第五十七話 勇者に全てを背負わせない
2017/08/03 改稿しました。
2017/08/18 本文を細かく訂正
そうして半分くらいだろうか、死体の片付けに目処が付いた辺りで、俺は震えたままの二人と一匹に声をかけるために近づいていった。
ちなみにロックは魔法を使って地面に穴を開け、ライとゲンは穴に死体を放り込んでいる山賊達の監督をしているので近くにはいない。
俺達のパーティーの中で恐らく俺が最もこいつらに近いので、話をしておいた方が良いと考えたのだ。
彼らは俺が近づくと、信じられない物を見る目付きで俺を見つめてきたのであった。
「あんた……あんた、一体何を考えてあんな化物と一緒に旅をしているんだ!?」
「怖くはないのですか? 恐ろしくはないのですか!? 彼はこれだけの数の山賊を殺してしまうような怪物なのですよ!」
「いや、山賊退治は俺達全員の共同作業だから。そもそもあいつは化物でも怪物でもないただの人間だよ。全くもって怖くも何とも無いな」
「貴方もこれに手を貸したのですか?」
「ああ、あいつの魔法で周囲に壁を作って、山賊共の退路を断ち、少人数ずつ小分けにして閉じ込めて、俺の作った催眠麻痺ガスをばら撒いて体の自由を奪う。それから動きの止まった山賊達を全員で順番に仕留めて回ったって訳だ」
「無茶苦茶ですよ! まず最初の退路を断つ所から普通ではないじゃないですか!」
「と言うか、あいつが勇者だって言うのならあいつ1人でも出来たんだろ? 何であんたはあいつと一緒に手を汚してるんだよ!」
「だってそれが俺の役割だしな」
俺はあっけらかんと答えた。
それを見て二人と一匹は『意味が分からない』といった顔をしていた。
「役割? 貴方の役割は勇者の共犯者になることだとでも言うのですか?」
「共犯者とは言い得て妙だな。俺達勇者の供の仕事というか役割には幾つかあるが、『勇者に全てを背負わせない』ってのがその一つだからな」
「『勇者に全てを背負わせない』ですか」
「そうだ、お前らも聞いているとは思うけど、勇者ってのはステータスだけ見れば他の連中では手も足も出ない程隔絶した存在なんだ。
だからって何でもかんでも全て押し付けて、勇者1人に背負わせることが果たして正しい事なのかと言えば、勿論そんな事は無い。
勘違いするなよ、お前らもそしてロックの奴も、自分の意志で勇者になった訳じゃない。
生まれた時に何故か勇者にされてしまっただけの人間なんだ。
それなのに無理やり戦いに駆り出されて血まみれになったり、能力が高いからって最前線に送られたりするなんておかしいだろう?」
俺は二人に説明をしてやる。
たとえ嫌がっていたとしても、こいつらが勇者であることには変わりがない。
だから勇者には供が必要だと言われている理由を、こいつらには教えておいてやらなければならんのだ。
こいつらがいつか勇者として活動する際に、こいつらの心が壊れないようにするために。
「勇者の供ってのはな、勇者と共に旅をして、共に笑って、共に泣いて、共に馬鹿やって、共に困難に立ち向かう奴の事を言うのさ。
そしてそういう奴がいるから勇者もまた人として生きていけるんだ」
「人として生きていける……ですか」
「そうだ、お前らだってスキル授与の儀式を受けたら、すぐにロックの奴と同じことが出来ようになるんだ。
でもあいつもお前達も決して化物なんかではなく、『勇者』というスキルを手に入れてしまっただけの普通の人間なんだよ。
でも周りはそうは見ちゃくれない。
殆どの人間はステータスの高さだけに注目して、勇者の心までは考えちゃくれないからな」
そう、人はどうしたって目に見える物だけで判断を下してしまう生き物だ。
目の前にステータスが高い者が居れば、そいつに全てを任せて楽をしようとしてしまう生き物なのである。
そういう奴らは考えないのだ。
ステータスが高いからと言って、その力を振るう事を喜んでいるとは限らないということを。
「普通の人間が勇者並みの活躍をするためには、多大なる苦労が必要なように、『勇者』という超絶スキルを手に入れてしまったお前達が普通の人間と同じ心を維持するためには俺達のような勇者の供の存在が必要不可欠なんだ。
あいつと一緒に旅をして、あいつと共に血を浴びて、あいつの心を守らなくちゃいけない。
あいつは強いけど絶対じゃない。
あいつが背負える荷物には限界があるんだ
国だの世界だの人類だのの命運なんてのはな、たった8人の背中に任せて良い物じゃねぇんだよ。
白虎の国ではどうだか知らないが、玄武の国では勇者の供が最低二人は居ないと、勇者としての活動自体を禁止されているくらいだからな」
実際、遥か昔には単独での行動を命じられた勇者が心を壊し、暴走した挙句、自国の町を一つ破壊してしまうといった事件も発生しているという。
ステータスが万を超える勇者の扱いとはそれ程までに慎重でなければならないが、余り縛りすぎても活躍させることは出来ない。
よって最も効果的かつ確実な方法として、仲間を作り共に旅をさせる事により、勇者の心の保護を図っているのである。
まぁ理屈はともかく、俺達は好きであいつと一緒に居るのであるが。
とは言え、そういう相手を見つけるのが難しいというのも事実ではある。
だから俺達の様な幼馴染は重宝されるし、勇者の幼馴染というのは子供の頃から後のパーティーメンバーになれるようにと鍛えられるのだ。
育ちきった後で出会った相手は、どうしたって勇者を勇者としか見なくなる。
勇者を1人の人間として見てくれる人物というのは、実は大変貴重な存在なのだ。
「だからまぁアイツのことを余り怖がってくれるなよ。アイツは本当は勇者としての活動なんかやりたくないんだ。
部屋に篭って絵を描いたり、音楽を聞いたり、本を読んだりして暮らしたい奴なんだからさ」
「全然そんな風に見えないのですが……」
「出会ったばかりでこんな衝撃的な光景を見せられたらそうかもしれないけどさ。付き合ってみれば良く分かるよ。勇者もただの1人の人間なんだってな」
「勇者も人間……ですか」
「人間だよ。ロックも人間、ハヤテもデンデも人間。ここには居ないけど俺の知っている闇の勇者と氷の勇者だって人間だ。ちなみに闇の勇者は食いしん坊で氷の勇者は孤児院の子供達に大人気だぞ」
「そんな……そんな風に生きている勇者なんて聞いたこともない!」
「ならこれから知ればいいさ。どうだ? もし良ければ俺達と一緒に来ないか?」
「一緒に?」
「ああ、そもそもお前らここが何処かも分かってないだろう? 全く知らない他国の土地で、モンスターの親父さんを連れて旅なんか出来ないだろ。でもロックと一緒に行動すれば、この国で起きる問題の大部分は何とかなるからな。考えておいてくれよ」
そう言って俺は二人と一匹から離れ、片付けを再開した。
俺の行き先は山と積まれた山賊達から剥ぎ取った持ち物置き場だ。
200人分持ち物は俺のアイテムボックス能力を使っても全てを受け入れることなど出来ない。
だがその輸送力を使い、馬車の中へと移動することは出来るのである。
俺はまずは武器類を回収するために一歩を踏み出したのであった。
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--sideロック--
ナイトが作業の合間を縫い、風の勇者と雷の勇者とその育ての親であるモンスターオウルの側へ行き、何かを話していた。
そして話が終わった後、二人と一匹が私を見る視線が多少柔らかくなったように感じられる。
ナイトのことだ、私の先程の行動に対するフォローでもしてくれたのだろう。
私は気の利く親友を持てたことを心の底から感謝した。
私は先程、大変大人げないことをしてしまった。
年端もいかぬ子供達に大量の死体を見せつけ、勇者とは怖いものだという私の価値観を押し付けてしまったのだ。
そう、私の価値観である。
私は勇者とは怖いものだと思っている。
私のステータスは総じて2万を超えており、国内どころか世界最強であると言われている。
だがこんなものは私は欲しくなかった。
もっと言ってしまえば『勇者』なんてスキル自体が欲しくなかった。
私は勇者になんてなりたくはなかったのだ。
だが勇者に生まれてしまった以上、勇者として生きない訳にはいかなかったのだ。
だから私は幼い頃からの訓練の日々に耐え、こうして勇者として活動しているのである。
それなのにあの二人は勇者としての役割を放棄して、好きに生きるのだと駄々をこねていた。
それで頭にきて、大人げない態度をとってしまったのだ。
あの子達に私の価値観を押し付ける権利なんて私には無いと言うのに。
『お前は勇者として生まれたが、必ずしも勇者として活動する必要はない。最低限、国内での活動くらいはやらなくては行けないだろうが、それ以降は自らの望む人生を自らの手で掴み取りなさい』
今思えば、父上もエリック先生も、ハロルドおじさんも、私のこのふやけた性格を良く分かった上で、この言葉を私に送ってくれたのだろう。
私は昔から戦いは嫌いだったし、戦闘訓練も魔法の勉強も嫌いだった。
私は勇者として生まれてしまっただけで、性格的には全く勇者に向いていない内向的な性格なのだから。
いつだかナイトが言っていたが、勇者とは皆の先頭に立ってガンガン行かなくては行けないのだという。
だが私はそもそもガンガン行くような性格ではないので、「大人になったら俺が引っ張って行ってやるよ」と幼い頃からナイトに言われていたのだ。
生まれついて18年間、スキルを授与されてから8年間の訓練のお陰で、私はモンスター相手でも戦える強さを、山賊や盗賊を顔色一つ変えずに殺害する冷徹さを、ふやけた性格を人に見せない演技力を身に着けた。
だがそれは私の本来の性格ではない。
だから気を抜くと本来のふやけた性格が出てしまうのだ。
ナイトやライは私のこの勇者らしくない性格を知っているから問題はない。
だがそれを知らない子供勇者の二人に私の醜い性格を知らしめてしまったのは失敗だった。
子供相手にムキになって、相手を怖がらせて悦に浸るとか、未熟者にも程があるではないか。
土に埋めた山賊の数も、そろそろ200に到達する頃だ。
私はこの作業が終わったら二人と一匹に謝りに行こうと誓うのであった。
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--sideナイト--
そしてようやく全ての死体の処分が終了した。
ロックは死体の処理が終わった直後にハヤテ達の方へと向かって行き、先程の非礼を謝っているようだ。
やはりさっきのはロックの暴走であったらしい。
あいつは王族として、そして勇者として、幼い頃から英才教育を受けているから立派に見えるだけで、実際にはまだ18歳の若者なのだ。
18歳の若者が暴走して失敗をするなんて極々当然のことだ。
だから失敗したらフォローしてやればいいし、その為に俺達の様な勇者の供が同行しているのだ。
俺は馬車の中の荷物整理をしながらそんな事を考えていた。
そしてロックがこちらへとやって来たが、どうやらハヤテ達は俺達との同行を希望しているらしい。
俺が誘ったことではあるが、ロックも問題ないと言っているし、ライもゲンもOKだそうだ。
そんな訳で俺達土の勇者一行に、白虎の国の風の勇者と雷の勇者とその保護者のモンスターオウルが同行する事が決定した。
ちなみに殺さずに残しておいた山賊達は捕虜にして連れて行くことが決定した。 そして道中暴れられても困るので、全員の意識を再び奪って馬車の中に閉じ込めておいた。
そこまでは良かったのだが、二人の勇者はともかくとして、隠しようもない巨体を誇るモンスターオウルをどうやって移動させようかという問題が発生した。
しかし解決策は見つからず、山賊が行っていたのと同じ様に、馬車の中で大人しくしていて貰うことになった。
しかしこの問題は、その日の内に解決することになる。
俺達はこの後、大量のモンスターに襲われる羽目になる。
そしてその戦いの余波で、彼は魔族へと進化したのであった。




