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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第三章 冒険編
62/173

第六十話 風が吹けば桶屋が儲かる

2017/08/05

2017/07/29~2017/08/02の間に投稿した、第五十九話~第六十三話を大幅に改稿しました。

その為、第五十三話~第五十八話までの話を多少変更しております。


2017/08/19 本文を細かく訂正

 「誠に申し訳ございませんでした!」

 「「申し訳ございませんでした!!」」


 ヤマモリの町近くの森の中に作られた道を進んだ先にある、ヤマモリの町の住民達が逃げ込んでいたダンジョン協会の建物の中。

 俺達は俺達を待ち伏せしていた集団と、それを指示したというヤマモリの町の町長に揃って頭を下げられていた。


 何でも俺達を襲撃した連中は、『ヤマモリの町解放戦線』という名の、盗賊から町を開放するために結成された集団だという。

 彼らは俺達を町を襲った盗賊団と勘違いし、俺達を生け捕りにして町に残されている住民達との人質交換に使おうと考えていたという話だ。


 彼らの多くは普段からヤマモリの町近郊に存在するダンジョンに潜って日々の糧を得ている『探索者』と呼ばれている人達である。

 そして彼らは盗賊団の襲撃当日は揃ってダンジョンに潜っていたために町のピンチに気づかず、状況を知った後はどうにかして町を取り戻せないかと機会を伺っていたという。


 そんな時に、町を襲った盗賊団が使っていた馬車が彼らの逃亡先へと近づいて来ているという報告が届いた。

 彼らは盗賊団の若い連中が功を焦って少数でやって来たと勘違いし、町長の指示の下、俺達を生け捕りにしようと画策したのだという。


 彼らは襲撃に最適なポイントを見極め、並の相手なら見破ることも出来ないような偽装を施し、完璧といえる程のタイミングを図って、俺達に襲い掛かろうとしていた。

 しかしこちらは仮にも勇者一行だ。

 おまけに、つい昨日からではあるが、索敵能力に優れた老師までもが加わっていたため、彼らの待ち伏せは完璧に見破られ、隠れ場所を尽く言い当てられた彼らは、明らかに襲撃のタイミングをずらされて、結果として数に任せた襲撃を実行したのだった。


 だが、どれだけの実力者が揃った所で、それがバラバラの力であるならば、最強の個である勇者が一人でもいれば、何の問題にもなりはしない。

 彼らは俺達に近づくことすら出来ずに壁に遮られ、薬で眠らされ、目が覚めた時には縛り上げられていたのだった。

 そして彼ら全員を馬車に積み込んで俺達は出発し、ヤマモリの町の住民が逃げ延びていた建物までやって来たのである。


 その時のヤマモリの町の避難民達のパニック具合と言ったら相当なものであった。

 何しろ彼らから見れば、満を持して送り出した町の精鋭達が軒並み倒されて、その死体が馬車の上に積まれているようにしか見えなかったのだ。

 彼らの中には盗賊達の町での蛮行を実際に目撃した者も多くいる。

 そしてそういった者達は俺達を見て、町の精鋭を仕留めた血も涙もない盗賊達が、今度は町の住民達を逃亡先まで追いかけて来たのだと勘違いしたのだ。 


 避難先に残っていた戦いの心得がある者達は、揃って俺達に武器を向け、子供は泣き叫び、母親は許しを請い、若い女性は恋人を返せと怒鳴り散らし、老人達は若い者達の盾になろうと決死の覚悟で馬車の周囲を包囲した。


 その余りのカオスっぷりに、俺達は逆に面食らってしまい、身動きが取れなくなってしまった。

 そしてパニックに陥った人と言うのは、人の話を全く聞いてくれないのだと、俺達はここで学んだのだ。


 結局、その場を収めることは俺達には出来なかった。

 騒ぎを聞きつけて俺達の前へ決死の覚悟で現れた町長が、俺とロックに気づいてくれなければ、どうなっていたことが見当もつかない。


 俺が町長として働いていた3年間の間に、町長会議の席で俺はこの町の町長と2回会っていたし、彼は王子であるロックとも直接面識があった。

 そして彼は俺が勇者の供になったという話も聞いていたのだ。


 俺達を一目見て、状況を瞬時に理解した町長は『勇者様が町の危機を救うために現れて下さった』のだと町の住民に説明し、俺達への誤解は解けたのだった。



 そうして俺達は建物へと案内され、先程の襲撃と町の住民達の勘違いに関して頭を下げられていた。

 しかしこれは仕方のないことだ。

 俺は町長に頭を上げるように声を掛けた。


 「町長、もう謝罪は十分に受けました。

  貴方達に悪気がなかったことは理解できました。

  だからとにかく頭を上げて下さい」

 「しかし……」

 「しかしもかかしもありませんよ。これは単純な勘違いじゃないですか。

  そもそも突然勇者が現れるだなんて事前に分かっている方がおかしいんですから、気にしなくても結構ですって」

 「申し訳ない。吾輩が待ち伏せている場所を次々と言い当ててしまった故に」

 「私も話をする前に防御に転じてしまったからな」

 「それを言ったら、俺なんて薬をばら撒いて眠らせてしまったんだから同罪だろ」

 「でも話も聞かずに襲い掛かってきた解放戦線の人達も悪いですよね」

 「蒸し返すなライ。とにかく私達はこの件に関しては一切気にしておりませんので、町長も町の皆さんも気にしないようにして頂きたい」

 「過分なご配慮誠にありがとうございますロック王子」


 そう言って町長達の謝罪は終了した。

 そしてようやく俺達は、ヤマモリの町に襲い掛かった災難についての話を進めることが出来るようになったのだった。



------------------------------------



 森の中に轟々と篝火が焚かれている。

 俺達はそれを見ながら、この町が置かれた厄介な状況にため息を付いていた。


 現在ヤマモリの町の住民の殆どは町を離れこのダンジョン近くに建設された、ダンジョン協会の建物及び、その周囲へと身を寄せている。

 そして町を襲い、町を手に入れた盗賊達は、そのまま町に居残り続け、出て行く様子は見られないという話だった。


 俺はこれが不思議でならなかった。

 盗賊が町に居座っても、いずれ討伐部隊が差し向けられて、お縄になることは目に見えている。

 だから盗賊という人種は、拠点となるアジトは見つけにくい場所に作るものだし、居所のバレた盗賊達は、次々と移動して足がつかない様にするのが常識だ。


 それなのにヤマモリの町を襲った盗賊達は、町に居座って、町から移動する気配もない。

 そして困ったことに、町には逃げ遅れた大勢の住民達がまだ取り残されているのだ。

 盗賊が支配する町に取り残されているなど、命が幾つあっても足りやしない。

 だが、盗賊達が出ていかない理由が分からない以上、こちらから迂闊に手を出すことも出来ない。


 俺達は盗賊達が町から出ていかない理由を散々考えた。

 考えたが納得の行く理由は思い浮かばなかった。

 ひょっとしたら何か盗賊なりの理由が有るのかもしれない。

 そう考えた俺達は、捕虜として捕まえていた元盗賊の山賊達に話を聞いてみることにしたのだった。


 「いや、分からんよ。ワイら馬鹿やしな」


 馬車に転がしておいた山賊達は、現在、ダンジョン協会の建物の地下にある牢屋へと移されている。

 俺達は彼らに話を聞いてみたが、7人揃って全く同じ回答をして来た。


 最初は馬鹿にしているのかと思っていたが、どうやら本当に分かっていないようだ。

 だが彼らが本当に馬鹿だったのなら、そもそも町を落とせる訳がない。

 俺達は彼らを激しく尋問した。

 しかし得られる結果に変わりはなかった。

 新たに得られた情報は、作戦は全てボスが作っていたという話だけだ。

 これではさっぱり理由が分からない。

 そう思っていたのだが、意外なところから回答は導き出されたのだった。

 答えは何と老師の口から語られたのだった。


 「そう言えばあの異常者……いや、ボスと呼ばれていた男が言っていたのだが、奴の部下は腕は立つが、頭が悪い連中が多いとのことだ」

 「いやまぁ、盗賊なんて職業をやってるんだから、全員バカで間違いはないだろ?」

 「まぁそうなのだが、案外それが理由なのではないかと思ってな」

 「? 馬鹿ってのが理由になるのか?」

 「馬鹿というのは後先を考えないものだ。

  ボスを追い出したNo.2とやらも、元々は頭の悪いお山の大将の様な盗賊の首領だったという話だ。

  案外これからどうして良いのか分からないから、町に留まっているという可能性もあるかと思ってな」

 「後先考えずにボスを追い出して、盗賊団のトップになったは良いけれど、これからの展望がまるで無いから町に居座り続けていると?」

 「その通りだ。

  そもそも勝手の分からない他国の土地に来てしまったのは奴らも同様の筈だ。

  町の中ならば、食料も武器も家も、そして外敵に対応できる外壁まで存在しているのだ。

  拠点を移す理由が無いと考えていても不思議ではない」

 「町の占領なんてしていたら、軍が動かざるを得ないって発想も無いと?」

 「その通りだ。

  案外、今頃は、町の中でどんちゃん騒ぎでもしているのではないか?」

 「大馬鹿だな」

 「ああ大馬鹿だ。

  だがそういう馬鹿が居たからこそ吾輩や息子達が助かったと言えなくもない」

 「どういう意味だ?」

 「馬鹿が後先考えずに行動を起こしたから、あの異常者が町から締め出された。

  締め出された異常者がお主達に襲い掛かったから、吾輩達は助かった。

  つまり吾輩達が助かった原因、いや遠因には間違いなく町に残ることを選んだ盗賊達が絡んでいるのだ」

 「風が吹けば桶屋が儲かるって奴か」

 「なんだそれは?」

 「この世の全ては繋がっているってことさ」


 結局俺達は盗賊ではないのだから結論は出ないという結論に達し、その日の話し合いは終了となった。

 そして翌日、俺達は町を奪還するために町へと向かうことになったのだった。



------------------------------------



 明けて翌朝、俺とロックと老師の3人は、ヤマモリの町へと向かっていた。

 目的は占拠された町の正面突破からの開放である。


 作戦もへったくれもない行動では有るが、これにはこれで理由がある。

 何しろこちらには勇者が居るのだ。

 相手が総勢300人の盗賊団だろうと、そいつらが結構な腕利きであろうと、余程のことがない限り正面突破で問題はないという結論に達したのである。


 そしてこれはそれ程おかしな話という訳でもない。

 並の人間には解決不可能な案件であっても、勇者の手にかかれば力技で何とかなるといった話は、この世界には割りとゴロゴロしているからだ。



 流れとしてはこんな感じを予定している。


 勇者であるロックとその仲間である俺と老師が町へと突入し、盗賊達の防衛線を力づくでこじ開ける。

 その際、盗賊達は殺さずに無力化する必要がある。

 何故ならば俺達はこの町の住民では無いため、襲い掛かってきているのが盗賊なのか、無理やり従わされている町の住民なのかの区別がつかないからだ。

 俺が同行するのはこのためであり、無力化した相手は例外なく、俺が薬を使って眠らせる予定だ。

 最終的に盗賊達の防衛線を崩壊させたら、最後の仕上げはヤマモリの町解放戦線のメンバーの仕事だ。

 彼らは俺達の背後で待機し、合図を受けたら町に突入。

 捕らわれている町の住民を救出し、町を奪還するメインイベントには彼らも参加するのだ。



 勇者の力を使えば、町を開放するのは容易かもしれない。

 しかし自分達の町は自分達の力で開放したいと願う、彼らの願いを聞き入れ、彼らヤマモリの町解放戦線の皆さんを作戦へと組み込んだのだ。


 ちなみに老師が俺達と一緒に付いてくるのは、俺の護衛という名目だが、実際には念のための監視が主な理由だ。

 老師はこう見えて流石は魔族と言うべきか、結構な強さを誇っている。

 そんな老師がもしも裏切った場合、完璧に抑えられるのは勇者であるロックだけなのだ。

 だからヤマモリの町へと乗り込むメンバーは俺とロックと老師に決定したのだ。


 なお、俺達がヤマモリの町へと向かっている間、ライとゲンとハヤテとデンデは留守番をしていることが決定した。

 理由は簡単で、白虎の国の勇者であるハヤテとデンデに何かあった場合、国際問題になりかねないからだ。

 この二人のことも昨日の時点で報告は完了しており、今は国同士で話し合いが持たれている筈だ。

 もっとも、国内での緊急連絡網は整備されていても、国家間のホットラインなどこの世界には無いため、その協議には時間が掛ることが予想される。

 それまでこの二人については、俺達が面倒を見るようにと、国王陛下から直々に要請が来たと、ヤマカワの町の町長が報告してくれていた。



 ハヤテとデンデだけを守っていれば良いのなら、通常ならば俺達と行動を共にしていれば問題はない。

 だが、俺達がこれから向かう先は盗賊相手の戦場だ。

 しかも逃げ遅れた町の住民達が向こうに居る以上、盗賊の矛先が彼らに向いた場合、ロックは勇者として彼らも守らなければならない。

 よって余計な守護対象は減らすべしとの意見があり、二人は留守番となったのだ。


 ちなみにライとゲンには二人の護衛を頼んでいる。

 ライは俺達に着いて行きたそうな素振りをしていたが、それでも納得してくれた。

 ゲンの奴は快諾だ。

 天使であるゲンにとっては人間同士の争いなぞ興味の範囲外なのだろう。



 そして作戦開始時間になり、俺達は雄叫びを上げながらヤマモリの町へと突撃していく。

 先頭は勇者であるロックが務め、そのすぐ後ろに俺と老師が付き従う。

 ヤマモリの町解放戦線のメンバーはそれよりも大分後ろだ。

 彼らの仕事は、俺達が町の守りを突破した後だからだ。


 俺はこの作戦とも呼べない作戦の成功を確信していた。

 と言うよりも、これまで一度も失敗どころか苦戦すらもしたことも無かったので、勇者さえ居れば例えどのような戦闘であっても問答無用で勝てるものだと思い込んでいたのだ。


 だがそれは大間違いだった。

 俺達は分かっていなかったのだ。

 俺達が相手にしているのは、町一つを落とせるほどの巨大な盗賊団だと言うことを。

 そして数が多いと言う事は、それだけ多彩な人材が集まっており、その中には俺達の知らない知識を持つ者も居るのだと言う事を。




 その日、俺達土の勇者一行は、勇者としての活動を開始してから初めて、敗北の味を噛みしめることになるのだった。

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