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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第三章 冒険編
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第六十四話 町の復興と老師の名前

2017/08/19 本文を細かく訂正

 それから数日後、俺達はまだヤマモリの町に滞在していた。

 町の宿は軒並み野戦病院の様な有様になっていたので、俺達は焼け落ちた町中は避け、比較的無事だった役所の一室を借りて寝泊まりしている。


 俺達はあの晩、町を開放した後は、盗賊の捕縛に町の住民の救出と寝る間も惜しんで動き回った。

 日が昇ってからは町の被害状況の確認に追われ、町に戻ってきた避難民達と共に町の復興に携わり、取り敢えずの目処が立つ頃には数日が経過していたのである。


 盗賊達は町の中で猛威を奮っており、その悪行は正に筆舌に尽くしがたい内容であった。

 盗賊達を捕らえ、町を開放し、避難民達が町に戻って来た翌日の昼過ぎには、いつの間にやら盗賊達が皆殺しにされていたのが、その証拠と言うべきか。

 本音を言えば、何人かは話を聞くために残しておいて貰いたかったのだが、町の住民達の怒りも良く分かったので、俺達はこの件に関しては何も言わなかった。


 そして俺は今日も町の救護所に出向き、夜の内に作成した薬を格安で販売し、町の住民に感謝されていた。

 ちなみに最初から持っていた薬や日用品は、初日にほぼ売り捌いてしまった。

 とにかく被害が酷く、薬も日用品も何もかもが足りなかったからだ。

 

 勇者の供として、勇者の旅の持ち物を売り捌く事に抵抗はあったのだが、それよりも復興に手を貸してやりたいというロックの意見もあり、最低限の数だけは残して、俺は俺のアイテムボックス内の在庫を捌き切った。

 とは言え、俺も商人の端くれである。

 持って来た物をただで配るような真似はせず、だがしかし原価ギリギリで売り捌くことで、町の復興に貢献しているのだ。


 これは同時に俺の次のスキル更新の為の布石でもある。

 俺はこの町に来るまでの間にも、立ち寄ってきた村や町でちょくちょく商売をしていたのだ。

 『中級商人』の更新先の一つ『行商人』の更新判定には、

 『10以上の町や村で合計100人以上の相手と商売をしていること』

 という物が存在していた。

 この町に到着するまでに立ち寄った村の数は5つ、町の数はここで2つ目であり、商売相手の数は既に100人を突破している。

 つまり後3つの村や町で商売をすれば更新判定を満たせるのだ。

 いや、タートルの町まで含めれば、残りは2つになるのか。

 どちらにしてもやらない理由はないのであった。


 ちなみにロックはその豊富な魔力を活用し、石で作ったゴーレムを生み出して、瓦礫の撤去を行いながら、同時に石造りの建物を次々と生み出して、復興のスピードを加速させている。

 その姿はかつてタートルの町を作ったと伝わる、伝説の勇者の再来のようだ。

 ロックが通った後は、町の形から変わっているという有様になってしまっており、町の住民達がロックへ頭を下げる頻度は益々増えていくのであった。


 そしてライはそんなロックに張り付いて、護衛の任務をこなしていた。

 どうやらあの夜、盗賊団の親玉を殺害した後に外壁から落下してしまい、碌に役に立てなかった事を反省しているようなのだ。


 正直肩に力が入りすぎだとも思うが、他の場所に回してトラブルが起きるよりかはマシであるので、ロックに張り付かせたままにしてある。

 思えばあいつも優秀ではあるのだが、16歳の若者であることには違いがない。

 16歳の少年が格好を着けたがるなんてごく当たり前のことだ。

 まぁ今は思い切り失敗したお陰で、猛省する羽目になっているのだが。


 格好良さというのは、自分で演出する物ではなく、あくまで行動の結果現れる現象だと思うのだが、ライはその辺りの事がどうも良く分かっていない様だ。

 まぁ旅を始めてまだ幾らも経っていないのだ。

 これから様々な失敗と成功を繰り返し、ライもライなりの成長を繰り返して行って貰いたいと思う。



 そしてゲンと老師とハヤテとデンデは、俺とロックの間を行ったり来たりしながら俺達の作業を興味深く見物している。

 たまに手伝ってくれることもあるが、基本的には見ているだけだ。

 まぁ復興の手伝いなんて、この4人には関係のない話であるので、やる気も起きないのであろう。

 しかし手が足りない時は手助けしてくれるし、時折聞こえて来る噂によれば、俺達が居ない場所でも、町の住民の手助けをしてくれているようなので、放って置いても問題はないだろう。


 結局俺達は更に数日の間、町の復興に尽力した。

 具体的に言うと、タートルの町から救援の騎士団が到着するまでの間は町から離れる訳にも行かなかったので、町の復興の手助けをしていたのだ。


 そしてついに本日、タートルの町からヤマモリの町を救援するための騎士団の先発部隊が到着した。


 その頃には町の様子も大分落ち着き、住民達の間にも国の騎士団が到着してくれたことで安心感が広がっていった。

 そして騎士団が到着すると同時に、ヤマモリの町上層部は復興の初期段階が終了したと宣言を出したのだ。


 俺達はそれを聞き、復興の手助けを終了することを決定した。

 この町の復興も大事だが、それはあくまでもこの町の住民達が行うべき事だ。

 手が足りないのなら騎士団が働いてくれるだろうし、もうしばらくすれば彼らの本隊も合流するという話だしな。

 俺達はあくまでも勇者一行として、勇者としての活動を優先することにしたのである。


 そして町の復興に一応の目処が付いたその日の夜、俺達は町長の家の夕食に招待されたのであった。



 「まずは我が町をお救いいただき、心から感謝を申し上げます」

 「気にしなくても良いですよ町長、勇者として当たり前の事をしたまでですから」

 「それでもですよロック王子。王子達は悪辣な盗賊団の魔の手からこの町を開放して下さいました。更に瓦礫の撤去に、新しい家の設営、そして不足していた薬品や日用品の補充まで行ってくださいました。正直申しまして、このお礼をどうやって返したら良いのか分からないくらい感謝しているのです」


 町長は深々と頭を下げる。

 騎士団が到着するまでの間に何度下げられたか分からない位であったが、未だに下げたりないようだ。

 まぁ盗賊団に占領された町を、現れるなり開放し、復興の手助けまでしたのだ。

 感謝されるのも仕方ないのかもしれない。


 そんな感謝の固まりになっている町長が用意してくれた夕食の品々は、大した量と種類であった。

 この町は森も山も近いので、町の住民達も食料には困っていなかったが、それにしたってこれだけの種類を集めるのは大変だっただろう。

 聞けば、俺達に感謝している町の住民達が、森や山に出向いて食材を確保してきてくれたのだという。

 善意には善意が返ってくるということか。

 俺は食材を取ってきてくれた名も知らぬ住民達に感謝しながら食事を続けたのであった。


 俺達は町長の話を聞きながら、モリモリと食事を口に運んでいる。

 ハヤテとデンデも一応のテーブルマナーを白虎の国で教え込まれていたらしく、無難にフォークとナイフを使いこなせていた。

 使いこなせていないのは、俺達の中では老師だけだ。

 彼は四苦八苦しながらナイフとフォークを取り扱い、おっかなびっくり食事を続けている。

 それを見た町長は、老師に対して頭を下げたのだった。


 「『トウ老師』殿もありがとうございました。何でもあの夜に操ったモンスターを捕まえるために相当骨を折ってくれたとのことで」

 「いやいや、これは吾輩の修行不足故、町長殿が謝るようなことではございません」

 「いえいえ、空を飛ぶ事が出来るあれ程の巨大モンスターを手懐けるなど、中々出来ることではございません。

  何か要望がございましたら、遠慮なくお申し出下さい」

 「ではサンドイッチをいただけますかな? 吾輩あれが大好物でしてな」

 「……やはりモンスターを操るにはそれ相応の代償が必要なのですね。

  オイ! サンドイッチだ! 大至急頼むぞ!」


 町長が上手い具合に老師の体について勘違いをしてくれている。

 どうやら魔族に進化したばかりで、ナイフやフォークを使った食事に未だに慣れていないのを、モンスターを操った時の怪我のせいだと考えてくれているようなのだ。

 ちなみにあの時俺とライは老師にぶら下がって空から襲い掛かったのだが、その様子は外で待機していた町の住民達にもバッチリ見られていた。

 見られてはいたが、遠目だったからなのか、鳥系のモンスターであることまでは分かったが、それがフクロウだとはバレなかったのだ。

 そしてそれが老師の正体だと考える者は誰もおらず、老師はあのモンスターを操っていたモンスター使いだと認識されていたのである。

 


 そしていつの間にやら老師には『トウ』という名前が付いていた。

 ハヤテとデンデが「とうちゃん」やら「父さん」やらと呼び続けていたのが原因らしい。

 俺達は老師が二人の育ての親であるモンスターオウルが進化した姿だと知っている。

 しかし他の人達からすれば、勇者のパーティーに同行している謎の凄腕美形老人にしか見えない訳だ。

 そして老師の見た目は推定でも70~80といった所。

 人間の常識に当てはめると二人とは老人と孫の間柄であり、父親とは認識されていないのだ。

 そもそも二人が風の勇者と雷の勇者だということは町の住民には知れ渡っているため、二人の育ての親がモンスターオウルだという話も浸透していたのだ。

 そして彼らは、目の前の老人が魔族に進化したばかりのモンスターオウルだとは、誰一人として考えていないのである。


 当たり前だ。

 魔族が勇者と行動を共にしているなんて、通常ではありえないのだから。


 子供勇者の二人はこの老人の事を「とうちゃん」「とうさん」と呼んでいる。

 俺達は『フクロウ殿』と呼ぶ訳にもいかないので、俺が名付けた「老師」「老師殿」と呼んでいる。

 そしてゲンはライのことを「ライちゃん」と呼んでいた。


 以上が混ざり、気がつけば、老師はこの町の住民達から『トウ老師』と呼ばれていたのである。

 俺達はこの勘違いを正すことはなかった。

 むしろ勇者一行に同行する謎の老人に名前が追加されたことを喜んでいたくらいなのだ。


 フクロウ殿ともオウル殿とも呼べない現状、全然関係のない名前が定着するのならそれはそれで良かったのである。

 こうして、風の勇者と雷の勇者を育て上げたモンスターオウルは、魔族へと進化し、ヤマモリの町で『トウ』という名前を授かったのであった。



 「ところで町長、やはり通信機は故障したままでしょうか?」

 「面目次第もありません。盗賊共に襲われた際に通信機を置いていた部屋が、奴らの魔法使いの放った魔法の直撃を喰らいまして。衝撃で壊れてしまったようでうんともすんとも言わなくなってしまったのです」

 「そうですか。まぁ仕方がありません。私達は暫くの間は、『町の外で潜っています』ので、何か緊急の用事がありましたら、遠慮なくおっしゃって下さい」

 「遠慮なくって……おい、弟! 俺の念話を使うためにはご主人の魔力が必要なんだぞ!」

 「それは勿論理解している。しかしこれは姉上にもご理解いただけていることだ。済まないが宜しく頼むぞ」

 「ちぇっ、分かったよ。それと言っておくけど、念話はダンジョンの中では使えないからな」

 「そうなのか?」

 「ヨミとご主人が向こうのダンジョンに潜って確認済みだ。

  『ダンジョンの中では念話は通じない』覚えておけよ」

 「了解した。覚えておこう」


 ゲンとロックが町長そっちのけでダンジョンでの話で盛り上がっている。

 それを聞いた町長は、再びロックへと話し掛けた。


 「ロック王子と皆様ははダンジョンへ潜る予定なのですね」

 「ええ、勇者として活動するにあたって、一度は挑戦したいと考えていましたからね」

 「そうですか、では私共で腕の良い案内人を紹介致しましょう。

  土の勇者であるロック王子ならば大丈夫かとは思いますが、

  万が一という可能性もありますので、くれぐれもお気をつけて」

 「ありがとうございます。つい先日にその『万が一』の直撃を喰らっていますので、気を抜くことなどありませんよ」

 「それでも十分にお気を付けを。

  歴代の勇者様の何人かもダンジョン内でお亡くなりになっておりますから」

 「分かりました」

 「それとハヤテ殿とデンデ殿に関してはどうするおつもりで?」

 「この二人もダンジョンに同行させます」

 「それは……大丈夫なのですか?」

 「実はこれは白虎の国からの要請なのです。

  2人に関してはしばらくは私が預かることが正式に決定されましてね。

  可能な限り手元に置いて育てて貰いたいと要請が来ております」

 「それはまたどうして?」

 「私のことを『兄貴』として慕ってくれているからだそうですよ。

  白虎の国の城の中では誰にも懐かずに苦労したそうでしてね。

  ちなみに教育に関してはナイトが面倒を見ます。

  こいつはこう見えても『先生』ですから」

 「『こう見えても』は余計だろ」

 「勉強は嫌いだ!」

 「兄さんに同じく!」

 「そんな事を言っていられるのも今の内だけだぞ。

  ナイトの奴は勇者の供どころか、現在活躍中の氷の勇者すらも育て上げた我が国の名物教師だ。きっとお前達も勉強が好きになる筈だ」

 「いやいや、やる前からハードルを上げるなよ」


 そういう訳で、ハヤテとデンデは俺達が正式に預かることが決定し、

 同時に俺は二人の先生になってしまったのであった。


 そして俺達は明日から、ダンジョンへの挑戦を開始するのであった。

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