第六十六話 年齢のダンジョン
案内人に各種ダンジョンの紹介をして貰った翌日、俺達はヤマモリの町近郊のダンジョンの一つ、『年齢のダンジョン』へとやって来ていた。
このダンジョンはダンジョン自体の広さも深さもそれ程でもなく、内部構造も簡単で、出現モンスターも弱く、しかも道中に罠が存在しない事で知られている、いわゆる初心者向けのダンジョンである。
しかしここは他のダンジョンとは違い、各階毎に入場制限が存在し、それを満たさなければ先へと進めない仕様となっている。
このダンジョンにおける入場制限は、名前が示す通り『年齢』だ。
生後一年経過すると1階に入ることが出来、以降一年経つ毎に1階層ずつ開放されていくという特殊な構造をしているのだ。
つまり年をとっている程奥まで潜ることが出来るという珍しいダンジョンであり、俺達は今12階を攻略し、13階へと進もうとしていた。
しかし先には進めなかった。
ハヤテとデンデの兄弟が門に阻まれてしまったからである。
「うわ~、ここまでか~」
「ここまでみたいですね兄さん」
「ふむ、スマンが吾輩達はここまでのようだ。
目的は果たせたので、先に戻っておくとしよう」
「いや、その必要は無い。このダンジョンを選んだ目的は果たしたからな。
探索はこれで終了とする」
「了解した」
「分かったぜ弟」
「まぁ僕達では結局このダンジョンは攻略することは出来ませんからねぇ」
俺達がこのダンジョンを選んだ理由、それはこのダンジョンの特性を利用して、ハヤテとデンデの年齢を大雑把に把握しておく為であった。
白虎の国の山奥の更に奥に捨てられていたという二人は、ちゃんとした誕生日が分かっておらず、二人は勿論、二人を育て上げた老師も把握してはいなかったのだ。
白虎の国の上層部は二人の生みの親を発見しているという話なので、二人の正確な誕生日を把握しているのだろうが、二人はその事について聞いていなかったし、俺達も詳しくは知らなかった。
そんな話を復興の合間に話していたので、肩慣らしも兼ねて、最初はこの年齢のダンジョンへとアタックを開始したのである。
結果俺達は12階まで潜ることが出来、二人がそれ以上は進めなかった事から、二人の年齢は12歳で確定となった。
ちなみに攻略はしない。
と言うか、出来ない。
このダンジョンの最下層は20階。
つまり20歳以上にならなければ、攻略そのものが不可能なダンジョンなのである。
正直ちょっと残念だ。
俺は前世では30年間生きていた。
もしも俺がこのまま潜っていったら、このダンジョンはひょっとしたら攻略できたのかもしれないのだ。
でも攻略出来たら出来たで、問題になっていたかもしれない。
だからこれで良かったのだ。
俺達は来た道を戻る。
残念ながら迷宮から即座に帰還できるような魔法もマジックアイテムも無いし、ダンジョン自体にも途中階から即座に地上へと帰還できるようなシステムは存在していない。
ゲームのようなお手軽仕様ではないのだ。
唯一の例外は攻略した時の報酬だ。
最下層まで到達した探索者は、最下層に鎮座するダンジョンコアに手をかざすことにより、自らが望む場所へとダンジョンの最奥から瞬時に移動が出来るのだという。
これは本にも書かれていたし、案内人にも確認を取ったので間違いはない。
しかしそれ以外のダンジョン探索は、地道に降りて、地道に戻らなければならない。
ダンジョン探索に楽な道は存在しないのだ。
そうして下へ続く階段があった場所からしばらく歩くと、道の途中の曲がり角から突然モンスターが襲い掛かってきた。
俺達は迎撃に動く。
とは言え、それ程慌ててはいない。
この階を攻略している間に、何度も何度も相手にしてきたモンスターだからだ。
「ゲギャガガガ! ゲギャギャ!」
そのモンスターは透明度は80%程、薄青色の肌に皮の鎧を着込んで、鉄の槍を持ったまま俺達の方へと向かって来る。
その姿は地下であるというのに不自然に良く見えている。
見えている理由は通路全体が薄く発光して、照明代わりになっているお陰だ。
ダンジョン全体に言えることであるが、ダンジョンの通路や壁や天井は、その材質を問わず基本的に薄く発光し視界が確保されているのである。
そのお陰で、モンスターの姿も、石で覆われた通路もとても良く見えている。
モンスターの名前は、ダンジョンブルーナイトゴブリン。
この年齢のダンジョン12階に唯一『発生する』モンスターであった。
「今回は俺の出番だな。索敵宜しく!」
「「了解!」」
モンスターの数が一匹だったので、事前の打ち合わせ通り、俺が前に出て戦う。
モンスターが複数の場合は、一挙に殲滅。
しかしモンスターが一匹だった場合は、順番に一対一で戦い、戦闘経験を身に付ける。
そういう話になっていたので、今回は俺が1人で戦うことになったのだ。
「ギャギャギャガアア! ギャギャギャ!」
ゴブリンは相手が俺一人だと認識したのか、「楽勝だぜ!」と言った声を響かせながら、俺に槍を突き出してくる。
俺はそれを見切り、時には剣で打払い、段々とスピードを上げて、ゴブリンの猛攻を凌ぎ、そして攻撃に転じていく。
正直槍使いが相手なら、そう簡単には負けるとは思えない。
何しろ同じパーティーの弟が、高度な槍使いであり、父さんも槍は得意としていたために、子供の頃はもっと強力な槍の圧力に耐えていたのだ。
俺はスキを突いてゴブリンの体に傷を付けていく。
その傷が10を超えた頃、そのままの勢いで肉薄し、足の甲を踏み潰して動きを止めてから顔面を拳でぶん殴り、そのままの勢いで手首を切断。
相手の武器を奪ってから、首を切断し、戦闘は終了した。
「ハイ終了! お疲れ~」
「別に疲れちゃいないぜ旦那」
「敵も来なかったしな」
「この程度で疲れるとは。ナイト殿は精進が足りていないのではないですかな?」
「皆さん……少しは兄さんを褒めてあげても良いんじゃないですか?」
「いや、良いよライ。役所のノリを出した俺が悪かった」
「よっしゃー! 魔石だ魔石!」
「あっずるい兄さん! 次は我の番でしょうが!」
倒したモンスターから魔石を取り出すのはハヤテとデンデの兄弟の仕事だ。
これはただ着いてくるだけでは暇だから雑用を任せたのと同時に、未だスキル授与の儀式を行なっていない二人に経験値を大量に与えると、何が起こるのかの実験も兼ねている。
もしもこの調子で二人が経験値を集めまくった後に、スキル授与の儀式を終えて、一気にレベルアップが行われたならば、経験値のストックとはスキル獲得前でも可能という証明になるのだ。
そうなれば10歳になっていない子供であっても経験値を獲得させておこうという風潮が出来るかもしれない。
まぁそうなると金持ちとかは、我が子を子供の頃から高レベルにするためにあの手この手を尽くすとかしそうだが……
それと同時に、子供はすべからく低レベルであるという状況を打破することが出来るようになるかもしれないのだ。
8年前、アナは初の実践時にレベル6だったので、魔族相手に苦労をした。
あれがもしも最初から『勇者』を極めている程のレベルだったのならば、手こずる事すらも無く、最初の一撃で簡単に危機を脱していた筈なのだ。
そう考えた俺達は、まだスキル授与の儀式を受けていない二人で実験してみる事にしたのである。
勿論白虎の国にも二人の保護者であるトウ老師にも許可をとってあるし、二人にもキチンと説明済みだ。
この二人、未だに自分達は勇者ではなく狩人だと言い続け、スキル授与の儀式を受けるつもりがないのだ。
そして俺達もそれは強制するつもりはない。
勇者を強制した結果、火の勇者や水の勇者みたいになってしまっては元も子もないからだ。
だが、この実験を行うだけならば何も問題は無い。
スキルを授与されていない以上、どれだけ経験値を得たとしても、現時点では意味が無い行為だからだ。
俺がそんなことを考えていると、ライが何かを見つけたのか、合図をして俺達を招き寄せる。
向かった先ではダンジョンの通路の上で黒い霧みたいな物が渦巻き、如何にも何か出てきそうな雰囲気を醸し出していた。
俺達はここに来るまでに何度もこの光景を見ている。
俺達はゆっくりと渦を取り囲み、渦の動きが止まるのを待つ。
しばらくすると渦の動きは止まり、目の前には先程と同じダンジョンブルーナイトゴブリンが存在していた。
そしてゴブリンが実体化するやいなや、ライの槍がゴブリンの頭を串刺しにし、ゴブリンはそのまま崩れ落ちた。
そして今度はハヤテがゴブリンから魔石をえぐり出したのであった。
先程の黒い渦はダンジョン内でモンスターが発生する前兆である。
地上では空気中の魔力が結晶化し、魔石が生まれ、やがてそれはモンスターとなる。
しかしダンジョンの中ではその過程がすっ飛ばされ、いきなり魔石を持ったモンスターが『発生』するのだ。
この現象だが、ダンジョンの中では過程をすっ飛ばしてモンスターが発生するという説と、ダンジョンは何処からかモンスターを召喚して来ているという説が存在し、未だに結論は出ていない
しかし有力なのは過程をすっ飛ばして発生するという説の方だ。
そうでないと、ダンジョン特有のモンスターの生態に説明が付けられないし、地上で突然モンスターが消滅したという話は何処にも転がっていないからというのが根拠となっている。
かくいう俺も前者を支持しているが、まぁだからどうしたという話でもない。
重要なのはダンジョンで黒い渦を見掛けたらモンスター発生の合図だから注意しろという話なのだから。
俺達はそれから上へと戻る階段まで戻り、降りてきた道を真っ直ぐ辿って地上へと帰還を果たした。
ちなみに宝箱は一つも開けてはいない。
久しぶりにダンジョンが開放されたその日に、このダンジョンの宝箱の中身は根こそぎ回収されてしまっているからである。
古き良きのRPGとは違い、主人公たちが来るまでの間、誰も宝箱を開けていないという都合の良い状況など存在しないのだ。
「は~、楽しかった~!」
「ダンジョンと聞いて最初は躊躇していましたけれど、入ってみれば、意外とどうということもなかったですね」
「うむ、吾輩も初めてのダンジョンだったが、中々に得難い体験をさせて貰った」
「あれ? 老師もダンジョンは初めてだったのか?」
「お忘れか? 吾輩の前の体では大きすぎてダンジョンの中には入りずらかったであろう? それに少し前までのモンスターだった吾輩には、ダンジョンに入るという発想自体が無かったからな」
「ああ、それってやっぱり本当なのか」
「それとは?」
「『地上のモンスターはダンジョンには入らない』『ダンジョンのモンスターは地上には出てこない』って奴だよ」
「う~む、ダンジョンのモンスターについては分からんが、吾輩がダンジョンに入らなかったというのは紛れもない事実であるぞ」
「つまり何か理由があったから入らなかったという訳ではないと?」
「そう言われても良く分からんな。とにかく吾輩はダンジョンには入らなかったのだ。それに理由は存在しない」
「……まぁ良いか。それで今はそんな事はない訳だな」
「うむ。ダンジョンに入ることに何の問題も抵抗も無いな」
「つまりモンスターはダンジョンには入らないが、魔族は入るという解釈で良いのか?」
「間違ってはいないだろう。正確に言うと『入ることも出来る』になるがな」
これはまた新事実を一つ発見だ。
これまでダンジョンの中はダンジョンの中だけの脅威があるものだと考えられていたが、魔族も出入り出来るものだと考えると、新たに外部からの脅威まで考えなければならなくなるかもしれない。
ダンジョンに入ってしまうと、クリアする以外に外に戻るためにはどうしても同じ通路を使わなければならなくなる。
もし魔族が人間目当てにダンジョンに入るとするならば、そうした場所で待ち伏せて襲いかかって来ることも考えられるからだ。
これは後で町長に報告しておこう。
更に言えば父さんや陛下にも報告しておこう。
俺はそう心に決めたのだった。
「で、どうするんだ弟。次はどのダンジョンを攻める?」
「そうだな……正直今回は物足りなかったので、次はもう少し難易度の高いダンジョンに挑戦してみようと思う」
「賛成です。このダンジョンは簡単過ぎて、歯ごたえがありませんでした」
「人も全然居ないから、中で商売も出来なかったしな」
「では明日は……そうだな、『人数のダンジョン』の探索に向かおうか」
「『人数のダンジョン』ですか? でもあそこに入るにはこの人数では……」
「勿論それは理解している。しかし折角ダンジョンのある町を訪れているのだ。
ここは一つ別のパーティーと組んで潜ってみても良いかと思ってな」
「賛成だ。俺達の旅の目的の一つは見聞を広めることだ。
知らない連中と一緒にダンジョンに潜るのも一つの経験だろ」
「了解しました。
そう言えば、案内人さんも人数のダンジョンを勧めていましたしね」
「そう言えば、そうだったな。
では明日は案内人殿のお勧めに従って動くとするか」
そんな訳で俺達は、2つめのダンジョンに『人数のダンジョン』を選択したのであった。




