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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第三章 冒険編
65/173

第六十三話 ヤマモリの町開放戦

2017/08/08

2017/07/29~2017/08/02の間に投稿した、第五十九話~第六十三話を大幅に改稿しました。

その為、第五十三話~第五十八話までの話を多少変更しております。


2017/08/19 本文を細かく訂正

 夜、

 ヤマモリの町の囲む外壁の上は、篝火が轟々と焚かれ、多くの見張りが行き来していた。


 しかし彼らのやる気は極めて低く、碌に警戒もしていなかった。

 無理もない、昼間からずっと警戒を続けていたため、集中力が切れかけているのだ。

 夜になれば、視界は悪くなり、更に見張りが大変になるので、それも彼らのやる気を落とす原因となっている。


 おまけに今日は新月だ。

 月明かりさえ存在しない。

 夜間に行動する盗賊だって、月明かりを頼りに視界を確保するのだ。

 だから彼らは基本、新月の時に動くことは無い。

 彼らの常識からすれば、こんな真っ暗闇の中で見張りをするなんて馬鹿馬鹿しいとしか思えないのだった。


 彼らはそう考えていたが、彼らのボスはそう考えては居なかった。

 今も彼らのボスは町の住民達を連行し、町を守る兵器であるシャイニング・バリスタへと魔力を注ぎ続けている。

 その顔には焦りが伺え、見張りの盗賊達はため息を漏らした。



 今日の昼間、町に謎の3人組がやって来たという。

 そいつらの後ろには町から逃げ出した連中の姿も多く見えたそうだ。

 恐らくその3人組は、交渉役であり、町を返してくれとでも言いに来たのだろう。

 だがこちらにはそんなつもりは毛頭ない。

 だからボスは彼らに対して攻撃を仕掛け、終いには盗賊達の生まれ故郷である白虎の国の闘技場に設置されているシャイニング・バリスタまで打ち込んだのだそうだ。


 その時の轟音は凄まじく、町の中でどんちゃん騒ぎをしていた盗賊達は思わず飛び跳ねて外壁の方向を見つめたものだった。

 そう、彼らの殆どは、最初の戦いには参加せず、遊び呆けていたのだ。

 町に近づいたナイト達に対して攻撃を仕掛けていたのは、ほぼ全員が町の住民達だったのである。


 盗賊達は新しいボスがシャイニング・バリスタを使ったのを理解して、やれやれとため息を付いた。

 彼はちょっと短絡的で調子に乗りすぎるところもあるが、意外に頭も回る男である。

 つい先程まで行われていた外敵に対する避けられない魔法の同時攻撃も彼の発案だ。

 何より、恐怖の象徴でしか無かった前のボスから独立を勝ち取り、俺達新参者にも良い目を見させてくれる、中々の男なのだ。

 そんな彼が防衛用の最終兵器を使ったのを見ても、盗賊達は何とも思わなかった。

 むしろ「俺も撃ってみたかった」と思う者が多く、「切り札は最後まで取って置くものだろう」と考える者など一人も居なかったのだ。


 だからしばらくしてボスが彼らを緊急招集した時は驚いたものだ。

 何よりもボスの顔を見て盗賊達は驚いた。

 彼らの新しいボスは、まるで魔王と出会ったような恐怖心を顔全体に張り付かせていたからだ。


 彼は集まった彼の部下達を怒鳴り散らした。

 しかしその内容は、まったく理解を超えた内容であった。


 「化物だ! 化物がやって来た!」

 「化物? あのボス、一体何を……」

 「化物って言ったら化物なんだよ! 理解しろよ! いや、するな! 黙って聞いてろ!」

 「どっちなんですか」

 「うるせぇって言ってんだろう!」


 ボスの持っていた斧が、口答えした仲間の頭に振り下ろされ、その中身をスイカのようにぶち撒けた。

 ボスは一瞬にして仲間を殺してしまったのだ。

 これを見て、その場の全員は一斉に口を閉じた。

 理由はさっぱり分からないが、『ボスが錯乱している』事を理解したからだ。


 「いいか、3人組だ。3人組の化物がやって来たんだ!」

 「いや違う! 化物はあの茶髪だけだ! あんな化物が早々居てたまるか!」

 「奴らは俺の考えた魔法の壁の攻撃を防ぎやがった。それだけじゃねぇ!

  その後でぶっ放したシャイニング・バリスタの直撃も耐えやがったんだ!」

 「何が、「この方法なら大概の敵の相手をすることが出来る筈や」だ!

  あの嘘つきボスめ! 全く効果が無かったじゃねぇか!」

 「何が「こいつさえあれば、王様にだってなれますぜ」だ!

  誰一人殺せなかったんだぞ! お前! お前が言ったんだ!

  一体全体どういう事だ!?」


 そう言ってボスが指差したのは、俺達の中でもマジックアイテムについて詳しい奴だった。

 何でも奴が町の倉庫の中であの闘技場に設置されていた兵器を発見して、ボスに奏上して門の上に取り付けたらしい。

 しかし指差されたその男は、ポカンとした顔をしていた。

 ボスが錯乱している理由が全く分からないからだろう。

 それは他の奴らも同じだろうけれど。


 「ボス、取り敢えず落ち着いて下せえ。

  それで一体何があったんか説明して下さいや」

 「説明だと! 説明ならしただろうが! 化物が来たんだ! 3人組だった! 作戦が通じなかったんだ! シャイニング・バリスタの直撃にも耐えやがったんだ! どういう事だ!」

 「え~と……3人組が町にやって来て、ボスはそいつらに攻撃を仕掛けたけど、そいつらは攻撃に耐えた。だからボスはシャイニング・バリスタを使ったけど、それにも耐えたと。そういう事ですかい?」

 「そういう事だ! どういう事だ!?」

 「どういう事だと言われましてもねぇ。並の人間がシャイニング・バリスタの直撃を受けて死なないなんて有り得ませんよ。……失礼ですが、ヤクでも決めてたんじゃないですか?」

 「俺はシラフだ馬鹿野郎! あの化物は直撃を喰らっても血を流して吹き飛ぶだけで済んだんだよ! テメェが俺を騙したんじゃねぇのか!?」

 「直撃を喰らっても血を流しながら吹き飛ばされただけ?

  何言ってるんですかボス。

  ボスだって闘技場であれが発射される場面を何度も見たでしょう。

  喰らったら消し炭ですよ。

  死体すら残りません。

  直撃じゃなくて、手前に着弾したんでしょうよ」

 「違うっつってんだろうがぁ!」


 そう言ってボスはまた斧を振るう。

 先程のスプラッタ場面を見ていたからか、襲われた男はギリギリで躱すことが出来た。

 しかしボスは器用に斧を操り、今度は下から男に攻撃を浴びせかける。

 斧は男の首を切断し、男の首は上空へと打ち上げられた。


 「嘘つきめ! 嘘つきめ! 良いかお前ら! この俺は化物に狙われている!

  奴らはきっとまた来る!

  だからお前らはこれから24時間! 町の周囲を見張れ! 夜でもだ!

  それと町の連中を全員集めろ!

  シャイニング・バリスタのチャージをしなきゃならねぇ!

  分かったな? 分かったらすぐに行動しろ! 殺すぞ!」


 そう言ってボスは喚き散らし、盗賊達は蜘蛛の子を散らすように、ボスから距離を取った。

 盗賊達は、今になってこのボスに付いて来たことを後悔し始めていた。

 前のボスは残虐ではあったが、話は通じたし、何よりも頭が良かった。

 しかしこの新しいボスは、腕は立つが話も通じないし、何よりも頭が悪いのだ。


 シャイニング・バリスタの直撃を喰らって生き延びた人間が居る?

 そんな事がある訳がない。

 馬鹿な子供でも分かることだ、当然馬鹿な盗賊にだって分かる。

 それに最初のあの攻撃、ボスは自分が考えたとか言っていたが、実際には前のボスの発案らしい。

 さっきボスが自分で言っていたから間違いないことだ。

 全くどちらが嘘つきなのか。


 しかもボスはシャイニング・バリスタの事を教えた奴も、殺してしまった。

 奴はマジックアイテムに関しては、盗賊団一の知識を持っていた奴だった。

 あいつが居れば、他の便利なマジックアイテムに関しても知ることが出来たかもしれないのに、死体にしてどうするのだ。



 この時点で盗賊達の中でもかなりの数が、ボスを見限ることを考えたが、それはもう少し経ってからで良いかとも考えていた。

 ボスが錯乱しているので鬱陶しいが、彼らがこの町を手に入れてまだ3日目だ。

 まだまだ町の中では楽しめるし、国の騎士団が来るにも時間がある筈だ。


 『もう少しここで楽しんでから、ボスを裏切って適当な場所へ移動しよう』

 盗賊達は揃って同じ事を考え、見張りの間も次は何処に向かおうかという話題で盛り上がっていた。


 その認識の甘さが、彼らの命運を決定した。

 彼らの予想よりもずっと早く、事態が動いたからだ。



------------------------------------



 深夜、町の外壁の上には篝火が焚かれ、多くの盗賊達が見張りをしているのが見て取れた。

 そして向こうの切り札であるシャイニング・バリスタは剥き出しで設置され、その眩い光は蛍光灯など及びもつかない程の光量で、周囲を照らし続けていた。


 俺達は闇に紛れてそれを見つめながら、早目に動いて正解だったと自らの決断を賞賛していた。

 今も次々とシャイニング・バリスタの前には人が連れてこられ、しばらく手をかざしたかと思うと、フラつきながら去っていくのが見えるからだ、

 盗賊団のボスは、やはりロックの生存を理解しており、更なるチャージを行っているようだ。

 だが恐らく、こちらの正体には気が付いていないだろう。

 相手にしたのが『勇者』だと気が付いていたならば、いくら馬鹿な盗賊であっても、とうの昔に逃げていた筈だからだ。


 「さて、では最終確認だ。

  ロックは『こいつら』と一緒に、昼間と同じように正面突破。

  既に作戦箇所に待機しているヤマモリの町解放戦線の皆さんは、ロックが動いた後に行動を開始する。

  俺とライと老師は、別行動だ。

  何か質問はあるか?」

 「オレたちは何処で活躍するのだ?」

 「兄さん……我らは昼間と同じく留守番ですよ」

 「えぇ! せっかくここまで付いて来たのに!」

 「付いて来るなって言った筈だろ。

  そのお陰で、ゲンを護衛として残す羽目になったんだぞ」

 「まっ、護衛は任せといてくれよ旦那」

 「でもでも、とうちゃんも兄貴も危険な仕事に行くのに、オレたちは留守番なんて!」

 「その危険な仕事をするための実力がないから置いていくんだよ。

  それともスキルを授かって『勇者』になるか?」

 「それは嫌だ!」

 「なら大人しく待ってろ。

  ……そう言えば、お前ら何でロックの事を『兄貴』って呼んでるんだ?」

 「だって昼間にとうちゃんを助けてくれたんだろ?」

 「父さんがとても感謝していましたからね。

  尊敬に値する人にはそれなりの呼び方をしなければ」

 「……それなりの呼び方が『兄貴』なのか?」

 「当たり前じゃん?」

 「何言ってるんですか貴方は」

 「いやまぁ良いか。なら作戦開始だ。頼んだぞロック」

 「ああ、お前達も気を付けてな」


 そう言ってロックは恐怖に震えている連中を引き連れて、ヤマモリの町へと向かって行った。

 そしてしばらくすると、ロック達が向かった先に何本もの松明の明かりが輝くのが見えてきた。

 そのすぐ後に、森に沿う形で沢山の松明の火が灯され、町の正面の一部分だけが、急に明るくなった。

 その明るい場所のど真ん中に居るのはロックの奴だ。

 あいつは『両手に松明を持った7人の男』を引き連れて悠々と町へと向かって歩いて行く。

 勿論あいつ自身も松明を持って。


 その周りには誰もいない。

 松明が大量に灯された場所には、先程までヤマモリの町解放戦線の皆さんが居たのだが、彼らは松明に火を着けた直後、この場から全力で離脱しているのだ。


 大量の松明が灯された頃から、急に町の外壁辺りが騒がしくなり、町の中にもドラが鳴り響いて、休んでいた盗賊達が一斉に外壁の上へと上がって来た。

 そして一際デカく人相の悪い斧を持った男がなにやら指示をしたかと思うと、光を放っていたシャイニング・バリスタがその光を更に輝かせ、ロックへと向かって、その凶悪な光を打ち出した。



 その速度は恐るべきもので、その威力は初撃と比べても勝るとも劣らぬものであった。

 しかし流石に2回目であり、来ることが事前に分かっていて、なおかつ『護るべき者が誰も居ない』のであれば、勇者にそんな物は当たりはしない。

 シャイニング・バリスタの光は、ロックと行動を共にしていた捕虜にした元山賊達を跡形もなく消し飛ばしはしたが、ロックはその射線からは離脱しており、手に持った松明を掲げながら、町に向かってゆっくりと近づいて行く。


 俺達はその様子を『遥上空から、モンスターの足に捕まりながら』眺めている。

 あいつは実に良く囮の役を果たしてくれていた。

 だから俺達はあいつの働きに報いなければならない。


 俺はモンスターの姿に戻り、俺とライをぶら下げたまま移動してくれている老師に指示を出して、完全にロックしか目に入っていない盗賊達の上を飛行し、彼らの上から催眠麻痺粉をばら撒いていく。

 外壁の上を通り過ぎた頃には、その場に居たほとんどの盗賊達は倒れ、眠りに落ちていたが、中には意識を保っている者も居た。

 これは想定の範囲内の出来事だ。

 何しろ敵の盗賊団の人材は相当なものであるという話だったので、毒に対応できる者が居ても全くおかしくはなかったのだ。


 そしてその中には盗賊団のボスも含まれていた。

 俺は老師に支持を出し、その盗賊団のボスの真上まで移動して貰う。

 本当なら老師がフクロウとしての実力を発揮してこの場から急降下して襲えれば楽なのだが、これより下へ降りると、老師にまで俺のばら撒いた薬の影響が出てしまう可能性がある。

 だから最後の仕上げは俺達の仕事だ。

 解毒薬を口に含んだ俺とライは老師の足から手を離し、ヤマモリの町をグルッと囲む、外壁の上へと落ちて行ったのだった。


 本来ならば俺達二人が外壁の上へと降り立ち、挟み込む形でシャイニング・バリスタを無効にする手筈となっていた。


 しかしライの奴は、何とボスの真上へと落下し、その勢いでボスを串刺しにして槍の上に着地した。

 そして格好をつけたと思った瞬間、槍から足を滑らせて、外壁の下まで落下して行ったのだった。


 「あああぁぁぁ!!」


 外壁の下へと落下して行くライの悲鳴が聞こえてくる。

 ――なんて馬鹿な弟なんだ。

 むやみにカッコつけようとするからそんな目に遭うのだ。


 俺はアイテムボックスに入れておいた布団を使って衝撃を和らげるという格好良くない着地しながら、そんな事を思っていた。

 着地した後で下を見てみると、我が弟はちゃんと動いていたので、問題はなさそうである。


 落下して来た俺とライに気づいた、まだ意識のあった盗賊達が驚いているが、彼らに構っている暇はない。

 俺はまっすぐにシャイニング・バリスタの下へと向かい、それをアイテムボックスの中へと収納してしまった。


 事前に予想してはいたのだが、やはり盗賊達はシャイニング・バリスタを外壁に固定はしていなかったのだ。

 まぁ当然か、俺達が馬鹿正直に入り口から攻めてくるとは限らない訳だからな。


 この作戦の最大のキモは、如何にして敵の切り札であるシャイニング・バリスタを無効化するかであった。

 何しろ威力が桁違いであるので、下手に対応すると、被害が拡大する危険性があったからだ。


 だからまずロックに正面から目立ちながらに突入してもらい、ワザと一発打たせて、チャージしたエネルギーを0にする。

 そしてロックにはゆっくりと町に近づいて貰い、盗賊達の視線を正面に釘付けにしておいてから、上空から毒を散布し、奴らの動きを止める。

 しかる後に、急降下してシャイニング・バリスタを確保し、盗賊の切り札を奪う。


 以上が今回の作戦の概要だ。

 シャイニング・バリスタを無効化するに当たり、壊すという選択肢もあったのだが、壊せる物なのか分からなかったので、奪うことにしたのだ。

 そして相手の持ち物を奪うという行為において、アイテムボックス能力とは非常に使い勝手が良い能力であった。

 よってシャイニング・バリスタの無効化は俺が担当し、ライには俺の護衛を頼んでいたのだが……まぁ上手く行ったから良いだろう。


 これで相手の最大火力は封じ込めた。

 後はもうただの蹂躙戦だ。

 気がつけばロックの奴はもうすぐ近くまで来ており、その勢いのまま町の入口を素手で破壊して、町への進入経路を確保した。

 それを確認した俺は、光源として常に用意してある光の魔石を用いて、外壁の上から町の外で待機している者達へと作戦成功の合図を出す。

 すると森の両側から沢山の松明を手に持ったヤマモリの町解放戦線の戦士たちが雄叫びを上げながら町の入口に向かって突撃して来たのだった。


 俺は改めて外壁の上を眺めてみる。

 そこでは沢山の盗賊達がスヤスヤと眠りに就いており、ボスであろう大男は串刺しにされて死亡し、まだ意識のある盗賊達は観念したのかその場に膝をついてうずくまっていた。


 階下からライを回収したロックが階段を登ってくる音が聞こえて来る。

 こうして俺達はヤマモリの町を開放したのであった。

2017/08/08

明日から夏休みに入りますので、しばらく更新を停止します。

更新再開はお盆明けの予定です。

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