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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第三章 冒険編
64/173

第六十二話 シャイニング・バリスタ

2017/08/07

2017/07/29~2017/08/02の間に投稿した、第五十九話~第六十三話を大幅に改稿しました。

その為、第五十三話~第五十八話までの話を多少変更しております。


2017/08/19 本文を細かく訂正

 ヤマモリの町の奪還失敗!

 ロック王子意識不明の重体!


 その報告は衝撃を伴って、ヤマモリの町の避難民の間を駆け抜けて行った。

 前半はともかく後半は間違った情報ではあったのだが、『勇者が敗北した』というのは余程の衝撃だった様であり、この話は凄まじい勢いで拡散して行ったのだ。


 『勇者が助けに来てくれた、これでもう大丈夫だ』と、一度気分が高揚した所に敗北の情報が流れて来たことも災いとなったようである。

 上げて落とされたのでショックが大きかったのだろう。

 避難民達の間には悲観論が広がり、絶望が彼らを支配しようとしていた。



 そんなお通夜のようになっている避難民達とは別に、ヤマモリの町の重鎮達とヤマモリの町解放戦線の面々、そして俺と老師は、ダンジョン協会の会議室の中で、先程の兵器について激論を交わしていた。

 ちなみに他の土の勇者一行はこの場には居ない。

 ロックの奴が未だ目覚めていないため、ライもゲンもハヤテもデンデもロックの側に控えているのだ。



 「勇者であるロック王子すらも吹き飛ばす程の超兵器だと!?

  一体何故盗賊如きがそんな物を持っているのだ!」

 「俺はただの探索者だ、怒鳴られても分かる訳ねぇだろ町長!

  とにかくあんな物があるんじゃ、町に近づくことも出来やしない!

  何か対策を考えないと町の奪還なんて夢のまた夢だぞ!」

 「そうですね。そもそも直撃したのがロックの奴だったから良かったものの、他の誰かだったならあの威力では即死だったでしょう。

  下手をすると死体すら残らなかった可能性もあります」

 「それ程の攻撃ですか……しかし勇者であるロック王子ですら回避が不可能となると、我々では正直どうしようもないのでは?」

 「いえ、あいつなら回避することは可能だったでしょう」

 「? では何故ロック王子は攻撃を避けなかったのです?」

 「それは恐らく吾輩達を護るためだろうな」

 「あいつはあの時、俺と老師を地面に押し倒してから防御姿勢を取っていました。だから対応する時間は十分にあったんです。でもあいつは攻撃を避けるよりも耐えることを選んだ。俺と老師に加えて、俺達の後ろに付いて来ていた皆さんを護るためにね」

 「! 我々を助けるためにわざと攻撃を喰らったと!?」

 「それ以外で攻撃を避けない理由が思い浮かびませんからね」


 俺の話を聞いたヤマモリの町解放戦線の皆さんは、揃って衝撃を受けた顔付きをしている。

 あんな攻撃、相手がロック以外の誰かだったなら、問答無用で消し飛ばされていた筈だ。

 あいつは発射された攻撃を避けた場合の事も考えて、敢えて攻撃受けることで後ろの全員を救ったのだろう。

 と言うか、そうとしか考えられない。

 勇者を相手にする場合、そもそも『攻撃を当てる』事自体が難しいのだから。




 「あの、すまない。俺の話を聞いてくれないか」


 そんなヤマモリの町解放戦線の皆さんの中から一人のおっさんが恐る恐るといった感じで手を挙げた。

 いや、おっさんは失礼か。

 見た感じ、中堅どころのベテラン探索者といった所か。

 彼の体は小刻みに震えており、その顔は蒼白を通り越して土気色だ。

 明らかに尋常ではない様子ではあったが、その手はまっすぐに伸ばされている。

 俺達は一旦話を止め、彼の話を聞くことにした。


 「その……先程ロック王子を吹き飛ばした兵器に付いてなんだが、心当たりがあるんだ」

 「何と! 本当かね!?

  どんな些細な事でも良い、君の持つ情報を教えてくれないかね」

 「その……何だ。

  俺はあの兵器の名前も知らなければ、発動条件も知らないんだ。

  噂すら聞いたことが無い」

 「? 心当たりがあるのではないのかね?」

 「ああ、ある。あるんだ。あるに決まっている。

  だってあれは……あの何だか良く分からない物は。

  ロック王子を吹き飛ばして、大怪我を負わせてしまったあれは、

  『俺がダンジョンの宝物庫で見つけた物』だからだ!」

 「「なんだって!?」」

 「あれはもう10年以上も前のことだ。

  俺と俺のパーティーがダンジョンを初めて攻略した時に、ダンジョン最奥にある宝物庫の中に、見たこともない巨大な物体が転がっていたんだ。

  その時の俺達のパーティーメンバーにはアイテムボックス持ちが居てな。

  あれは随分と大きくて、重かったけれど、何とかアイテムボックスの中に入ってくれたんで、物は試しと思って町へと持ち帰ったんだ。

  でも結局何に使う物なのかは分からなくて……確か最終的にはヤマモリの町の役所の倉庫に保管されていた筈なんだ」


 その衝撃の発言に、会議室に集まった面々は絶句してしまった。


 このヤマモリの町は、町の近くにダンジョンがある町として有名だ。

 ダンジョンの中には宝箱があり、その中には魔道具やマジックアイテムが入っている事があるという。

 ダンジョンに潜る探索者達は、それらを持ち帰り、町で換金して生活費を得ている。

 しかし中には使い道がさっぱり分からない物も多く、それらは金にはならないが、捨てる訳にも行かないため、ヤマモリの町の倉庫の中にまとめて保管されているという。


 彼の話が本当ならば、盗賊団はヤマモリの町の倉庫を物色し、あの謎の超兵器を持ち出して使用したということになる。

 つまりあれは元々は盗賊団の持ち物ではなくて、ヤマモリの町にあった代物だと言う事だ。

 それが本当ならとんでもないことだ。

 町を占領した盗賊団の戦力をわざわざ補強してしまったようなものなのだから。


 彼の話を聞き、急遽ダンジョン協会に保管されている資料が確認された。

 そして確かに彼の言う通り、かつての記録の中に、あの超兵器の資料が残されていたのだ。

 名前も用途も分からない物として、『要確認』という注意書きと共に、詳細な絵も添えられている。

 彼はそれを見て、間違いなく自分が発見した先程の超兵器だと断言した。

 魔法攻撃を凌ぐために、ロックの作った壁の中に居た俺と老師は見ていなかったが、少し後方に居た彼らには兵器の外観が見えていたのだ。


 だが俺達はこの謎の物体に全く見覚えがなかった。

 一体全体何だろうこれは?

 敢えて言うのならばゴテゴテと飾り付けられた巨大な矢印と言った所か。

 その大きさは随分とでかく、成人男性の背丈と同等の大きさをしており、彼が言うには重さも相当にあるという。

 魔力を供給できたので、マジックアイテムだという事までは確認が取れたそうなのだが、結局発動は出来なかったと記されている。


 俺達は資料を回し読みしたが、誰一人として見覚えが無かった。

 そんな時だ、扉が開いてライとデンデが部屋に入って来た。

 この二人が部屋に来たということは、ロックの奴の目が覚めたのだろう。

 俺達はそう思ったし、事実それは正しかった。

 「勇者の意識が回復した」という報告は、沈んでいた空気を吹き飛ばす程の歓喜を俺達に届けてくれた。


 そして更に嬉しいことは続いていく。

 机の上に放置されていた資料を見たデンデが、こんな事を言ったからだ。


 「あれ? シャイニング・バリスタじゃないですか。良く描けていますね」


 俺達の誰も知らなかった兵器の正体は、以外な人物から知らされることとなった。

 俺達は目が覚めたロックも加えて、謎の超兵器シャイニング・バリスタの説明をデンデから受けることになったのであった。



------------------------------------



 『シャイニング・バリスタ』


 それは白虎の国の闘技場に設置されているという、ダンジョンの奥深くから発見されたと伝わる、マジックアイテムだ。


 魔力を込めれば込める程その威力は増し、光の速さで迫りくるその攻撃は誰にも避けることは出来ないと言われている。

 白虎の国ではそれは闘技場に設置されており、みっともない試合をして闘技場を汚した相手には、公開処刑代わりに叩き込むといった使い方をしているという。


 デンデは白虎の国の城で暮らしていた際に、何度か闘技場に連れて行かれており、向こうの兵士からそんな説明を受けていたのだそうだ。

 ちなみにこちらのシャイニング・バリスタがこれまで動作しなかった理由は、込める魔力が少なかったからだという。


 何でもあれを発動させるには、最低でも並の使い手100人分の魔力を注ぎ込む必要があるらしい。

 こちらの報告書を見るに、恐らく1人、多くても数人程度の魔力しか注ぎ込んではいない筈だ。

 それでは発動などする訳がない。

 結果、こちらのシャイニング・バリスタは用途の分からない謎のアイテムとして倉庫に保管される事となったのだ。



 俺はこの話を聞いて、ロックが敗北した理由を理解した。


 勇者は人類最強の存在だ。

 だが歴代の勇者の中には旅の途中で倒れ、傷つき、死亡している者も多い。

 では彼らはどうして亡くなったのか?

 勇者を倒す方法とは何なのか?


 その答えの1つが、このシャイニング・バリスタの特性でもある『チャージ攻撃』だ。

 マジックアイテムの中にはMPさえあれば、際限なく攻撃力を高めることが出来る物もある。

 防御力の高い勇者であっても、攻撃力で上回れば倒すことが出来る。

 そしてチャージ攻撃ならばそれが可能となるのだ。

 当たり前といえば当たり前の理屈ではあるが、目の前で実際にやられると、その衝撃は半端ないものがある。


 ロックの奴は『勇者』と『王族』に加えて『鉄壁』まで備えている、動く城塞みたいな奴なのだ。

 それが血を流して吹き飛ばされ、意識まで失うとは、実際に目の前で起こった事にも関わらず、信じられない気持ちで一杯である。

 ヤマモリの町を占領した盗賊達は、どれだけの魔力を先程の一撃に込めたというのか。


 白虎の国の闘技場の耐久力がどれ程の物なのかは知らないが、あんな威力の攻撃を放ったら闘技場ごと爆散している筈だ。

 だがそんなアホな話は聞いたこともない。

 つまり白虎の国では、ちゃんと威力を調整して使っている筈なのだ。

 しかし盗賊共がそんな事をしているようにはとても思えない。

 先程の威力は並の人間相手に向けたのだとしたら、幾らなんでもオーバーキルにも程がある威力であった。

 これは一体どういう事なのだろうか?


 「そう難しく考える必要は無いだろう。奴らは白虎の国から流れてきた盗賊団だったからシャイニング・バリスタの正体は知っていたが、注ぐ魔力の量までは知らなかったというだけの話だろう」

 「ああ、そうか。でもそれにしちゃあ、やけに威力が高くなかったか?」

 「恐らく盗賊団の構成員に加えて、町の住民達の魔力も使っていますね。

  『1000人分の魔力を込めれば、勇者にも通用する』と聞いていますから間違いないでしょう。

  兄貴の防御力を突破した事から考えると、2000~3000人分位の魔力を注ぎ込んだんじゃないでしょうか」

 「ちょっと待て、それだと計算が合わないぞ。

  町長、町に取り残されている住民の人数はどれくらいでしたっけ?」

 「怪我人も死者も多く出ましたので、確定ではありませんが……

  恐らくは1000人前後ではないかと」

 「そして盗賊の残りは300人なんだろ? 全然数が足りないじゃないか」

 「ナイトさん、それは貴方の考えが甘いからそういう計算になるんですよ」

 「どういう意味だ?」

 「盗賊が町に残った人達をまともに扱う訳がないでしょう。 魔石とかで強制的に魔力を回復させながら、限界まで魔力を搾り取っているに決まっています。それなら計算が合うじゃないですか」


 デンデのセリフに俺達は成程と納得する。

 こいつはつい先日まで盗賊達に捕まっていたので、そのセリフには実感がこもっている。

 だから分かったのだ、盗賊達は町の住民に対してそういった事を行うのだということが。



 「だがそうなると取り残されている町の住民の安否が気掛かりだな」


 そう呟いたのは怪我から復帰したばかりのロックであった。

 そのセリフに俺達はハッとする。

 何故なら盗賊達が使っている魔力の回復方法には、どうしたって限界が存在するからだ。


 「何でだ兄貴? シャイニング・バリスタの魔力を回復させるためには人の数が必要なんだから、町の住民を殺す訳には行かないだろう?」

 「ハヤテ、その考えはまともな人間だから出て来る考えだ。

  忘れたのか? 奴らは『町の中に閉じ籠もっている』のだ。

  つまり今ある魔石を全て使い切ってしまったら、新しい魔石を仕入れることが出来なくなる。

  そうなるとどうなると思う?」

 「どうなるって……まさか!」

 「そのまさかだ。

  奴らは自分達が閉じ籠もっている町の防衛を優先するために、町の住民達の魔力を限界を超えて搾り取ろうとするだろう。

  限界を超える程の魔力を使用した人間は体に悪影響が出始める事は知っているだろう?

  下手をすると生き残りの住民達が次々と死亡する事態になりかねないぞ」

 「町長! 町に残っている魔石の量はどれくらいでしたか?」

 「……余り多くありませんな。

  ダンジョンから集まる魔石を使った魔石産業は、我が町の主力産業でして。

  魔力を回復させることが出来る、未加工の魔石の数は極めて少ないのです」

 「ライ、国の騎士団の到着は何時になるか分かるか?」

 「昨日出発したばかりですからね……早くて1週間、状況次第では10日以上掛かると思って間違いないでしょう」

 「それまで待っていたら確実に犠牲者が出るな。先程の一撃でロックを含めて誰も殺せなかった事は向こうも把握しているだろうから、次はもっと多くの魔力を注いでくる筈だ」

 「ならばどうするのだナイト殿。このまま指を咥えて見ているつもりなのか?」

 「……おい、ロック。お前まだ戦う気力は残っているか?」

 「何を言っているのだお前は。

  一撃喰らった程度で私が戦えなくなるとでも思っていたのか?」

 「歴代の勇者様の中には割りとそういうのが居たって話だからな。念の為だ」

 「大丈夫だ、安心しろ。自分でも驚いているが、意外と私は戦えるらしいぞ?」

 「良し、ならば今夜もう一度攻めるぞ」

 「今夜?」

 「ああ、相手の準備が整う前にケリをつける。

  幸いにして今夜は新月、攻めるのにはもってこいの状況だしな。

  作戦は考えた。全員良く聞いてくれ」


 俺はヤマモリの町を開放するための作戦を全員に伝え、それは了承された。

 こうして俺達は、その日の夜に再びヤマモリの町の奪還へと向かうのであった。

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