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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第三章 冒険編
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第七十話 罠のダンジョン

 人数のダンジョンでの初心者講習終えた俺達は、罠の恐ろしさを実感し、罠に備える必要性を理解した。

 罠の有効性に関しては俺は勿論理解している。

 何故なら俺はスキル『罠師』『中級罠師』を持っている程に罠を仕掛けまくって、モンスターを仕留めてきた実績があるからだ。


 しかし逆に、罠を仕掛けられるという体験は初めてであった。

 突如襲いかかる巨大ハンマー、四方八方から射掛けられる多数の矢、落とし穴の中では槍が穂先を向けており、噴出した毒ガスを吸えば体の自由を奪われる。


 自分が仕掛けられる立場になって初めて理解したのだ。

 罠とはこれ程までに厄介で恐ろしい物だったのだと。

 そしてそれに対応する技術がこの先どうしても必要になるのだと。


 何故なら勇者であるロックであっても、力技ではダンジョンの罠には対抗できなかったからだ。

 防御力が高く、オートヒールまで持っているロックの奴は、物理攻撃には滅法強い。

 しかし毒物に対する耐性とかは持っていないため、毒関係の罠には為す術が無かった。

 罠付きの宝箱を開け、睡眠ガスの直撃を喰らったロックは、実に気持ち良く眠りに落ちていた。

 俺はその場面を目撃し、勇者の死因の上位に、ダンジョン探索での死亡があったことを思い出したのだ。



 落とし穴に落ちた勇者は、怪我こそ大したことがなかったものの、毒を受けて身動きが取れなくなり、穴の底で餓死したという。

 酸を浴びた勇者は、視界を奪われて、別の罠を踏み抜き、身動きが取れなくなった所を、モンスターに殺されたという。

 転移の罠を踏み抜いた勇者は、二度と地上に戻って来ることは無かったという。


 ダンジョンの罠は勇者を直接殺すことは無いかもしれない。

 しかし勇者が死亡する間接的な理由になる程度には厄介な代物なのだ。


 勿論ダンジョンには潜らずに、このまま旅を続けるという選択肢だって存在する。

 しかしこの先、俺と同じく罠や毒を使う敵と遭遇する危険性は捨てきれない。

 ならばこの町にいる間に、罠への対応策を学んでしまおうと考えたのである。


 俺達は初心者講習が終わった直後、罠に対する対応策を学ぶためにミスター・グラモに相談し、彼に直接教えを請うことを望んだ。

 彼は俺達の要請を快く引き受け、一日休息期間を取った後、俺達は揃ってヤマモリの町最難関ダンジョンの一つ、『罠のダンジョン』へとやって来たのであった。



 「はい、次はこの通路ですな。どれだけの罠が設置されているか分かりますかな?」


 罠のダンジョン、地下12階。

 俺達はその通路の途中で、ミスター・グラモの罠講座を受けている最中であった。


 ここは階層自体は20階層しかないというかなり浅いダンジョンだ。

 全階層が石造りであり、相も変わらず薄く発光しているので視界も良く、通路幅も天井の高さもあるので息苦しさを感じることもない。

 だがしかし、床にも壁にもありとあらゆる場所に罠が設置されており、罠に対応できない者では2階に降りることすら出来ないという非常に難易度の高いダンジョンでもあった。


 俺達は必死に目を凝らし、通路に設置された罠を判別しようと試みる。

 通路と言っても床だけを見ていてはダメだ。

 壁にも天井にも、罠は設置されているからだ。

 あらゆる可能性を考慮して、罠の発見に勤めなければならない。

 罠を仕掛ける側と違い、罠を見破る側はとかく神経を使うのである。


 「床に3つ、壁に2つ、天井には無い。どうだ!」

 「う~ん……床に5つ、壁に4つだと思います」

 「オイラには壁にも5つあるように見えるぞ?」

 「色違いの壁は7箇所、床の僅かな段差は5箇所、色違いは3箇所だから、壁は7つで、床は8つじゃないでしょうか?」

 「……駄目だ、私にはさっぱり分からない」

 「同じくですな。言われて見ればそうかもと思えますが、言われなければ判別は難しいですな」

 「ナイト殿はどう思いますかな?」

 「……床の段差が5箇所、色違いが3箇所、そして糸が張られた箇所が2つで床は10箇所。

  色違いの壁が7箇所、不自然な出っ張りが2箇所、そして模様違いが一箇所で同じく壁は10箇所。

  最後に天井に色違いが2箇所あるので、下の罠に連動して上から何かが降って来る仕掛けかな?」

 「ナイト殿が正解ですな。流石は『中級罠師』、罠の発見もお手の物と言ったところですかな」

 「恐縮です。ミスターの教えの賜物ですよ」


 やはり罠に関しては俺に一日の長があるようだ。

 俺の次だとライの奴が罠をよく発見している。

 ライは『視覚強化』のスキルのお陰で目が良いため、色違いの箇所を良く見つけるのだ。

 対してロックや老師は罠の発見を苦手としている。

 この二人は下手にステータスが高いため、こういった絡め手の発見を苦手としているのだろう。


 「はい、では今回もナイト殿を中心に罠の解除を行って行きましょう。

  他の皆さんはナイト殿のやり方を見て、罠の場所と罠に掛からない体の使い方を学んで下さいな」


 そう言ってミスター・グラモは、俺に罠の解除方法を教え込む。

 初心者講習の時と同様、彼の教育方針は、座学よりも実学がメインだ。

 そして彼は俺をメインに鍛えるようにしているようなのだ。

 パーティーに罠解除のエキスパートは一人居れば良いと考えているのだろう。

 他のメンバーは、罠の判別だけが出来れば良いという訳だ。

 俺は総勢20個を超える罠の解除に取り組むのであった。


 通路上の全ての罠を解除し終えて、次へと進み、同じ事を繰り返しながら進み続けると、終いには下へと続く階段まで到達する。

 俺達は階段入口である門をくぐり、階段途中の踊り場で休息を取る。


 階層と階層を繋ぐ階段には何故かモンスターも発生せず、罠も仕掛けられていないからだ。

 ここは常に緊張が強いられるダンジョンの中にあって貴重な休憩場所なのである。


 アイテムボックスから食料を取り出し、全員に配り食事を開始する。

 今日もまた保存食だ、いい加減作りたての飯が食いたい。


 俺達がこの罠のダンジョンに潜って既に5日が経過している。

 1日辺りで進めるのはせいぜい2階から3階程度。

 これはハッキリ行って凄まじくスローペースである。

 俺達は時間を掛けて、通り道に在る全ての罠を解除しながら進んでいる為に進行速度が遅いのだ。

 その代わり、俺の罠解除の技術はメキメキと向上中ではあるのだが。



 食事も終わり、今日はもう寝ようかと考えていた所、下の門を潜って4人組の探索者のパーティーが階段を登って来た。

 彼らの姿はボロボロだ。

 特に鎧姿の戦士の状況が酷い。

 恐らくは酸の罠に掛かってしまったのだろう。

 胸を覆っている鎧が溶け、下の皮膚と混ざってしまっていた。


 彼らは俺達が階段で休んでいることに気付き、驚いた顔をする。

 そしてミスターの顔を見て納得し、彼に向かって話し掛けたのだった。


 「これはミスタ―、こんな場所で出会えるとは幸運です!

  見ての通り仲間が罠に掛かってしまったのです。

  申し訳ありませんが、ポーションを分けて戴けないでしょうか?」

 「それは大変でしたなぁ。

  しかしポーションでしたら、こちらのナイト殿から買われては如何ですかな?」

 「買う? こんなダンジョンの中でですか?」

 「ええ、俺は商人でもありますから。

  手持ちの金が無いのでしたら他の物でも引き換えますよ?」


 そう言って俺はアイテムボックスの中からポーションやハイポーションを取り出して階段に並べる。

 更に包帯や皮膚に塗る塗り薬に、代えの衣服。

 そして水瓶と携帯食料も取り出し、彼らに見せたのだった。


 ヤマモリの町近郊のダンジョンに潜り初めてからというもの、俺はダンジョン内で出会った相手とは可能な限り商売をしていた。

 スキル『迷宮商人』の更新案件の一つ、『迷宮内で合計100人以上を相手に商売をしていること』を満たす必要があったためである。


 まぁ実を言うと、この案件は既に満たしているのであるが。

 人数のダンジョンでの初心者講習を終えて、一日休みを取った時に、俺だけ再び人数のダンジョンへと出向いて、ダンジョンの1階で、この町の商人に混じって商売をしていたのだ。

 流石はヤマモリの町近郊で一番人気のダンジョンだ。

 半日も経たずに更新案件の100人を満たしてしまった。

 しかし俺はギリギリまで粘って、200人を超える相手と商売をしてから、町へと帰って行った。

 『迷宮商人』に次の更新先がある可能性もあるからである。



 下から来た探索者達は、俺がアイテムボックス持ちだと理解したのであろう、迷宮内で手に入れたアイテムと引き換えに、俺から必要なアイテムを購入していった。

 そして彼らもこの階段で休憩することにし、鎧の彼の治療もこの場で行われることとなったのだった。


 「ぐうううぅぅぅ!!」


 皮膚と癒着してしまった鎧を引き剥がす際に、聞きたくもない悲鳴が階段内に響き渡る。

 それでも彼の仲間は彼の鎧を無理やり引き剥がし、癒着してしまった箇所を剣で抉り取って、その部分に間髪入れずにハイポーションを振り掛けていく。

 結果、彼はどうにか窮地を脱し、俺に礼を言ってきたのであった。


 「礼を言う必要なんかないですよ。たまたま売れる物を持っていて、買いたい人が居たから売ったってだけですからね」

 「いや、こんな危険なダンジョンの中で、これだけの物が買えるなんて普通はありえないからな。助かったよ、礼を言う。仲間の命がまだあるのは、君のお陰だ」

 「どう致しまして。それでその怪我は何階の何処の罠でやられたんですか?」

 「15階にある水場の近くだ。

  随分前に水を切らしてしまっていてな、慌てて近づいたらこの有様って訳さ」

 「水場? ダンジョンの中に水場があるんですか?」

 「おいおい、まさかそんな事も知らないでこのダンジョンを潜っているのか? ダンジョンの中には何故か水が湧いている場所があったりするんだよ。

 特に難易度の高いダンジョンには必ずと言って良い程存在しているんだ。

 君も探索者の端くれならば、自分が潜っているダンジョンを攻略した人が残した資料くらい読んでおくべきだぜ」

 「探索者の先達者が残してくれた資料ですか。

  確かにそうですね、ちなみにそれは何処で読めるのですか?」

 「ダンジョン協会の建物の中だよ。

  各ダンジョンごとの詳細な地図や出現モンスターが細かく記載されている。

  ちなみに殆どがそこにいらっしゃるミスターが残してくれた物だぞ」

 「ミスター、本当ですか? その話」

 「本当ですとも。でもあっしらがこのダンジョンを訪れているのは罠解除の練習のためですからな。今回は必要ないと思って伝えていなかったのですな」

 「そうですか」

 「ちなみに皆さん、あっしらは今日、10階からここまで一日掛けて最短ルート上の罠を全て解除しながら突き進んで来たのですな。もしこのまま地上まで帰るつもりでしたら、今の内に10階まで一気に進んでしまった方が楽が出来ますな」

 「! それは本当ですか!?」

 「はい。俺達は昨日、9階と10階の間にある階段で眠って、今日一日かけてここまで来たんです。そして通路上の罠は全て解除してあります。通るなら今の内ですよ。『このダンジョンの罠は解除してから一日経つと、元に戻ってしまいますから』ね」

 「それが本当なら正直助かります。お前ら、動けるか?」

 「ああ」「問題無い」「行こうぜ、リーダ―」

 「では俺達はこれで失礼します。ミスターがいるから心配は無いだろうけど、これから先罠は更に凶悪になります。くれぐれも気をつけて行動して下さい」

 「ありがとうございます」


 そう言って彼らは立ち上がり、全員揃って俺達に頭を下げてから12階へと消えて行った。

 罠もなければモンスターに出くわす可能性も低い。

 彼らは無事に9階と10階の間の階段へと辿り着けるだろう。


 このダンジョンは罠だらけではあるが、逆に言えばモンスターは殆ど存在していない。

 いや、正確に言うと、モンスターが発生しても、ダンジョンの罠に殺されてしまい、ダンジョン内で生きていることが出来ないのだ。

 ダンジョンの罠は探索者にもモンスターにも、平等に牙を剥くからである。


 俺達は彼らの無事を祈りつつ眠りにつく。

 俺達が罠のダンジョン最下層、20階に到達したのは、それから4日後の事であった。

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