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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第三章 冒険編
58/173

第五十六話 血塗られた勇者の道

2017/08/03 改稿しました。

2017/08/18 本文を細かく訂正

 「えっほ、えっほ」

 「ほい次。もういっちょ。まだまだ行くぞ」

 「こちらはもう満杯です。ロック王子、次の穴をお願いします」

 「分かった。しかし思ったよりも重労働だな」

 「そりゃ200人分の死体だからな。重労働で当然だろ弟」

 「おい、何サボってんだ! お前らもこの穴の中に入りたいのか!?」

 「ヒイイィィ! スンマセン!」

 「謝っている暇があるならさっさと働け! 働いている間は生きていられるからな!」

 「了解や! だから殺さんといて! 殺さんといてや!」

 「俺達を殺す時は心が痛まなかったくせに、自分達が死にそうになったら命乞いか? 代わりはまだ居るんだぞ!」

 「働きます! 役に立ちます!」

 「口よりも手を動かす!」

 「了解しましたボス!」

 「俺はボスじゃねぇ!」



 風の勇者と雷の勇者の兄弟を救出し、二人を育ての親であるフクロウと再会させた後、俺達は山賊の亡骸を道端に埋めていた。

 その数、実に216人。

 山賊は総数は200人だと宣言していたが、どうやら少なめに申告していたようである。


 ちなみに働いているのは俺達だけではなく、生かしておいた山賊達も作業に参加している。

 彼は目が覚めた後、殺されている仲間達に気が付いて青ざめ、誰に喧嘩を売ったのかを理解し、揃って許しを請うてきたので、話を聞くまでの間は生かしておいてやると宣言し、働かせているのだ。



 そして、ハヤテもデンデもフクロウも、馬車の中で腰を抜かして震えている。


 彼らは気付いていなかったのだ。

 彼らを捕まえて、ここまで連れて来た山賊が倒されたという事を。

 しかもほぼ全滅していたという事を。

 それを俺達が行っていたという事を。


 彼らは知らなかったのだ。

 『勇者』という生き方が血にまみれているという事実を。

 そして知ってしまったのだ。

 『勇者』とは、この様な地獄を生み出すことが出来る人間なのだということを。



------------------------------------



 「では名乗らせていただこう。玄武の国の王子にして、今代の土の勇者を勤めているロック=A=タートルだ。以後、宜しくお願い申し上げる」



 フクロウが息子達を人の世に戻そうとし、息子達は人の世界で暮らしたくないと拒絶している丁度そんな時、人の世界で勇者として活動してる我が親友が名乗りを上げた。


 彼らはとても驚いていた。

 そりゃあそうだろう。

 目の前に『勇者』が現れれば誰だって驚くに決まっている。

 しかも丁度その話をしている最中だったのだ。

 おまけにその内二人は勇者の印を持っているのだ。

 偶然にしても出来すぎだ。

 ……いやこれ本当に偶然なのか?


 思えば前からおかしかった。


 氷の勇者であるサムは、取り返しがつかない状況になる前に、青龍の国から引き取ることが出来たし、

 マジックアイテムの情報も思った以上に集める事が出来たし、

 結局俺とロゼは勇者の供になることが出来たし、

 先日の盗賊共は殺す前に捕まえられたし、

 そして山賊に襲われたと思ったら勇者が二人捕まっていたのだ。


 全ての出来事は俺達の行動の結果であることは間違いはないが、如何せん幸運が続き過ぎているように感じられる。

 ……幸運?

 そうか幸運か!

 勇者であるロックは全ステータスが2万超えだ。

 勿論『運』すらも2万超えであり、これを超える人間は、話に聞く限り誰もいない。

 つまりロックは世界で一番運の良い人間ということになる。


 そうか、これがいわゆる主人公補正という奴なのか!

 主人公の前には様々な幸運が転がり込んで来るという訳だ。


 ……ん?

 でもそれにしちゃあ、ロックの運命は過酷過ぎないか?

 こいつはこれでも結構な苦労人だ。

 姉であるロゼが呪いスキルで苦しんでいるのを見ているし、

 8年間もの間、勇者として活躍できるようにと過酷な修行を続けてきたし、

 今日だって山賊を200人も殺す羽目になっているのだ。


 これの何処が幸運なのだろう?

 これじゃ下手すると『悪運』とか『悲運』じゃないか。


 あ、いやそれもまた『運』なのか。

 ひょっとして『運』のステータスってあらゆる運を片っ端から引き寄せる効果があるのか?

 それもまた主人公の宿命か。

 と言うか、勇者の宿命なのか。

 勇者とはあらゆる運に恵まれ、他の一般人とは一線を画す人生経験を持ち、そして幾多の困難を乗り越えて成長していく、人類の切り札だ。

 そうだよな、勇者が成長する為には幸運だけでは足りないのか。

 悪運や悲運にも晒されて、それを乗り越えて力を着けなきゃ勇者としての成長が無い訳だ。


 今回も恐らくその一つなのだ。

 普通なら会うことも出来ずにすれ違う筈だった三人の勇者が一堂に会している。

 そして若き勇者の前には、まだ勇者として生きることの覚悟が決まっていない子供勇者の兄弟が揃っている。


 これは、ロックがこの二人に対して何かアドバイスをすることで、二人は勇者としての覚悟が決まり、各々活動を開始するとか、そういうイベントなのではないだろうか。


 おおお! これもまた勇者の供の特権の一つ。

 勇者が起こすイベントを直に味わう事が出来るのは、共に旅する俺達だけの醍醐味だ。

 さて、我が親友は如何にして二人を勇者として導くのだろうか。

 俺は固唾を呑んで成り行きを眺めるのであった。



 「あっ貴方が土の勇者ですか……つまり貴方は我らを奪還するために、白虎の国から協力を要請されたという訳ですね」

 「いや、それは違う。私は勇者としての活動を開始したばかりでな。今は仲間達と共に、見聞を広めるために、自国の領土内を気ままに旅をしている最中なのだ」

 「じゃ、じゃあ何でこんな所に居るんだよ!」

 「むしろそれはこちらのセリフなのだがな。私達は玄武の国の街道の山道を歩いている最中に、山賊達に襲われたので返り討ちにしただけだ」

 「つまり吾輩達を助けたのは全くの偶然だと?」

 「その通りだ。この身は神ならぬ人の身の上であるからな、お三方と出会ったのは全くの偶然だよ。間違いなくな」



 二人と一匹は困惑した顔をしている。

 まぁ危機的状況を勇者が助けてくれたのに、その理由はただの偶然でしたと言われても中々納得は出来ないだろうしな。

 ハヤテとデンデにしても、白虎の国の城の中で散々勇者とはどういうものなのかと聞かされてきたのだろうから、こんな適当な理由で勇者が動いたなどと思わなかったのだろう。


 「とっとにかく意味は分からないが、これは嬉しい偶然だ。現役の勇者殿であれば、吾輩の息子達を任せるのに全く問題は無いだろう」

 「それについて、私は了承したつもりは無いのだがなぁ」

 「何故だ? お主は土の勇者であり、息子達は風と雷の勇者なのであろう? 同じ勇者であるならば、ここは息子達を先輩として導くのが、勇者としての当然の行為なのではないのか?」

 「そうは言ってもな。私自身が勇者としての自分を余り好きではないのでな」

 「は?」

 「私は正直、勇者として世界のために働くことに魅力を感じていないのだ。

  幼馴染であるナイトやライと共に旅をする傍ら、ついでに勇者としての活動をしているに過ぎないのだよ」


 あ、それ言っちゃうんだ。

 亀岩城の陛下の前でも、タートルの町から出発する時も、立派なことを言って旅立ったくせに、同じ勇者の前では本音を吐き出してしまうのかこいつは。


 まぁロックは、本来戦い向きの性格ではないからなぁ。

 スキル構成を見てもそれは明らかだし、そもそも昔から旅をする理由は『思い出作り』と宣言していたような奴なのだ。


 確かにロックが先輩勇者として後輩を導く姿というのは想像できない。

 と言うか、そんな事が出来るなら、サムも導いてやれていた筈なのだ。

 ロックもアナも本音を言えば勇者としての活動はやりたくないと考えているから、サムが孤児院に住んでいた時も、俺の店で働いていた時であっても、勇者として訪ねる来ることは一度として無かったし、アドバイスの一つも行ってはいなかった。


 そもそもサムにしたって、勇者としての活動はキングを救うためにエクスポーションが必要だったから開始したに過ぎないのだ。

 こうして考えてみると、自ら進んで勇者として活動している奴は俺の周りでは1人も居ないのだな。


 朱雀の国の火の勇者も、青龍の国の水の勇者も活動していないと言うし、実際に精力的に活動している勇者って光の勇者だけなんじゃないのか?

 いや、光の勇者にしたって、その活躍は聞こえてくるが、何故活動しているのかまでは知らないのだ。

 案外何か理由があって嫌々活動している可能性だってある訳だ。


 歴史書に記されている勇者は、皆私情は捨て去り、国のために、世界のために戦ったとか書かれてはいるけれども、彼ら彼女らにもそれぞれ事情があった筈だ。

 でもそんな事情は英雄譚には描かれないのだ。

 だって、そんな事は勇者でない者にとっては知ったことではないのだから。


 勇者はあくまでも国のために、世界のために、そして人々のために活躍した英雄であれば良い。

 いや、そうでなければ困るのだろう。

 この世界は何だかんだで勇者に頼っている部分があるから、勇者の個人的な感情は一先ず置いておいて、英雄的な部分だけがクローズアップされている訳だ。


 そしてそういった情報のみを見聞きし、信じて来た者達に洗脳されていた二人にとって、ロックの生き方は寝耳に水の筈だ。

 ハヤテとデンデはロックに向き直り、疑問をぶつけ出したのだった。


 「一緒に旅が出来るからって……、我が教えられた勇者像とは随分と違っているのですが」

 「『勇者は国のために、世界のために、人類のために働くのだ!』って口を酸っぱくして言われていたんだぜ!」

 「それはあくまで白虎の国の上層部の意見だろう。かく言う私も子供の頃から周囲の大人達にまったく同じ事を言われてきたからな」

 「では何故お主は、そういった理由で働いていないのだ?」

 「私の父上も、私に教育を施したエリック先生も、私の武術の師匠だったハロルド将軍も、違う意見を持っていたからだな」

 「違う意見?」

 「ああ、『お前は勇者として生まれたが、必ずしも勇者として活動する必要はない。最低限、国内での活動くらいはやらなくては行けないだろうが、それ以降は自らの望む人生を自らの手で掴み取りなさい』と言われて、これまで私は育てられて来たのだ」

 「『自らの望む人生を自らの手で掴み取れ』ですか……」

 「勇者としての義務感だけで活動していると、その内限界が来るからと言うのが理由らしいぞ。何しろ勇者とは血塗られた修羅の道を歩む者だからな」

 「はっ! あんたが修羅!? きれいな服着て、口調も身のこなしも鼻に着くのに修羅ってか! 笑えるぜ!」

 「兄さんに同意見です。失礼ですが、貴方は白虎の国の城で見た貴族達と大差なく見えます。とても血塗られた修羅の道を歩んでいるようには見えませんね」


 ハヤテとデンデはロックを見てそこらの貴族と同じだと断言している。

 だがそれは大間違いだ。

 一体全体どこの貴族が、山賊相手に返り討ちなんて真似が出来るというのか。


 「そうか、そう見えるか。では全員、外に出てみようか」

 「外? ……あっ! そう言えば、オレたちを騙した盗賊団はどうなったんだ!?」

 「今は山賊団と名を変えたそうだぞ。安心しろ、殆どは始末してあるし、残しておいた連中も無力化してあるからな」

 「始末? ……えっ今、始末と言いましたか? 殆ど始末?」

 「ああ、数人だけ残して殆ど始末した。

  だから安心して外に出てみるといい。

  そこには英雄譚では決して語られる事のない『勇者』の真実が転がっているからな」


 そう言ってロックはフクロウに近づき、拘束していた鎖を素手で引きちぎってから馬車を出て行く。

 俺達もそれに続き、そして馬車の外の光景が目の前に飛び込んで来た。



 死体


 死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体


 視界の全てが死体に埋め尽くされた、死体だらけの光景。

 馬車から外へと出た俺達の目の前には、大量の山賊の死体が転がっていた。


 生きている者は下っ端が3人にボスの親衛隊らしき連中が4人の7人だけ。

 その他の連中は一人残らず死亡している。

 断言できる、間違いない。

 何しろこの光景を生み出したのは、他ならぬ俺達だからだ。


 全ての死体が脳と心臓を貫かれ、首を切断されて転がっている。

 念入りに殺すとは言っても、やりすぎだったかもしれない。

 でもまぁ仕方がない。

 ロックの指示は皆殺しだったし、ここは地球とは違うファンタジー世界だ。

 致命傷からでも回復するすべがあるのだから、万が一を考えれば、殺しすぎて困ることはないのである。


 ガタン

 ガタ、ガタン


 後ろを振り返るとハヤテとデンデとフクロウが腰を抜かし、揃って目を見開き恐怖で体が小刻みに震えていた。

 まぁ気持ちは分かる。

 自分達を誘拐した山賊団が、目の前で死体になって散らばっていては腰を抜かしても仕方がないだろう。


 その二人と一匹にロックがゆっくりと近づいて行く。

 彼らのロックを見る目付きは、勇者を見る目付きではない。

 得体の知れない化物を、下手をすると魔王か何かを見る目付きになってしまっていた。


 「見たか? 見たな? これが勇者だ」

 「これが勇者? こっこんな、こんな事……」

 「オレたちが聞かされていた勇者とは、弱きを助け、強きを挫く、正義の体現者の筈だが……」

 「体現しているだろう? 強い山賊達を殺害し、弱いお前達を助け出したのだから」

 「だからってこんな……一体何人殺したのです?」

 「山賊達は自分で200人の集団だと言っていたな」

 「200人!」

 「食べるためでも恨みがあった訳でもないのに、それだけの人数を殺害したというのですか!」

 「この国では山賊は即殺が基本だ。いや、この国だけではなく、世界共通の認識ではあるがな」

 「だからってこんな……貴方が勇者であるならば、殺さずに捕まえることも出来た筈ではないのですか?」

 「まぁ確かに可能ではあっただろう。だが、可能だからと言って、必ずしもそれを行う必要は無い訳だ」

 「あんたはあんたの意思でこの光景を生み出したと?」

 「その通りだ。私は昔からモンスターも盗賊も殺せる時に殺しておけと教育されて来たからな」

 「モンスターはともかくとして盗賊もですか?」

 「盗賊は下手に情けを掛けると、不意をついて逃げ出して、再び勢力を拡大する恐れがあるからな。そしてその盗賊に狙われるのは、強い勇者ではなく、か弱き我が国民達なのだ。……前回の盗賊退治では情けをかけてしまったのでな、今回は覚悟が鈍らないように、意図的に殺そうと思ったのだよ」



 そう言ってロックはハヤテとデンデとフクロウに背を向けて、死体の片付けを開始した。

 山賊の手配写真と照合するために、切断した首は集めるが、それ以外の胴体は道の端に掘った穴の中へと次々に投入し、埋めていく。

 こうしておかないと死体から病気が発生したり、血や肉を求めて野生の獣やモンスターが集まってくる可能性があるからだ。

 それに死体を放置しておくと、アンデットとして復活し、生者を襲うこともあるらしい。

 死体が動くとか、正にファンタジーの面目躍如といった所だ。


 俺達は協力して山賊共の死体を処理していく。

 途中で目が覚めた生き残りの山賊達は、自分達の置かれた状況を理解すると、絶叫を上げた。

 そいつらには、俺達を正体を教えてやり、現状を理解させ、今すぐ死ぬか、後で死ぬかの選択を迫る。

 山賊共は震えながら後者を選択したので、話を聞く前に、奴らの仲間の死体の片付けを手伝わせることとなった。


 そして白虎の国から連れてこられた勇者二人とその保護者は、腰を抜かしたまま、その光景を眺めていたのであった。

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