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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第三章 冒険編
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第六十七話 人数のダンジョン

 明けて翌日、俺達はヤマモリの町から一番離れた場所にあるダンジョン、通称『人数のダンジョン』へと到着した。


 俺達が降り立ったダンジョン手前の馬車の発着場は活気に満ち溢れている。

 ここまでの移動は、ヤマモリの町から出ている定期循環馬車を利用している。


 ヤマモリの町近郊のダンジョンの内、安全度の高いダンジョンや、人気のあるダンジョンには人が集中するので、道の整備が行われ、移動手段も構築されているのだ。

 出店も昨日潜った『年齢のダンジョン』の比では無い程多くの店が立ち並び、沢山の商人が商売に励んでいた。



 ここを訪れるのは初めて……という訳では無い。

 何しろここは、つい最近までヤマモリの町の住民達が逃げ込んでいた場所でもあるからだ。



 ここは探索者になる為にヤマモリの町を訪れた初心者が腕を磨き、仲間を集める為に最適なダンジョンとして有名な場所だ。

 更に深さも程々にあり、奥まで潜るためにはそれなりの腕前が必要になるため、中堅どころの探索者もそれなりに多い。

 結果として新人から中堅まで幅広い層の探索者が集まるので、最も賑わっているのである。

 だからヤマモリの町のダンジョン協会の建物もここに建設されたのだし、イザという時は町の避難場所にもなっていたのだ。


 俺達はダンジョンの入口へと向かう。

 そしてダンジョンの入口付近には多くの探索者達が立ち並び、仲間の勧誘を行っていた。



 「俺達の目的は15階の探索だ! こちらの人数は9人まで揃っている! 後6人! 誰かいないか?」

 「私達は20階のボスの打倒が目的です! 戦士が3人、魔法使い2人を希望! それから遠距離攻撃持ちが3人! 誰かいませんか!」

 「10階まで潜る初心者講習希望の方はこちらにお並び下さい。

  参加費は無料です!

  レベルアップツアーの受付は反対方向の建物でお願いしま~す!」



 ダンジョン入り口の探索者達の活気は凄まじい。

 このダンジョンの名は『人数のダンジョン』

 その名の通り、パーティーの人数分だけ潜ることが出来るダンジョンだ。

 最下層は40階であるから、クリアするためには最低でも40人ものパーティーを組まないと辿り着けない。

 基本、少人数で潜っている探索者達ではあるが、このダンジョンに関しては何時ものやり方が通用しないのだ。

 特にリーダーには大人数相手の管理能力が問われるという、珍しいダンジョンなのであった。


 それにしても面白いな。

 このダンジョンの攻略にはとにかく数が必要だからなのか、何処もかしこも大騒ぎだ。

 15階や20階ならまだ何とかなりそうだが、30階以降はメンバーの管理が大変だろう。

 

 そしてレベルアップツアーというのは、初めて聞いたが一体何なのだろうか。

 分からなかったので、受付で聞いてみることにした。


 「はい、こんにちは。レベルアップツアーの受付でしょうか?」

 「すいません。まず、そのレベルアップツアーとはどういう物なのかを教えていただけないでしょうか?」

 「レベルアップツアーとはつい最近開始されました、参加者のレベルアップを目的とした、この『人数のダンジョン』独自の試みです」

 「具体的には何をするのですか?」

 「参加者にはツアー費用をお支払い頂き、高レベル探索者に護衛されながらダンジョン内を探索して、モンスターを倒してレベルアップを目指して頂きます。装備の無い方には武器や防具のレンタルも行っております」

 「何故そんな事が始まったのか聞いても良いでしょうか?」

 「勿論構いませんとも。

  お客様は勇者ロック王子の、勇者の供の選別の話はご存知ですよね」

 「……ええまぁ」

 「ならば当然、スキルの更新の発見についてもご存知かと思います」

 「勿論知っています」

 「そしてスキルの更新をすれば、外れスキル、もとい呪いスキルの解除スキルを手に入れられるということもご存知かと」

 「当然です。……ああ、分かりました。そういう事ですか」

 「そうです。ご存知かとは思いますが、呪いスキルをお持ちの方は結構な割合で存在しています。

  ロゼッタ姫の様な大外れではありませんが、俗に外れスキルと呼ばれていたスキル所持者達には、このスキル更新の話はまさに福音となったのです」

 「成程」

 「しかしここで問題が発生しました。

  兵士やモンスターハンターでも無い限り、基本的に一般市民はレベル上げを行っていなかったのです。

  当然外れスキルの持ち主達も」

 「まぁそうでしょうね。ああ、それでレベルアップツアーですか」

 「まさにその通りです。

  スキル更新の話が伝えられてから、どうにかして呪いスキルを解除したいと考える方が増加しましてね。

  でも殆どの方達は戦えないのでレベルを上げることが出来ないのです。

  そうこうしている内に何人かの裕福な家の方が探索者を雇い、ダンジョンの中でのレベル上げを行い始めました。

 その話を聞いた一般市民の方達からの要請で、ヤマモリの町のダンジョン協会は低層階限定でのレベルアップツアーを開催する運びとなったのです」

 「低層階限定ですか。それでは急激なレベルアップは不可能でしょう」

 「それは勿論分かっていますが、安全には換えられません。それに勇者の供に選ばれたロゼッタ姫も、8年間毎日10匹の雑魚モンスターの討伐で自らの呪いに打ち勝ったのです。ここを訪れる方達は当然その話を聞いていますので、ほとんどの参加者が数年掛けて授けられた呪いスキルを解除する計画を立てているのですよ」

 「分かりました。ありがとうございます」



 俺達は受付から離れてダンジョンの入口を見つめた。

 初心者コースもレベルアップツアーも大層な人気らしく、人が大勢受付をしている。

 初心者コースはその名の通り経験の浅い若者達にダンジョンのなんたるかを教えるためのツアーであり、これからダンジョンで一山当てようと考えている若者が多く集まっていた。


 そしてレベルアップツアーの受付には、何やら幸薄そうな雰囲気を醸し出している人達が、覚悟を持って受付に並んでいるのだ。

 初心者コースに並んでいる人達が自らの意思でダンジョンに潜りに来ているのと違い、レベルアップツアーの参加者の大半は、潜りたくないけど、潜ってレベルアップしないと呪いスキルを解除できないから仕方なく参加しているという感じがありありと分かる。


 まさか俺とロゼが行ったスキルの更新の影響がここまでとは。

 俺は幸いにして呪いスキルは手に入れなかったが、手に入れてしまった人にとっては、危険なダンジョンに潜ってでも解除したい代物なのだろう。

 俺は彼らの健闘を祈り、レベルアップツアーの受付から離れていったのだった。



 それから俺達は初心者講習の受付を終え、開始を待っていた。

 俺達の実力からすればダンジョンに出てくるモンスター相手なら全くもって問題は無いのだが、このダンジョンは、昨日潜った『年齢のダンジョン』とは違い、ダンジョン特有の罠や仕掛けがあるため、まずは勉強のために初日は初心者講習に参加した方が良いと、案内人にも勧められていたのだ。


 そうして本日分の初心者講習参加者の受付は締め切られ、俺達は近くの建物へと連れて行かれた。

 見覚えのある建物だと思っていたら、それはつい先日まで避難場所として機能していたヤマモリの町のダンジョン協会の建物であった。

 俺達は揃って、これまた見覚えのある会議室の中へと案内される。

 そこには何と、つい一昨日出会ったばかりの、あの案内人が待ち構えていたのであった。



 「はい、では皆さん本日は『人数のダンジョン』初心者講習に参加頂き誠にありがとうございます。

  皆さんはとてもラッキーですよ。

  何と本日の講師は、このヤマモリの町のダンジョンの殆どを制覇した伝説のダンジョン探索者、ミスター・グラモが受け持ってくれますからね」

 「「おおおぉぉぉ!!!」」


 参加者達は大盛り上がりだ。

 と言うかあの案内人ミスター・グラモという名前だったのか。

 「名乗る程の者じゃねぇですんでな」とか言って結局名前は教えてくれなかったから、俺達も初めて名前を知った。

 そしてやはり彼は人気者らしい。

 まぁそうだよな、仮にも町長が推薦してきたヤマモリの町一番の凄腕なんだ。

 この町のダンジョンに潜りに来た連中なら知っていて当然なのか。


 「はい、殆どの方にはお初にお目に掛かりますな。探索者のグラモと申します。  しかしあっしはあっしの名前を余り好きじゃねぇですんで。

  出来れば『講師』とか『ミスター』とか呼んでくれると嬉しいですな」


 ミスター・グラモが参加者達に最初に名前で呼ぶなと注意している。

 しかしそうか、名を名乗らなかったのは、自分の名前が嫌いだったからなのか。


 参加者達は彼の要請に素直に従い、『講師殿』とか『ミスター』とか好き勝手に呼び始めた。

 彼は頷いてから参加者達を見回し、俺達の方を向いてニッコリと笑ったのだった。


 「さて、今回の参加者は合計20人といった所ですな。それではまず自己紹介をして、軽く座学を行ってから、早速ダンジョンに潜りたいと思いますな」

 「ダンジョンに潜るにあたって、まだ装備が整っていない方は事前に申請をして下さい。座学を行っている最中にこちらで一通り揃えますので」

 「おおっ太っ腹! 装備までくれるのかよ!」

 「いいえ、あくまで貸すだけです。初心者講習が終了した後で返して貰いますので、お忘れなく」


 15歳位に見える若者が、適当なことを言って司会のお姉さんに突っ込まれている。

 初心者コースの受付の際にこの話は説明されていた筈だが、彼は聞いていなかったのであろうか。


 「装備とは自分の力で揃えることで愛着が湧くものです。初心者講習参加の間に獲得した魔石やアイテムは皆さんに分配されますから、少しずつ装備を整えていって、立派な探索者を目指して下さい」

 「ちっ、分かったよ。ついでにもう一つ良いか?」

 「はい、何でしょうか?」

 「そこにいるそいつらは何なんだ?

  ここは初心者講習であってレベルアップツアーじゃないんだぞ?

  金が掛かるからとは言え、こっちに参加するなんてどういうつもりなんだ?」


 そう言って彼は俺達を指差してきた。

 ……えっ? 俺達?

 何で俺達が文句を言われなきゃならんのだ?


 「ふむ、あなたは彼らがここに参加しているのはおかしいと言うのですな」

 「当たり前だろ。棺桶に片足突っ込んでいる様な爺さんと、どう見てもガキにしか見えない子供が3人。

  残りの3人にしたって、一目で高級品と分かる装備を身に着けやがって。

  俺達は遊びでやってるんじゃないんだ。

  探索者として喰っていくつもりなんだぞ。

  金持ちの道楽に付き合うつもりはないんだよ!」


 そう言って彼は俺達に敵意を剥き出しにしてくる。

 良く見れば初心者講習参加者の大半が同じ目付きをしていた。

 とは言っても恨みの篭った視線ではなく、どちらかと言うと神聖な仕事場を汚された職人の蔑んだ視線だ。

 どうやら彼らは俺達が遊びで参加しているのだと考えて怒っているらしい。

 いやまぁ成程、理解は出来た。

 事情を知らなければ、老師は普通の老人に見えるし、ハヤテもデンデもゲンも子供にしか見えないからな。


 でもそうか、俺達は盗賊達から町を開放し、復興の手伝いもしていたけれど、顔が知れ渡っている訳じゃ無かったんだな。

 見れば、誰も彼もが知らない顔だ。

 ヤマモリの町も広いから、彼らは彼らで別の場所で復興に携わっていたのだろう。


 「ふむふむ、成程、話は分かりましたな。しかし彼らがこの初心者講習に参加しているのはあっしの勧めに従ったからですからな。理解して貰いたいですな」

 「ミスターが? 何でまたこんな連中を!」

 「それは自己紹介をすれば分かりますな。

  ではまずは元気な君からお願いしますな」

 「おう! 俺はヤマモリの町から東へ3日程進んだ村の出身で、3日前にこの町を訪れて……」


 そうやって順番に自己紹介をして行き、残っているのは俺達だけになった。

 この順番、絶対わざとだ間違いない。

 案内人としてダンジョンの紹介をされた時も思ったが、ミスター・グラモは相手を驚かすことが好きみたいだ。


 そして俺達の中で最初に選ばれたのは俺であった。


 「お初にお目に掛かります。俺の名はナイト=ロックウェルと申します。生まれも育ちもタートルの町で、つい最近までタートルの町の町長として働いておりました。現在は土の勇者であるロック王子の供として国内を巡っております。本日はよろしくお願い申し上げます」

 「「は?」」


 彼らの顔が引きつった。

 しかし俺達の自己紹介はまだ続くのだった。


 「初めてお目にかかります。ライ=ロックウェルと申します。こちらのナイト兄さんの弟で、同じくロック王子の供をさせて戴いております。宜しくお願いします」

 「「ええ?」」


 「吾輩はトウと申す者です。故あって土の勇者一行と行動を供にしております。  棺桶に片足を突っ込んではおりますが、まだまだ元気に動くことが出来ます。

  吾輩の事は気軽に老師とでも呼んで下され」

 「「老師!? 老師ってまさか……」」


 「オレはハヤテ! 狩人だ!」

 「同じく狩人のデンデと申します。皆さんよりは戦えると思いますので子供扱いは必要ありません」

 「オイラはゲン! 宜しくな!」

 「「ハヤテにデンデにゲン!? いや、そんな……嘘でしょ?」」


 彼らは全員青い顔をしている。

 良く見れば司会の女の人も、スタッフの皆さんも同じ顔だ。

 ミスターグラモは俺達について誰にも話していなかったらしい。

 う~ん、これは気付け薬でも用意しておいたほうが良いかもな。


 そうして最後に前に出たのは1人の若い男であった。

 彼は茶色の髪と目を持ち、その所作は優雅の一言。

 着ている服とあいまって上流階級の人間だと一目で分かる若者であった。

 彼らはその正体にもうとっくに気づいている。

 そこにとどめを刺すべく、我が親友は自己紹介を開始したのであった。



 「お初にお目に掛かります。私の名はロック=A=タートル。

  玄武の国の王子にして今代の土の勇者をしている者です。

  この度はミスターの勧めにより『人数のダンジョン』初心者講習へと参加させて戴きました。

  私も昨日『年齢のダンジョン』に潜ったのが初めてでしたので、ダンジョンについては初心者も同然です。

  皆さんと共に学べたら良いと考えております。

  また、私の仲間には老人も子供も居りますが、彼らの強さについては私が保証致しますのでご心配はありません。

  短い間でしょうが、どうか宜しくお願い致します」

 「「……きゅう」」


 ロックが頭を下げたと同時に、俺達に喰って掛かって来ていた少年を含めて、参加者の半分ほどが気絶してしまった。

 良く見ればスタッフの皆さんまでも腰を抜かして驚いている。


 俺はロックの影響力に戦慄しながらも、彼らの目を覚まさせるため、いつかキングも飲まされていた、軍でも使われている気付け薬を取り出したのであった。

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