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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第一章 プロローグ
7/173

第七話 いざレベル上げへ

2017/06/15 サブタイトル追加&本文を細かく訂正

2017/07/14 本文を細かく訂正

2017/08/18 本文を細かく訂正

 俺と父さんは城へ向かって移動している。

 俺は今回町の外に出るに当たって、動きを阻害しない程度に軽いが丈夫でしなやかな素材で出来た服を着ている。

本来なら鎧を着る方が安全ではあるのだが、重くて着ることが出来ないのだ。

スキルの有る無しは関係なく、単に子供だから着れないのである。


 ちなみに父さんは武装している。

 普段、軍で働いている時は上から下まで鎧で覆われた完全武装をしているが、今回は町の外でのレベル上げの為のモンスター退治が主であるので、軍での装備よりもやや軽めだ。


 これは今回の仕事が、国の重要人物達の護衛であり、対象は俺も含めて4人もいるために、いつもより動きやすい装備に変更したのだ。

 ちなみに他の護衛は存在していない。

 軍の副将軍をしている父さんの戦闘力は国内において突出しており、父さん1人がいれば街の周辺のモンスターならば楽勝だからだ。


 今はまだ早朝、ようやく朝日が昇って来た頃合いだ。

 王女であるロゼッタや勇者であるダイアナが町中を移動すると騒ぎになってしまうので、混乱を避けるために人通りの少ない時間帯に移動することにしたのだ。

 

 屋敷から城へと、先日も通った道を通り過ぎて行く。

 町の人々はこれから始まる一日の為に、道路を掃除したり、ゴミを出したり、植木に水を撒いたりしている。

 俺達の馬車は彼らの生活を横目に見ながら城へと辿り着き、城門を潜って、中で待機していた3人の幼馴染と合流を果たした。



 亀岩城の舌の先、つまり大階段の下では朝早くにも関わらず多くの人が集まっていた。

 ロゼッタの周りには陛下やロックに加えて城の使用人や兵士達。

 エリザベータの隣には父親である宮廷魔道士長とその奥方。

 ダイアナの周りには黒装束で固められた闇の神殿の巫女達が勢揃いしている。


 俺と父さんを載せた馬車が彼らの前に停車し、俺達は馬車から降りる。

 するとまず、エリザベータが俺に向かって突撃して来た。



 「ナイト、おはよー! 今回は残念だったね! でも大丈夫だよ、ナイトならスキルが無くてもちゃんと生きていけるから! 所でナイトは一度死んだんだよね、その時のことって覚えてる? 覚えてないか、生まれたてだったもんね。でもスキル授与の儀式を受けた時にその光景は見たんでしょ? ねぇ教えて? どんな光景だったの? ハロルドさんも知ってるんだよね。後で聞きに行っても良いかな? 良いよね! じゃあ早速詳しい話を……」

 「しないから! 今日はこれからレベル上げに行くんだよ!」

 「え~、でもそれは別に今日でなくても出来るじゃん!」

 「俺の死んだ時の話だって今日で無くても聞けるだろうが!」

 「でもでもアタシの興味はそっちに向いて一直線なんだよ?」

 「レベル上げが終わったら改めて家に来いよ。じっくり聞かせてあげるから」

 「本当? 本当に? 約束だよ! よっし! じゃあ張り切ってレベル上げに出発しよー!」



 エリザベータはいつもの様に好き勝手に話を進めた挙句、さっさと馬車に乗り込んでしまった。

 彼女の着ている宮廷魔道士のマントが風に揺れていた。

 あの下はいつもの様に普段着の筈だ。

 あいつはいつもだらしがないのだ。


 そんな彼女の様子を呆れた様に見ていた所、俺の側に彼女の両親が近寄って来た。


 「ナイト、話は聞いた。大変だったな」

 「おはよう御座います、エリック先生。でも大変だったのは父さんと母さんと使用人達ですし、これから大変なのはロックの奴ですよ」

 「……まぁお主はまだレベルが上がらないという苦労に直面していないからな。これからお主には想像以上の苦労が襲い掛かって来るだろうが負けるでないぞ」

 「はい、ありがとう御座います先生」


 長身痩躯で薄っすらと黒味がかったローブを着込み、フードに隠されたその顔色は窺い知れない。

 しかし普段隠れているその顔が結構な美形であることは、この国に住んでいる人ならば誰もが知っていることだ。


 この人こそ、エリザベータの父親にしてこの国の宮廷魔道士長を務めるエリック=エニシュその人である。


 亀岩『城』に勤めているのに、何故『宮廷』魔道士なのかは不明だ。

 一説には単に語呂が悪いからとか言われているが、流石にそれは無いと思われる。


 この人は父さんの同僚ではあるが、肩書が示す通り父さんよりも偉く、この国における重要な役職に付いている人物だ。


 そして俺や弟、そしてロックにロゼッタ、ダイアナにエリザベータと勇者パーティー候補者達に勉強を教えてくれている先生でもある。

 勇者とその仲間達は将来国の重役に付くことがほぼ決定してる為、幼い頃から専属の教師が付くことになっており、国内最高頭脳と言われるこの人に白羽の矢が立ったのだ。

 

 俺的にはとても厳しい先生という印象があり、周囲も同じ様に感じている筈だ。

 しかし俺はこの人の別の一面も知っている。

 と言うか、俺と奥方にだけその一面の覗かせるのだ。

 彼の横にはエリザベータと同じく灰色の瞳と灰色の髪を持つ奥方が並んでいる。

 両親はエリザベータが馬車に乗っていることを確認すると、俺に向かって話し掛けて来た。



 「ところでロック王子と旅立つ予定は無くなった訳だが、私の娘を貰ってくれるという話までは無くなっていないだろうね?」

 「お願いよナイト。あなただけがエルと対等に渡り合えるの。あなた以外に嫁ぐあの子を私達は想像も出来ないの」

 「お主のスキルの数が1つだけだったのは残念ではあったが、それとこれとは別問題だ。頼むから娘を嫁に貰ってくれたまえ。その為ならばあらゆる支援を約束しよう」



 玄武の国の宮廷魔道士長エリック=エニシュ。

 国内外にその名を轟かせる稀代の魔法使い。

 そして、『天才かつ変人』の名を欲しいままにするエリザベータ=エニシュの実の父親。

 彼は魔法の研究に没頭する余り、結婚が遅く、子供を授かるのも遅かった。

 よって彼は人生の後半に入ってから授かった娘をとても溺愛している。

 彼もまた一人娘の行く末を案じ続ける1人の父親であったのだ。

 そして娘を預ける婿として、俺が選ばれているのである。


 何故かと言えばエリザベータ、通称エルとまともに会話が出来る男が俺しか居ないからである。

 前世を思い出したのはつい先日ではあるが、前世の魂は俺の記憶の奥深くに刻み込まれていたのだ。

 

 前世の記憶は偉大だ。

 この世界のように魔法は無くとも、科学が発達していた地球に住んでいたのだ。

 そして俺の前世は日本人。

 幼い頃からTVが流す情報の洪水に飲まれ、小学生から大学生まであらゆる知識を詰め込まれて来た。

 だから例え一般人であっても知識量はこちらの世界の頭脳集団に引けは取らないものがある。

 たまにこちらの常識と乖離している部分があり、『奇人』扱いされることもあったが、今はもうそのズレも大分修正されている。


 だから俺はエルの疑問や質問にも答えることが出来たし、同レベルで話をすることも、意見をぶつけ合う事も出来たのである。


 普通の子供にはそんな事は出来ない。

 実際ロックはエルを苦手としている。

 お互い嫌っている訳ではないが、全く話が合わないからだ。

 そして大人もエルを苦手としている。

 天才の名は伊達ではなく、知識量ではほぼ互角か超えられてしまう。

 そして父親が宮廷魔道士長では力で押え付けることも出来ない。

 結果エルは周囲から孤立し、浮いてしまっていた。


 そんな所に『天才かつ変人』の娘と互角に渡り合える同年代の男の子が現れたのだ。

 両親としては逃す訳には行かないのだろう。

 エルと知り合って何度か遊んだ後、彼女の両親が揃って屋敷を訪れ、俺に向かって娘を貰ってくれと頭を下げてきたのには驚いたものだ。


 まぁ俺もエルのことを嫌っては居ない。

 あの知識欲は若干ウザいと感じる事もあるが、基本的に表裏が無く良い奴なのだ。

 それにあいつとの会話は楽しい。

 前世のあの情報に溢れた世界を知っている者としては、エルのあの知識欲にこちらの世界での生活の発展を期待してしまうのである。


 更に言えばエルは可愛い。

 奥方もかなりの美人でスタイルも良く、エリック先生も実は美形だ。

 だからエルは将来美人になるだろうと言われている。

 なった所であの性格は修正されないだろうが



 そんな訳で俺はエルとの繋がりを切るつもりはない。

 そもそもスキルが1つだけの男なんて切られて当然なのだが、この親バカ両親はそんな事よりも娘の幸せを願っているのだ。

 ならばそれに答えることこそが男の甲斐性と云う物だろう。

 俺はエルの両親に対して返事を返した。


 


 「大丈夫ですよ先生、俺がエルを嫌いになる事はありませんから。

  寧ろスキルが1つだけだったので、婚約を解消されるかもと考えていました」

 「そんな事はありえんから心配せずとも良い。娘のあの性格は恐らく治らん。

  そしてあの性格の娘を貰ってくれる男などお主以外に見当たらん。

  家の繁栄も大事だが、娘の幸せの方が大事なのだ。すまんが宜しく頼むぞ」

 「勿論です。寧ろこちらが宜しくお願いします」


 そう行って親バカな宮廷魔道士長夫妻は馬車から離れて行った。



 次に来たのはロックと陛下だ。

 ロゼッタは陛下の後ろに隠れている。

 陛下は俺達の前まで来ると、後ろに隠れていた娘を引っ張り出してきた。


 小さい。

 やはりロゼッタは小さい。

 玄武の国の他の王族と同様に茶色い髪に茶色い目。

 小柄な体躯を大人っぽいデザインの服装で包んでいるが、背伸びしている子供の様にしか見えない。

 

 しかし彼女は14歳。

 その容姿は4年前から一切変わっていない。

 4年前までの彼女は周囲から『可愛い』という評価を受けていた。

 しかし4年後の今、一切の成長をしていないにも関わらず、彼女を可愛いと言う者は誰もいない。

 何故なら目が死んでいるからだ。

 

 スキル『成長停止』のお陰で、ステータスも体の成長も止まった。

 そして彼女は知ったのだ。

 人の心の醜さを。

 スキルを得る前はあれだけ周囲にちやほやされていたのに、スキルを得てから聞こえてくるのは哀れみの声ばかり。

 役立たずの烙印を押され、家族と幼馴染以外の人間達は彼女の周りから居なくなった。


 そりゃあ引きこもるだろう。

 楽園だと思っていた場所が突然地獄に変わったのだ。

 しかしそんな地獄に彼女は再び帰って来た。

 幼馴染の1人、つまり俺が彼女に匹敵する地獄を味わうことになったのだから。


 「久し…振り。元気してた…?」

 「うん元気だよ、ロゼ姉。ロゼ姉は少し痩せたかな?」

 「食欲…無くて。でも大丈夫…。ちゃんと…動ける…から」

 「そっか、今日は宜しくね」


 ぎこちなく笑ったロゼ姉はそのまま馬車の中へと入って行った。


 ロゼッタの事を俺達は『ロゼ姉』と呼んでいる。

 幼馴染の中で一番の年長者だから自然とその呼び名が付いた。

 そして4年前からは意識してそう呼んでいる。

 例え成長が停止しても、彼女が俺達の姉であることは変わらないのだと周囲に喧伝するために。


 「ハロルド、ナイト、娘を頼んだぞ」

 「お任せ下さい陛下。傷一つ付けずにお返し致します」

 「ナイト、本当なら一緒に行きたい所だけど私はスキルを得ていない為、外には出られない。エルとアナと姉上の事を宜しく頼むぞ」

 「勿論だ。任せときな」

 「これであの子も前を向いて一歩踏み出してくれれば良いのだがな」

 「そればっかりは私には何とも出来ません。息子達の活躍に期待しましょう」


 4年前から城で引きこもって以来、彼女は目に見えてやつれて行っている。

 『生きる気力が無くなったからだ』とは主治医のセリフだ。

 だから俺達は事ある毎に彼女の部屋に遊びに行き、何とか励まそうと頑張って来た。

 お陰で4年経っても彼女はまだ生きている。

 しかし目は窪み、体はやせ細り、口調はたどたどしい。

 今回のレベル上げが彼女にとって気分転換になれば良いのだが。 




 そして最後に近寄ってきたのは『闇の勇者』であるダイアナと闇の神殿の神殿長だ。

 闇の神殿の巫女装束であるくノ一っぽい忍者服に身を包み、勇者の印が浮き出ている額は鉢金で隠している。


 ダイアナは俺見て、ロックを見て、陛下を見て、父さんを見た後、ペコリと頭を下げただけで馬車の中へと入って行ってしまった。

 馬車の中からはエルの声ばかりが聞こえてくる。

 ロゼ姉は口が重く、アナは口を開かない。

 必然的にエルが1人で喋りっぱなしになるのだ。


 そんなアナの様子を見ていた闇の神殿の神殿長は溜息を付きながら俺達に謝って来た。


 「相変わらずの無愛想、無作法で申し訳ないねぇ」

 「構いませんよ。今に始まった事でもないし。もう慣れました」

 「慣れて貰ってもそれはそれで困るんだけどねぇ。

  あの子にはもう少し他人と会話をするって事を学んで貰いたいもんだよ」

 「しかしアナをああいう風に育てたのは神殿長御本人ではないですか」

 「耳が痛いね。ハイハイと言う事を聞く良い子だと思っていたら無口・無表情になっちまうとはね。ただでさえ『闇の勇者』は人気が無いって言うのに、今じゃあからさまに避けられてしまっている。幼馴染であるあんた達に期待したいね」

 「無茶を言わないで下さい。私達でもアナとの会話は大変なのですから」

 「それでもあの子に話しかけてくれるあんた達は貴重なんだよ。

  ナイト、今日は宜しく頼むよ」

 「任されました、ばっちゃん」

 「『ばっちゃん』はよしな!」


 闇の神殿の神殿長は既にかなりの高齢だ。

 彼女は先代の闇の勇者の供の1人として世界を巡り、魔王とも戦った経験があるという偉大なる女傑だ。

 しかし教育者としては問題があったようで、彼女に育てられたアナは評判の良くない育ち方をしてしまった

 彼女はその事を後悔しているようで、事ある毎に俺達幼馴染に対してアナの性格を直してくれと頼んで来ている。


 とは言えそんな簡単に直ったら誰も苦労はしない。

 そもそも俺達はアナのあの性格を好いているので直す気はない。

 アナは無口・無表情に見えるが、最低限の礼儀はわきまえているし、良く見れば表情もちゃんと動いているのだ。

 あれは暗殺者として育てられた影響で、顔面の筋肉が固まっているだけだ。

 そもそも彼女は本来優しい性格だから勇者には向いていないのだ。

 俺達はその事を分かっていので、神殿長や彼女の性格を直したがっている人達には空返事をして、彼女を出来る限りこのままの状態にしようと努力していた。



 とは言え、これで同行者は全て揃った。

 城の前で目立たないように小規模な見送りを受けた俺達は、一路町の外へと向かって行く。



 そこは手付かずの自然が残る広大な大地。

 地平線まで続く草原、鬱蒼とした深い森、野生動物が闊歩する山々。

 町の外は未だ人の手が入っていない未開の地が多く残っている。


 しかしこの世界ではそう簡単に開拓は出来ない。

 あらゆる場所にモンスターが蔓延っており、町の外は奴らの縄張りだからだ。


 俺達はこれからレベル上げの為に町の外にモンスター退治に出かける。

 幼馴染3人にとっては生まれてから初めての冒険だ。

 勿論俺にとっても、前世から数えて40年目にして初めてのモンスター退治である。


 俺は前世において小説や漫画で散々ネタにされていたモンスター退治が出来ることをとても楽しみにしていた。


 例え今回のレベル上げが人生最後のレベルアップになろうとも。

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