第六話 幼馴染
2017/06/15 サブタイトル追加&本文を細かく訂正
俺には4人の幼馴染がいる。
『土の勇者』になることが決定しているこの国の王子である『ロック』
ロックの姉にして、この国の王女でもある『ロゼッタ』
闇の神殿の巫女にして、『闇の勇者』に先日正式になったばかりの『ダイアナ』
そして宮廷魔道士長の娘である『エリザベータ』
男はロックだけであり、残りの3人は女の子だ。
ちなみに俺とロックとダイアナは同い年であり、エリザベータは2歳年上でロゼッタは4歳年上だ。
これに俺よりも2歳年下の弟を加えた6人が8年後に結成される勇者のパーティーだと言われていた。
8年後、つまり勇者であるロックとダイアナが18歳になった時、2人は勇者として世界を巡る旅に出ることになっている。
この世界では、勇者となった者は18歳になると、2人の仲間を引き連れて、3人パーティーで世直しの旅に出ることが決まっているのだ。
これは遥か昔、魔王を倒した偉大な勇者様が、18歳の時に友達2人と共に3人で世界を救う旅に出たことに由来する慣習らしい。
とは言え、現在ではその意義も失われており、いずれ国の重要なポストに付くことが決まっている勇者達に『世間』という物を知って貰うための『イベント』と言った側面が強くなっている。
かつての勇者パーティーにならって3人だけで旅をするのは精々国内止まりだ。
各国に2名しか存在しない貴重な勇者が万が一にも死ぬことがないようにと、国外へ行く場合などは、基本国の騎士団が随行することになっているからである。
仮にロックがこのまま何事もなく18歳になったとしたら、当初の予定では俺と弟の二人を引き連れて、この玄武の国の中を巡る予定となっていた。
ちなみに闇の勇者であるダイアナの仲間はロゼッタとエリザベータの2人だ。
気心知れた仲間と共に、思い出作りと実績作りと見聞を広める事を目的とした旅に出発する手筈だったのである。
とは言えそれは、あくまでも予定でしかない。
ロックの仲間の1人に内定していた俺はスキルもレベルも足りずに脱落。
2年後にスキル授与の儀式を行う弟にしても、まだ本決まりにはなっていない。
そして女性陣、闇の勇者のパーティーにしても既に1人が脱落している。
勇者であるダイアナは無事に10のスキルを授かることが出来た。
宮廷魔道士長の娘であるエリザベータは魔法特化型のスキル構成で8つのスキルを授かっている。
問題は幼馴染の中で1番の年長者にしてロックの姉である、この国の王女ロゼッタだ。
ロックや父親と同じく茶色い髪に茶色い目、可愛らしい顔つきをしている女の子である。
彼女は4年前、闇の神殿内においてスキル授与の儀式を受けた。
そこで授かったスキルは僅かに3つのみ。
その内容は『王族』と『植物使い』そして『成長停止』であったのだ。
スキルが3つのみというのも問題ではあったが、最後のスキル『成長停止』が大問題であった。
スキルには効果の高い物、低い物、当たりハズレと様々な種類が存在する。
その中でも大外れスキルと呼ばれ忌み嫌われているスキルがあり、『成長停止』は正にその大外れスキルの1つであったのだ。
『成長停止』
効果は呼んで字のごとく、『スキルの持ち主の成長が停止する』という内容だ。
このスキルを持っている者は、レベルアップをした所でステータスは一切上昇しない。
それどころか幾ら体を鍛えた所で、全くステータスに変化は起こらない。
オマケにステータス上昇系スキルの効果すら打ち消してしまう。
更には体の成長まで止まってしまうという恐るべきスキルであったのだ。
ロゼッタ王女は現在14歳。
通常であれば生理も始まっており、体つきも女性らしくなり、正にこれから美しさに磨きが掛かり始めるというお年頃であった。
この位の年の『王女様』と言えば、周囲の男性陣から羨望の視線を投げかけられ、多数の求婚者がいてもおかしくはないのだ。
しかし彼女にはそんな物は存在しなかった。
投げかけられるのは哀れみの視線のみ。
10歳にして成長が止まり、何時まで経っても子供体型のままで、しかも生理が来る前だったので子供を生むことすら出来ない、という大外れスキルに人生を狂わされた一人の被害者に向けられる同情の視線だけであったのだ。
特に重要だったのは子供が産めないという状況にあった。
彼女は王族だ。
父親は現在の国王陛下その人であり、弟は次期国王にして勇者になることが決定しているロックである。
つまり彼女の夫になりさえすれば、王族の血を得ることが出来、なおかつ次期国王の義理の兄にして勇者の義理の兄という特典まで付いてくるのだ。
だからロックが生まれ、勇者であると分かってからは、ただでさえ多かった結婚の申込みが爆発的に増加した。
しかしそれは4年前までの出来事だ。
彼女のスキル授与の儀式が終了し、その内容が報告された後、毎日ひっきりなしに訪れていた結婚の申込みはパッタリと無くなってしまったのだ。
王族に結婚の申込みをしていたという事は、相手はそれなりの名家であるという事である。
だから結婚するにあたって、彼らの家は『王族の血』を『正統後継者』に継がせることを第一目標としていた。
なにしろ次期国王であるロックは『勇者』であるため、戦場に行く機会が多くなる。
戦場に行く機会があれば、その分、城での仕事が疎かになってしまう。
そんな時に勇者であり国王でもあるロックの『姉』に子供が居れば、その子もその子の一族の者達も国内において重要な役職に付くことが期待できるし、ロックに何かあった場合は次の国王の座すら狙えるのだ。
しかし彼女は生理が始まる前に『成長停止』してしまった。
つまり彼女と結婚した所で『王族の血』を家に入れることは出来ない。
そしてロゼッタは王女だ。
王女を家に迎え入れるということは相当な出費を強いられることを意味する。
権力も増えるだろうが、金銭的な痛手もまた増えるのだ。
しかし『王族の血』を手に入れられないのであれば、リターンよりもリスクが上回ってしまう。
だから彼らはロゼッタから手を引いたのだ。
彼女を迎え入れるメリットが無くなったから。
その状況は彼女をいたく傷付けた。
当然だ、「子供を産めない王女に価値はない」と言われたようなものなのだ。
それから彼女は城にある自室に閉じこもってしまい、殆ど外に出て来なくなってしまった。
つまり亀岩城で引きこもりになっているのである。
幼馴染である俺達でさえ、機嫌が悪い時には会う事も出来ないのだ。
そして残りの二人、『エリザベータ』と『ダイアナ』にも問題が発生していた。
ロゼッタとエリザベータとダイアナは幼馴染にして親友同士だ。
丁度俺とロックとの関係に似ている。
ロゼッタは王女であったため、当初有象無象に群がられ、友達が出来なかったらしい。
しかし宮廷魔道士長の娘として生まれたエリザベータと友達になり、勇者であり、闇の神殿の巫女として修行中でもあったダイアナとも友達になることが出来た。
この二人は変人と危険人物として有名だ。
エリザベータは知識欲の塊のような奴だ。
灰色の髪と灰色の目を持ち、髪はいつもボサボサでだらしない格好をしている。
しかしその頭脳は12歳にして国内最高の頭脳集団である宮廷魔道士達にも匹敵すると言われている天才児だ。
彼女はタートルの町にある全ての本を読破したと豪語し、ありとあらゆることに関心を持っている。
特に魔法に関しては並々ならぬ関心があり、城に遊びに行くと、親である宮廷魔道士長に付きまとって質問攻めにしているのをよく見かけている。
明るく元気で裏表の無い性格をしているのだが、裏表が無さ過ぎて情け容赦無く相手の至らぬ所を指摘してしまい、回りに煙たがられている困ったちゃんだ。
前世で言うとマッドサイエンティストの様な奴なのである。
「玄武の国の宮廷魔道士長の娘は稀代の天才にして変人である」
この噂は国内は疎か国外にまで轟いているのである。
ダイアナは闇の勇者にして闇の神殿の巫女だ。
黒髪黒目で髪は長く、10歳である今でさえ『美人』だと断言できる程の容姿をしている。
闇の神殿と言うのはこの国にある神殿の名前であり、スキル授与の儀式をしたのもこの場所だ。
そして『闇の神殿の巫女』とは闇の神殿に住み込みで働き、巫女の修行に勤しんでいる者を指す言葉だ。
『巫女』と言えば、聖職者のイメージが有る。
しかしここは異世界、『日本の巫女』とは全く扱いが異なる。
彼女達は『巫女』を名乗ってはいるが、『暗殺者』若しくは『忍者』と言った方がしっくり来る。
いや女性しか居ないことを考えると『くノ一』と言った方が正しいか。
彼女たちは闇の神殿において、闇の神に祈りを捧げ、闇の神より授けられし技能を磨いて世界に貢献している者達だ。
闇の神に授けられし技能。
それは俗に『暗殺系スキル』と呼ばれている物だ。
何故そんな物騒な話になっているのかと言えば、『闇の勇者』に授けられるスキルの1つが高確率で『暗殺の天才』というスキルだからだ。
スキルの中にはまれに『~の天才』と呼ばれるスキルが存在する。
これを持っている者はそのスキルに関しては他を圧倒する実力を発揮できるとされており、大当たりスキルの1つと言われている物だ。
ダイアナは勇者として生まれ、両親が事故で亡くなってからは闇の神殿の孤児院で育てられて来た。
そして闇の勇者となるべく、幼い頃から暗殺者としての技能を叩き込まれて来たのだ。
そんな彼女はスキル授与の儀式において、当然のように『暗殺の天才』というスキルを手に入れた。
そのスキル構成を見る限りやはり『勇者』や『暗殺者』というよりも『忍者』と言った方がしっくり来るのだが。
彼女は人と会話をする事が苦手だ。
結果無口になり、何も知らない回りからは『クール』だとか言われているが、幼馴染達は単に会話が苦手だと知っている。
何故なら本人から告白されているからだ。
何とか乗り越えようと努力しているのだが、未だ結果は出ていない。
更に彼女は訓練が行き過ぎたのか『殺気』を抑えることを苦手としている。
そんな訳で『無口で凄い殺気を放つ暗殺の天才』が誕生してしまったのだ。
だから彼女は昔から『危険人物』として周りから遠ざけられており、勇者であるにも関わらず人気はイマイチだったりする。
しかし俺達は知っているのだ。
彼女は『闇の勇者』に選ばれてしまっただけで、本当は殺しなんてしたくないのだと。
そもそも彼女は最初『アナ』という名であったのだ。
それが闇の神殿で暮らし始めた頃には『ダイアナ』と改名されていた。
『ダイ』は『die』で『死』を意味している。
『闇の勇者』としての活躍を期待される余り、『死』という単語を名前に付けられてしまったのだ。
だから俺達は、俺達だけは彼女のことを『アナ』と呼んでいる。
『無口で凄い殺気放つの暗殺の天才』は本当は心優しい女の子なのである。
この二人がどうしてロゼッタと親友になったかと言えば、それは俺とロックの時と同じだ。
この二人は『変人』と『危険人物』と言われていたが、二人共性格に裏表がなく、相手が王族だからと言って態度を変えることも無かった。
そんな所に惹かれてロゼッタは二人の友達になり、そして親友になったのだ。
そして二人にしても、周りから避けられていた自分と友達になってくれたロゼッタに惹かれ友達になり、そのまま親友になったのだ。
彼女達はロゼッタの事が大好きだ。
だからロゼッタが引きこもった後も彼女の部屋へと通いつめ、レベル上げも彼女と一緒にやりたいと、まだ戦ってもいないのである。
しかし国としてはそれでは困るのだ。
エリザベータのスキルは8つもあり、ダイアナは勇者として堂々の10のスキル持ちだ。
8年後には彼女達は旅立つことが決まっている。
これは個人のわがままで中止に出来るような代物ではないのだ。
だから今回、陛下は俺のレベル上げのついでに彼女達のレベルも上げようと考えたのだろう。
どちらかと言えば俺のレベル上げよりも、彼女達のレベルを上げる方が重要だったりする。
もしも俺が通常通り複数のスキルを授与されていたら今回の話は存在しなかっただろう。
スキルの数が1つだけというロゼッタ以上の不運に襲われた俺だからこそ彼女を部屋から連れ出し、彼女に付いてくる形でエリザベータとダイアナも連れ出すことが出来るのだ。
正に怪我の功名である。
そう考えればスキルが1つだけというこの状況にもまだ救いがあるといった所か。
これから俺は彼女達と一緒にレベル上げの為に町の外へと向かう。
引率は軍の副将軍を拝命している父さんが直々に行なってくれる。
俺のレベルは今日だけでMAXまで上がってしまうだろう。
だから彼女達と共に戦えるのは今日限りだ。
俺はこの日の事を生涯忘れない様にしようと考えながら、玄関から屋敷の外へと出て行ったのであった。