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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第三章 冒険編
60/173

第五十八話 進化

2017/08/03 改稿しました。

2017/08/18 本文を細かく訂正

 焚き火からパチパチと木の爆ぜる音が聞こえる。

 俺は予め用意しておいた薪を投入しながら、焚き火の向こう側に座っている三人の親子の様子を伺っていた。


 山越えの最中に山賊団に襲われ返り討ちにし、捕らえられていたモンスターオウルとその息子達である勇者二人を救出したその日の夜、俺達は焚き火を囲んで共に夜を過ごしていた。



 結局山賊達の死体の処理と、奴らの所持品の回収には結構な時間を喰ってしまったために、今日中の山越えは不可能だったのだ。

 とは言え、流石に惨劇の場所であるあの場所での野営は嫌だったので、俺達は山賊の馬車に乗り、山道をしばらく進んだ先にある別の野営が出来る場所で一夜を明かすことになった。


 ちなみに山賊の馬車の数は明らかに俺達よりも多く、御者の数が足りなかった。

 そこでまず、何台かの馬車から馬を解き放ち、別の馬車の馬へと連結。

 一頭立ての馬車は豪華複数馬仕様へと変更され、文字通り馬力が向上した。

 俺もライもロックも馬の扱いは昔から仕込まれていたので、別れて馬車に乗り、残りの山賊達のお宝や日用品や武器防具が満載されていた馬車は、ロックの魔法で作成したゴーレムを使ってここまで運んできたのであった。


 この山道を越えさえすれば、その先にはヤマモリの町が存在している。

 ロックはMPの量も半端ないので、そこまで魔法を使い続けても十分に余裕があるのだ。



 現在俺達は周りをゴーレムに護衛して貰い、その中で馬車と馬を囲い、テントを設営してキャンプをしている。

 ちなみに捕虜にした山賊達は薬が効きすぎたのか、未だに意識を取り戻しておらず、馬車の中で眠り続けていた。

 俺達は土の勇者のパーティー4人と、ハヤテとデンデとその親である『魔族』の3人に分かれて夕食を取っている所であった。

 


 魔族、そう魔族である。

 昼間に出会った際にはまだギリギリ透明度が残っていてモンスターであったフクロウは、ここまで移動する間に魔族へと進化していたのだ。



 俺達は山賊退治の片付けを終了した後、あの場所からの移動を開始した。

 しかしあの場所には隠しようも無い程の大量の血がばら撒かれており、それは風に乗って周囲に拡散し、モンスターを引き寄せる原因になってしまったのだ。


 しかも俺達が進む方向が、よりにもよって風下であったために、移動先から次々とモンスターが襲い掛かってきたのである。


 ここは山の中の一本道であり、迂回することも逃げることも出来ない。

 結果、俺達は次々に襲い掛かってくるモンスターの群れを撃退する羽目になり、大量の魔石と経験値を獲得してしまったのである。


 経験値と言う物は、倒した相手に最も多く吸収されるが、倒すのに協力した相手にも吸収されるし、近くにいる相手にだって吸収される。

 だから俺達と同行していた子供勇者二人に加えて、魔族に進化寸前であったフクロウにも大量の経験値が入る羽目になってしまい、何度目かの戦闘が終わった後に、彼は体の透明度が完全に消え去り、魔族への進化が始まってしまったのであった。



 「グウウゥ、アアア! 体が熱い! 燃えるようだ!」


 何度目かのモンスターの襲撃が終わり、魔石を回収している最中に、馬車の中からフクロウの絶叫が聞こえて来た。

 俺達はすぐに彼が乗る馬車へと向かった。

 するとそこでは、フクロウが体から煙を上げて悶え苦しんでいた。


 「とうちゃん! とうちゃん! しっかりして!」

 「大丈夫ですか父さん! あああ、ナイトさん! 父さんを助けて下さい!」


 ハヤテとデンデがフクロウに縋り付いてパニックを起こしている。

 俺はフクロウに駆け寄り、ポーションを口に含ませた。


 しかしフクロウの体調は一向に良くならず、体から出る煙はどんどん勢いを増して行く。

 遂には近づくことも出来い程の高熱の蒸気となった煙にフクロウは包まれ、

 その姿は完全に見えなくなってしまったのだった。



 「ゴオオオ!! ガギグゴゲ! か、ら、だ、が、アアアァァァ!!」



 煙の中からはフクロウの絶叫が響いている。

 だが、蒸気の熱が凄すぎて、近づくことも出来ない。

 俺達はハヤテとデンデの兄弟をフクロウから引き剥がし、馬車から退避し、様子を見ることにした。

 二人は苦しむ父親に近づこうと大暴れしているが、流石にあの蒸気の中へと突っ込ませる訳にはいかない。

 俺はスキルの更新で上がったステータスを活用し、二人を押さえつけて動きを止め、状況を見守っていた。


 それからしばらくは絶叫が収まらなかったが、段々と蒸気の量が減って行き、それと共に声も小さくなり、煙の噴出が収まる頃には、声も全く聞こえてこなくなった。


 俺は二人の拘束を解き、馬車へと近づいて中の様子を伺う。

 するとそこには長い白髪を晒し、背中に羽毛を生やした渋い顔をした爺さんが倒れていたのであった。



 「とうちゃん? とうちゃん! 何処行ったのとうちゃん!」

 「父さん? 返事をして下さい父さん! 父さん!」


 ハヤテとデンデは半狂乱になり、泣き叫びながら馬車の中で父親を探し回る。

 対して俺達は警戒心マックスで爺さんへと近づいて行く。


 体の透明度が無くなったフクロウから突如蒸気が発生し、その体を完全に覆い隠した。

 蒸気が収まった後、フクロウは居なくなり、代わりに馬車の中には謎の爺さんが1人きり。

 そしてその爺さんの背中は羽毛で覆われている。


 どう考えてもこの爺さんがあのフクロウだと考えて間違いは無さそうだ。

 つまり、さっきのあれがモンスターから魔族への進化の瞬間だったのであろう。


 俺達は警戒しながら近づいていくが、爺さんが動く気配はない。

 結局俺達は眠ったままの爺さんを確保し、そのまま鎖を使って爺さんを捕縛。

 そしてその顔に水をぶっかけて目を覚まさせたのだった。



 「ゴホッゴホッ! なっ何だ! 一体何事だ!」

 「それは俺らのセリフだよ。おい、意識はあるか? 俺が誰か分かるか?」

 「? ナイト殿だろう? 一体何を……、なっ何故吾輩が縛られている!?」


 目が覚めた爺さんは自分が縛られていることに驚いているらしい。

 そして俺を睨みつけて来たのであった。


 「ナイト殿!

  くっ、一体どういうつもりだ。何故吾輩を再び縛り付ける。

  吾輩にはお主達を害するつもりはないと知っている筈だ!

  一体何故このような事を!?」

 「あ~、一応念の為にな。

  あんた、自分の身に何が起きたか理解出来てるか?」

 「吾輩の身に何が起きたかだと?

  ご覧の通りだ!

  目が覚めたら縛られていたぞ!」

 「いや、そうじゃなくて。

  見た目が変わっていることに気づいていないのか?」

 「何を言っているのだ。そう簡単に見た目が変わる訳が……!?」


 そうして彼は初めて自分の姿が『人型』に変化していることに気が付いたようだった。

 驚愕に目を見開き、彼は自分の体を隅々まで見渡していく。




 彼の見た目は70~80歳位の爺さんだ。

 その顔は意外と美形であり、同時に生きてきた年月を思わせる枯れた雰囲気を醸し出している。

 顔に刻まれた皺の一本一本からも風格がにじみ出ているのだ。

 長く伸びた白髪に、程良く筋肉が付いた引き締まった体。

 身長も高く、直立すれば180cmを超えているだろう。

 こうして正面から見ている限りではまるで人間と変わらないが、その背中にはびっしりと羽毛が生えていることは確認済みだ。

 性別は男性、下もちゃんと生えていて、意外と大層なものをお持ちであった。


 ……何が悲しくて俺は爺さんの体を隅々までチェックしているのだろうか。

 鎖で繋がれた全裸の美形老人の観察とか、幾らなんでもマニアックすぎる。


 何だか虚しくなってきたが、滅多に出会えない魔族が目の前で惜しげもなく裸体を晒しているのだ。

 勇者の供として調べておかなくちゃならないだろう。


 知り合いの老人と言えばジャックが思い浮かぶけれど、目の前の彼もまた、ジャックと同じく順調に歳を重ねた格好良い老人の雰囲気を醸し出していた。

 その格好良い老人は、自らの姿を目に焼き付けてから改めて俺の方を振り向いた。

 いや、俺を通り越して俺の後ろで驚いているハヤテとデンデの方に目を向けたのだ。

 彼は言葉を紡ぎ出した。

 その声は先程までのフクロウと全く同じ声色であり、姿形は変わっても、目の前の老人が二人の父親であることの証明となったのであった。


 「ハヤテ、デンデ、二人共吾輩の事が分かるか?」

 「とうちゃん?」

 「父さんですか? えっ、でも何で人間の姿に?」

 「いや、これは『人間』ではない。吾輩は『魔族』になったのだ」

 「魔族!」

 「魔族って……魔族とは魔王に従い人間を襲う、人類の天敵でしょう?

  何時の間に父さんは魔王に忠誠を誓ったのですか?」

 「いや、吾輩は魔王に忠誠など誓ってはいない。今の吾輩はフリーの魔族だ。

  吾輩は大量の経験値を得たことでモンスターから魔族へと進化したのだと考えられる」

 「進化! 何だか分からないけど格好良い言葉だな!」

 「父さんが格好良いのは当然ですけれど……大丈夫なのですか?

  先程は「体が燃える!」とか言って絶叫していましたけれど」

 「そうなのか?

  正直こうなる前の記憶は全く無いのだ。一体何が起こったのだ?」

 「ええと、それはですね……」


 デンデが魔族へと進化した父親に、進化する直前の出来事を説明している。

 彼はその説明を聞いて深く頷き、今度は俺の方へ顔を向けたのであった。


 「成程、話は分かった。

  吾輩はナイト殿達の戦いの余波で経験値を得てしまい、突如魔族へと進化してしまった。

  そして諸君らは魔族に進化したばかりの吾輩がどのような行動に出るのか分からなかったから、鎖で固定し様子を見た。

  と、この様な話で良いのかな?」 

 「理解が早くて助かるよ。

  目の前でモンスターが魔族に進化するなんて初めての経験だったからさ、

  念には念を入れさせて貰ったんだ」

 「いや、それで良い。

  万が一吾輩が正気を失っていた場合、

  息子達に危害を加えていた可能性もあったのだ。

  慎重な行動を選択したお主の判断に間違いはない。拘束を感謝する」



 そう言って彼は頭を下げた。

 それにしても凄いセリフだな。

 『拘束を感謝する』なんて初めて聞いたぞ。


 結局彼は魔族になっても記憶が連続しており、取り立てて攻撃的になっている訳でもないと分かったので、拘束を解き、開放した。

 そうして彼は魔族としての第一歩を踏みしめようとしたのだが、どうも進化したばかりで人間の足での移動に慣れていなかったらしく、まともに歩くことも出来ずに苦労していた。

 結局、彼は今日の野営地に着くまでの間、馬車の中で歩行訓練をしていた。

 そして俺達が野営地に到着して、野営の準備をしている間は、外に出て地面の上で何度も転びながら二人の息子と共に歩行訓練に励んでいたのであった。


 そして現在、彼は今度は両手を使うための訓練に挑戦していた。

 ハヤテとデンデが山育ちで、お行儀の良い食事は苦手だと聞いていたので、両手で摘めるサンドイッチとスープを大量に作ってやったのだが、ついさっきまでフクロウだった彼は口だけで食べようとしたので、慌てて手を使うことを教えたのだ。


 彼はまず手を使って物を握るという行為が不得手であった。

 しかしハヤテとデンデが両側に張り付き、彼の手助けをする事で、遂に12個目にしてサンドイッチを両手で掴んで口まで運ぶ事に成功していた。

 その前の11個のサンドイッチは、落ちる寸前でハヤテかデンデがキャッチして口に含んでいたので、彼にとっては初めての食事となる。

 彼は俺が作ったサンドイッチを口に含んで食べている。

 そして食べ終わってから、驚いた表情で俺の顔を見つめて来たのであった。


 「ナイト殿、これは一体何なのですかな?」

 「何と言われてもな、普通のサンドイッチだぞ」

 「普通、これが普通ですか。

  つまり息子達も貴方がたも普段からこのような物を食べているという事ですか」

 「俺達はそうだが、ハヤテとデンデが白虎の国で何を食べていたのかなんて知らんよ」

 「オレたちは城の中で、もっとこう面倒臭い料理を食べさせられていたぞ!」

 「マナーだとか、ナイフだとか、フォークだとか本当に面倒臭い料理でしたね。  味は確かに美味しかったですが、食べるだけならこんな感じの手で食べられる料理が一番ですよ」

 「お前達、森の中で吾輩と一緒に食べていた食事はどう感じていたのだ?」

 「旨かったよ! でも今から考えると大雑把だったかも」

 「森の中の食事は単調でしたからね。

  味なんてものにこれだけ拘るのは人間特有の現象ですよね」

 「ううむ……ちなみにお前達からして、このサンドイッチとかいう料理はどう感じるのだ?」

 「普通」

 「普通ですね。取り立てて旨い訳ではなく、さりとて不味い訳でもない。

  実に普通の料理です」

 「悪かったな、こんな山の中での食事なんだから普通でも十分だろうがよ」

 「旦那の作る料理は悪くないぜ。

  二人がこれを普通だと感じるってことは、

  長い城暮らしで舌が肥えたってことだと思うぜ」

 「ゲンの言う通りだ。

  ナイトは町で食事の屋台を出していた程の料理の腕前を持っているからな。

  旅の最中に食べる料理として考えるならば十分に及第点だろう」

 「軍の食事だと、たまにとんでもないハズレの時とかありますからね」

 「ああ、あれに比べれば大したものだ」

 「それあんまり褒められている気がしないぞ」


 俺達はワイワイと騒ぎながら食事を再開する。

 そして彼はどうやら俺のサンドイッチが気に入ったらしく、バクバクと食べ続けていき、食べ続けるに従って手の扱いも上手くなっているように見えた。


 彼は後にこう語ったという。

 魔族に進化して一番の恩恵は、間違いなく旨い食事が食べられたことだったと。

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