で仕留められるとはどういうことなんだ!」

 「そして供の者たち! お前たちには世界を背負っているという自覚が足りない! 確かに現在魔王相手に本気で戦っているのは我が勇者であるテルゾウだけなのかもしれないが、魔王軍との戦いに参加しに来た以上、もっと自覚を持って職務に励み給え。このままでは戦いの最中に何人か死ぬぞ!」

 「……何か急に真面目になったなおっちゃん」

 「真面目にならざるを得ないだろう。

  まさかこれほどまでに使えない勇者たちとは思っていなかったからな」

 「ぐあっ……いやいやそりゃあ百戦錬磨の光の勇者殿と比べたらロックたちでは経験値が……」

 「それ以前の問題だ! そもそも土の勇者であるロック王子はステータスではテルゾウに勝っているのだ! それで勝てないとはどういうことだ!」

 「えっと……どういうことでしょう?」

 「では教えてやろう。お前たちはな、『ステータス』というものを勘違いしているのだよ」

 「勘違い?」

 「そうだ勘違いだ。3人の勇者のステータスは5桁。しかしだ、君たちはステータスを未だに生かしきれていないということだ」


 そう言ってジェイクは懐からペンを取り出し、手近な石を手にとって、その石に数字を書き込んでいった。

 そしてその石を遠くの岩の上に置き、再び戻ってくると、勇者の3人に立ち上がるように命じて先程置いてきた石を取ってくるように指示したのだった。


 「何だそりゃ? 一体全体何で俺様がそんなことをしなけりゃならんのだ」

 「やかましいわ無能勇者どもが! 口答えせずにとにかくやってみれば良いのだ。良いか、私が合図をしたら3人共全力で走り石を取って戻ってこい。そうすれば私の言っている意味が分かるだろう」

 「むっ……無能勇者だと」

 「落ち着けサム。……分かりました、要するに競争ですね」

 「その通り、競争だ。言っておくが遊びではないからな、全力でやるように」

 「了解。サム落ち着いて、取り敢えずやってみましょう」

 「分かったよ」


 そう言ってロック・アナ・サムは一列に並び、ジェイクの合図で石取り競争が開始された。

 勇者3人の全力の競争は一般人の目ではまともに見ることもできず、辛うじて目で追える程度であった。

 3人はあっという間に岩に辿り着き、同じくあっという間にスタート位置まで戻ってきた。

 結果は1着がサム、2着がアナで最後に到着したのはロックの奴であった。

 ……ん?


 「ぜー、ぜー、なっ何だこれは……なっなぜ、最もステータスが優れている私が最下位なのだ」

 「ふうふう……サムあなた、ステータス・スキルの数は?」

 「知っているだろう。俺様は『勇者』だけだ。2人と違って強化するスキルもないぞ」

 「……スキルの更新を行なったとか?」

 「残念ながら全くレベルが足りていない。レベルは高くなればなるほど必要とする経験値は多くなるからな」

 「じゃあ……一体……どういうことだ?」

 「いや、俺様に聞かれても困る。と言うか、何でそんなに息が切れているのだ」

 「全力で走れば……こうなるだろう」

 「全力だったのか? 俺様は全力なんて出さなかったのだが……」


 サムは戸惑ったような顔をしている。

 それは俺たちも同じだろう。

 全力で走ったステータス2万超えのロックが、軽く走ったステータス1万のサムに負けてしまったのだ。

 ステータスの数字的に有り得ない結果だ。

 本来これはロック、アナ、サムの順番になるはずなのだから。



 「まぁこれが君たちの現状というわけだ」


 そう言ったのはジェイクだ。

 彼は全員に良く聞こえるようにステータスについての説明を開始したのであった。


 「良いかね? 勇者のステータスは全てにおいて万を超えている。それはつまり最強である証であり、一般市民の数十倍、下手すれば数百倍もの差があるのだ。だが勇者と一般市民が同じ空間で暮らしていて、勇者がうっかりステータスにものを言わせて誰かを傷付けてしまうと言った話は聞いたことがないだろう。それは勇者が自然とステータスの値を低く制御しているからだ」

 「低く制御?」

 「そうだ。万を超える力でドアを開ければドアノブが壊れる。道でちょっとぶつかっただけでも人が死ぬ。万を超えるスピードで街道を駆け抜ければ、それは暴走した馬車よりも悪質だ。ちょっと魔法を使ったら町が崩壊するかもしれない。だから勇者は無意識でステータスを制御しているのだよ」

 「つまりロックたちはステータスにリミッターを掛けていると?」

 「その通りだ。サム君が1着だったのは単純に年季の差だろうな。2人よりも早くに勇者として活動を開始していた分、余分にリミッターを外すことができたのだろう」

 「それはつまりテルゾウ殿はリミッターを意図的に強く外せるから強いということですか?」

 「話が早くて助かるな。その通りだ、テルゾウの奴は自らのステータスを自らの意思で思い通りにコントロールすることができる。君たちは精々数千程度のステータスしか出せないが、奴は万の値を出せるのだ。これでは勝てるわけがない。何しろ基本性能で完璧に劣っているのだからな」

 「じゃあ一体どうしたら?」

 「やることは単純だ。自らにかけているリミッターを意図的に外せるようになれば良いのだ」

 「どうやって外すのですか?」

 「それをこれから教えるのだ。魔王軍を襲撃する日時がいつになるのか分からんが、朱雀の国の兵士たちの集合までにはまだ日があったはずだ。それまでに3人の勇者のリミッターを外し、何とかテルゾウに一撃を入れてもらうからな」


 そう言ってジェイクは愉快そうに笑った。

 こうして俺たちは光の勇者に認められるための修行を開始したのであった。

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