第八十二話 閃光のシャイン2
「つまりね、この私を仲間にすることはあなた達にとってメリットしかない訳よ。だから私があなた達に同行することはOKよね?」
「OKじゃないね」
「何でよコンチクショー!!」
俺達は現在、火の魔王との対決に向けて、今作戦に参加予定の他の勇者との合流の為にカワヨコの町へと向かっている。
そしてその途中、合流予定地であるカワヨコの町の隣村に到着するやいなや、俺達はとある女の子から熱心な売り込みを掛けられていたのだった。
彼女は自分のことを『光の勇者の実の娘』と名乗り、無駄に発光を続けながら自らを仲間にする事のメリットを述べ続けている。
しかしこれから魔王軍との戦いに挑むという段階で、これまでの戦い方を崩したくないと考えていた俺達は、彼女の提案を断っていた。
しかし彼女は諦めない。
彼女は無駄にピカピカと発光しながら、宿屋に宛てがわれた俺達の部屋にまでお仕掛けて、押し売りまがいの自薦を繰り返していたのだった。
「と言うか眩しい! ホント眩しいからまずはその発光を止めてくれ!」
「ふふん、無理よ。この光はこの私の溢れる魅力が魔力となって拡散しているのだもの。私自身にも制御できない程の魅力! 観念して存分に浴びておきなさいな」
「あんた昼間に宿屋の親父にも同じこと言ってたじゃねぇか!」
「一言一句違わないところを見ると、言い慣れていますよね、その言い訳」
「ちっ、あの主人。どこまでも私の邪魔をしやがって……」
「しかもたまに口が悪くなるな。失礼だが本当に光の勇者殿の娘なのか?」
「当然じゃないの。この光り輝く私の魔力が目に入らないの?」
「入りすぎて逆に見にくいんだよ! 大体何で俺に話しかけてんだあんたは!勇者はそこにいるロックとアナの二人のことだぞ!」
「勿論そんな事は知っているわ。でも私があなた達に同行するためには、この集団のリーダーの許可を貰わなればいけないじゃない」
「はぁ? それで何で俺に話し掛けるんだよ」
「私の情報網を甘く見ないことね。
ナイト=ロックウェル。
タートルの町の孤児院の副園長にして、
わずか数年で急成長を遂げたナイト商会の会長。
その正体はタートルの町の前町長にして、
町立タートル全学校を作り上げた、玄武の国の若き怪物」
「土の勇者の親友にして義理の兄。
氷の勇者とそのお付きを育て上げた、最高の教育者。
そして闇の勇者と玄武の国のお姫様と更には天才魔法使いエリザベータの夫。
あなたさえOKを出せば、勇者であっても否とは言わない。
しかしあなたが認めなければ、
たとえ勇者が許可を出しても私はあなた達とは同行できない。
だから私はあなたの許可が欲しいのよ。
全ての決定権を握っているあなたこそがこの一行のリーダーなのだからね」
そう彼女は自信満々に言い切って、俺に同行の許可を求めてきた。
しかし俺は余りの事態に目が点になってしまい、思考が停止してしまった。
俺が怪物?
俺がリーダー?
え? 何だこれ?
俺は回りからそんな風に思われていたのか?
俺はロックとアナに視線を向けた。
すると二人揃ってコクンと頷いたのであった。
「まぁ彼女の言っていることは当たらずしも遠からずと言った所だろうな」
「私達がナイトの判断を優先するということは、間違いではありませんからね」
「いやいや、何言ってんだお前ら。
勇者がリーダーをやらずに、何で俺がリーダーなんだよ」
「お前こそ何を言っているのだ。私は戦い向きの性格ではないから、元々はお前が引っ張って行ってくれるという話だったではないか。対外的には勇者であり王子でもある私が代表では有るが、この集団の実質的なリーダーはお前だろうナイト」
「そうね、私もロックとナイトだったらナイトの意見を優先してしまうと思う。勇者はステータスこそ優れているけれども、知識も経験も判断力も私達二人共ナイトには勝てないと思うし」
「……俺は旅の最中はずっとロックにリーダーを任せていたつもりだったのだが?」
「まぁそうだが、今は勇者が二人いる状況だからな。勇者が私だけならば私が先頭に立つべきだろうが、勇者が二人いる現状ならば勇者以外の『誰か』が指揮を取った方が面倒がなくて良いだろう」
「そしてこの二人の勇者を従えることが出来るのは、世界広しと言えどもあんただけって事よ。ほら、あんたの許可を貰おうとする私の行動に間違いは無いでしょう?」
そう言ってシャインは俺に向かってドヤ顔をかましてきた。
俺はその勝ち誇った顔を苦々しく見つめる。
俺は確かにタートルの町で暮らしている間に色々とやらかして来たのかもしれないが、幾ら何でも勇者達を従えることが出来る様な実績は積んでいなかった筈だ。
そもそも戦いの実績が全く無いのだから、リーダーもへったくれも無いと思うのだが。
「何言ってんのよ。そもそもあんた達が旅立ってからまだ2ヶ月くらいしか経ってないんでしょう? その程度の期間で実績なんて立てようが無いじゃないのさ」
「なら何でこいつらは俺に従おうとするんだよ?」
「お前はタートルの町でこれ以上無い程の実績を上げて来ているからな」
「町での実績は戦闘とは関係ないように思えますけど、実績であることに違いはありませんからね」
「と言うか、実績が無いとか言っているが、ヤマモリの町を開放した作戦はナイトが考えた物だったではないか」
「その前にはスキルの更新の発見もしていますしね」
「あれは俺と言うよりも、あの時の司会の人の功績だろうがよ」
「あの時の彼には当初の契約を超える報酬が支払われたそうだぞ」
「それは私も聞きました。陛下が随分と奮発したとか」
「いや、司会の人の話は良いんだよ。ヤマモリの町を開放した時の作戦はロックが居なければそもそも成り立たなかっただろうが」
「手持ちの駒を上手く使えることはリーダーの条件の一つですよ」
「よし、ならば決を採ろう。この中でナイトがリーダーで良いと思うものは手を挙げろ」
ロックがそう言った途端、何と俺以外の全員が手を上げてしまった。
この瞬間俺は玄武の国の勇者一行のリーダーに指名され、新たな仲間を迎えるか否かは俺に決定権が託されたのであった。
俺は改めてシャインと名乗った女の子を見てみる。
彼女はお世辞にも美人とは言えない風貌であるが、さりとてブスとも言い難い朴訥とした田舎者の顔をした女の子だ。
真っ赤な瞳と銀色の髪を持ち、髪型はポニーテールにまとめている。
その目つきは鋭く、体は引き締まっており、普段から戦闘訓練を欠かしていない戦士であることは容易に想像がつく。
しかし背が低く、胸は小さいを通り越して絶壁であり、戦う女性というよりも女の子と言った印象だ。
見た目はスポーツ好きの中学生といった感じなのだ。
と、そこで気が付いた。
そもそもこの子は幾つなのだろうか?
「質問なんだが、お前一体何歳なんだ?」
「まぁ、女性に年齢を尋ねるなんてとんでもなく失礼な男ね!」
「おい、お前ら何歳だ?」
「22歳」「20歳!」「18歳です」
「で? シャインちゃんは何歳なんだよ?」
「くっ! ……14歳よ」
「14歳!?」
「子供ではないか!」
「何言っているのよ! え~と老師さん? そこの二人なんて私よりも年下じゃないの!」
「いやこいつらは年下だけど、特別な年下だからなぁ」
「この二人も私達と同じく勇者なのです。光の勇者殿の娘さんでしたらご存知なのでしょう?」
「アナ姉間違えるな! オレたちは狩人だ!」
「勇者呼ばわりは止めて頂きたい!」
「失礼、この二人は経験豊富な狩人なのです。勇者ではありませんでした」
「勇者じゃないの!? まぁ良いわ、とにかく勇者でない子供達が同行しているのなら、私が同行したって良いじゃないの!」
「いや、どういう理屈だよ」
「そもそも勇者に同行したいのなら父親である光の勇者殿に頼み込めば良いではないか。何故わざわざ他国の勇者である私達の元にやって来たのだ?」
「そっそれは……」
「……ああ、成程。分かったわ」
「同行を許可してくれるのですか姫様!」
「そっちの分かったじゃなくて、貴方が私達の所に来た理由の方よ」
「ほう? 姉上それは一体?」
「簡単な話よ。シャイン、貴方父親である光の勇者殿に同行を断られたのでしょう?」
「ぎく!」
「それで他の勇者の所に潜り込もうとしたと、要するにそういう事でしょう?」
「ぎくぎく!」
「何だそういうことか、じゃあ駄目だな」
「駄目ね」
「駄目だね~」
「何でよ! 私は光の勇者の実の娘なのよ! そんな私が何で勇者の供になれないのよ!」
シャインはこれまでと違い明確に否定されて駄々をこね始めた。
それを見た俺達はシャインを仲間にできない理由を説明したのであった。
「確かに勇者の供を決める人事権はそれぞれの勇者が持っているものだ」
「なら!」
「だが勇者の供になるためには、そもそも本人に勇者の供になる気がなければならない」
「私は存分に有るわ!」
「そして未成年者が勇者の供になるためには、保護者の許可が必要だ」
「ええっ!?」
「俺達の中ではライがこれに該当しているが、ライは両親の許可をしっかりと取った上で勇者の供として働いてくれている」
「……私はお父様の許可を貰ってないから駄目ってこと?」
「その通りだ。そもそも現時点で世界最強と言われている光の勇者殿が否と言っている以上、我々のような初心者勇者が文句を言える立場でもない」
「それに貴方は光の勇者殿の実の娘なのでしょう? 貴方がまず説得するべきはナイトや私達ではなく、実の父親なのでは無いでしょうか」
ロックとアナの正論にシャインは沈黙してしまう。
彼女は確かに鍛えているようだし、勇者の娘と言うならばスキルも多くてステータスも高いのだろう。
しかしだからといって未成年者を保護者の許可もなく戦場に連れて行く訳には行かないのだ。
ハヤテとデンデにしても保護者である老師と白虎の国上層部の許可を得た上で同行しているのだから。
シャインはしばらく項垂れた後、無言で立ち上がり、部屋から出て行った。
俺達は彼女が閉じていった扉を黙って見続けている。
ロックとアナが勇者として活躍を開始して2ヶ月程経つが、彼女は初めて俺達に自分から売り込みに来た人物であった。
その積極性は見どころはあるが、如何せん親の許可もない未成年では話にならない。
俺は扉から目を外し、宿の外を見ることが出来る窓へと目を向けた。
外は既に日も落ちてすっかり暗くなっているが、今は何故か不自然に明るい。
見ればシャインが発光したまま村の柵を超え、街道をカワヨコの町方面へと走っている所であった。
「ってアホかあいつは!」
俺は部屋にいる皆に声を掛け、全員揃って宿を飛び出して彼女を追いかける。
こんな田舎の村で日が落ちたら、外は完全に闇に覆われ、頼りになるのは月と星の明かりが精々だ。
だから基本この世界の人達は日が落ちたら活動を停止し、家にこもって生活している。
だがモンスターや魔族は違う。
奴らの中には夜目が効くものも多数おり、夜の世界は未だに奴らのテリトリーなのだ。
そんな所に全身をピカピカ発光させた女の子が走って行ったらどうなるか。
その答えが今、目の前に展開されていた。
「キャアアアァァァ! 何よこいつら! 何で私の所に群がって来るのよ!」
それはまるで光に群がる昆虫のように、夜の闇に身を潜めていたモンスター達がシャインの周りを取り囲んでいた。
玄武の国の街道は比較的治安が良いが、それはあくまでも昼間のみの話であり、夜間はそれなりの数のモンスターが蠢いているのだ。
透明度の高い雑魚ばかりであり、シャインの輝きのお陰で彼らの姿はよく見えていたが、見え過ぎているおかげで、その圧倒的な数がリアルに分かってしまう。
彼女は周囲を100を超えるモンスターに取り囲まれており、戦ってはいるものの、かなり押されている様子であった。
俺達は彼女を助けるために真っ直ぐ突撃し、周囲のモンスターを倒していく。
雑魚ばかりなので大したことは無く、即座に彼女を救出するが、彼女はパニックに陥っており、モンスターに取り囲まれている原因である自らの発光を中々止めようとはしなかった。
そこにドスドスと重い足音が近付いて来る。
何と一体何処から来たのか知らないが、オークが3匹、彼女目掛けて突撃してきたのだ。
シャインはオークの姿を見た瞬間、腰が抜けてしまい立てなくなってしまった。
それを見たロックは、シャインを抱き寄せて彼女を守り、アナはゆっくりと刀を抜いてオークの群れへと切り込んで行く。
袈裟斬りで一体、横薙ぎで一体、そして最後は唐竹割りで一体。
アナはオーク3体を3太刀で仕留め、周囲に殺気をバラ撒いた。
すると群がっていたモンスター達は蜘蛛の子を散らすように逃げて行き、周囲からモンスターが居なくなったのを見届けたシャインはようやく落ち着きを取り戻して、自らの発光現象を停止させた。
俺達はその後、素早く倒したモンスターの魔石を取り出してし、ドロップアイテムも回収し、村へと戻って行った。
その間シャインはロックに縋り付いたまま、アナに熱い視線を注ぎ続けていたのであった。




