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勇者の隣の一般人  作者: 髭付きだるま
第三章 冒険編
54/173

閑話 氷の勇者の冒険

2017/07/24

元々は2017/07/06に第二章の最後に投稿した話でしたが、こちらへと移動しました。

内容に一切の変更はありません。


2017/08/18 本文を細かく訂正

 これは玄武の国の首都で勇者の供の選別が行われていた頃の話である。



 「来たぜ! 今度はオーガソルジャー1匹!」

 「良し、転ばせろキング! まだ動くなよサム。3、2、1、今だ!」

 「アーイス・ハンマー!!」


 氷でできた巨大な鉄槌が目の前で倒れたオーガの頭を粉々に打ち砕く。


 俺様達は現在、白虎の国と青龍の国の国境付近の山の中で、モンスター退治を行っていた。


 1年前、15歳になった俺様は青龍の国との取引で勇者としての活動を開始した。

 だが、青龍の国に対して不信感が根付いていた俺様は、1年経った今でも青龍の国には入国せず、玄武・朱雀・白虎の国を渡り歩いて勇者としての活動を行っている。


 勇者としての活動とは言っても、やっている事はただのモンスター退治だ。

 勇者とは人々の先頭に立ち、モンスターや魔族と戦う者の事を言う。

 決して神輿に担がれて、大勢の供や従者を引き連れたり、

 神として崇められ、崇拝される対象ではないのだ。


 俺様は玄武の国での5年間の暮らしでそんな当たり前のことを学び、

 そして一人の勇者としての責任を身に着けたのだ。


 「よっしゃー! またレベルが上ったぜ! 俺達強いんじゃね? 強いよな?」

 「調子に乗るなキング。

  2年前に大怪我をして生死の境を彷徨った事をもう忘れたのか?」

 「いや、そんなつもりは毛頭ないっすよ!

  でも少しくらい調子に乗りたいっていうか……」

 「その気持をコントロール出来るようになって初めて一流の戦士になれるのだ。お前はまだまだ二流だな」

 「ぐっ!」

 「二流、二流か……二流の男が勇者の供として戦っている事は、果たして正しい事なのだろうか……」

 「すいません! 調子に乗りました!

  俺は一流になってサムの供として相応しい男になってみせます!」

 「それで良い。今回の戦いも良かったぞ」

 「これだから師匠は! 最初から褒めてくれればいいのに!」

 「お前はすぐに調子に乗るからな」

 「返す言葉も無い!」


 俺様の仲間は、玄武の国で親友になったキングと、兄さんとロゼッタ姉さんの護衛部隊の元隊長で、玄武の国において俺様に戦いのイロハを教えてくれた師匠のエースの二人だ。


 二人共生まれも育ちも玄武の国であり、おまけに平民である。

 青龍の国の勇者である俺様の供としては異例の抜擢だ。

 少なくとも世間ではそういうことになっているらしいが、俺様としては酷くまともに人選をしたつもりである。


 何しろ青龍の国で俺様の供をしていた連中は、軒並み俺様を見捨てて逃げ出してしまったのだ。

 彼ら彼女らは、国の名士の息子や娘であり、俺様の元婚約者に至っては公爵家の娘でもあった。


 そんな彼らはあっさりと俺様を見限り姿を消した。

 しかもあれから全く音沙汰すらない状態だ。

 こんな状況で再び青龍の国の国民と旅をするなんて考えられない。

 更に言えば、俺様の心の中からは貴族を特別視する気持ちなど吹き飛んでしまったので、仲間が平民であっても何も問題は無いのだ。


 勇者の供に最も必要な要素は、戦闘力でも経済力でも、ましてや権力でも無いのである。

 勇者の背中を任せるに足る『信頼』なのだから。



 俺様は玄武の国での五年間で、何人かの人物と懇意になった。

 そして俺様は旅立ちの際の同行者に、この二人を指名したのだ。


 片や俺様と同い年であり、俺様にとって初めての友達となった、玄武の国の魔道士部隊に所属していた、将来有望な魔法使いであるキング。

 片や、俺様の実の父親であるハロルド将軍の部隊の叩き上げの兵士であり、俺様の兄さんと玄武の国の姫君の護衛部隊の隊長を任されていた歴戦の強者であるエース。


 特にエースは、孤児院を卒業し、兄さんの店で働いている間に俺様の戦闘訓練を受け持ってくれた師匠でもある。

 勇者の供となった現在では、このパーティーの最年長者として、俺様を補佐し、キングもエースに弟子入りして、二人揃って修業の日々を過ごしているのだ。


 勇者は通常18歳になってから旅を始める。

 これは昔の勇者に習った慣習ではあるが、同時に18歳になるまでに大人としての義務と責任を覚えておいて貰うという理由があるのだ。


 しかし俺様もキングも未だ16歳であり、本来ならば修行中の身の上だ。

 俺様達は若い。

 若さは武器ではあるが、同時に弱点にもなり得る。

 特に俺様もキングも比較的調子に乗りやすい性格なので、俺様達を叱り、導いてくれる年上の頼れる男がパーティーには必要だったのだ。


 だから俺様は戦闘訓練の師匠であったエースに俺様の供になってくれと頼み、エースは迷った末に受諾。

 キングは二つ返事でOKしてくれたので、こうして氷の勇者のパーティーが完成したのである。



 「さて、これで16匹か。残りは4匹、手早く済ませたいな」

 「オーガ20匹とか、普通なら軍が出動するレベルっすからね。

  それを俺達だけで倒せるんだから、やっぱサムは大したもんっすよ」

 「いや、この場合俺様ではなく俺様の能力を使いこなしたエースの手腕だろう」

 「そりゃ師匠の作戦も凄いけど、そもそもサムが居なけりゃこの作戦は成り立たないじゃんか」

 「そうだな。普通の魔法使いが何人か揃ったところで、オーガの集落を氷で覆ってしまう様な真似は出来ないだろう」

 「まぁ俺様は仮にも『勇者』だからな。これくらいは出来ないと駄目だろうさ」



 俺様達の今回の活動は、白虎の国と青龍の国との国境付近の山の中で発生した、モンスターの異常行動に対する調査であった。

 そして山に入り調査した結果、山の中にオーガが集落を形成し、それから逃れようとしたモンスター達が、山を降りて来たのが原因だと分かったのだ。


 オーガは危険な事で有名なモンスターである。

 人型で、体長は最低でも3mを超え、体格も逞しく、性格は獰猛。

 高い身体能力と知能を備え、しかも集落を形成し、放って置くとどんどん数が増えてしまう。

 故に見つけたら即殺が基本であるが、流石に集落丸ごと倒すとなると取りこぼしが出る可能性がある。

 集落を作るモンスターは上手く全滅させないと、また別の場所で集落を作り、増えていくのだ。

 だから通常ならば数を揃えて逃さないように退治するのだが、俺様達は3人だけでオーガの群れを始末することにした。


 方法は至って単純だ。

 まず、オーガが寝静まった深夜に集落の周りを分厚い氷の壁で取り囲み、オーガの逃亡を封じる。

 そしてワザと一箇所、脆い場所を設けておき、突入して来たオーガを一匹ずつ仕留めて行くのである。


 勿論氷の壁を作成したのは氷の勇者である俺様であるが、この作戦を考えたのはエースである。

 彼は青龍の国のバカ共とは違い、俺様達の安全を確保した上で、モンスターを逃がさない様な必勝の策を考えついてくれるのだ。

 こればっかりは俺様もキングもエースには敵わない。

 頭の出来も違うし、何よりも経験値が桁違いだからである。


 勿論俺様は勇者だからオーガと正面からやりあっても勝てる。

 だが、残念ながら俺様は20人に分裂することなど出来ないので、こうやって確実に仕留める方法を選択しているのである。


 「残っているのはこの集落のボスであるオーガキングと側近が3匹か」

 「なぁ師匠、残り4匹ならもう突入して蹴散らしても大丈夫なんじゃねぇの?」

 「いや、仮に突入した場合、側近の相手をしている間にオーガキングを逃がす可能性がある。せめて側近をもう一匹始末しておきたい」

 「2匹なら俺と師匠で足止め出来るからっすね?」

 「そういう事だ。そしてそれは向こうも良く分かっているらしい」

 「はぁ? あっ、あいつら!」


 キングが驚いて氷の壁に開けてある隙間を指差す。

 そこには集落の生き残りの4匹、即ちオーガキングと、側近の3匹が一斉にこちらへと突撃して来る様子が見えていた。


 まず側近の3匹が突撃し、少し遅れてオーガキングが氷の壁から出てくる様だ。

 恐らく側近の3匹は、俺様達を引き付けるための囮だ。

 俺様達が側近を倒している間にオーガキングを逃す算段なのだろう。


 だが無駄だ。

 この状況も既にエースが予測済みだからだ。

 だから俺様達は打ち合わせ通りに行動すれば良いのだ。


 「来たぞ! 予測通りだ! キング、サム、準備は良いな!?」

 「「了解!!」」

 「よし、合わせろ! 3,2,1、今!」

 「ストーンウォール!」

 「アイスウォール!」


 キングと俺様が同時に魔法を放つ。


 キングの使ったストーンウォールは先程のオーガソルジャーを相手取った時と同じく、地面から中途半端な高さへと高速でせり上がる。

 それに気づかないオーガは、突然現れた出っ張りに足を引っ掛けて転倒。

 後続はそれを見て、慌てて急停止する。


 俺様が放ったアイスウォールは氷の壁唯一の隙間を完全に塞ぎ、オーガキングを中に閉じ込めた。

 中からガンガンと壁を殴る音が響くが、残念ながら破壊することは出来ない。

 そもそも壁を破壊することが出来れば、他の場所から脱出することが出来ているのだ。

 氷の勇者の氷壁はオーガキング如きでは破壊できない代物なのだ。


 俺様達は計画通りに、オーガキングと側近を分断することに成功した。

 これでオーガキングの側近を先に始末することが出来る。 


 側近はそれぞれオーガメイジとオーガソルジャー、そしてオーガナイトの3匹だった。

 俺様はまず立ち上がろうともがいているオーガソルジャーの頭に、先程と同じく氷で出来たハンマーを振り下ろして仕留めた。


 そして周囲を確認すると、オーガメイジはキングが、オーガナイトはエースがそれぞれ足止めに成功していた。

 というか、オーガナイトに至っては、そのまま勝てそうな勢いだ。

 流石はエースである、並の兵士よりも相当に強く頼りになる。

 だから俺様は魔法戦を行っているキングの援護へと向かった。

 キングは将来は楽しみではあるが、現在は手助けが必要だからだ。



 キングは魔法系のスキルを会得しており、得意としているのは土系の魔法だ。

 玄武の国の出身者は土と闇の魔法を得意とするものが多く、キングもその例からは外れていない。

 そして土系の魔法は攻撃に難があるが、防御は得意としているのだ。

 キングはオーガメイジの放つ魔法を、得意とする土魔法で次々と防いでいた。


 「ガガガ! ガガ、ガガ!」

 「ストーンウォール! ストーンドール! アースウォール! アースドール!」


 石でできた壁と人形、土でできた壁と人形が、オーガメイジの魔法を受けて次々と大地に還っていく。

 石を作る魔法は、硬いが発動が遅く、土を作る魔法は、柔らかいが発動が早い。

 同系統の魔法を状況によって使い分けることで、キングはオーガメイジの猛攻を凌いでいた。


 「ふん!」

 「ガガガ! ガァ!?」


 俺様はキングに集中しているオーガメイジの背後に忍び寄り、ハンマーを一閃。

 吹き飛ばされたオーガメイジは勇者の一撃に耐えきれず、体が爆散してしまった。


 見ればキングは肩で息をしているが無傷であり、エースに至ってはオーガナイトを単騎で撃破していた。


 「二人共良くやった。これで残りはオーガキングだけだな」

 「ああ、全員怪我もないし、これならすぐに終わりそうだ」

 「ぜぇ……ぜぇ……無茶言うな! 俺はまだ……息が戻って……ない」

 「たった一度戦っただけで息が切れる様ではまだまだだなキング」

 「こちとら……魔法使いなんだよ! 体力馬鹿の……戦士職と……一緒にすんなって!」

 「ならばもう少し鍛えることだ。スキルでのステータスの伸びが悪いのならば、後は自力で基礎ステータスを伸ばすしか方法はないぞ」

 「くっそー、了解だ師匠! 帰りは荷物を担いで下山してやる!」

 「その意気だ。よし、ではオーガキングを倒すぞ」

 「だから早いって!」

 「早くない。何故ならもう、お前の息は落ち着いているからだ」

 「あれ?」

 「若い内は回復も早い。だから出来るだけ若い内に鍛えておけ。

  そうすれば10年後、20年後が随分と楽になるからな」

 「俺様の20年後か……想像もつかないな」


 「勇者の平均活動期間はおよそ15年と言われている。

  だが、これは途中でリタイアした場合も含めてあるから、ハッキリ言って意味のない数字だ。

  寿命まで勇者を全うした者達は幾らでもいるからな。

  20年後と言えば、お前たちは36歳、勇者としてバリバリ活動している時期だろう。

  つまり今から20年後の事を考えておくことは決して間違ってはいないのだ。

  20年もの間訓練を続ければ、お前は必ず強くなれる。

  若い内から楽を覚えるなよ。

  若い内の苦労は買ってでもしろという言葉もあるからな。

  今は意図的に全力で苦労する様に心掛けておけ」

 「何て事を言うんだ師匠!」

 「流石に買ってまではしたくないなぁ」


 まぁ、俺様はエクスポーションと引き換えに勇者として活動を開始したので、勇者としての苦労を買ったとも言えるのだが。


 とにかく話をしている内にキングの息は落ち着いたようだ。

 俺様が作った氷の壁の中には狩られるのを待つばかりのオーガキングが一匹のみ。

 俺様はハンマーを担いで最後の仕上げに向かうのであった。

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