第五十九話 占領された町
2017/08/04
2017/07/29~2017/08/02の間に投稿した、第五十九話~第六十三話を大幅に改稿しました。
その為、第五十三話~第五十八話までの話を多少変更しております。
2017/08/18 本文を細かく訂正
開けて翌朝、俺達は次の目的地であるヤマモリの町へと向かって、馬車を走らせていた。
そのスピードは、旅を楽しむためのゆったりとした速度ではなく、速さ重視の移動速度である。
俺達が急いでいるのには理由がある。
それはこれから向かう先のヤマモリの町が、盗賊団に占拠されているという話を、捕虜にした山賊達から聞き出したからだ。
彼らが語る所によれば、
2日前、そうほんの2日前にヤマモリの町は白虎の国から流れて来た大盗賊団の襲撃を受け、町は現在盗賊達に占領されているらしいのだ。
彼らは闇に乗じてヤマモリの町に襲い掛かり、町の入口を破壊し、予め調べを付けていた町の主要施設を次々と襲撃。
同時に町のあちこちに火を放ち、ヤマモリの町を大混乱に陥れたという。
盗賊団のメンバーには高火力の魔法使い、近接戦のエキスパート、絡め手の使い手など、多彩な人材が揃っており、不意を突かれたヤマモリの町の守備隊は完全に後手に回っていたそうだ。
普段なら町に滞在しているという腕に覚えのある者達が、一斉に町を離れていたことも襲撃がスムーズに進む原因となった。
いや、襲撃のタイミングを考えると、彼らが居ないことを確認したので、町への襲撃という大胆な行動を起こしたのだろう
結果的にヤマモリの町に盗賊達の邪魔になるような相手はおらず、彼らはその勢いのまま町を占領してしまったそうなのだ。
ようやく夜が明けた頃には、町の建物の2割が焼失、死者・怪我人多数の大惨事となっていたという。
生き残った住民達は、町の主要施設が占拠され、抵抗は不可能だと察すると、夜の内に町を捨てて逃げ出したのだそうだ。
そして襲撃から一夜明けた早朝、逃げる彼らを追い、拷問好きの盗賊団のボスと彼に付き従う200人程の古参の部下達が町の外へ出た時に事件は起こった。
何と町の中に残しておいた盗賊団のNo.2が突然反旗を翻し、彼らに弓を引いたのだ。
そのNo.2はボスが町を離れた直後に、盗賊団からの独立を宣言し、盗賊団は真っ二つに分裂した。
何でも独立を宣言した盗賊達は、最近になってボスの下に下った新参者達だったらしい。
No.2も元々は別の盗賊団の首領だったという話だ。
ボスとNo.2との間にどのような確執があったのかは、捕虜たちにも分からないという。
少なくとも表面上は、同じ盗賊団の団員として上手い事行っていると思っていたからだ。
だが、結果として町を追い出される格好となったボスとその部下達は、派手に入口を壊したせいで、町の中に入れることが出来なかった馬車を回収し、ヤマモリの町から離れていったという。
流石に袂を分かった盗賊達が占拠する町の近くに居座る訳にも行かなかったのだろう。
ボスは逃げ出した住民達の追撃は諦め、部下達を引き連れて街道を北へと進んで行った。
そして心機一転、今度は玄武の国の中で大暴れしてやろうと考え、最初の獲物として山道を歩いていた俺達に襲い掛かった所、返り討ちにあったそうなのだ。
俺達がこの話を聞いたのは、今朝のことだった。
昨日の山賊達の襲撃からフクロウと二人の勇者の救出、そしてフクロウの魔族への進化という怒涛の状況の変化がようやく落ち着いたので、彼らの話を聞いてみようと思ったら出てきた内容がこれだったのだ。
ちなみにハヤテもデンデもフクロウも、ヤマモリの町が陥落したという話は知らなかったという。
無理もない、彼らは馬車の中に軟禁されていたので、外部の状況を知るすべなどなかったのだ。
俺達はこの話を聞いた直後にゲンに念話を使って貰い、アナ達闇の勇者一行へと状況を知らせた。
山賊のせいで足踏みしていた俺達と違い、彼女たちは昨日の時点でこの旅で2番目の町となるヤマカワの町へと到着していたからだ。
そしてアナ達に事情を説明してもらい、ヤマカワの町の町長に、通信機を使いヤマモリの町へと連絡を取って貰った所、通信が途絶えている事が確認された。
この事態を受け、ヤマカワの町の町長は、首都タートルへと連絡を取り、状況を説明。
国王陛下以下、国の重鎮達は緊急会合を開き、ヤマモリの町開放のために騎士団を差し向けることが決定された。
そして俺達土の勇者一行には、一足先にヤマモリの町へと向かい、町の生き残り達と合流し詳しい話を聞くようにとの要請が下された。
これはロックの奴が勇者として始めて国から受ける要請となった。
町の外に逃げた彼らが、何処へ向かったのかはおおよその見当が立つ。
俺達は話を聞き出した捕虜たちをぶん殴って気絶させてから、彼らが逃げ込んでいるであろう、ヤマモリの町近郊にあるダンジョン密集地帯へと馬車を進めたのであった。
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--sideヤマモリの町解放戦線--
その日、ヤマモリの町解放戦線の戦士たちに朗報が届けられた。
彼らの住んでいたヤマモリの町は2日前、突如謎の盗賊団の襲撃を受けた。
その盗賊団は喋っていた言葉から、白虎の国から流れてきた盗賊団であることまでは確認が取れた。
そして盗賊団の分際で、多くの馬車を引き連れていたことも確認できた。
しかし分かったのはその位で、圧倒的な実力と数を誇る盗賊団に為す術もなかった町の住民達は、町を捨てる決断をしなくてはならなかった。
その日揃ってダンジョンに潜ってレベルアップに励んでいた町の実力者達は、話を聞いて絶叫し、町を取り戻すことを誓ったという。
しかし町の責任者である町長の命令は待機であった。
幸いにしてこの周辺はダンジョンが多く、この町の住民は皆ダンジョンに慣れ親しんでいるので、イザという時はダンジョンの中に避難して、彼らが退散するか、国が異常に気づいて討伐してくれるかまで待てば良い。
町長以下、町の重鎮たちはそう考え、町の住民を引き連れて、町の外のダンジョン近くに建てられた、ダンジョン協会の建物へと避難していたのだ。
これは、これ以上町の人間から犠牲者を出したくないという町長の考えであり、それは勿論理解できていたが、彼らはそれでも不満に思っていたのだ。
自分達の町は、自分たちの手で取り戻したい。
彼らの町に対する思いは、意外と高かったのである。
そんな時だ、彼らに報告が届けられた。
こちらへと向かって来る、多数の馬車を確認したという内容だった。
その馬車とは見間違う筈もない、数日前にこの町を襲撃した盗賊団の馬車であるという事だった。
ふざけたことに、奴らは今度は真っ昼間に真正面から襲い掛かって来るつもりのようなのだ。
しかも今度は多数のゴーレムまで引き連れているという話であった。
だが話を聞く限り、ゴーレムの数こそ多いものの、向かって来る盗賊達の人数は少なく、しかもその年は相当に若いという。
恐らく功を焦った若手の盗賊が、少数で追撃を試みたといった所なのであろう。
報告を聞いた町長は、彼らを生け捕りにするように、ヤマモリの町解放戦線の戦士たちに命令を下した。
彼らは町の守備兵の生き残りや、当日町から離れていた町に住む実力者達で作られた集団だ。
町を盗賊から開放するために結成された彼らは、盗賊に対して情けを掛けようとする町長の意見に最初は難色を示した。
しかし町長が、盗賊を生け捕りにするのは、町に未だ取り残されている住民達を救うためだと説明すると、彼らは納得し、指示に従い、のこのこやって来た盗賊達を捕らえるために出発した。
もっとも、彼らの内のほとんどは、やって来た盗賊共を殺さないまでも半殺しくらいにはしてやろうとは考えていたのだが。
彼らは知らなかったのだ。
盗賊団が前日、No.2の裏切りによって分裂していたという事を。
そして本来彼らを追いかけに来ていた筈のボスは、よりにもよって勇者一行に対して襲撃を仕掛け、返り討ちにされ既に殺されていた事を。
そしてその勇者一行が盗賊団の持ち物を全て回収し、彼らの使用していた馬車すらも回収し、おまけに事情も理解した上で彼らの下へとやって来たということを。
彼らは彼らの元へとやって来た相手が、彼らの味方であることに気づけなかった。
町の戦士たちは馬車に乗って近づいて来る相手は盗賊であると断定し、生け捕りを試みる。
彼らはそこで初めて『勇者』の実力を実感することになるのであった。
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--sideナイト--
山道を降りてしばらく進むと、ヤマモリの町の姿が近付いて来た。
ヤマモリの町は玄武の国を縦に走る玄武山脈と、白虎の国との国境に広がる大森林が交差する場所の近くに存在する大きな町だ。
山と森の近くにある町だからヤマモリの町なのである。
ちなみにアナ達が滞在しているヤマカワの町は大森林の代わりに朱雀の国との国境に流れる大河が存在している。
山と河の近くにある町だからヤマカワの町なのである。
道中色々あったが、俺達は南ヤマヨコの町の次の目的地をこのヤマモリの町に設定しており、長期滞在もする予定であった。
しかし現在は予定を変更し、町をぐるっと迂回して、大森林と玄武山脈がクロスする辺りにあるダンジョン密集地帯へと向かっている。
俺達の目的はヤマモリの町から逃げ出した住民達との合流だ。
そして町を離れたヤマモリの町の住民達が向かう先と言えば、ダンジョン密集地帯に建っているというダンジョン協会の建物以外に考えられない。
そう俺達に断言したのは、同じくダンジョン密集地帯を近くに持つヤマカワの町の町長であった。
彼はヨミ経由で俺達に中央の決定を伝え、ヤマモリの町の住民達は必ずダンジョンへ逃げているから、そこへ向かってくれと伝えてきたのだ。
何でもダンジョンの中には地元の者しか知らないような隠し部屋や隠し通路が多数あり、隠れるにはもってこいの場所なのだという。
そしてダンジョン密集地帯には必ずダンジョン協会の建物が建設されており、武具に食料に薬までストックされているので、逃げ込む先としては申し分ないとのことだ。
俺達は彼の意見に従い、森の中に作られたダンジョンへと通じる道を進んで行く。
ちなみに町から追い出されたボスが持ち去った馬車を持ってきたのはわざとだ。
これを見て町を占領している盗賊共が慌ててくれたら御の字だし、追手が迫って来るようならば蹴散らせば良い。
まさか向こうも昨日別れたばかりの元ボスが殺されて、代わりに勇者が馬車に乗っているだなんて考えもしないだろうからな。
俺達は鬱蒼とした森の中の道を進んで行く。
森の中の道は良く整備されており、馬車の通行にも支障が無い程に道幅も広かった。
そんな森の中を進んで行く馬車の先頭を行くのは、魔族へと進化したばかりのフクロウである。
彼は、昨日の今日でもう自由自在に体が動かせるようになり、現在は馬車の先頭に立って、飛んだり跳ねたり走り回ったりして、体の具合を確認していた。
ちなみに彼は山賊の盗品の中にあった、緑色と金色が混ざった派手な柄の武術服を着ている。
流石に背中が羽毛に覆われている美形老人を素っ裸で歩かせる訳にはいかなかったのだ。
その見た目と、やたらと機敏なその動きを見ていると、何となく『老師』という言葉が浮かんできた。
いや、前世でも今世でも老師なんて人物に出会ったことはないのだが、派手なアクションで飛び回り、素手でモンスターをぶっ飛ばし、おまけに元フクロウだからなのか空中戦を得意としているその姿を見ていると、香港のカンフー映画とかで見たことのある謎の実力者の老人の様に見えて来たのだ。
ハヤテとデンデは、そのやたらと派手で格好良い動きをする自分達の父親を感激した顔で見つめ続けている。
俺達は現在、先頭が老師とハヤテとデンデが乗る馬車、その後ろに俺とゲンが乗る馬車、間に大量のゴーレムが引く馬車を挟んで、一番後ろにライとロックが乗る馬車という順番で進んでいる。
老師は元フクロウだからなのか、索敵能力に優れており、出来るだけ体を動かしたいのだと言って、先頭を進むことを望んだのだ。
逆にロックは、ゴーレムを操縦するために、出来るだけゴーレム達の後ろに居るべきだったので、結果的に最後尾になってしまった。
そして俺はゲンと一緒に、ゴーレム達の前に陣取り、ハヤテとデンデと老師の観察をしていたのである。
勇者の親とは言っても、彼は魔族なのだ。
しかも出会ってまだ一日も経っていない。
用心するに越したことは無いのである。
その老師は、何故か走行中の馬車から降りて、こちらへと向かって来ていた。
俺は馬車を走らせながら、老師の到着を待つ。
ちなみに前の馬車はハヤテとデンデが操っている。
あいつらはあいつらで、白虎の国で色々と教え込まれていたらしく、馬車の操縦も出来たのである。
そして老師は走っている馬車に飛び乗り、俺のすぐ隣へと着地した。
ここら辺は、流石は魔族と言ったところか。。
見た目は人間の爺さんではあるが、身体能力の高さが半端ないのである。
「ナイト殿、この先の道の両側で多数の人間が待ち伏せしている様だ。
如何する? 吾輩が先行して潰してこようか?」
「待ち伏せ? う~ん、いや止めておいてくれ。待ち伏せしている相手が町を襲った盗賊団なのか、町から逃げ出した住民達なのか分からないからな」
「ならばこのまま進むのか?
この調子だと、もうすぐ待ち伏せ箇所へ突入することになるが」
「そうだな。なら一旦この場で馬車を停止して様子を見ようか」
「了解した。では吾輩は先頭に戻り、馬車を止めてこよう」
「宜しくな老師」
「老師!? それは吾輩のことか?」
「その姿で、いつまでもフクロウ呼ばわりする訳にもいかんだろ?」
「……まぁそうだな。了解した。では吾輩のことはこれから老師と呼ぶが良い」
「あいよ」
そう言って老師は前の馬車へと戻って馬車を停止させた。
俺達もそれに続いて馬車を停止し、後続もそれに続いていく。
俺達が馬車を止めた場所は、何の変哲もない森の中の一本道であった。
見れば後ろからロックとライが近づいて来ている。
こんな場所で馬車を止めた理由が分からないのだろう。
二人は俺たちの馬車までやって来ると、案の定馬車を止めた理由を聞いて来たのであった。
「どうもこの先で待ち伏せされている様だと老師が言うんでな。
どうしようかと思って馬車を止めたんだ」
「状況は理解した。所でその『老師』と言うのはもしかしてフクロウ殿の事か?」
「ん? ああ、そうだよ。後ろから見ていたらさ、何となく『老師』って感じだなぁと頭に思い浮かんじまったんでな。ちゃんと許可も取ったぞ」
「良いんじゃないですか? いつまでもフクロウ殿と言い続けている訳にも行きませんし」
「まぁフクロウ殿の呼び名はともかくだ。待ち伏せとは穏やかではないな」
「相手がどちらだったとしても、襲うために待ち伏せてるんだろうしな」
「そうでしょうね。それでどうします?
僕らの目的地はこの先ですから、避けて通る訳にも行きませんよ?」
「難しく考える必要は無いだろう。
刺激しないように歩いて行って相手と話し合えば良いだけだ」
「高確率で襲われると思うけどな」
「ならば耐えればいい。その後で盗賊だったなら返り討ちにして、町の住民だったなら罪を許せば良いだけだ」
「まぁ勇者が勘違いで襲われるなんて割とよくある話だけど。
良いのか? 相手は俺達の話を聞いてくれるとは限らないぞ?」
「相手が話を聞く気がないのなら、無理矢理にでも聞いて貰うまでだ」
「それもそうか」
そういう事になったので、俺達は待ち伏せを承知で森の中の道を進んで行ったのだった。




