第六十一話 初めての敗北
2017/08/06
2017/07/29~2017/08/02の間に投稿した、第五十九話~第六十三話を大幅に改稿しました。
その為、第五十三話~第五十八話までの話を多少変更しております。
2017/08/19 本文を細かく訂正
壁だ。
ヤマモリの町の外壁の上から色とりどりの壁が迫ってくる。
盗賊団に襲撃され、現在も占拠されているヤマモリの町。
その開放のために町へと向かい、もう少しで町に到着するというタイミングで、町を囲む外壁の上から、俺達に向かって攻撃が降り注いできた。
それはまさに壁であった。
前世では沢山の遠距離攻撃の事を『弾幕』などと表現していたが、目の前のこれは幕みたいな薄っぺらな物では断じて無い。
恐らく射程内に入った俺達を確実に仕留めるために全員で息を合わせたのだろう。
前後左右に逃げ場のない程に敷き詰められた、魔法の壁が俺達へと向かって来た。
火の魔法、水の魔法、雷の魔法、風の魔法、
それぞれの魔法は威力も到達速度も違っているものだ。
それなのにこの魔法の壁は全く同じ速度で俺達に向かって降り注いで来る。
これはよほど使い手の腕が良いのか、さもなくば何らかの魔道具かマジックアイテムを使ったとしか考えられない。
盗賊共は問答無用で町に近づく者を殺害しようとしている様だ。
そして降り注いでくる魔法の数は、どう考えても聞いていた盗賊達の数よりも多い。
やはり危惧していた通り、取り残されている町の住民達が無理やり戦いに参加させられているようだ。
俺は迫りくる魔法の壁を見ながら、彼らを助ける手順を頭の中で描いていた。
――え? 魔法の壁はどうするのかって?
俺と一緒に行動しているのは土の勇者であるロックなのだ。
防御に関してはこいつに任せておけば問題はないのである。
その考えが甘いと知るのは、もう少し経ってからのことであった。
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--side盗賊団元No.2の男--
「放て―!!」
僅か3人で向かって来た馬鹿な連中に対して、俺達は攻撃を開始した。
少人数でやって来たということは、交渉でもしに来たのであろうが、そんな物をするつもりは毛頭ない。
町から逃げそびれた連中の中でも、魔法を得意とする連中の攻撃が、つい先日まで同じ町で暮らしていた奴らへと向かって降り注いで行く。
連中が放っている魔法の種類はそれぞれ異なっている。
授かったスキルが違うし、得意とする魔法も違っているからだ。
だが現在、連中の放ったバラバラな魔法は、全く同じスピードで突き進んでいる。
これは魔法を放った全員が『等速の魔道具』を使用したからこその現象だ。
この魔道具は、元々は町の中で行われる式典の際に魔法を揃えて打ち出すイベントをキレイに演出するために生み出された魔道具なのだそうだ。
しかしこれを用いて敵に対して攻撃を加えると、避ける隙間のない魔法の壁を作ることが出来るのである。
ある一定以上の使い手ともなると、自らに向かって迫る魔法を避けることなど朝飯前に出来てしまう。
そしてヤマモリの町に住む連中の中には、高レベルの実力者も多いと聞く。
そんな相手を確実に仕留めるために、かつて盗賊団のNo.2だった男は、この魔道具を使った『避けることが出来ない攻撃』での殲滅を提案したのだ。
男の考えは部下達に絶賛され、連中への最初の一撃は魔法の壁による攻撃に決定された。
男は部下達の賞賛を受けて舞い上がっている。
この作戦を考えたのは自分が追い出した前のボスであるという事実は、頭からスッポ抜けているようだ。
僅か3人の相手に対して、些か過剰とも言える攻撃ではあったが、『この町は絶対に手放さない』という意思表示にもなるということで採用されたその攻撃は、寸分違わず3人を中心として彼らの逃げ道を塞ぐように降り注いで行く。
逃げ道が無いことが理解できたのであろう、奴らはその場に留まり、魔法で作った土の壁を使って攻撃に耐えようとしていた。
だがそれは悪手だ。
元No.2のその男は、奴らが逃げずに攻撃に耐えることを選択した事を確認すると、隣で布をかぶっている切り札の使用を決定した。
この兵器は当初、ヤマモリの町の役所の奥にある倉庫の中に埋もれていた。
それをお宝を漁っている最中に、マジックアイテム好きの奴が見つけ出し、その用途を説明された元No.2の男が、町を守るための防衛兵器として採用したのだ。
元No.2の男は、布を剥ぎ取り、自らもそのマジックアイテムへと魔力を注ぎ込んでいく。
既に逃げそびれた町の住民達からも過剰なまでに魔力を注がれていたその兵器は、一層輝きを増し、その切っ先は馬鹿な3人組へと向けられていた。
その射線は先行してきた3人に加え、奥から付いて来ている者達までをも巻き込む様に調整されている。
目映いばかりのマジックアイテムの輝きを見て男は確信する。
これは力だ。
俺達が手に入れた町の中に眠っていた力が、俺のこれからの栄光を示す力となって輝いているのだ。
男はそう考えて疑っていなかった。
男は自分の都合の良い様に、物事を認識する癖がついていたのだ。
ヤマモリの町を落とした作戦を考えたのも、兵器の使用方法を知っていたのも、現在行われている町へと近づいてくる奴らへと対処法も、何一つ男の手柄では無いのだが、その事を思い出せる程、男は賢くはなかった。
男は馬鹿だったのだ。
町に近づいていた3人組は自らが生み出した壁に阻まれ、俺の未来を照らす栄光の光には気が付いていない。
――今こそこの兵器を使うべき時だ!
男はそう確信した。
「ボス、何時でもいけます!」
「応! 俺の栄光への生贄となれ! シャイニング・バリスタ発射!」
「応! シャイニング・バリスタ発射!!」
それはダンジョンの奥底から発見され、ヤマモリの町へと持ち込まれたが、町の住民には誰一人用途が分からなかった、謎のマジックアイテム。
込めた魔力の分だけ威力が増し、その光はあらゆる物を貫くと言われているマジックアイテム、シャイニング・バリスタが土の勇者へと向かって放たれたのであった。
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--sideロック--
魔法で作成した土と石の壁に閉じこもり、降りかかる魔法をやり過ごしてから接近し、盗賊達から町を開放する。
私は今回の騒動の収め方を、そんな風に考えていた。
『吹き飛ばされて宙を舞っている』現状を鑑みれば、危機感の欠片もない間抜けな考えだったと思う。
私は何処かで『勇者』であり『王族』でもある自分に酔っていたのではないだろうか。
私のステータスは全て2万超え。
対して普通の人々のステータスは良くて3桁、凄く良くても4桁に届くか届かないかと行った所。
どう考えても並の相手では私には傷一つ付けることが出来ない。
ましてや盗賊如きでは勝負にもならないだろう。
私に傷を付けられる相手など、同じ勇者か、さもなくば魔王くらいだと高を括っていたのだ。
その余りにも世間知らずで間抜けな考え方には呆れて物も言えない。
エリック先生の授業でも散々説明されていたではないか。
ハロルド将軍も、口を酸っぱくして言い続けてくれていたではないか。
『勇者は強力ではあるが、決して無敵ではない』のだと。
『歴代の勇者の中には、旅の途中で倒れ亡くなっている者も多い』のだと。
私は教えられていた過去の教訓を無視して考え無しに突っ込んで、怪我をした己の身を恥じる。
そして苦笑しようとして激痛が走り、そう言えば痛みを感じる事自体が久しぶりだったと思い出し、今更ながら危機感が足りていなかったという事に呆れ返る。
眼下にはヤマモリの町解放戦線の面々が驚いた顔をして吹き飛ばされてきた私を見ている。
視線を動かしてみれば、ナイトと老師も無事のようだ。
私は間抜けであった。
間抜けであったが、彼らを守ることが出来たのだ。
そこは誇っても良いだろう。
私は彼らの遥後方の地面に叩きつけられる瞬間まで、そんな事を考えていたのであった。
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--sideナイト--
……何が起こった。
一体何が起こったんだ。
俺と老師は、血を撒き散らしながら吹き飛ばされて行くロックを、信じられない気持ちで眺めていた。
つい先程、俺達はヤマモリの町を占領している盗賊団から回避不可能な魔法攻撃を受けた。
まさに『壁』としか表現できないその攻撃を避けることは不可能と判断した俺達は、ロックの魔法で作られた土と石の壁の中に籠城。
細い覗き穴で様子を確認しながら、向こうの攻撃が収まるまで耐え忍ぶ事を選択した。
勿論ロックは勇者であるから、トップスピードを出せば、魔法の壁の外側にも脱出出来ただろう。
しかしその場には俺と老師も一緒に居たし、何より俺達の後ろにはヤマモリの町解放戦線の連中が付き従っているのだ。
今考えれば、ロックが1人で真っ直ぐに突っ込んで、盗賊達を倒してしまえば、それで解決したのかもしれない。
しかし俺達はヤマモリの町の住民達の力で、町を取り戻させるのだと決めていたし、俺達はいつもの様に土の勇者であるロックの防御力を当てにして『耐える』戦法を取ってしまった。
これまではそれで全て上手く行っていたし、これは歴代の土の勇者が好んで使っていた伝統の必勝法でもあった。
だから何処かで油断があったのだ。
これまで連戦連勝負け知らずどころか、苦戦すらもした事がなかったのも悪かったのだろう。
ロックの防御力を打ち崩せるなんて想像もしていなかったのだ。
だから俺は一瞬、思考が停止してしまった。
突然強烈な光が瞬いたと思ったら、ロックが俺と老師を地面に引きずり倒し、自身の腕を交差。
そこにロックが作り出した土と石の壁を一瞬で突破して来た光の矢が、勢いそのままに直撃したのだ。
その破壊力は凄まじく、ロックは血を撒き散らしながらふっ飛ばされ、俺達は激突の衝撃波だけでゴロゴロと地面を転がって行く。
俺の顔には大量の血痕が付着している。
これは俺の血も含まれているが、その大半はロックの血だ。
ロックが、あの全ステータス2万超えの土の勇者が血を流しながら吹き飛ばされた。
俺と老師はその現実が信じられず、呆然とした顔で、吹き飛んで行くロックの行方を眺めていた。
結局ロックはそのままヤマモリの町解放戦線の連中すらも飛び越えて、遥後方まで吹き飛ばされ、地面に激突しゴロゴロと転がって、その動きを完全に停止してしまった。
その余りにもありえない光景に、俺達は完全に茫然自失してしまった。
先程まで降り注いでいた魔法の壁も、今は完全に停止している。
それからしばらくして、ようやく俺と老師の意識が現実に追い着いて来たのであった。
「……ナイト殿、ナイト殿! 何だあれは! ロック殿は土の勇者なのであろう!? 何故防御力に秀でた土の勇者がああも簡単に吹き飛ばされるのだ!」
「知らねぇよ!
ロックの防御力を貫ける攻撃なんて、それこそ数える程しか無いんだ!
ヤマモリの町の町長だって、何も言ってなかったんだ。
俺が知る訳無いだろうが!」
「ではあれは何だったのだ!?
盗賊如きがあれ程の兵器を所有しているというのか?」
「だから知らねぇって! とにかく詮索は後回しだ。一旦引くぞ!
ロックを回収して仕切り直しだ!」
「承知した!」
俺と老師は町に背を向けて、全力でロックの下へと向かって行く。
途中俺達の後ろに付き従っていたヤマモリの町解放戦線の連中を追い抜くが、彼らも昨日自分達が手も足も出なかった勇者が吹き飛ばされたという現実に、頭が追い付いていないらしい。
だが懸命に走る俺達を見て事態が切迫していることは理解できたのだろう、俺達に続いて一目散に町からの逃亡を開始した。
俺と老師はロックの下へと辿り着いた。
ロックは酷い怪我をしていた。
オートヒールが働いているので、傷は徐々に塞がっているが、服の上着はズタズタになり、腕からは骨も覗いていたのだ。
俺は気絶した親友を担ぎ上げて、町から敗走した。
何故か盗賊達からの追撃が無かったのは幸いだった。
俺達土の勇者一行は、この日初めて敗北を経験したのであった。




